表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地底800マイル  作者: 悟飯 粒
怪しみの清流
11/70

想像すると吐きそうになった

「遡ること3日前。真夜中にある1人の男が殺されました。まぁ、そこかしこにいるチンピラみたいな奴ですよ。」


依頼人の町長の元へ姫子さんと歩いていると、今回の事件の全容を説明してくれた。


「目撃者は誰もいない。悲鳴を聞いたものもいない。ひっそりと、朝まで誰に気づかれることなく死んだのです。」


「ふーん………よくありそうな事件だね。」


「そうですね。被害者は人から恨みを買いそうな生活を送ってましたから、怨恨で殺されんだろうってことになったそうです。」


チンピラねぇ……あいつら肝が小さいから、殺されるほどの悪行はしないと思うんだけどなぁ。


「別段気に留める人はいなく、自治会もナァナァで捜査していたわけですよ。」


自治会とは村や町を統括する機構のことだ。自治会ごとに独自の統治機構を敷いて、町や村を運営していく。独自の法律、条例、特例法があるため、もはや1つの国と捉えられることもしばしばだ。


「そしたら翌日。また殺人が起こったんですよ。しかもこの村に冒険の羽休めとして立ち寄った勇者が被害者です。」


「勇者!?勇者が殺されたっていうの!?」


どんなに階級の低い勇者でも、町人に殺されるようなことはない。魔力を持ち、身体能力も向上しているからだ。反射神経も上がっているから、不意打ちを食らうということも少ないはずなんだけど………


「そーうなんですっよ!」


なんか独特なイントネーションしてるな。


「さすがにこの事件を目の当たりにして自治会も危機感を抱いたようです。[勇者を超える力を持った邪な人間が町に入り込んだ]ってね。」


「ちなみにその勇者の階級は?」


「聖騎士です。」


「………なるほどねぇ。」


強くもなく、けれど、町人からすれば強いと思われるぐらいの階級だ。


「そして自治会は捜査を強化、また、夜の町の警備も追加しました。在中する戦士達に町を巡回させたんです。騎士、聖騎士、1番強いので上位聖騎士並みの実力を持った人もいました。」


「………そして、まだ話は続くんでしょ?」


3日前と言い、連続殺人であるといい、そして、昨夜の話までした。これで続きがないわけがない。


「…………そうです。昨夜、また殺人が起こりました。今度の被害者はこの町の戦士を束ねる戦士長。階級は上位聖騎士に値します。」


この村で1番強かった人間が被害者か………


「そういえばどうやって殺されたか聞いてなかったよね。……どうせみんな共通した殺され方をしたんでしょ?」


この戦が終わらないご時世だ。そこかしこで殺人なんてものは起こる。それでも連続殺人であると断定されたってことは、ある程度の一貫性があるということだ。


「みんな、ぐちゃぐちゃに潰されていたようです。雑巾みたいに絞られたみたいに。」


………うわ、気持ち悪。


「まぁ安心して下さい!!森脇探偵事務所の筆頭エース森脇姫子さんがパパッパッと解決してこの町に安心をもたらしてやりますよ!!」


また変なポーズを道路の真ん中でやる。やだ、この人といたらすっごい目立つ。


「……ん?あれ?イリナさんじゃないですか。仕事サボって何やってるんですか。」


聞き慣れたカイの声が、脇の道の奥から聞こえてきた。きっと、姫子さんのうるささで気づいたのだろう。


「サボってないよ、ただ、しご、と……の………」


カイの方を振り返ると、4階建建築物みたいな量の荷物を抱え、おばあちゃんの手を握り道案内をし、魔力を利用して水道修理をしているカイの姿があった。


「………あんたなにしてんの。」


「何って人助けですよ。僕達の仕事なのですからこれぐらいやって当然です!あっ、ちょっ!まってペグ!!」


左手で握っていたリードに繋がれたハスキー犬が、走って行ってしまう。


ガシャガシャーーン!!

そして、それを追いかけたカイはバランスを崩し、荷物の山に埋もれた。道路一面全てを覆い尽くす荷物達。ただただ邪魔でしかない。


「………マジでなにしてんの。」


「仕事を37件も受けるべきではなかった………この僕としたことが痛恨の判断ミスだ。」


荷物達に反響し、くぐもった声が響き渡る。やけに虚しく。


「………はぁ、なにやってんだが。仕方ない手伝ってあげるよ。優しいパートナーを持ったことを誇りに思いなよ。」


「辛辣ってやさしいって読むんですね。初めて知りましたよ。」


「今お前が優しさを辛辣に変えたってことをその身に刻め。」


バタバタバチ!ピューン…………

金属製の荷物に電気を通し、引き寄せあい、1つの大きな金属の塊にカイを閉じ込め、そのまま空高くに投げ飛ばした。



「いやーー危うく死ぬところでしたよ。」


2時間後、カイが戻ってきた。荷物はなにもない。仕事を完遂してきたのだろうか。


「結構な高さまで飛んじゃって、しかも町の外まで飛ばしてくれちゃって。痛いわ遠いわで僕もう涙目。」


カイが戻ってくる間、私と姫子さんはベンチに座って雑談をして時間を潰していた。そしてカイは私達が座っているベンチに腰掛けた。


「それで、なんでその女の人とずっと一緒にいるんですか?なんか仕事の依頼でも来たんですか?しかも重要そうなものを。」


「………実はね。」


そして、カイに今回の連続殺人事件の概要を伝えた。カイは終始興味深そうに頷き話を聞いていた。


「なるほどですね。これは面倒臭い事件ですね。」


カイは額に手を当て、むーーっとうだる。


「物的証拠が少なすぎる上に、魔力が絡んできている。しかもとびきり強い魔力が。これは本当困ったなぁ。」


「とびきり強い魔力だとなんで困るのさ。むしろ犯人を絞れるような気がするんだけど。」


この町で上位聖騎士クラスの人間を悲鳴を上げさせる暇もなく、抵抗させる暇もなく殺せる人間は限られてくる。


「これが勇者領周辺地域ならばそうですが、このような辺境の地でそれを期待するのは無駄ですよ。そんな強さの人間、この町には普通いないんですよ。探すまでもなく。」


「………まさか」


「ええ、青ローブから魔力を貰った子供が悪さをしている可能性が出てくるってことです。」


………そこに繋がるか。


「うーんと、青ローブとはなんですか?最近の流行?」


姫子さんに、これまで私達の身の周りで何が起こったかを話した。シネフィシでの事件に要点を置いて。


「最近確かに新聞で、あちこちの村が襲われているって書かれていましたが、原因がそんなことだったとは………許せないですね。」


姫子さんは体を震わせ、怒りを吐露する。


「子供は力を求めてしまうものです。力は憧れの存在だから。この世界の全ては力ですからね。でも、求めたところで子供達は良識を持っていない。欲望のままに流されてしまえばその欲望に簡単に染まって戻れなくなる。……子供の人生が、そんなことで捻じ曲げられるなんて…………許されることじゃないですよ。」


………まぁ、姫子さんの言う通りだ。子供はバカだ。一直線上のことしか見えない。何か大きな憧れを見つけると、それしか見えなくなってしまう。その後ろにどんな危険が待ち受けているか、分からなくなってしまう。


「………まったく、大人はいつもそうだ。上から人を見下ろして、分かった気になる。」


けれど、カイは姫子さんの話を鼻で笑った。


「子供がなんで力を求めるのか、それを憧れだなんて簡単な言葉でまとめあげてしまう。」


「………どういうこと?」


姫子さんの目つきが変わった。

いままでの陽気な雰囲気が一変し、全てを疑う探偵へとなった。


「どうこうもそのままですよ。子供が簡単にズルしようとするのは、憧れのせいだけじゃないって言ってるんです。そんな一辺倒に見えますか?そんなに子供はバカに見えますか?」


「私はそんなことは言っていない。子供には正義というものが一体どれだけ難しく、厳しいものかを年齢が故に理解できていないと言ってるだけです。」


「つまりは大人と比べたらバカだと言っているのとなんら変わりがないじゃないですか。大人は全てを理解している?子供よりも年を取っているから?………僕から言わせればおこがましい。子供も大人も大差ないですよ。大人なんて経験積んだ子供としか見てないですから。」


「………プロファイリングですよ。イリナさんたちの情報と、今回の事件の情報を複合して出した結果です。今回の犯人は[力を手に入れたが為に恨みを抱いていたものを殺し、思い上がって自分の力を試す為に別の人達を殺した。]私はそう狙っている。ただのそれだけです。子供をバカにしているわけではない。」


「そうですか、僕は認めませんが。それにそのプロファイリングは不十分だ。犯人の一面しか捉えきれていない。犯人の思考というのは単純そうで実は複雑なものです。証拠、アリバイを一直線に結びつけるだけで理解できるものじゃないんですよ。」


カチン。

姫子さんはそう言うと、勢いよくベンチから立ち上がった。


「プロの探偵として、その発言は聞き捨てなりませんね。……そこまで言うのなら良いでしょう。カイさん!!」


バッ

ベンチコートがフワリと膨れ上がり、右手でハットを整える。


「どちらが早く犯人を特定し捕まえられるか、勝負しようじゃないですか!!!」


「えー………勝負とかしょうもないですねぇ。お互い協力して頑張りましょう?」


さっき明らかに敵対するような発言をした奴が何をほざく。


「いいえ、勝負です!!今私、思いっきり泥を顔面にぶつけられているので、怒り爆発状態ですよ!!あなたが勝負を受けなくても私が勝手に勝負を挑みますから!!でも途中放棄とかありえませんから!!!」


ビシビシビシ!!

二回三回何十回とカイに人差し指で指しまくる!執念と恨みをすごく感じるね!!


「そうと決まれば善は急げ!!急がば回れ!!町長に会ってきますよ!!!これで勝利は私の手の中に!!!アッハッハッハッハッ!!!!」


そう言うと姫子さんは、それはもう全速力で走って行ってしまった。


「………急ぐんですかね、急がないんですかね。よく分からないですよね。」


それをカイは遠い目で見つめた。


「………テンションだけで生活しているとあんな感じになるのかな。」


テンション、勢いだけで乗り切る人の究極形態みたいな人だったなぁ。会った時から。


「………僕達も行きましょうか。別に勝ち負けなんてどうでも良いですけど、この事件をさっさと解決しなきゃいけないってことは分かりましたから。」


「そうだね。あの人を放置していたら色々と危なそう。」


ということで、町長に会い捜査の許可を貰った。「勇者様がいてくださったら心強い。」とかなんか言って快く認めてくれた。やっぱこの世界は力が全てだね。改めてそう思うよ。


「ふーん……ここが第1の殺人現場ですか。」


許可を貰ったその足で、事件が発生した場所に向かった。町の中心部から少し離れた散寒とした住宅地。中心部と違って低所得者が集まったような場所だ。

全てが綺麗に片付けられていた。さすがに3日も放置するわけにはいかないよね、グロテスクな死体を。もしそんなことがあったら私が住民なら間髪入れずに苦情入れるよ。


「どういう状況で殺されたのか見たかったのですが………まぁ、仕方ないですね。人に聞くことにしましょう。」


カイは歩いていた人に話しかけた。


「すいません。ここで起こった事件についてお聞きしたいのですが………」


「ああ、えーっと、3日前のやつ?凄かったよなあれ。人間がする所業じゃねーよ。」


「……現場とか見たんですか?」


「見たも何も俺が最初に発見したんだぜ?」


男は自慢気に話す。

一体何がすごいのだろうか。私には分からない。


「どういう状況だったか教えてくれますか?僕達ここの町長から依頼されてこの事件を調査しているんですよ。」


「いいぜいいぜ。第1発見者であるこの俺が教えてやるよ。」


男は得意気に事件現場の状況を語り始めた。


「俺も夜勤明けでな、フラッフラになりながら家に帰っていたんだ。で、途中で[シャンプーないんだった!]って気づいたのさ。仕方ないから愚痴りながらお店に買いに行くよな。その時近道を使ったわけ。裏路地を使う系のな。早く家帰って寝たいから俺はその道をグングン進んでいたのさ、そしたら大き道に出るんだ。と言っても裏路地だから人通りも少ないんだけど……まさにここだな。ここに辿り着いた時に死体を見つけたんだ!まるで巨人に雑巾のように絞り取られた死体をな!!

本当、一本のクシャクシャな紙チリみたいだったわ。」


………なぜこの道に来るまでの話も付け加えたんだろう。人に話せることがとっても嬉しくてついついいらない部分まで話しちゃったのかな?


「紙チリですか………体が引きちぎれてたりとかしてましたか?肉の断片が辺りに……みたいなことありませんでしたか?」


「あーーないね。一本の紙チリだよ。マンマな。本当、体を巨人に握りつぶされたみたいにクシャクシャだったわ。」


「はぁ………わかりました。非常に参考になりました。ありがとうございます。」


「いやいや、俺ができることは見たのを話すだけだからな。お安い御用よ。」


男は手を挙げ、笑いながら私達が来た道へと歩いて行こうとした。


「………なんで今日はここを通ってるの?いつもの道じゃないんでしょ?」


しかし、私は彼に声をかけた。今指摘した箇所が少し気になっていたからだ。


すると、男はバツが悪そうに頭を掻いた。


「シャンプー買いに行ってたんだよ。事情聴取やらなにやらがあって今日まで忘れてたんだ。」


あ、なるほどね。納得。


今度こそ男はシャンプーを持ちながら家へと帰って行った。


「……しかし、これといった収穫はなかったね。」


「いや、有益でしたよ今回の情報は。」


カイは死体があったと思われる場所を見ながら口を開いた。


「犯人は魔力を青ローブの男から得た子供であるとハッキリと絞り込められましたからね。」


「はぁ、なんでよ。」


「例えば、イリナさんが今回の犯行を行おうとしたら一体どうなりますか?」


「なんか最高に嫌な質問だね。」


私は自分以上の男を捻り潰す方法を頭の中で考えた。


「まず、誰も悲鳴を聞かなかったっていってたから、口封じをすると…………うーん、猿轡?それとも喉を潰すとか?」


「猿轡はないでしょうね。そんなことをしている間に抵抗されます。」


「じゃあ喉を潰すと……次に体を捻るんだよね。」


私は雑巾を絞るような手の動きをしてみた。

………うーーん、おかしいなぁ。


「出来なくない?両手でどこを持って絞っても千切れるんだけど。」


首と足を持って捻ったとしても首が取れたりしちゃう。胴体と足でもそうだ。雑巾みたいに綺麗に、直線となるように絞ることができない。


「そう、純粋な力でことを成そうとしたら確実にどこかが千切れるか、縮めたストローの包装紙みたいになるんですよ。」


「なるほどね。それで、力で無理なら魔力の仕業だと考えたわけね。」


「そういうことです。魔力は物理法則を簡単に無視するものばかりです。だから、人知を超えたものは全て魔力のせいにできるんですよ。」


なるほどねぇ。得心得心。


「これで犯人は子供であると確信を持って言えるようになったわけです。これは大きいですよ。」


確信もなく範囲を絞り込むのと、確信を持って範囲を絞り込むのでは捜査の効率が段違いだ。


「それじゃあこの調子で2つ目の事件現場に行きましょう。もしかしたら大きな収穫があるかもしれないですよ。」


カイは淡々と次の場所に向かって歩き始めた。

………本当に、競争するつもりはないんだな。ただ事件を解決しようとだけしている。

カイは人と競い合おうという考えを持たないのかもしれない。それによって争いが生まれるのを避けるためか、そもそも全てのことが自分の中で完結しているから、他者のことを見ていないからなのかは分からないけど…………


私はカイの後ろ姿を見つめた。気取らず、心構えはどうあれ人の為になろうとする彼の背中を見つめ続けていた。


ピンポンパンポーーン

町中に大音量の電子音が響き渡った!


「7〜15才の町人の皆様、至急村の中央にあるヤーサス町立体育館に集まってください。もう一度言います………」


これは……まさか…………


「……姫子さんでしょうね。犯人を子供達に絞ったのでしょう。」


「まさかカイと同じような考えに至ったの?」


「いや………どうでしょう。わかりません。人を絞るなんていう気持ち悪い事を想像できるような人には見えませんでしたが、さすがプロと言ったところなんですかね。」


……確かに、あんな人が人を力任せに絞る状況を想像するなんて拒絶反応が起こりそうなものだよね。


「仕方ない、僕達も行きましょう。子供達の顔を把握するにはうってつけだ。」


私達はヤーサス町立体育館へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ