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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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説教

 

「フェザー、調子はどうだ?」


『良すぎて困るくらいやな。そっちはどうじゃ?』


「問題ない。そろそろ出発するから、気を張ってくれ。」


 通話が終わり刻印石をしまうと、鏡に映る自分の身だしなみを確認する。


 まさかここに来てこんな格好をするとは思ってもおらず、急いで買いに行ったこの正装の服はそこそこいい値段がした。


 リウが管理している国からの旅費なので問題ないと言ってはいたが、買った服の値段を見て『ちょっと高い』との言葉をいただいたので、悪い品ではないだろう。


「ホントに大丈夫なんだよね。」


「絶対とは言い切れないのが悔しいところだな、・・・一日じゃどうしても範囲が限られる。」


「うぅ、怖いこと言わないでよ。そこは大丈夫でいいでしょ。」


 正装を着たロウが部屋を出るとそこには見事なドレスを身に纏ったキリエの姿があった。


 見たことないそのきれいなドレスを輝く目で見ているフィルをどかして、ロウはキリエに声を掛ける。


「キリエ、そろそろ向かう時間だ。今更だが、覚悟は良いな?」


「・・・大丈夫。私が自分で言いだしたんだから、今更そんな事言わないよ。それにリリアさんが渡してくれたこのローブもあるし。」


 立ち上がってくるりと一回転するその姿は見事にお姫様だ。輝く白い髪は後ろに流れ、適度に露出した肩と胸元は妖艶な雰囲気を醸し出している。


 黒いドレスの左の胸元についている赤い花が、程よいアクセントになっており芸術のような美しさだ。


 羽織るローブはリリア特製で、食事へと外に出たときにその性能の確認も終えている。


「そのローブすごいよね、近くにいる私たちでさえ一瞬認識が無くなるんだから」


「まぁ、それが目的だからな。それが無かったら今回のこれは認めてないさ。」


 今キリエが羽織っているローブは着ている存在への認識をずらす効果を持っている。


 要はこのローブを着ている限り、〈帝都 ストロガノン〉の〈姫君 キリエ・リュード〉であると分からないのだ。


 これは下のレストランまで食事に行ったときに確認ができており、リウが隣に座ったキリエの姿を認識できず一人慌てるというちょっとした事件も起きていた。


 これを作るためにリリアは四六時中そのローブを身に着けて、五日かけてようやく完成した一品で着ているキリエよりもそのローブが汚れることを気にしていたほどだ。


「私の方は準備できたよ、ロウ。」


「よし、それじゃ行こうか。頼むぞ、いてくれよマザール。」


 暗い外に足を踏み出して目的の場所に向かう。何故こうなったのかは、前日の夜。センジュと一対一で話した時間まで巻き戻る。


  ◆◆◆ ◆◆◆


「マザールというやつに一度会ってみたいんだが、どこで会える?」


「・・・あんまり気が乗らんのぉ、ホントに会うのか?」


「ナイフの件がある。手がかりはこいつだけだから、会わなきゃ先に繋がらん。」


「・・・うぅむ。」


 渋い顔になって腕を組んで沈黙している姿は、知らないではなくただ言いたくないという様子で、それからしばらくその沈黙が続いてセンジュが先に折れた。


「・・・明日の夜、とあるパーティーが開かれる。」


「パーティー? それに明日! 早いのは結構だが、いきなりだな。」


「マザールはこの国にいるなら、確実にそのパーティーに出席しているのじゃが、・・・そのパーティーが曲者での。」


「えらく勿体ぶるな、ただのパーティーじゃないのか?」


「・・・オークションなんじゃよ」


 金持ちの道楽によくある物だと思うが、それだけだったらあそこまで渋る理由が分からない。


 ただのオークションならすぐに話せば良いのにと、思考を回したとき一つの考えが頭に浮かぶ。


「まさか・・・魔族の?」


「そう、動物や魔族、大人から子供までを販売する、『黄金の鹿ネアリウス・ワインド』と呼ばれるクソッタレなパーティーなんじゃよ」


「・・・何処の世界にもクズはいるもんなんだな。」


 呆れ果てた気分を吐き出すように大きくため息をつくと、目の前のセンジュも同じようにして深く息を吐く。


「もし行くならわしが手を回してやるが、・・・ホントに行くのか? 」


「それしか無いなら行くしかないな。欲しい情報がそこにしかないなら、覚悟決めるしかないだろ。」


「それもそうなんじゃがの、・・・仕方ないわい。」


 残り少なくなった飲み物を一気に飲みほして、机に金を置いて立ち上がる。


「それじゃ、俺もこの辺で消えるよ。・・その件に関しては頼むな。」


「うむ、任されよ。主も気を付けるのじゃぞ? あそこは危険な場所じゃからの。」


「・・・いやって程知ってるから大丈夫だ。」


 そうして二人は別れて、その翌日の話し合いにて。


 ◆◆◆ ◆◆◆


「・・・ということなんで、そのオークションにちょっと行ってくる。」


「一人で大丈夫?」


「問題ないよ、それよりキリエ達の方が重要だろ。」


 いつもより少し早めの朝食となった今、食後の飲み物を片手に昨晩の話をしたところだ。


 キリエが狙われてるとは言わなかったものの、条件としてはほぼ全てがあてはまる。商売関係の部分が違うところはあるが、それでもこの国にいる姫様なんてそういない。


「こちらの方は問題ないですよ、私とフェザーの二人がいるんですから。それよりロウですよ、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫だって言ってるだろ、心配しすぎだ。こういったパーティーには何度か行ったかとがあるから、そうそうドジは踏まないよ。」


「でも・・・」


 キリエの言葉を遮るようにロウの刻印石が震え出す。石の表面には連絡してきている相手の名前が表示されており、今まさにその話をしていた最中だ。


「流石に早いな。・・・・・・」


 刻印石を持って立ち上がり、一人離れた場所で受け答えする。


「しかし、妙なことになったの。」


「ホントですよ。マザールと会う可能性は考えてはいましたが、まさかこんな形で会えるとは思いもよりませんでしたよ。」


「・・・会えると決まった訳じゃないんだけど、お二人さん。」


「はぁ! 聞いてないぞ、そんな条件。・・・・本気で言ってんのか?」


 突然響いたロウの叫び声に皆が一斉に視線を向けるが、ロウの方はぞの視線に気が付いていないのか電話の相手、センジュとの会話に耳を傾けている。


「・・・分かった。なんか考える、ありがとな。・・じゃぁ。」


 話しが終わったようで椅子についたロウは、先ほどとはうって変わって頭が痛そうに頭を抱えた。


「センジュさんは何て?」


「・・・条件だ。」


「条件?」


「そうだよな、普通に考えりゃ何かしらの招待状はあるんだもんな。」


「?」


 一人で頭を抱えるロウに周囲は理解できない。そんな空気を察してか、ロウはその空気に答えるように口を開く。


「オークションに入るためには、ある条件を満たさなきゃいけないそうだ。」


「それが招待状ってやつなの?」


「招待状ってより資格だな。その条件を満たして初めて、パーティーに参加できるんだ。」


「へぇ、それで? その条件は何なんですか?」


「・・・男女一組での参加だと。」


 そんな事? と考えている面々の中で、ロウと同じように頭を抱えたのはフェザーだ。


「・・・そうゆう事か。そりゃぁ難儀じゃな。」


「何が難儀なんです? リウと一緒に行けばすむ話なんじゃないですか?」


「リウ嬢にゃ、おそらくここにいて欲しいって考えなんじゃろ?」


「・・・そうだ。リウにはもしもの時に備えて、外と内の情報の整理を任せるつもりなんだ。この中で一番情報の整頓力と知識を併せ持ってるのは、リウしかいないからな。」


 いきなりの誉め言葉に居心地が悪いのか、満更でもない顔で一人もじもじしているリウをよそに話は続く。


「・・いきなりの誉め言葉にちょっと恥ずかしいんですけど・・・」


「リウそれしか出来なさそうだからね。」


「・・・フィルって実は私のこと嫌いなんじゃない?」


「そんなことないよ、大好きに決まってるじゃん!」


 悪意のない顔で吐く毒はザクリと刺さりはするものの、年相応の笑顔で何故だか許せてしまうようで何とも言えずに悔しい声を上げている。


「そんな考えを持っていたんですか。それじゃ、打つ手なしになっちゃいましたね。」


「あぁ、求める物が目の前にあるのに手が届かないとは。・・悔しいことこの上ない。」


 まるでお通夜のような沈んだ雰囲気が流れ、騒いでいた二人も静かになる。何か打つ手は無いかと考えていると、不意にキリエが話しだす。


「・・・それ、私じゃダメですか?」


「ちょっ! 何言ってるんですか、キリエ様! ダメに決まってるじゃないですか!」


「このオークションに行くことで新しい情報が手に入るかもしれないんでしょ? リウはここで役割があるし、フィルは幼すぎる。だとしたら残りは私だけじゃない。」


「いや、そうかもしれないですけど危険すぎます。」


 折れそうにないキリエを説得しようと、フェザーも口を挟んで静止にかかる。


「そうじゃ。あんたが狙われとるかもしれんというに、そんな場所に送り込むことなぞできる訳ないじゃろ。」


「中に入ればロウが守ってくれますよ。そうでしょ、ロウ?」


「あぁ、そうだが・・・待て待て、本気で言ってんのか?」


「私がこんなことを冗談で言うと思っているんですか? 」


 フェザーやリウの視線を押し返すほどの視線には、強い覚悟が宿っているのがヒシヒシ伝わってくる。


「そう言いたいわけじゃないが、危険な場所だって言うのは分かるだろ?」


「でも目の前に新しい情報が手に入る可能性があるならば、行った方が良い。求める物があるならばそれに見合った代償を払うのは当然のこと。」


「だとしても、代償に見合った情報が得られるとは限らない。払い損の可能性もある訳だ。」


「でも益につながる可能性もあるんでしょ? 結果は最後にならないと分からないのに、そんなことを話し合ったところで意味は無いのは当たり前のことじゃない。」


 ぐぅの音も出ないその返しにただ黙るしかない。


「ロウには言ったよね。一度でもあの怖さを知ってしまったら、今までと同じように後ろで守られるだけなんて出来ないって。私にできることはしていきたいって思うから、だから・・・」


「俺はあの時焦るなと言ったはずだ。」


「・・・・う。」


 声のトーンが変わったロウの言葉に次の句が出てこない。ここまで話してきたキリエの勢いが止められた。


「こっちの世界を知って多くを学んだんだろう。それは素晴らしいことだと思うし、尊敬に値するところでもある。大抵はその重さに耐えきれず、目を背ける奴が大半だからな」


「じゃぁ・・・」


「けれどな、キリエの今の思考は新しい世界を知って、興奮している子供と同じだと分かっているのか?」


「そんなつもりは無い! 私にできることをしていきたいって思っただけじゃない!」


「それが子供だと言ってるんだ!」


 机を叩いて立ち上がるキリエを上回る声を上げて制する。


「新しい世界を知って何もできない自分が嫌だった、だから私にできることを始めた。裏を返せば、それは興味を持ったから何かしたくなった。そうゆう風に聞こえる・・・いや、聞こえたんだ。」


「違う・・違う! そんな事思ってない!」


「理由も目的もできてる。じゃぁ何でそんな風に聞こえるか、分かるか?」


 椅子に座りなおして半分泣いているキリエに優しく話しかけるロウは静かにそう問いかけた。


「・・・そんなの、知らないよ。」


「軽いんだ、言葉の一つ一つが。自己防衛で目を逸らすのが普通だっていうのに、無邪気に話してくる奴の何を聞けばいい?」


「・・・・・。」


「これは警告だ、興味本位で近づくと火傷だけじゃ終わらない。それを踏まえたうえで、もう一回考え直せ。・・・リリア、来てくれ。」


 立ち上がったリリアはロウの後に続いて玄関から出て行き、後に残された重い空気に潰されそうになる中で、扉の閉まる音が聞こえるとそのまま部屋に戻っていってしまった。


「・・・儂も言えた義理じゃないが、不器用すぎるじゃろ。」


 重い雰囲気の中で、フェザーは立ち上がりキリエの後を追って部屋に向かう。


「フェザーさん?」


「仕方ない、役割を果たすか。リウ嬢はそこでフィルを見ててくれ。」


 そう言葉を言い残してそのまま歩いて出て行ってしまい、重い雰囲気の中で静かになったフィルとリウがその場に取り残されて、互いに首をかしげるばかりだった。



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