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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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『ガウェイン』の試練

次の話は多忙につき少し更新が滞りますので、何卒ご容赦をお願いします。

 

 自らそう自己紹介するその男は不気味に笑い、纏うのはどろどろとした嫌な雰囲気だ。初めて会うならば、吐き気を誘うその男に対して話すことはおろか、動くことすらままならないだろう。


「・・まさか、会えるとは思ってなかったよ。お前達ってみんな神経質だとばかり思ってたからな。」


「いや、ガラハッド基準に思わないで欲しいね。彼は職業柄几帳面すぎるから。・・それよりも、ガラハッドに何があったんだい? 久しぶりに会った時、滅茶苦茶美人になってて驚いたよ。」


「聞きたいなら居場所教えろよ。安全を保障しない代わりに、聞いてきてやるから。」


「ははは、そんなことしたら僕が怒られちゃうよ。せっかくの友達なんだからさ。」


 背中で震えていた二ニルが影の中から現れたマーリンの姿を見て、かすかに震えから目に見えて震えだしたため、ギャザリックの仲間を殺したのはあの男で間違いないだろう。


 隣にいるセンジュの方にゆっくりと二ニルを預け、マーリンとジェリカ、ギャザリックの間に立つ。ロウの姿を見たことで、動けないでいた二人は意識を取り戻したかのように口を開いた。


「テメェが、俺の仲間を皆殺しにしたのかぁ? 答えろや、おい!」


「ん? 昨日の? ・・・あぁ、そうか。アレ、君の仲間だったのか。あそこまでの一方的な虐殺は趣味じゃないんだけど、まぁそれなりに楽しかったよ。」


「・・楽、・・しかった?」


「うん、そうだよ。だって、あれだけの数を一度に捻りつぶすんだよ? そんなの気持いに決まってるじゃないか!」


 話す口調は子供のようで、昨日のことを明細に語りだしたマーリンは、記憶が蘇ってくる度に全身に振りかかる気持ちよさから恍惚の表情で体をくねらせている。


 だらしなく垂らした舌から流れる唾液が飛び散り、動くたびになる鐘の音が神経をより一層逆撫でてくるのだ。


「最初は一つだけ、そしたら思っていた以上に気持ちよくてさ。また一つ、また一つってやってたら、気が付いたら癖になっちゃってた。」


「二人同時に潰すとね? ちびちび潰していたのが馬鹿らしくなるくらい簡単でさ、まとめて潰したときの感覚ったら・・もうね! もう言い表せないくらいだよ!」


「ホントのホントに、あの感覚はぜひとも味わって欲しいな。僕一人で味わうのは何か悪い気がしてくるからさ。」


「何人か逃しちゃったから、それ使ってぜひみんなも経験してみてよ! 絶対癖になるからさ!」


 垂れ流してくる言葉に何も言えない。怒り、悔しさ、仲間を失った喪失感と言った感情は忘れてしまったかのようで、先ほどまで心の中で渦巻いていた感情は無くなってしまった。


 仲間に対する思いが足りないだの、所詮口だけだの、船長としてのギャザリックを蔑む言葉はいろいろ出てくるだろうが、事これに関しては皆が仕方ないとして認めることだろう。


「そうだ! 仲間で思いだしたんだけど、ロウに会ったら伝えなきゃいけないことがあったんだ。」


「・・俺に?」


「全く、ダメだよね。頭では分かってるんだけど、話しだしたらどうにも止まらなくて。自分の思っていることを話すだけじゃ、相手との繋がりは生まれないし、それはただ嫌われるだけだからね。」


「もういい、黙れよ。」


 後ろからその声が聞こえるとロウの肩に手を置いて、後ろに引くと同時に前に出る。錨の槍を握る手が白くなるほど強く握っており、話口調はいたって通常なのだが、震える肩がいつも通りでないと訴ええてくる。


「それじゃ言うよ? ロウ、君・・」


「黙れって言ってんだろうが!」


 槍の先を地面に叩き付けると先ほどと同じように地面から何本もの剣が生え、そのまま真っすぐにマーリンの元へと向かう。その光景が見えていないハズは無いのだが、マーリンは動く気配がない。そして・・


「・・・は?」


 一ミリも動くことなく全身を何本もの剣が突き刺さり、突き刺さった剣により体が少し浮き上がる。それはギャザリックも思っていなかったようで、その光景をみて言葉を無くす。


「・・・何で」


 体の全てといってもいいほどの数の剣が突き刺さり、胸・肩・腕・腹・太もも・ふくらはぎ・首。至る所から流れ落ちる血がその男の絶命を知らせている。


 全員が言葉を無くして理解できなかったその光景を、言葉に出して自分の意識に無理やり組み込み、何かの反撃を警戒しようとした時だった。


「・・・うるさいなぁ。」


「!?」


 声が聞こえたのは明らかにマーリンの方からで、もう動くことは無いはずのその体はもぞもぞと体をくねらせて、ギャザリックの方へと目を向ける。


「僕は今ロウと話しているところなんだ。口を挟まないでくれるかな、部外者が。」


「なっ・・・・んだ、テメェ。」


 悍ましさはここに極まる。ガラハッドは頭のおかしい奇人という印象で、近付きたくないタイプの相手であったが目の前のこいつは違う。


 体に刺さった剣はどろどろと溶けるようにマーリンの体から消えていき、服の破れた隙間から見える体にはそんな傷は何処にも見当たらない。


 ぺちゃぺちゃと血の足跡を残しながら歩いてくる姿は、・・・正直、気持ち悪い。見るものすべてに吐き気を催させるその姿に呆気に取られていたギャラハッドは、マーリンの攻撃に対応が遅れる。


 杖をで地面を二度つくと、ぼこぼこと蠢いた地面は動き出して腕の形となって真っすぐにギャラハッドに襲い掛かった。


「馬鹿!」


 動けなかったギャラハッドをジェリカが蹴り飛ばすことで、マーリンの岩の腕の一撃を交わすことに成功する。


 ガラハッドのときとまったく違う戦い方で、いったい何をしたのか分からない。後ろ手必死に考えているセンジュの方もこんな攻撃方法は始めて見たようで、冷汗を流しているのが見られた。


「避けるなよ、お前みたいなのがいると話が進まないんだ。・・・さっさと潰れてくれないかな、君?」


 港のど真ん中にできた腕のオブジェはそれ以降動くことが無くなり、先ほどと違うマーリンの威圧もあって動けない状況の中、立ち上がったジェリカがマザールに向けて声を発した。


「マザール様を殺したのは貴様か!」


「・・・何?」


「マザール様を殺したのは貴様かと、・・・体の至る所を切り裂いて、無残な殺し方をしたのはお前かと聞いているんだ!」


「えっ、あいつ死んだの?」


 返ってきた言葉はまるで初めて聞いた風だが、何か思い当たるがあるようで一人で何やら納得して頷いている。


「あー死んじゃったか。まだ利用価値はあったんだけど、死んだなら仕方ない。他を探すしかないわけだけど、余計にロウには僕たちからの提案に乗ってもらわなきゃいけなくなっちゃったね。」


「ふ、・・ふざけてるのか! お前以外に誰が殺すというんだ!」


「あーもう。うるさい! 今話してるって言ったばかりだろ! 何で邪魔ばかりするんだ。うるさいから答えるけどね、僕が彼を殺す理由なんか無いの。彼は元々僕と手を組むのは乗り気じゃなかったから、いづれ手を切るだろうなとは思ってたから、手を切られたらそれでいいやぐらいにしか考えてなかったわけ! それが何でいきなり殺すだの殺されただのなんて話になるんだよ、馬鹿じゃないのかお前等? ちょっとは無い頭使えよ。そんな馬鹿ばかりだから、今こうして面倒なゴミ処理を僕らがしているんじゃないか! 感謝されるのは分かるけど、怒られるなんて心外もいいとこなんだぞ? 目先の出来事しか見ないから、変なこと言いだすんだ。アーうざいうざいうざい! モルガンの馬鹿が変なこと言うから面倒な仕事が出来て、さらに仕事全部をこっちに押し付けてるんだから、恨みもたまるってのに何であいつが一番王の椅子に近いんだよ。ここまで導いてきたのは僕なんだから、あの場所には僕がいなくちゃいけなっていうのにさ! 腹立つことこの上ないと思うんだけど、・・・ロウはどう思う!」


「・・・・いや、どうにも?」


「どうにもってなんだよ! これからロウにも関わってくることなのにさ! 最初に出会えたのが僕だってうのはうれしいんだけど、だからって何で試練を僕がやらなくちゃいけないんだだ! 近い場所に何人もいるんだからそいつらにさせればいいって言うのに、これだから馬鹿は嫌だよね。世界を豊かにした僕の功績を認めて欲しいよ、これじゃストレスが溜まるばかりで、大人になったら僕禿げちゃう。・・あぁ、もういいやめんどくさい。こうなったらさっさと終わらせて帰るとしよう。早く家に帰って布団に入りたいよ、やっぱり引きこもりにこんな体使うようなことさせちゃダメだよね、愚痴ばっかり出てくるんだから。・・・と、言うわけで始めようか。」


 早口でまくしたてられた言葉は聞くに堪えない話で、半分以上何を言っているのか分からない。だが言葉の断片からは驚くぐらいの情報が詰め込まれていた。


 忘れないようにその断片を記憶の中にとどめようとするが、それも半ばに目の前のマーリンがどうやら本気で襲い掛かってくるようで、手に持っている杖を軽く振りだした。


 マーリンの手によって作られた巨大な手のオブジェクトは溶けて地面と一体となり、波打つ地面は平地から急な坂へと姿を変えた。


「ロウにはこれから僕たちの仲間になるための試練を受けてもらうよ。」


「勝手に話し進めるんじゃねぇ、俺が仲間になる訳ないだろうが!」


「『ガウェイン』の椅子が空いていてね、ロウならばきっと我が王もお喜びになられるはずだ。・・といっても、まだ空席なんだけどね。」


 話しかけられているが、それに答える余裕は無い。激しく揺れる地面の上では自らの態勢を保つだけで精いっぱいで、ジェリカもギャザリックも、同じように態勢を立て直している。


 そんな中で唯一座布団に乗って地面から離れているセンジュは、二ニルを乗せて揺れる地面から安全な場所へと移動していた。


 激しく揺れること数分。今まで目にしていた港の光景は姿を変えて、真っ直ぐに伸びる巨大な一本道となっており、その先には杖を振っているマーリンの姿が遠くに見える。


「準備は良いね? 急いで僕の下までたどり着きなよ、そうでなかったら死んじゃうから。」


 開始の声は聞こえたがすぐに動けるものはいなかった。それはそうだろう、なにせその通路には5mはあろうかという石の巨兵と、マーリンの背後には信じられないぐらいの巨大な石像が建っていたのだから。


「さぁ、始めよう。これより『ガウェインの試練』・・・開幕だ。」


 その声を合図に、道中の巨石が一斉に襲い掛かってきた。


 ━━━━━━━━━━ガウェインの試練、開始。


 ◇◇◇ ◇◇◇


 カタカタとテーブルに乗ったコップが揺れる。幸い中には何も無かったため、零れて二次被害を出すことは無かったが、今日になって揺れることが多い。


「・・ロウの方は大丈夫かしら。」


「問題ないですよ。ロウならなにかあったところで、自分でどうにかするでしょうし。」


「それはそうなんだけど・・・」


 中身のないコップを見つめていると、隣に座ったフィオナが心配そうな目でこちらを見つめてきている事に気が付き、何でもないよ、と優し気にそう語りかけてフィオナの手を握る。


「心配したとしても、どうせ話を聞きに行くだけなんじゃろ? 自分が望んだ話し合いの機会を棒に振るような事はせんじゃろうし、今はロウを信じて待つことしかできんじゃろうて。」


「そうですよ、心配するだけ無駄とは言いませんが、こっちはこっちで仕事を終わらせて、早めに帰ってロウの帰還を待ちましょう。」


「リリアはもう帰りたいだけだよね? ふっふー、そんなことはまださせぬぞ? これからフィオナの新しい服を買いに行くのだから、きっちりバッチリ付いてきてもらわなくちゃ!」


 今は買いこまなくてはいけないものの買い物が終わり、今は小休止といったところでこれから自由時間となる予定だ。


 流石に商業が盛んなこの町は、店の開く時間も早い。その影響が大きく、かなり早い時点で買い物が終了してしまったのだ。


「さて、それじゃ行きましょうか。みんなも休めただろうし、それにリリアの言葉に賛成するわけではありませんが、早めに帰るのも私は賛成です。荷物などの運搬もあるので。」


「リウが味方なのは、少し怖いですね。どうせならフェザーの方がまだ良かったのですが・・・」


「そこに直れ! 今すぐ首を切り落としてやるから!」


 ムキーと怒鳴るリウを尻目に、キリエ一行は移動を開始する。今日は随分天気のいい一日で、こんな風にしてみんなと出かけられると思ってもみなかった。


 風にそよぐ髪を手で押さえて、綺麗な港の方へと目を向ける。


「・・・ロウ」


 愁いを帯びた目は何を思うのか。ロウと別れてから騒めき立っている胸の高鳴りに、気が付かないふりをして何でもないと言い聞かす。


 ただ話を聞きに行くというだけなのに、なぜこんなにも怖いのか。それはまだ、キリエは知る由もない。



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