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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
87/132

襲撃

 

 突然で今更だが、少しこの国について説明しようと思う。


 国名  ファブログライン


 海沿いの港を中心にして繁栄しているこの国は、『交易都市 ゼフィール』、『天空商店 マンプク』と同じくして三大商業国として、世界にその名を轟かせている。


 クロエのような国王が治めているわけでは無く、商人中心のこの国では複数の選ばれた人物が話し合うことで執政が執り行われている。

 これは誰か一人が治めれば、いろいろ面倒ごとも多く無駄な争いのタネになる事があるみたいで、そのような事態を未然に防ぐための物だそうだ。


 ちなみにマザールはこの行政に関わっているわけでは無いが、商業の力とは恐ろしいもので、それなりに口利きをすることもできるらしいのだが、今は置いておこう。


 そんな国の治安を守るのは自警団のような団体だ。それなりの権利も認められているので、守護兵や騎士と変わりはないのだが、自警団と言った理由についてはこの国特有の地形が関わっている。


 港、つまり海沿いはなだらかな平地だが、その向かいにある山の方へ近づけば近づくほど登りの坂となっており、そんな場所に様々な高さの建物がいくつも建てられるので、結果として迷路のような入り組んだ造りとなってしまっている。


 この迷路のような道が自警団たらしめる要因で、細い道から知られていない道、屋根から屋根を伝う裏道などについて熟知できるのはその場所に住む者だけだからだ。


 それぞれの自治体が力を持つことを危険視した行政官たちは、一度国の方から守護兵たちの集まりを作りはした。

 しかし、圧倒的に自警団の方が動きが良く守護兵たちは話にならなかったので、半年ほどした頃には守護騎士団体の解散と自警団の特権が正式に認められた。


 ついでに、マンジュの家は港から遠く離れた山の中腹あたりに建てられていて、その少し奥には集落のような集まりがある。その集落は職人が集まる匠の場所として少し有名だ。

 彼らの作る一品は商店街でもめったに手に入らないもののようで、ものによってはプレミアがつくものまであるそうだ。


 さて、ここから話は戻る。

 先のロウ達の行動はキリエを無事に逃がすためのもので、リリア率いる馬車が暗殺集団を集めてそれをロウが蹴散らすという単純な作戦だ。


 土地勘も何もないロウ達が出来ることは、唯一深い知識を持つリウから下される指示に従って行動することだけ。


 昼間に見て回っていたのは、買った地図に書かれていない道や、罠が仕掛けられていそうな場所。


 本当はオークション会場に下見をしようと向かいはしたものの、教えられた場所はただの行き止まり。まさか嘘を教えられたのかと考えたが、別の場所とを繋ぐシュロロの魔法を思いだす。


 下見も何もできることがない以上、向かう途中や帰りの途中に襲われたことを考えて、その対策を打てるようにと目的を切り替え、そして昼過ぎた頃ある程度の下調べが終わり、いったん戻ってからは知っての通り。


 いろいろな場所に仕掛けられていたエアの罠はリリアが、物理的な罠はロウが見抜いた結果、ロウ達の行動に支障をきたすような罠はほぼ片付けている。


 その罠の多さからかなりの数がいることは察していたが、実際に相対してみるとどうやら想像の数倍以上の数がいるようで、少し押されている状況だ。 


 行き止まりの場所に逃げ込むのだけはやってはいけないと分かっているのだが、結果として袋小路へと誘いこまれてしまい、リリアとロウは大勢に囲まれてうかつに動けないでいる。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「・・・ふっ!」


 相手の攻撃を逸らして腹に膝を叩きこみ、倒れる寸前に仲間の所へと蹴り返す。周囲を囲まれているこの状況で、少しでも動けるように足元に何も転がっていない状況を作ることが精いっぱいだ。


 敵の遠くからの遠距離攻撃はリリアが弾いて守り、近接戦闘については前線を守るロウの鉄壁を崩せない。


 ロウ達の方もあまりに多い敵の数から一向に前へと出れず、結果双方は一気に攻め込むことが出来ないまま、一定の距離を保って睨み合う状態が続いている。


「・・・じり貧だな。」


「強行します?」


「・・・いや、やめておこう。アイツらなんか変だし、・・それに少し聞きたいこともできたからな。」


 二人で内緒話をしている真っただ中に、上から三人の相手が下りてくる。周囲を囲っている全員は黒いマントに身を包んでいる為に、それぞれがどういった姿か判別できない。


 正面に降りてきた相手がナイフを持っており、突き刺すようにして振りかぶるが、それを相手の腕を掴んで止める。


 背後にいる二人目も持っているナイフを構えて突進してきて、タイミングを合わせてクルリと一回転することで背後のマントの男の攻撃を逸らす。


 リリアは基本的に相手の攻撃を、自身の周囲を一方方向に風のエアを流すことで躱している。

 体重の乗った一撃を逸らすと体勢が崩れる隙を見計らい、相手の背後から強烈な突風を発生させてロウのいる方へと吹き飛ばす。


 ロウの方も腕を掴んだ相手をリリアの方へと投げたようで、二人の中間地点でぶつかり転倒すると間髪入れずに、地面を隆起させてその二人を投げ飛ばした。


 残りの一人も交わされた後すぐに振り返るが、振り向きざまに合わせられた蹴りが顔面に襲い掛かる。そのまま囲いを作っている場所まで飛ばされて、そのまま動かなくなった。


 先程からこんな感じで襲われてはやり返しの繰り返しで、一向に状況が動く気配がない。

 怪我をしているわけでは無いが、この状況は少々精神的にキツくなってきた頃、囲いとロウの間に巨大な岩が降ってきた。


「がははは! こいつか! こいつがそうなんだな! 面白いじゃねぇかよ、なぁ!」


 否、岩ではない。マントの上からでもわかるその肉体の強固さは、身長から腕の太さにいたるまで、余裕でロウの数倍はあろうかという巨体だ。


 頭にかぶっていたフードは着地の衝撃で開けてしまい、あらわになった頭には黄金にきらめく鬣が風に揺らめき、金色の鬣と同じ金色の目は暗い闇の中でも爛々と光り輝いてロウを睨みつけてくる。


 ━━━━─光り輝く黄金の獅子がそこにいた。


「うっわ。」


「・・・やばそうなの来やがった。」


 手に持っている巨大な布にくるまれた棒を巧みに振り回し、辺りに風が流れる。


「楽しもうぜぇ!」


 その勢いを止めることなくロウに向かって下から上へと振り上げ、その勢いを利用してロウは高く飛び上がる。

 多少地面を抉りながらの一撃は瓦礫も一緒に吹き飛ばしていて、飛び上がったロウはその瓦礫に当たらないように躱すので手一杯。


「何処見てんだよ!」


 下にいたはずの獅子は飛び上がったロウの高さまで近づいてくると、今度は上から下へとギロチンのような蹴りを食らわしてくる。


「ぐっ!」


 強烈な一撃は辛うじて身を守ることは出来たが、着地の方へと向けるだけの余裕が残っていない。下には工場のような建物があり、このままぶつかるのはまずいと考えはするが、対応しきれない。


「ロウ!」


 落下するロウを助けたのは、吹き飛ばしたときのドサクサに紛れてあの場から抜けだしたリリアだ。落下地点に大きな氷の坂を作っており、ロウはその坂に合わせて受け身の態勢をとる。


 斜めに落下するロウはその坂を滑るようにして着地に成功した。着地とはいうものの若干勢いの方が強かったためか、坂の中頃から落ちて草木の生い茂る場所に突っ込んで、その勢いを止めていたので、きれいに着地に成功とは言い切れない。


「大丈夫ですか?」


「・・た、助かった。」


 リリアの手を借りて生い茂る草木の中から抜け出すと、自身の体についた汚れや葉を落とす。

 蹴られた衝撃が未だに手に残っているのか、多少しびれはするが骨が折れているわけでは無いようだ。


 生い茂る木々の中に落ちたせいで、体のあちこちに切り傷があるがそれも大したことは無い。空中に飛び上がったあの獅子と距離が空いたので、一息つけるかと思ったが無論そんなことは相手が許さない。


「おいおい、無傷とはどうなってんだ。結構いい蹴り入ったと思ったんだけどよぉ。」


「この姿を見て無傷とは、どうやらお前の目は節穴だな。よく見ろ、ぼろぼろじゃねぇか。」


 工場跡地のような場所にある街灯の上に片足で起用に立っている姿は、どこぞの悪魔の様に感じる。


「がはははは! それだけ言い返せるとは、元気な証拠だ。・・・・まだ遊べるな、そんじゃ行くぜ!」


 体重を前にかけ、落ちる寸前で大砲よりも早い速度で突撃してくる。勢いに負けた街灯が獅子の向かう先とは反対方向へと吹き飛んで、何かに当たったのか何やら爆発音がする。


 何が起きたのか気にはなるが、今はそれどころではない。着地した衝撃で地面は割れて砂埃が舞う中、巨大な棒でその煙を払って獅子が吠える。


 見た目の巨体に反してなかなか素早い動きと、巧みな棒術はロウに攻撃のスキを与えない。


 振り回される棒はまるで嵐のようで、触れたものすべてを破壊する。生い茂る木々や街灯、果ては小さな小屋のような建物すら一撃で粉砕した。


「・・うわぁ」


「どうするんですか、アレ。」


 想像を絶する相手の力に引いてる二人とは正反対に、相手の獅子はものすごく楽しそうだ。こちらを見てくる顔は満面の笑みで、ゴウゴウと音を鳴らしながら棒を振り回して近づいてくる。


「良いぜぇ、メチャ良いぜぇ。ここまで躱されたのは久しぶりだ、そろそろ反撃してきてもいいころなんだが?」


「楽しそうなとこ悪いけど、俺ちょっと疲れてるんだ。ここは一旦仕切りなおして、後でってのはどうだ?」


「おいおい、冷たいこと言うんじゃねぇよ。腹減らした獣が、目の前にある旨そうな飯を前にして下がれると思ってんのか?」


「あんたなら出来るかな、なんて思うんだけど。」


「ハッ! 俺みたいな馬鹿が、そんなのできる訳ないだろうがよぉ!」


 槍の様にして棒で突き刺してきて、その後は剣のよう棒を持ち直すと子供がチャンバラで遊ぶように巨大な棒を振り回す。


「・・・いちいち、上手いんだよ。」


悔し気に呟いたその言葉は、今の気持ちを相手に対しての率直な感想だ。


 真っすぐに突っ込んでくるだけならば、ロウの方もカウンターを合わせることもできたが、獅子は突っ込むと同時に少し身を引いてロウと距離をとる。


 その数センチの距離が致命的で、この獅子の素早さならばロウの攻撃が当たる前に反撃されて終わりになってしまう。


 先程からそんな器用な出来事の連続で、ただでさえ猛烈な攻撃の隙間を縫うように避けているというのに、そんな小技を連発されては反撃が出来ない。


 リリアの方も同じで、下手な攻撃でロウの逃げ道を塞いでは元も子もない。二人が尻込みして攻めに転じられず、何もできないリリアはロウ上に悔しい感情をあらわにする。


「リリア!」


 そんな時、獅子と相対しているロウがリリアに向かって叫んできた。意識こそ目の前の獅子に向いているものの、ロウの目には反撃の火が灯ったように見える。


 大ぶりの獅子の一振りに合わせて大きく後退するも、その距離はあって無いようなもので一瞬で詰めてくる。けれど、その一瞬でロウが伝えたいことは理解した。


 ◇◇◇ ◇◇◇


 迫りくる『嵐』を相手に下がることを止めて前に出る。僅かな隙間に体を滑り込ませて一気に肉薄し、ロウの射程圏内へと入り込むがそんな事を簡単に許す相手じゃない。


「甘いわぁ!」


 後ろ手に棒を持っているタイミングで入ったというのに、片手だけを離して近づいてきたロウを捕まえることに成功し、強めに地面に叩き付ける。


 ロウの顔面めがけて棒の石附を振り下ろすが、危機的な状況であるにも関わらず笑うロウの顔を見て一瞬動きが止まり、反撃のスキを与えてしまった。


「お前がな!」


 その言葉に我に返った獅子は、目の前に浮かんでいる小さな石ころに気が付いた。どうやらロウが地面に叩き付けられた瞬間に放ったもののようだが・・・・


「ぐあっ!」


 その石に視線を奪われた一瞬、獅子の目の前で破裂したその石は強烈な光を放って辺りを照らす。直接その光を見た獅子はロウを拘束していた手を離して後退すると、横から何かに思い切り吹き飛ばされて、工場の壁に激突する。


「調子に、・・・乗ってんじゃねぇ!」


 視界が潰され壁にもたれかかった状態の獅子にロウの渾身の蹴りが炸裂し、壁を砕いて獅子もろとも工場の中へと突っ込んだ。


 そのまま二撃三撃と続けて攻撃を浴びるも、目をやられた獅子にロウの素早さについていくだけの聴力は無い。辛うじて急所への攻撃だけはずらすことが出来てはいるが、避けるまでは至らない。


 そんな中いきなり自分が今いる場所の地面が盛り上がり、急激に上下する地面に獅子は浮き上がる。謎の浮遊感を感じたところで、再びロウの一撃を食らって派手に吹き飛ぶ。


「ぐおおぉおお!」


 階段のような場所に落ちたのか、どこかに落下していく感覚があるが地面との距離が不明な為に、受け身をとる間もなく地面に叩き付けられる。


 連続の攻撃の数に獅子は片膝をついて使えない目に手を当て、周囲の様子を探ろうと耳の神経を研ぎ澄ませると、前から二つの足音が聞こえてくる。


「・・・ふぅ。あれだけやって無傷とは、傷つくねぇ。」


「傷ついてんのは俺だ、・・ボケ。」


「楽しく話すのは後にしましょう。」


 リリアが膝をつく獅子に向かってエアを放つ。地面を抉りながら現れた石の塊が、膝をつく獅子へ向かっていくがそれは獅子の持つ巨大な棒によって破壊された。


 音も無く近づいたはずの塊を的確に砕くとは思っておらず一瞬狼狽えたが、立ち上がった獅子の姿を見て納得する。


「そうか、片目だけに治癒をかけてたのか。」


「・・自慢できるほどじゃぁ、ねぇけどな。無いよりマシな程度だぜ。」


 ユラリと立ち上がるその姿には、先ほどとは明らかに違う雰囲気が纏わりついていた。まだ続くのかと嫌になりながらも、リリアも同様に気合を入れ直して向かい合う。


 そんな視線が交錯する中、目の前の獅子がネットリとした笑みを浮かべて手にした棒を振り回す。


 今いる場所は工場の中の地下に当たる部分だろうか。周囲にはいろいろな配管や何かの製品と思われるものが並んでいる場所で、製造の最終工程のような位置であると予想する。


 振り回した棒はそういった製品のような物や当たりの配管を、まるでそこには何もなかったかのように薙ぎ払う。


「さぁ、二回戦といこうか。」


 再びこの『嵐(獅子)』との激突が幕を上げた。


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