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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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誤解

お待たせしました。

「近くに来たから寄ってみればぁ、随分とカッコよくなってるじゃなぁい? 気持ち悪い顔も、見えなくなってるしぃ。」


「久しぶりに会って、君は何かい? 僕に喧嘩でも売りに来たのかい、ランスロット。」


 ━━━━ランスロット、今確かにそう言った。


「やぁよ。あなたとやり合っても、面倒なだけだものぉ。」


「だったら他にもっと言う事があるんじゃないかな! その椅子に座れたのは誰のおかげだと思ってるんだ! だいたい・・・」


「分かった分かった、分かりましたよぅ。」


 聞き間違えることのないその名前は、『円卓』に名を連ねる湖の騎士として有名な人物だ。


「そもそも、こんな所に何のようだ? 今迄どれだけ呼んでも、一向に返事をしてこなかったというのに。」


「そこは私にもいろいろとあったのよぉ。簡単に動くことのできない立場にいることぐらぃ、あなたも知ってるでしょぅ?」


 マーリンと話すことが見るからに嫌そうな口ぶりが、一層マーリンの怒りを煽ることになる。互いの中が元から良くないのか、同じ仲間のハズなのに漂う雰囲気は随分と冷たいものだ。


 その様子をただ見つめることしかできないロウは、どうにかして体を動かそうとするが、石のように重くなった体は身動きをとる事すら許しはしない。


 根っこでも生えたかのように動けない体を、今すぐにも捨て去りたいと思う気持ちを抑え、今できることとして二人の姿と会話を頭の中へと叩き込む。


『ランスロット』と呼ばれたその人物は、声からしておそらく女性であることは想像できる。ガラハッドのときは靄であったが、ランスロットについてはノイズがかかったように、その一部分だけが視界に入らないので、どのような格好でどのような姿をしているのかは全く分からない。


 どれだけ目を凝らしたとしても、映るのは激しく明滅するノイズだけで、長いこと見ていると目が悪くなりそうだ。


「・・・それで、あの人が例の『ロウ』?」


「随分白々しい言い方をするもんだね。・・・試験は半分合格、何ら支障はないものだ。」


「連れてくのぉ?」


 それが何でもないかのように話しているが、現状況において実際に邪魔できる者がこの場にいない。


 ロウはその場に蹲ったまま動くことが出来ず、ランスロットの一撃を受けたジェリカは今もセンジュの回復の刻印石を使って治療中。ギャザリックは壁にもたれかかるようにして座ったままピクリともせず、二ニルはロウの後ろに隠れてしまっている。


 連れていくという言葉を聞いて唯一意識のあるロウが、体を動かそうと力を入れるが入れたそばから抜けていき、終いにはバランスを崩して倒れてしまった。


「・・・やめておこう。ここからじゃ少し距離がありすぎるし、何よりまだ何も準備が出来てない。連れて行ったところで、持て余すのは目に見えているよ。」


「そぉ、あなたがそう言うのならば従うわぁ。」


 今迄ランスロットの姿に意識が行き過ぎていて気が付かなかったが、ぐちゃぐちゃになったはずのマーリンの体はいつの間にか修復されていた。完全に修復されたわけでは無いようで、胸に開いた穴と存在していない片目の穴から、大量の血が滝のように流れているその姿は先程よりもグロテスクだ。


「さて、それじゃ帰ろうか。・・非常に癪だけど、助けられた恩があるから途中まで送っていくよ。」


「あらぁ、あなたにしては珍しいじゃなぁい?」


「僕だからこそ、ランスロットの立場は理解してるからね。これからもっと働いてもらうんだから、この辺で貸でも作っとくのもいいかなってね。」


「今回あなたを助けてあげたのはぁ、私からの貸にならないのかしらぁ?」


「あれは当然の行いだよ。あんなのを貸と思うなんて、随分と偉くなったもんだね。」


 話す言葉には棘しかない。味方であるはずの二人に間には、ロウの知らない何かがあるのだろうが、そんなもの分かるはずなかった。


 人型まで修復が出来たマーリンは、自身の影から見事な装飾の施された杖を取り出して、地面を何度か叩く。


 周囲の影の形が変わってマーリンの足元まで集まったかと思うと、集まった影が地面から出てきたのだ。湯気のように湧き出てくるその影は、マーリンとランスロットの後方に巨大な楕円形に広がって、何やら異様な雰囲気を漂わせる。


「それじゃ、また今度ね。・・その体、大事にしてあげてね。」


 まるで長年の親友に語り掛けるように声を掛けると、その影の中へと姿を消した。ランスロットもロウに対して軽く手を振ってから、マーリンの後に続くようにして消えていった。


 嫌な恐怖が消え去って後には不気味な静寂が取り残される。その場にいる者の胸には見逃されたという屈辱よりも、湧き出てくる安心感の方が遥かに強く、そんな風に思っている自分自身に対して苛立ちが収まらない。


 圧倒的な敗北感を前にして、今は歯を食いしばることしかできなかった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「・・大丈夫でしたか?」


「あぁ、随分と落ち着いた。」


 不安そうに声を掛けてくる二ニルに対して、優しく声を返して無事を確認する。元々体に負っていたかすり傷は目につくが、慌てるほどのけがは見当たらない。そんなロウの心配を察してか、満面の笑みで大したことはないと伝えてきた。


「私はこの通り問題ないですよ。それよりロウさんの方は、どうなんですか? 体が動かないようでしたけど・・」


「まだ少し気怠さが残ってるけど、動けないほどじゃない。・・・無事ならそれでよかったが、そろそろ落ち着いてきたことだし何があったか話してくれるか?」


 座り直そうとするロウに肩を貸して、センジュの近くまで移動する。壁にもたれかかりながら座って、一息ついたところでポツリポツリと話し始めた。


「正直に話すと、私はこの国を出ようと考えていたんです。」


「それは何となく分かってた。二ニルの方からの交換条件について特に何も言ってこなかったし、それにあの状況で一人で行動する理由なんてそれしか浮かばなかったからな。」


「やっぱり気づいてたんですか。えぇ、その通りです。本来ならばロウさんたちに鍛冶場の事を教えた日が最後になる予定でしたが、迎えに来てくれるはずの馬車が来なくて。そうして待っている間にギャザリックさんたちに捕まってしまったんです。」


「・・なるほど。捕まっている最中にあのマーリンとやらがやってきて、センジュの言っていた今朝がたの大量の死体につながる訳か。」


 聞いた内容はおおむねロウの予想の通りであった。二ニルがマザール達に情報を漏らしたことから始まり、幾度の逃走劇を得てから捕まった後、こうしてマーリンと鉢合わせになったのだから何かの運命が働いているような気がする。


「主もなかなか大変な中を生きてきたんじゃのう。」


「いえ、これは自分で掘ってしまった墓穴なんで。・・・自業自得ですよ。」


「そもそも何でマザールにその情報を漏らすことになったんだ? 裏で生きる者が情報を流す危険性なんて百も承知してるんだろうし、それに何より脅されたとか言ってたが誰に脅され・・・たんだ?」


 今口にした言葉を頭の中で何度も噛み砕きながら思考する。起きたことはその通りなのだが、何か引っかかりを覚えたのだ。何か小さなこと、だがそれでいてとても大切なこと。

 浮かび上がりそうになった思考は、外部からの怒声で中断させられてしまう。


「二ニル! テメェ、今回のこの落とし前どうつけるつもりだコラァ!」


「ギャザリッぐゥっ・・・さ・・ん。」


 気絶していたと思っていたギャザリックはいつの間にやら起きていたようで、目を覚ましすとすぐに二ニルの元へと駆け寄って胸ぐらを掴みあげる。


「お前が俺たちの事をマザールとかいう、クソ野郎に漏らしたからこうなったんだぞ! あ゛ぁ゛!」


「落ち着かんか、ギャザリック。お主の仲間を手にかけたのはあのマーリンとかいう化け物じゃろ。こうして二ニルに当たるのは、ちと違うんではないのかのぅ?」


「るっせぇぞ、ジジィ! 部外者は引っ込んでろ!」


 怒るギャザリックの意見はもっともだ。二ニルが脅されて口にしたその内容は決して認められるものではなく、漏らされた相手からしたら何かしらの代償はあって当然なのだろうが、今回については少々事情が変わってきている。


「・・マザール様が、何だって?」


「お主、もう少し寝ておけ。その体では動けぬぞ。」


 血に濡れた体を無理やりに起き上がらせるが、体を支える腕はかすかに震えている。センジュの注意も聞かずに立ち上がったジェリカは、ふらつきながらも真っすぐにギャザリックのもとへと歩み寄る。


「マザール様が何だって?」


「んだテメェ、マザールを知ってのか? あぁ?」


「私はマザール様の秘書だ。何か言いたいことがあるならば、私が聞くぞ。」


「はっ! まさかここにこの一件の首謀者がいるとはな!」


 掴んでいた二ニルを乱暴に手放してジェリカの方へと向き直る。どこに向けるべきなのか分からない怒りの矛先は、事ここに至って余すことなく全てがジェリカへと向けられた。


 その目を真っすぐに見つめ返してはいるが、立ち上がるのもやっとの状態では戦う前から結果は見えてしまっている。


「それじゃタップリと聞いてもらおうかねぇ。俺の部下たちの話をよぉ!」


「!」


 骨を鳴らしながら歩いてきたギャザリックは固めた拳を何のためらいも無く、下からすくい上げるようなアッパーを繰り出した。その動き自体は見えているハズなのに、ジェリカはよけようとしない。

 ランスロットの一撃に何か特殊な呪いのようなものがかかっていたのか、立つことがやっとのジェリカではその攻撃を避けることはかなわない。


「・・!」


 故に、その攻撃を止めたことに何より驚いていたのは守ってもらったジェリカだった。


「・・・貴様!」


「テメェ、何のつもりだ?」


 下から振り上げられようとした拳はロウによって止められ、そのままロウに向かってもう一方の拳で殴り掛かるが簡単に逸らされる。


「落ち着けよ、今こうして争ったところで意味は無い。それにどうやらそうゆう事をしている場合じゃなくたったかもしれない。」


「偉そうに言ってんじゃねぇ! 何一人で知った風なこと言ってやがる!」


「分かんねぇか? 勘違いしてるかもしれないってことだよ。・・ジェリカ、一つ聞きたことがある。マザールの秘書だったのは間違いないんだな?」


「そうだが、何が言いたいんだ貴様。」


 回りの視線を受けながらも顎に手を置いたまま言葉を発することはなく、何かを考え込むようにしてうつむいたまま動かなくなってしまった。


 それから少しの時間が経ったのちに、痺れを切らしたギャザリックが掴みかかろうとした直前になって、重いその口が開かれた。


「聞きたいことは一つだ。ギャザリック海賊団について調べようとしたことはあるか?」


「例の海賊について? 何を言い出すかと思えば・・・。そんなもの、あるに決まってるだろ。少しでも早くつけるように海路を調べた時に少し聞いた程度だ。そんなチンケな海賊の事など聞いて今更何だというんだ。」


「あ゛ぁ!?」


 ジェリカの言葉を聞いて詰め寄ろうとしたギャザリックを片手で止めると、視線を逸らすことなくジェリカに続けて質問を投げかける。


「最近、調べたか?」


「調べるわけないだろ。近寄らなければ害にならない賊の事なんて、今更調べる理由もない。」


「えぇ! そ、そんな事ないでしょう! つい最近脅してきたのに!」


「何を言ってるんだお前は。脅したなんてある訳ないし、脅す理由もない。調べたかったらこちらには独自の調査網があるというのに。」


 むせていた二ニルは驚きの表情を隠そうとせずに、ジェリカへと詰め寄るが簡単に押し返されてしまう。それでもなお信じられない二ニルは、口を閉じたり開いたりして呆然と見つめるだけだった。


「ロウ、お主何に気が付いた?」


「センジュにも確認だ。『サルワートル』がこの国に入ってきているという情報と、その凶団の姫がこの国に入ってきているという情報は?」


「何のことじゃ? あの凶団に姫なんておったのか?」


「・・・クソ、やっぱりそうか。」


 センジュのその答えを聞くや否やすぐさま腰のショルダーから刻印石を取り出して、どこかに連絡を取ろうとしたが、つながらなかったようで地団太を踏んでいる。


「センジュ、このあたりに通信妨害の魔法陣とかあるのか?」


「恐らく人払いの影響じゃろ。少しづつ薄れてきとるのを感じ取るから、もう少ししたらつながると思うが・・・、どうしたというんじゃ?」


 ロウの考えている真意が分からないという視線に気が付くと、大きく深呼吸をしてから自身のその思考を口にし始める。


「一から説明しろや。何一人で分かったように話してんじゃねぇぞ!」


「二ニルがギャザリック海賊団の情報を漏らしたのはマザールが相手、そうだったな?」


「そうですけど・・勘違いって言うのは・・・」


「俺は最初、マザールがどこぞの姫様を殺すための暗殺集団を雇ったもんだとばかり思っていた。その罪を擦り付けたりするための相手として、ギャザリック海賊団を選んだとそう考えていたんだが、どうやらまた勘違いしたらしい。」


 話しだしたロウの言葉に口を挟むものは居らず、皆が黙って耳を貸している。その間も何度も刻印石を起動させてはいるものの、全く繋がらないようだ。


「もっと早く気が付くべきだったんだ。マザールが雇った暗殺集団の対象があの凶団を狙っているとわかった時点で、その罪を擦り付ける必要なんてない。だってその対象は世界的に有名な災害に匹敵するような奴らなんだから。」


「もしロウさんの言う通りだとしたら、この国にはもう一つの暗殺集団がいることになりますが・・。」


「さっきのセンジュの返答は何も知らないと言うものだった。何も知らないというのに暗殺集団という言葉が出てきたということは、二つの存在の証明に他ならない。信じる訳じゃないが、マーリンはマザールの死を知らなかった素振りだった。海賊団の殺しについてあんなに楽しそうに話したんだから、マザール一人の死を隠す必要は感じられない。ということは・・・」


「マザール様を殺したのはその暗殺集団なのか? そうなのか!」


「確証はない。何でマザールを殺したかについては何一つとして分からないが、どうやらこの一件かなり根が深そうだ。」


 話しの流れとしても切りのいい場所で区切られたところで、やっとロウの刻印石が繋がった。すぐさま音声モードへと切り替えると、どうやらかなり賑やかな場所にいるのか聞こえてくる音は随分とうるさい。


「リリア、リリア! 聞こえるか! そっちは今どう・・・」


『・・・やっ・繋がり・・た。ロウ、今ど・にいるので・・?』


「おい、聞こえないぞ。ゆっくりハッキリ話せ、どうした?」


 焦る思いと裏腹に上手く聞こえない通話が非常にもどかしい。少しでもはっきりと聞こうと音を上げて、刻印石の向こうから聞こえる声に全神経を集中させた。


「おい、リリア! リリア!」


『今す・・流して・・・い。』


 聞こえてくる声はノイズがかかったものであったが、どうやら人払いの効力が消えたようで一気にクリアな声へと切り替わった。


『複数の黒マントに襲撃されてます!』


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