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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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速報

 マザール屋敷の前から移動して、今はホテル付近の住宅街。この辺りはまだそこまで被害がなく、尋常ならざる被害が出た場所はホテル前のストリートだけのようだ。


 ギャザリックは少し行くところがあると伝ると、そのまま姿をくらましてしまった。泊まるホテルの場所は伝えてあるので、何かあれば来るだろう。

 視界に高くそびえるホテルが見えたところで、先頭を歩くソルドールが振り向きざまに話しかけてくる。


「・・・ト、いう訳で少し延期になりました。」


 出会ったソルドールの開口一番の言葉だ。いきなり何を言っているのか、と思う心情を察したのか、手を振りながら慌てて補足する。


「大丈夫だヨ、中止じゃなくて延期だカラ!」


「違う、そこじゃない」


 疑問の心情を察したところまでは良かったが、答えて欲しいところはそこじゃない。


「少しって言ってモ、一週間ちょっとぐらいだカラ・・・」


「ワザとか。お前ワザと言ってるな?」


 カラカラ笑うソルドールは、ロウの質問にまともに答えようとしない。イラつき始めたところで、キリエが割って入ってきた。


「ソルドールさん、何で延期になったの?」


「はっ。なんでも、招集をかけた国それぞれで問題が起きたようでして、少し遅れるとの連絡が。」


 頬をひくつかせながら、その先の会話をキリエにゆだねる。これ以上続ければ、怒りすぎて何かに変身してしまいそうだ。


「既定の招集に応じられるのは『イスカンダル』:孫悟空と、『グラキエス』:ジェド・マロースの二名のみでして、少々時間が欲しいと連絡がありました」


「そう…ですか」


「はい。というお話しなのですガ、後ろの二人も理解していただけましたカ?」


 キリエの身体から頭だけを出して見つめるのは、シエルとメシアの二人だ。マザールの屋敷からここまで、ソルドールが話し始めるのを待っていたら、こんなところまで来てしまった。

 シエル曰く、自分たちが泊まっているホテルはここから少し離れたところにあるらしく、迷惑極まりない。


「…確かに賜りました。連絡感謝いたします」


 こうして真面目な姿を見ていると、本当にお姫様なんだなと改めて感心してしまう。以前出会った時はなかなかなおてんば娘だったので、キリエみたいなお姫様だなんて思いもよらなかった。


 それだけ答えると、二人は買い物は後にすると言ってホテルに帰ってしまった。送ろうかという申し出も、「すでに自分の部下が来ているから要らない」と言われて断られた。

 ロウとしては先程の内情からくる暗殺を見たばかりなので、簡単に送り出すのは渋られたが、断られた以上過干渉しすぎるのはあまり良くないと自分に戒めた。


 去り際に渡されたシエルの簪には、コバルトブルーの透き通った手毬の形をしている装飾品が付いている。ど素人が見ても一級品であるこれを受け取って良いものかどうか、僅かに躊躇ったが、珍しくメシアにも勧められたことによって大人しく受け取ることにした。


「今日は本当にありがとうございました」


 どことなく不安の影が渦巻いていたが、ロウにはどうすることもできず、「また近いうちに」とだけ返してこの場は別れた。


「さて、それじゃ俺たちも戻るとしよう。延期になったなら、そこまで急ぐ必要も無くなったわけだしな」


「それはあんまりだヨ! 私、観光を楽しみしてきたの二!」


「子供か!」


「子供だヨ!」


 ため息を吐きながらソルドールの横を通りすぎ、困ったように頭を掻く。


「だったら、本当の仕事を果たしてからにしろ」


「ロウ?」


「詳しいことは中に入ってからだ。さっさと戻るぞ」


 それだけ言うと、ロウはそそくさとホテルの部屋へと戻っていった。


 ◇◇◇


 部屋に戻った一同は、それぞれ自分の席について一呼吸入れたことを確認したロウは、一人物珍しそうに歩いているソルドールを呼び止める。


「それで、ここに来た本当の目的を言えよ。まさかそれだけってことは無いだろ?」


「ホントにこれだけだヨ。連絡がつかないからこうして足しげく来てあげたの二。」


「つくならもっとらしい嘘をつけ」


 台所で一杯の水を飲むんでから、机に戻る。戻るとは言っても、ロウが座るはずの椅子はソルドールに取られてしまっているので、近くの壁にもたれ掛かる事になる。


「それはいつの話だ? ここに来るまでに一日以上はかかるよな。連絡がつかなくなったのは、ついさっきだけだから、その言い訳は通じないぞ?」


 物珍しそうに見ていた視線はいつの間にかロウの方へと向かれており、そこに一欠片の笑みも入っていない。


「・・・一応、頭は働くようだネ」


 そうして取り出されたのは一枚の紙だ。丸まれた紙は麻の紐で封がされていて、どこか安っぽい印象を受ける。


「これは?」


「指令書だヨ。クロエ様から直々のネ」


「あいつからの?」


 嫌な予感しかしないが、開けない訳にもいかない。周囲の視線に圧されたこともあり、渋々紐をほどくと、そこには短く簡潔な文章が書きこまれていた。


「えっと…『ネルの部隊との連絡が途絶えた。至急調査されたし クロエ・リュード』」


「どうゆう事!?」


 一番に反応したのリウだ。急に立ち上がったことで、椅子は音を立てて倒れてしまった。


「詳しいことを聞かせてもらおうか」


 立ちあがったリウに落ち着けと手を出して伝え、隣に座っていたフィルが倒れた椅子を元に戻す。ソルドールの言葉を待っているリウは、少し顔が青ざめているようにも見える。


「ネルたちにはスティーブルでのウィルスの残党を蹴散らしてもらった後、魔鉱石の新しい確保場所として、コノートと呼ばれる村に行って貰ったノ。直接の相談役である数名の護衛の名目でネ。」


「普通だな。特に何がある訳でもなさそうなんだが・・・」


「問題はここからだヨ」


 ギシギシと傾けて音鳴らしている椅子は、絶妙な角度を保ったまま倒れない。最後はため息と共に正常な位置へと戻った。


「定時連絡が一向に来なくなっテ。さすがに何かあったと心配したトールが、数名の部下を連れて調べに行ったんだけド、そこからまた音信不通になったノ」


「トールまで!?」


 再び椅子を倒して立ちあがったリウは、詰め寄りたい気持ちを抑えるように唇を噛む。ここで出しゃばったら、話が進まなくなると考えての事だ。


「話は分かった。けど、何で俺なんだ?他にもシュロロとか、それこそお前だっているじゃないか」


「神将クラス二人がすでに居なくなってしまってるんだヨ? 面目が立たなくなっちゃうシ、それに今はケサランパサランの対応に追われてそれどころじゃないノ。シュロロが居なくなっちゃえば、国民に多大な被害が出ちゃうヨ」


 ちなみに、他の神将たちはトールが居なくなった穴を埋める作業で手一杯なんだカラ。と後から付け加えられた。トールがネルの捜索に向かったのは、かなりのごり押しの結果のようだ。


「姫様護衛の任務は代わりに私が引き継ぐヨ。ロウには今すぐにでも向かって欲しいんだケド、答えハ?」


「…聞きたいことが二つ。一つは、コノートに向かうのはお前じゃダメなのかという事」


「私はあの村とは昔ちょっとあったカラ。一応名目は商売だカラ、変に相手を刺激するわけにはいかないヨ」


「もう一つは、ここで俺が行かなかったらどうなるか、だ」


「さぁてネ」

 両手を頭の後ろで組んで、再び椅子を揺らし始める。ギシギシとなる音だけが、静かな部屋の中に響き渡る。


「断るっていうのは聞いたことないシ、答えるとしたら『分からない』って言うヨ」


 そこからまた少しの時間が過ぎ、揺れる椅子が止まると、ソルドールは真剣な面持ちでロウへと問いかける。


「どうしても無理なの? これはロウにしかできない事なんだよ?」


「そ……」


「?」


 言いかけた言葉を飲み込んで頭を振り、視線は紙へと落ちる。


「言葉が違うな。これは今言う事じゃないか」


 独り言のように呟いた言葉は誰にも聞き取れず、あくまでもロウの胸の内だけに秘められた。


「分かった、頼まれた。後の事はソルドールに任せる。時間とかその辺りちゃんとしてくれよ?」


「大丈夫だヨ。明日にはロベルトも来るから、それに合わせて出発するようにするし」


「ロベルトが来るなら安心だな」


「それじゃ明日はロウだけ…」


「私も行きます!」


 ロウだけが向かうという形に落ち着こうとしたところで、待ったをかけたのは、他でもないリウだ。急に声を荒げたことで集まった視線に、熱くなった頭は少し冷める。


「私も……ダメ、でしょうか?」


「ダメ」


 即答だった。ソルドールの冷たい視線を受けながら、即答された言葉はなかなかきついものがある。けれど。


「・・・って言ったら、それで納得なんてできないもんネ。仕方ないから、特別に許してあげるヨ」


「…ッ! ありがとうございます!」


 礼を言うリウは、手のひらを返した様に笑みを溢す。心の内では、親友のトールと上司のネルの行方が分からなくなっているというのだから、気が気でもないだろう。


「そうなるとキリエ一人だけ残す訳にもいかないし‥‥‥」


「じゃったら儂らはキリエ嬢と一緒に居とくわ。ロウはさっさとその依頼を終わらせて合流すればえぇじゃろ」


「右に同じくです。正直、今でも疲れてるんでここからまた何かするなんて、とてもじゃないですができませんので」


 答えてくれたのはフェザーとリリアだ。何だかんだこの二人は、どうするべきかをちゃんと察している。


 フェザーの方は経験からくるものだろうが、リリアについては完全に自分勝手な理論だ。しかし、これは遠回しに自分は足手まといになると申告しているので、そういう意味ではちゃんと分かってくれている。

 ・・・そうであると信じたい。


「フィルとフィオナの方は任せて。私もこれぐらいだったら協力できるから」


「違うよ! 私がキリエ様とフィオナの面倒を見るんだから!」


「フフッ、そうね。それじゃ、お願いしようかな」


 笑い合うキリエとフィルから離れ、ロウの傍までやってきたフィオナはそっと服の裾を掴む。


 これもついさっきからだが、マザールの庭でフィオナをナイフから助けた一件以降、こうしてロウとの距離がやたら短くなった。なぜかは分からないが、どうやらあの時何か思うことがあったらしい。


 リウの力を使えばその辺りも調べることは出来るそうだが、リウ本人の少女の内側を除くなんてサイテー、という意思から却下された。


 無表情な素顔から感情を読み取るのは至難の業だが、これは何となくいいたことは分かる。

 服の裾を掴む手をそっと外し、出来る限り優しい声を出す様に気を付ける。


「大丈夫、キリエとフィルがいるから。安心しろよ、な?」


「………。」


「そんなに心配なら儂が…」


「センジュはこっちだ。文句は言わせねぇぞ?」


「そう言おうと思ったんじゃがのぅ」


 悲しそうに言いながらも、座布団に座っているセンジュはしっかりとフェザーの腕を掴んでいる。


「…副将殿、儂は男に掴まれて喜ぶ趣味は無いんです。放してもらえます?」


「お主までそんな冷たいことを言うのか!」


 衝撃じゃ、と叫びながら脱力感に包まれながら浮遊するセンジュは、部屋の隅に移動したところで、影の部下たちに荷物を纏めろだのといろいろ指示を出し始めた。


「リウ、俺たちも準備しよう。どうやらことは急ぎのようだから、今日の夕方には出発するぞ」


「うん、分かった!」


 他人事ではないと急いで荷物を纏め、馬小屋にレイバ達を迎えに行くついでに簡単に買えるモノだけ買って戻る。


 その後、ホテルを訪れたギャザリックを連れてこの国を後にする。日は沈みかけていて、夜はそこまで迫っていた。


これより第四章が始まります。

よろしくお願いします。


あと、改稿についてなのですが、詳しいことは活動報告で書かせてもらいます。

自分勝手ですいません。

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