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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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退場

大変遅れました。


日常が忙し過ぎて・・・すいません。

 

 スーツのような服装ではなく、シルクのような滑らかさをもっている布で作られており、金や銀などのアクセササリーが見受けられないその格好は、まるでどこかの一般人のようだ。


 差し出された手を見ると、ロウは前に出ることなく後ろに下がる。その意図を察したキリエは、ロウと入れ替わるように前へと進み出てて来た。


「これはご丁寧にありがとうございます。私は旅の者で、名をフィオナと言います。」


 握り返してきた相手に、マザールとジェリカは呆気にとられたようで、握られた手をまじまじと眺めた後、大きく笑いだした。


「ははは、これは参った。まさかこんな綺麗な方が、あの時の相手だったとは。てっきり、隣の銀髪の男が張っていた物だとばかり思っていました。」


「そんな、綺麗だなんて。私はまだ未熟の身ですので、そのようなことを言われては困ってしまいます。」


「私は心に思ったことはそのままいうたちでしてね。ここまで美しい方と出会えたのだ、この後一緒に食事でもいかがかな?」


 交わしていた手を放して食事に誘ってくるマザール相手に、一歩も下がることなく笑い顔を張り付けたまま、口元に手を当てて優雅に言葉を返す。


「私は暑さに弱いのです。今宵の熱気に当てられて、今は歩くことさえ大変なのです。そのような状態では、せっかく誘っていただいたマザール様の顔に泥を塗ってしまうことになります。」


「私が『どうしても』といってもかな?」


「そこまで仰られるのであればご一緒することも構いませんが、その場合こちらの召使も一緒に赴くことになります。少々融通が利かないところがありますので、そこを許していただけるならば・・・・」


 キリエの言葉に合わせてロウは、二人に向かって殺気を向ける。それを感じ取ったのか、隣のジェリカがマザールの前へと進み出てきて一触即発の雰囲気が流れ出すが、以外にもその雰囲気を壊したのはマザールだった。


「ジェリカ、下がらぬか。」


「ですが・・・」


「私が下がれと言ったのだ。それを断るというのか?」


 怒気を孕んだその一声に、ジェリカはおずおずと引き下がる。非常に無念そうな顔をしており、何かすれば命は無いとその目が告げてくる。


「いや、我がままを言ってすまなかった。重ね重ね謝罪しよう。」


 そのまますんなりと頭を下げてくるマザールに、狼狽えることなくキリエはマザールの肩を叩いて頭を上げさせる。


「止めてください。マザールともあろうお方が、そのように頭を下げるなどあってはならない事です。・・・それにいつまでもこんなところで立ち話も大変ですので、歩きながら話しませんか?」


「そのような優しい言葉痛みいる。ここで断る理由もない、言葉に従おう。」


 歩き出したキリエの隣を歩幅を合わせて歩き出す。その後ろをロウとジェリカが並んで歩くという、前と後ろでは真逆の空気が流れる中、キリエとマザールはその事を気に留めずに話しだした。


「しかし、驚きました。まさかあのマザール様が、あんな場所で待っているなんて思いもよりませんでしたよ。」


「ははは、それはそうでしょう。運営の方へと少し無理を言いましてね、あなた方をこの通路につなげるようにお願いしたのですよ。」


「その話ですと、この通路は特別なものなのですか?」


「ま、特別と言えば特別ですな。上層に部屋を持つ限られた常連しかこの通路を通ることは出来ない、単純にそのような通路なのですよ。このような場所であれば、私に勝利したあなた方と思う存分会うことが出来ると思いましてね。」


「勝利したとは、ずいぶんなことを仰るのですね。見逃した、の間違いではないのですか?」


 表情は親友に向けるような笑顔であるにも関わらず、返す言葉は鋭い。そんなキリエの物言いに特に言い返すわけでもなく、ただ静かに頷いただけだった。


「これは予想でしかないのですが、マザールさんは最後まだ余裕があったのでは? そうでなくては、私が限界額を誘いだされた理由が分かりません。」


「全く、油断ならない方だ。一体どこでこんな知恵を学んでこられたのか、非常に興味がありますね。」


「まさか、そのような知恵私にはありません。未熟な私はあの時、自分の事で精いっぱいで周囲のことまで気にかける余裕はありませんでした。」


「ご謙遜なさるな。言葉の端や、私相手に恐れることの無いその態度。おそらくどこぞの名家の方かと存ずるが、そこまで聞くのは失礼だ。」


 楽しそうに会話する二人を後ろで眺めるジェリカの姿が、なんとなく嬉しそうであり、そしてどことなく悔しそうな表情で眺めていることに、ロウは気づいてはいるがあえて何も言わない。


 知らないところで、いろいろ面倒なことが起きてるもんだ、と軽く考えながら前の二人の会話に耳を傾ける。


「ははは、全く持ってその通りだ。・・・こうして話していると、ますます惜しく感じてしまう。」


「と、言いますと?」


「先ほどの食事の件だよ。あなたのような女性と出会う事なんて、そうそうあることでは無い。私は長く商人として様々な相手と出会ったが、その出会いや別れに関して思うことは今まで無かったのだ。だが、今回の出会いに関しては、非常に悔しいと言わざるを得ないよ。」


「随分と高く評価されているようですが、あいにく私はそこまでの者ではありません。先ほども言いましたが、私はまだ未熟な身ですのでそのような過大評価は、あまり相応しくはありません。」


 こちらも相乗以上の評価に、キリエはほとんど素に近い素振りでマザールのその評価を否定しているが、当のマザールはそんなキリエの声は届いていないようだ。


「何を言うか。評価なんてものは、自らの後ろに勝手についてくるものだ。少なくとも、儂はあなたに対してそれ程の実力を認めている。なれば、もう少し自分に自信を持っても良いと思うのだが?」


「それは・・・・」


「どうやら、未熟という言葉は本当らしいな。だがそこも魅力のひとつとなっているところもまた、若く美しい。」


 激動の中、長い年月を生き抜いてきた者の言葉は鋭く響く。初めてのこのような場所であるために仕方ないとは思うが、どうやらキリエには裏表関係なく刺さる言葉だったらしい。


 長い通路も終わりが見えてきており、遠目に大き目なホールのような場所がうっすらと見える。


「さて、この長い通路も終わりに差し掛かっている。再びこの話を蒸し返すのは、非常にみっともないと私も思う。そこで、だ。」


 長い通路の終わり、ここに来た時と同じよな扉が二つ用意されておりそれぞれの前で、使用人と思われる複数の男性が扉の前で構えていた。


「今宵は互いに顔見世ということで、また後日会うことは出来ないだろうか。詳しいことについては、そこの使用人でも走らせて来るといい。どうかな?」


「・・最後にお恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。マザールさんのその申し出、快くお受け致します。明日、こちらの者を向かわせますので、そこでまた詳しい日取りなどをお伝えください。」


 そこまで話したところで、二人はそれぞれの扉のへと向かう。片方は見事な装飾を施されたもので、片方はどこにでもあるような扉だ。


「それでは、また。その時を楽しみにしているぞ。」


「えぇ、それではまた。」


 そうして互いに軽く目配せをすると、開かれた扉の向こうへと消えて行った。


 ◇◇◇ ◇◇◇


 マザールと別れた後、開かれていた扉をくぐった先は、陰鬱な雰囲気が漂うジメジメした石作りの場所だった。


 入ってきた扉の他に正面に扉があったので、通ろうとしたら扉の横で待機していた警備員に止められてしまった。


 どうやら、この場所で待機しておけということらしいので、二人は大人しくその場所で待つこと数分。


 正面の扉の先には、銀色のお盆を持った頭から足元まですっぽりとマントで隠されている、見るからに怪しい人の形をした何かがそこにいた。


 呼吸で上下する肩や、ゆったりとした動きからそいつが何かの生き物であることは分かるが、男か女かさえ分からない。


 真っすぐにロウたち目の前まで進んでくると、手に持った盆を差し出してきた。


「・・これに入れろってことで良いんだな?」


 確認するように話しかけると、そのマントの何かは大きく首を縦に振る。いちいち、気持ちの悪い動きをするものだなんて思いつつも、あらかじめ金貨の枚数を調整しておいた袋をその盆の上に乗せる。


「必要数量を確認しました。」


 袋の中を開けもせずにしばらく袋を眺めた後に、そう切り出した声は女のものだ。どうやって確認したのか分からないが、何か分かるからくりがあるんだろうと特に何も考えることは無かった。


 マントの女性の声に応じるかのようにして、開かれた正面の扉の向こうから誰かが歩いてくる音が聞こえてきており、いよいよ近づいてきて薄暗いこの部屋に現れた姿を見た途端、隣のキリエが息を飲んだのが分かる。


 後ろに流れた黒い髪はボサボサで所々血が付いたのか、赤くなっているところがある。それに加えて手枷や足かせならばまだしも、首輪にマスクのようなもので顔の半分が隠されてしまっているのだ。


 来ている服はボロボロで薄汚れた布を羽織っているだけ。全身にかけられた布のせいで、素肌を見ることは出来ないがちらちらと見える腕には青い痣が伺える。


「さっさと歩け。」


 その竜人を連れてきたであろう熊のような大男が、首輪につながっている鎖を強めに引くと引きずられるようにして歩き出す。だが、足かせが邪魔をしてうまく歩くことが出来ないのか、足元の鎖につまずいて転倒しそうになった。


 その瞬間全身に流していたマナを爆発させ、一息の間に距離を詰めて竜人が転びそうになるのを防ぐ。


「・・・大金出して買ったってのに、随分な扱いするじゃねぇか。なかなかいい教育をされているみたいだな。」


 右手ではその竜人を支えつつ、左手は熊のような男の手首を掴む。掴まれている男は最初こそなんてことはなさそうにしていたが、ロウが手に力を掛けた途端顔色が変化した。


「ぐっ、・・ぬぐぅ・・・。」


 手首から伝わるその痛みに顔をしかめ、振りほどこうとするがさらに握る力が強くなり、立つことさえままならなくなる。


「行きましょう。」


 キリエのその一言を聞いて、ロウの方もてにかけていた力を解くと同時に、男が落とした鎖の端を掴んで竜人の女性を抱きかかえた。


 見下す目を向けた後、歩き出したキリエの後ろを追いかける。すると、熊のような男がロウに向かって怒気を孕んだ言葉を投げてきた。


「調子乗ってんじゃねぇぞ! てめぇなんぞ、殺すのは簡単なんだからよ!」


 顔につけている仮面のせいで表情は見えないが、仮面に隠されておらず露わになっている口元は大きく歪んでいる。


「へぇ。じゃぁ、・・・・やってみろよ。」


 振り返りながら言い放ち、後ろの男をにらみつける。2m程の大男はロウの視線を受けて動くことが出来ず、その場に座り込んでしまった。


「・・ふん。」


 鼻で笑ロウにその後何も言い返すことが出来ずに、部屋を一瞥すると二人は入ってきた扉に消え、その陰鬱な場所には警備員と金貨を受け取った女性、そして熊のような大男だけが取り残された。


 彼らはのちに、同じことを口をそろえて言ったという。


「目が合った瞬間首を切り落とされて、流れる汗は血だと錯覚した。」


 この時、この世界に来て初めて『殺し屋』としての本気の殺意を見せたことは、誰も気が付かない。


 ◇◇◇ ◇◇◇


 入ってきた扉をくぐると、外に出てきていた。周囲を見渡すと、どうやらあのオークションの入り口前のようだ。持っていた刻印石で連絡を取ると、ものの数秒で目の前に行きと同じ馬車が停まる。


 どうやら要所要所を扉でつなぐことで、一種の防衛機能として成り立っているようだ。場所と場所を繋ぐ魔法の新しい使い方を学んだロウは、キリエと共に歩き出そうとすると、腕の中で震える竜人んい気が付く。


「おっと、悪い。」


 ゆっくりと下ろしてやると、その竜人はロウとキリエから少し距離をとるように離れる。重い枷は竜人の動きを抑制しているのか、二・三歩ほど下がると後ろに倒れこんでしまった。


 当然の反応だと思いながらも、これからどうしようかなんて考えているロウの隣を、キリエが何のためらいも無く竜人のへと歩み寄る。


「大丈夫? 気を付けなきゃ、この辺りは暗いんだから。」


 座る竜人の顔からマスクを剝ぎ取ると、いくつもの痣が目に入る。その事からあの場所でどんな扱いをされていたなど、考えることは容易い。


 それを間近で見たキリエは歯を食いしばると、もっていたカバンからハンカチを取り出して竜人の顔の汚れを拭きとった。さらには簡単に治癒までかけてあげた。


「帰ったらやることは大積ね、行きましょう。」


 座る竜人の手を取って立ち上がらせると、ジャラジャラと嫌な鎖の音を鳴らしながらゆっくりと歩き出した。そのまま馬車に乗ろうとしたところを、ロウが二人を制止した。


「ロウ?」


「・・・耳障りだな、それ。」


 短くそう呟くと、腰につけていたホルダーから数本の針金を取り出す。先は変な風に曲がっており、手枷にある小さな鍵穴に通して数秒後、ガチャリと音を立てて外れた。


「・・・行きましょう。まずは一緒にお風呂でも入りましょうか。」


外れた拘束具を少し見つめた後、キリエにつられて馬車に乗り込む。緑の髪の男性が座っており、ロウが入ると同時に馬車の扉が閉まると走り出した。


「そう言えば、あの拘束具は鎖だったんだな。俺の時は、なんか変な輪っかだったのに。」


「その輪っかていうのが、イマイチ分からないけど、エアを使わないのは竜人の特性のせいよ。」


「特性? なんか特別なものでもあるのか?」


「えぇ。竜人しか持ち得ない特殊な肌の性質なの。『竜の魔防壁(ドラゴン・スケイル)』と呼ばれる肌は、ありとあらゆるマナやガナを反射、吸収してしまう特性を持ってるわ。」


「なるほど。それで、あんな古典的なやつだったのか。」


思い浮かべるのはあの汚らしい拘束具。かなりの年季は入ってはいたものの、まだまだ現役で使えるほどの強度は保たれていた。


この世界に来る前に使っていた七つ道具を、こんなに早く使うハメになるとは思わなかったロウは、古典的な拘束具であったことに少し感謝する。


準備したのに使わなかった、使えなかったではそれなりに苦労して手に入れたのに、報われないなんて考えていた頃、キリエが不意に切り出した。


「あなたの名前は?」


キリエの隣に座るその竜人へと声をかけるが、返事は返ってこない。いきなり話しかけられた事に対して、肩をビクつかせて震えるだけだった。


「・・・言えない、ってよりどちらかというと分からないっぽいな。」


「それじゃ、名前をつけた方がいいのかな?」


「そうだな。いつまでも名無しのままじゃ、いろいろ面倒も多いから。」


そういった名付けのセンスが無いことを理解しているロウは、腕を組んで考えるふりをして、キリエの言葉を待つ。


そんな事に気が付かないキリエは、一人で悩んだ結果、生まれた名前は・・・


「フィオナはどうかしら?」


「言うことは無いが、確かマザールの時もそんな名前言ってたよな。なんか思い入れでもあるのか?」


「なんにも無いよ。ただ、最初に出てくる名前がそれってだけなんだけど・・・何か気になる事でもあるの?」


「何にもないならそれでいいさ。」


「あなたはどう?」


竜人は震えながらも、口を開けたり閉じたりを繰り返し、最後には小さく首を縦に振ることで、採用が決まった。


「ありがとう。宜しくね、フィオナ。」


満面の笑みを向けられて、フィオナの方はどうしていいのか分からず、ひたすら困った様な表情でロウの方へと視線を逸らす。ロウも目が合うと、ただ傾げるだけで何も言わない。


この時、一体何を思ったのかは察することは難しいが、詰めてくるキリエから逃げるように下がる事が無くなったので、悪い印象は持ってはいないようだ。


今夜の空は曇り空で、照らす月が隠れているためかかなり暗い。等間隔で並んでいる街頭の下のみが明るく、他は闇に包まれている。


静まり返った夜の街に、ガタガタという馬車の音だけが大きく鳴り響く中、住宅街を通り抜けて小さなトンネルを超えた先の道に差し掛かった頃、ロウたちの乗る馬車は爆音と共に激しく赤く燃え上がった。


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