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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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試練終了の後

大変遅れました。

 

 今迄の港の名残は隣にある海だけで、目の前に広がる光景はどれだけ譲ったとしても、港として認識することは不可能だ。


「貴様、何か知っているんだろう! 隠すことなく全てを話せ!」


「話すも何も、おれだってこの状況は意味が分からねぇよ。むしろ教えて欲しいくらいだ。」


「戯言もいい加減にしろ! さっきあれだけ楽しそうに話していた事、忘れたとは言わせんぞ!」


「アレが楽しそうに感じたんなら、お前の目は節穴だ!」


 向かってくる石像はそこまで多くない。およそ十体ほどで、石を積み重ねただけの石像は、少し強めに蹴ることで簡単に砕くことご出来た。


 砕くとはいってもロウの一撃はせいぜいバラす程度だが、ジェリカとギャザリックの二人は向かってくる石像を粉々に粉砕していた。


 いくら実を食したと言えど、限りはあるもんなんだなと二人を見て実感する。


「いつまでもここに留まるというのは、あまりオススメしないんじゃが・・・」


「ルっせぇぞ、ジジィ! んなこたぁ分かってんだよ! だがこいつらがしつこ過ぎんだって。」


 ギャザリックの視線の先、先ほど粉砕した石像がテープを巻き戻すかのように、修復されて立ち上がって再び襲いかかってくる。


「うっぜェ!」


 そして砕くと修復されて襲いかかる。先程からその繰り返しで、倒すこと自体は楽なのだが完全に破壊されることのない石像は、こちらの精神をジワジワと削ってくるのだ。


「コイツら単体で倒しても意味は無い。だとしたら狙うのは・・・」


「・・・マーリン。」


 遠くに見える杖を振る姿は、これだけ離れているというのに気持ち悪く感じるのは、何かの才能に近いかもしれない。


「ここにいるのは信用出来ない奴らだろうが、考えてる事は同じだと思う。」


 誰に言うでもなく、その場にいる全身に聞こえるように話すロウの口調は、強い決意を感じさせるものだった。


「あの汚物(ゲス)、ちょっと殴りに行きたいから手を貸してくれないか?」


「囮役は任せるぞ。儂は後ろからでしか、支援できんでな。」


「殴るのは俺だぁ。じゃねぇとテメェも消すぞ!」


「貴様に言われんでも分かっている! 偉そうにするな、人間風情が!」


 十人十色とはよく出来た言葉で、今の三人からの相槌により多少の傷を心に負ったものの、賛成という同意は得られた。


「行くぞ!」


 その掛け声と共に一斉に駆け出した三人は、攻撃を躱すだけで反撃はせず、なるべく相手にしないように走り抜けた。


 前三人がどうしても避けられなさそうな石像に対し、後方で短く唱えたエアを放つ事で、見事なサポートを行っているのは座布団に乗ったセンジュだ。

 なかなかいぶし銀な働きをしてくれるじいさんである。


 石像の数は尽きることなく大量に襲いかかってくるが、この場にいる三人に対しては全くもって問題などありはしなかった。


「・・・へぇ、やるね。それじゃ第2ラウンドだ。」


 そんなロウたちの動きを見て、マーリンの振る杖の動きが変わった。

 今までは頭の上でクルクルと回しているだけだったが、足元を杖で叩くとグニャりと地面が波を打つようにうねりだしたのだ。


「なん・・・!」


 地面の異常にロウたちは一瞬足を止める。周囲の様子を伺おうとする間もなく、地面から伸びてきた腕がロウ達に襲いかかってくる。


 触手のようにうねる腕は生き物のようで、躱して反撃しようとするが石像の硬さの比ではない。


「何だこいつらはよぉ!」


「うっとおしい!」


 ジェリカとギャザリックの二人の一撃を受けてなお、ヒビ一つ入ることの無いその触手はロウ達が近づくとうねりだす。

 さらに石像の数も増えてロウ達へと向かってきており、先程の通路よりも難易度が格段に上がっている。


「・・・ふぅ。なるほど、障害物をよけて進む訓練を思い出すな。」


 石像や伸びる触手から距離を取り、深く息を吐いて周囲の様子を改めて確認する。触手の届かない上空に上ったセンジュは、ロウの様子に気が付くと近くまで降りてきた。


「どうするんじゃ、コレ。いくら儂が支援するといっても、これはさすがに・・・」


「問題ない。要は戦わずに最終地点まで目指せば良いだけだ、今度は走ることに集中すればいいだけの事。」


 軽く飛び跳ねながら笑顔を見せるロウを、センジュはただ見つめることしかできず、何も言うことは無かった。後ろに下がって何かを話し込んでいるロウ達の下へと、ジェリカとギャザリックの二人も石像を粉砕してから駆けつける。


「なぁに余裕ブっこいでんだよ。この状況が見えねぇのか?」


「いや、勘違いしてただけだ。これは戦闘じゃなくて、どれだけ早く走り去れるかだ。」


「走る?」


「俺たちの目標地点ゴールはマーリン、そしてこの一直線の道。どう考えても戦いながら進むより、道中の敵を障害物とみなして走り抜けた方が楽だ。となれば、だれが殴るかは・・・」


「早いもん勝ちじゃな。」


 修復が完了した石像たちがロウ達の方へと向かってきているが、ロウが話したいことはあらかた話し終えた。


 至る所から賛否両論の声が聞こえるが、今の目の前の問題に対してそれ以上の考えが浮かばず、結果ギャザリックも押し黙る。


「・・決まりだな。」


「ならば審判は儂が務めよう。主らの尽力に期待するぞ?」


「・・・クソが。」


「準備は良いな貴様ら、行くぞ!」


 返事の声は無いが、それに合わせて一斉に駆けだした。それぞれの特徴を生かした走り方でマーリンに向かって真っすぐに向かう。


 ロウは殺し屋時代に身に付けた自身の俊足と、フリーランと呼ばれる独特の走法を使って走り抜ける。正面から伸びてくる触手の上を転がりながらかわし、道中の石像も上手く使いつつ触手の群れを通り抜けた。


 ジェリカは自身の足元全体を氷漬けにすることで、触手の動きを鈍らせた隙に走り去る。


 見た目もきれいな走り方に対して、もう片方はかなり無理やりな道のつくり方だ。ギャザリックは自分の走る道に合わせて大量の剣を地面から生やすことで、触手と自身とを隔離して走り抜けた。


 上空から三人の様子を伺いつつ、伸びてくる触手を巧みな動きを見せる座布団が触手の腕をかいくぐっている。

 気が付けば二ニルもセンジュに抱き着いて落ちないように必死で、いつの間にか先ほどの震えは何処かにいってしまい、今は別の恐怖に身を震わしているところだ。


 遠目から見ていたマーリンは三人の急激な動き方の変化に、驚きはするもののいまだにその余裕は崩せない。大きな声で笑いながら地面に触れさせていた杖の先を、後ろの巨大な石像の方へと切り替える。


 ただの威圧的なオブジェとなっていた石像に、命が吹き込まれた瞬間だった。


「やるねヤルネヤルねえぇ! そうこなくっちゃ面白くないよ、僕がこうして試験してあげてるんだから! 頑張りを認めて、これでどうかな!?」


 動き出した巨像の腹部にできた動く石の塊は、マーリンを乗せると上昇してちょうど心臓に位置するところまでせり上がった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


 触手の動きは衰えないまま石像も数を増やして動き回り、ところどころ掴みかけられた部分の服は破れ、血が滲んでいるがそれでもかまうことなく走り続ける。


「・・・あの野郎、まだ遠ざかるのか!」


 一本道の中間地点まで来たところで、マーリンの位置が変わったことに気が付いたがいまさら足を止めることが出来ない為、そのままマーリンめがけて走り続ける。


 動き出した巨像は右腕を振りかぶると、家一軒分の大きさの拳をロウにめがけて振りおろしてきた。

 足元の触手の影響もあって動きにくいこの状況において、ロウがとったのは近くの石像の上に登ること。


「ロウ!」


 上から様子を伺っていたセンジュは、ロウのその動き見て察したのか、付近の触手を凍らせて動きを鈍らせる。


 センジュの巧妙な支援を受けてながら、近くの石像の上を跳んで移動して拳から逃れようとする。


「逃げられるわけ無いだろうかぁ!」


 迫り来る拳の大きさが、この一本道の横幅と同じぐらいまで膨らむと、今迄石像の上を飛び跳ねていたロウは石像の上で立ち止まる。


 すると今度は近くの石像ではなく、向かってくる拳の方へと跳躍したのだ。拳を飛び越えようとしたのだろうが、無論高さなど足りるはずもなく、ちょうど真ん中辺りにぶつかってしまう。


 助かる見込みなどありはしない。避けることができないこの一撃は、まさに絶望の塊だ。

 向かい合う者に死を振りまく、空を覆うほどの絶望の塊が襲ってくるこの状況に、ロウは薄く笑をこぼした。


 ━━━━━━予定通りだ、と。


「センジュ!」


 掛け声と共に空を飛ぶセンジュの方へと飛び跳ねると、センジュの後ろに乗っていた二二ルがロウの手を掴む。


「ロウさん、行きますよ!」


 飛んできた勢いを殺さず、掴んだ状態でクルクルと回転した後、再び拳の方へと放り投げる。


 1度センジュたちを経由した事で、今度は拳の上へと着地することが出来た。ゴロゴロと転がってから起き上がると、すぐに巨像の腕を駆け登る。


「・・・へぇ。これは流石に予想外だけど、その策は愚かだと言うしかないな。」


 走るロウの姿はマーリンの位置から丸見えで、伸ばした腕を引き戻す。もう片方の手で伸ばした腕の上を撫でるように動かすと、表面を削りながらロウの方へと迫ってくが、全く慌てる素振りがない。


「足場じゃあ!」


 いつの間にかギャザリックの近くに来ていたセンジュが、ロウの動きに合わせて叫び声を上げる。


「分かって、んだよぉ!」


 止まったギャザリックへと触手が一斉に襲いかかってくるが、瞬時に広がった氷と地面から伸びてきた剣によって、届くことは無い。


 円形に囲まれた真ん中で、地面を砕く程の踏み込みと裂迫の掛け声と共に放たれたその槍は、唸り声をあげて巨像の腕に突き刺さる。


 向かってくる巨像の手を躱すため、飛び乗った腕から飛び降りたロウは腕から飛び降りた。


 ギャザリックが投げた槍が巨像の腕に刺さり、刺さった場所を中心に無数の剣が落下するロウを受け止めるようにして、広がりながら伸びていく。


「・・・しぶとい。」


 歯ぎしりするマーリンは何とかロウを振り落とそうと、腕から無数の触手を伸ばしたりもう片方の手で払い落そうとするが、その都度下からの支援を受けて落ちることは無い。


「おおおぉぉぉぉお!」


 何度も、何度も、何度も。しぶとく走るロウにようやく危険を感じ始めたのは、十分にロウの射的距離に入ってからだった。

 足場のないその場所は逃げる場所など存在せず、ここに来て逃走を許すような男ではない。


「そんなとこに引きこもってないで、出て来い!」


「うああぁぁぁああ!」


 ギャザリックの剣の一振りを抜いて腕から直接マーリンのいる場所まで跳んだロウは、手にした剣を腰に当てて居合の格好を作る。


 迫りくるその男から少しでも遠ざかろうと下がるが、背中に冷たい石の感触が当たってそれ以上下がることは出来ない。


 好機と見たロウは剣を握る手に一層の力を込めて、泣き叫ぶマーリンめがけて振りおろす。


「うわああぁぁぁああ・・・なんてね!」


「!?」


 泣き叫んでいたと思っていたマーリンは後ろの壁に杖を叩き付けると、足元から触手の腕が生えてくる。

 空中では身動きをとることが出来ないロウは、触手の一撃をもろにくらってしまい、マーリンとは反対方向の空中へと吹き飛んでしまった。


「ははっ、馬鹿が! 油断なんてするからそうなるんだ! この高さじゃ無事じゃすまないだろ? さぁお願いしろよ、助けてくださいって。今までひどいことしてごめんなさいってなぁ!」


 さらに続けてマーリンの周りから伸びてきたいくつもの触手が、ロウにとどめを刺そうと襲い掛かる。


 敵の攻撃と自身の状態を鑑みて、何か打つ手は無いかと頭を回すが何も浮かばない。

 普通に考えれば分かる事。杖を振ることで何かしらのアクションを起こしていたのだから、近付いた時に何かしてくるという考えに辿りつけるはずだったのに。


 血を吐きながら飛ぶロウは、いきなり饒舌に話しだしたマーリンの言葉に激しく憤るも、空中にいる今の状態ではどうしようもない。


「━━━━私の事を忘れたんじゃないだろうな?」


 諦めの言葉を口にしそうになったロウの耳に、そう聞こえた気がした。瞬間、ロウの後ろに巨大な氷壁が現れ、迫りくる触手の群れを氷壁から生えてきた剣が薙ぎ払う。


 突然できた足場と無数の触手を薙ぎ払った剣は言うまでもない。ここぞとばかりに拳を握りしめて、生えてきた剣の上を風のように駆け抜けた。


「なっ! 馬鹿な・・」


「らぁ!」


 下から抉られるようにして殴られた腹は一切の呼吸を許さない。振る杖の動きが止まると今まで生き物のように動いていた触手の動きが止まる。


 そのままもう片方の手でマーリンの横頬を、拳を返して反対側を殴りつける。かがんだマーリンの後頭部を殴りつけた後、倒れそうになるマーリンの胸ぐらを掴み上げて、砲丸投げのようにしてマーリンを放り投げる。


 意識が無いのかマーリンは一切の動きを止め、まるで物のように飛んでいくだけ。それに何か嫌な予感を感じたロウは、飛んだマーリンの後を追いかけて自らも身を投げる。


 地面に到着する前にマーリンに辿りつくと、今度は空中で踊るようにして何度も殴りつけた。回し蹴り、肘打ち、蹴り上げ・・・。

 最後に回転しつつはなった踵落としは腹に突き刺さって、地面に向かって急速にっ落下していき、ロウを助けようと現れた氷壁を足場にもう一度跳躍し、奪い取った杖でとどめと言わんばかりに剣と同じ要領で叩き付けた。


 地面を割ったその一撃により、杖は粉々に砕け散ってしまった。後に残ったのは殴る際に持っていた柄の部分だけ。もう用はないとそこいらへ放り投げ、マーリンから後ずさる。


 かなり強烈な数の一撃が入ったのだ、立ち上がることはおろか意識を保つことすらできぬだろうと想像するのは、もう立ち上がってくれるなという祈りの部分も含まれているだろう。・・が。


「やっ・・・、て、くれた、ね。」


 腕は折れ、体からはおびただしい量の血が流れているというのに、起き上がってくるその姿は悪夢だ。


 この一本道を走り始めて、殆どずっと走り続けていたロウは昨日の疲れも出たのだろう。膝をついて肩を大きく上下しているロウは反撃の態勢を作ることが出来ない。


「・・辿り、つくだ・・けで、良かったの、に。こ、こまでしやがって・・・。」


 鋭く睨まれているように思うが、潰れた眼球は何処を向いているのか分からない。足を引きずるように向かってくる『それ』は、もはや人の形を留めてはいなかった。


「コロス、コロす・・。オマエみたいな害悪がいるから・・俺は・・・俺は・・・・」


「ぐっ。」


 思っていた以上の無理をしたようで、体が上手く動いてくれない。力の入らない足は、まるで逃げることを拒否しているような。これほどまでに疲れていたのかと、ここで初めて自覚した。


 折れた腕を持ち上げると、地面から一本の杖が現れる。先ほどのような鐘がついた杖ではなく、見事な装飾の施された神々しさすら感じる、そんな杖だった。


 明らかに格の違うその杖をみて、逃げようとしていた体は動きを止めてその杖に見とれてしまう。

 見てはいけないと頭が警鐘を鳴らしているのは分かっている、分かってはいるのだが・・・・


「・・・・・ぅ、ぁ。」


 体の内側から何かが引きずり出されそうになる感覚に襲われ、何度も視線を逸らそうとしているのだが動かない。


 掴まれていないその杖は、マーリンの腕の高さに留まったまま落ちることは無い。かすかな動きに反応して回転しだした杖に合わせて、壁から地面からドリルのような突起物が現れる。


「・・・死ね」


 暗い闇の底から誘うような悍ましさを含んだその声色は、一瞬で背筋を凍らせる。杖から外れぬ視界、動こうとしない体。


 全てがどうでもよくなってくるような、今までの出来事を捨て去りあたらしい自分へと生まれ変わりたいという、異常な欲が全身を埋め尽くし始める。


 過程なんかどうでもいい。要は結果だ、結果が良ければそれでいい。どうでもいい奴ばかり助ける悪癖にうんざりしていたところで、嫌いな自分を消すことが出来るなんて夢のようだ。

 一生抱えて生きていかねばならないなんて、ただの地獄でしかない。痛いのも嫌だ、寂しいのも嫌だ、悲しいのも嫌だ、自分以外が嬉しそうにしているのも嫌だ、夢を見て楽しそうな顔で寝ている奴も嫌だ、未来が輝いている奴・・・死ねばいい。何で俺がこんな地獄を味わなければいけないのだ。報いを受けるべき罪を抱えた奴は腐るほどいるというのに、何で俺なのか。ふざけるな、俺はただ普通に生きて普通に生活して普通に結婚して普通に子供と一緒に過ごして普通に老いて普通に死んでいきたかっただけなのに。一体どこで踏み外した?俺は一体どこで見るべき世界を間違えた?俺はどうしてこいつらと戦っている?俺は何で・・・


「・・・・! ・・ウ! ・・ロウ!」


「!?」


 背中から響く衝撃と耳から聞こえる自分の名前を呼ぶその声に、閉じそうになっていた意識が戻る。どうやら息を止めていたようで、空っぽになった肺に急激に空気が入ってきたことにより、激しくむせる。


「げほっ、・・はぁ、・・センジュ? ・・二ニル?」


「ロウさん! 大丈夫ですか? 何かすごい顔で何か呟いていましたけど・・・。」


「・・・呟いていた?」


「そうじゃ。襲われて殺されかかっとるのに、その場に根が生えたように動こうとせなんだ。間に割り込んだあの二人がおらんかったら、主は死んどったぞ。」


 今の記憶を遡るが何を考えていたのか思いだせない。マーリンが杖を出したところまでは思いだせるのに、そこから先を思いだそうとすると視界が揺らぐ。


 それと同時に腹部からせり上がってくる感覚は、信じられないほどの吐き気だ。抑えることが出来ずに自身の体がなすままに、内臓にしまい込まれていた物を一気に吐き出した。


「・・・がぁ、ッは・・・。」


「ロウ! お主、ホントに何があったんじゃ。ここに来るまでそんなに時間はかかっておらんというのに、何がどうしてこうなるんじゃ。」


 白い顔を見せるロウの姿を心配したセンジュは、懐から取り出した石を割って出てきた粉をロウへと振りかける。大きく一度柏手を打つと粉が輝きだし、重くだるい体が少しずつ軽くなっていくのを感じる。


「・・これは?」


「治癒の力を宿した晶石じゃ。何分小さいもんでな、回復できる量は限られとる。」


「そんな便利なものが・・・」


 ここまで口にしたことで忘れていたことを思い出す。


「・・マーリン! マーリンはどうなった?」


「あいつならまだ向こうで戦ってますよ。」


 二ニルが向けた視線の先は氷と炎と剣が舞う、別世界と見まごう光景が広がっていた。氷の壁に挟まれて中央では炎の竜巻が渦巻いており、雨のようにして剣が降り注いでいる光景だった。


 先程見た杖の姿は見えない。どうやら決着がつきそうで、大剣を横に薙いで生えている触手を払い、マーリンに向けて真っすぐに氷の道を作りあげる。


 その道を氷の剣を持って振り上げながら、襲い掛かると赤い血しぶきが舞って『そいつ』は吹き飛んでいった。


「ジェリカ!」


 名前を呼んだ相手、ジェリカは赤い線を作りってロウの前に転がり止まる。

 何が起きたのか分からないギャザリックも、氷の道が無くなることでマーリンの傍らにいる何者かの存在を認識することが出来た。


「おや、ランスロット。最近は懐かしい顔によく会いますね。」


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