協力体勢
「保留じゃと? あいまいな答えじゃのう、入れるか入れないかで言えんのか?」
「言えるわけないだろ、俺はあんたと初対面だぞ。そんな奴簡単に認められる訳ない。」
「初対面ではないじゃろう、これで二度目じゃ。」
「大して変わんねぇよ!」
一行に引き下がらないセンジュは隣で腕を組んで、その場を静観しているフェザーも巻き込む。
「フェザー、お主からも言ってくれんか。こやつ儂のこと一向に信用しようとはせんのじゃ!」
「副将の仰られたいことは分かりますが、私はロウの気持ちも分からんでは無いのです。」
「・・・ほう、お主までそういうのか。どうやら謎について先に触れているようじゃの。・・・あぁ、儂も知りたい!」
宙に浮く座布団の上で身をよじらせながら、くるくると回っている昔の上司の様子を見て息を吐くと、ロウの方に困った視線を向けてきた。
「ロウ、認める気は無いのか? こんなんじゃが、実績は相当じゃぞ。」
「そんなの見てりゃ分かる。前回と今回とで俺は二度背後をとられてるし、いなくなる時も追えなかったからな。」
「なんじゃ、思ったより高評価じゃないか。だとしたら、信用が足りないと?」
以外にも高評価のロウの言葉を聞いて回るのを止めたセンジュも、その話題に耳を傾ける。
少なくともこの爺さんの実力は疑うことなく一流のものだろう。二度の出会いとフェザーとのつながりで、この爺さんはロウと同じ裏の世界を知っている怪物であることは分かっている。
フェザーの事は信用しているがセンジュは別で、味方にいれば心強いのは分かるのだが信頼できるものかどうかは別の話だ。
「そうだ、この爺さんが味方であればありがたい。」
「目的も儂のことも話したじゃろ。まだ足りんというのか?」
「そうだな、センジュの目的も人隣も聞いたのは間違いない。けれどそれを信用するかどうかは別の話だ。」
「・・・ふむ。」
「だから俺があんたに提案するのは仲間ではなく、『協力』だ。」
先程からうるさく叫んでいた声は止まり、今はロウの話を真剣に聞いており大きな眼鏡の向こうに見える目はあの時のマンジュと同じ目だ。
「協力、かの?」
「センジュがいう目的と俺の目的はほとんど、というよりほぼ重なっている。手を組んだ方が効率的だとは俺も思うけど、あんたのことを信用しきれない俺がいる。」
「そこで妥協案の協力というわけか。互いの目的を達成するために手を取り合う、しかし一線を越えることの無い間柄、といったところかの?」
「大体そんなところだ。センジュも知っている通り、俺たちはすでに『謎』とやらに関わっているからな。簡単に入れることは出来ないんだ。・・・例外はあったけど。」
ロウの言葉を最後まで聞くと、ゆっくりと自分のひげをなで始める。ふむ、・・ふむ、と小さく声を漏らしながら頭の中では激しく思考を巡らしているのだろう。
「・・・仲間の方が何かと良いとしてもか?」
「良いとしてもだ。・・・そうなるかどうか分からないが、もし俺があんたのことを信用したらその時は俺の方からお願いするさ。」
「・・・ふむ。・・・・妥協案としては、まぁ良いほうか。」
座布団ごと再び浮き上がってきたセンジュは小さな手をロウへと向ける。しわしわなその手には、いくつもの傷があり歴戦の戦士であることを告げていた。
「改めて、儂はセンジュじゃ。〈ウェン・リュ・センジュ〉。・・・これからよろしく頼むぞい。」
「〈ロウ・ガーウェン〉だ、早く俺から信用を勝ち取ってくれよ。・・・フェザーもこれで納得してくれ。」
「納得するも何も儂は何もありゃぁせん。儂らの立場もちゃんと知っとるからの。」
握手をしあったところで、ロウは本来の目的ナイフについての話に移り始めた。
◇◇◇ ◇◇◇
「ただのナイフにしか見えんが?」
「やっぱりただのナイフにしか見えないのか、一応そう言われたんだけど信じられなくて。」
「あの国王に一枚食わされたんじゃないのか? どう見ても普通のナイフじゃから。」
「・・・何か自信無くなってきた。あの時使ってたのって違うのか、いやでも騎士団のナイフはこんなんじゃなかったしなぁ。」
今は暗い道から移動して、居酒屋が立ち並ぶ場所へと移動して話している最中だ。
見せたナイフはやっぱりただのナイフにしか見えないようで、いろいろな角度から見てはいるものの表情は暗いままだ。
「ロウの見間違いじゃろ。そんなに普通だって言われたんなら、そうとしか考えられんじゃろう。」
「けどなぁ、・・」
「ん? 何じゃ、いま・・・・」
ナイフを見つめるセンジュが掲げてナイフを見た瞬間、何かに気づいたように声を上げると、二人も一斉にそちらに振り返る。
「どうした? 何か分かったのか?」
「・・・墨と紙、持ってきてくれんか」
「紙と墨? いったい何するつもりだ?」
「いいから持ってこんか。」
ナイフの柄を見つめたままそう話すセンジュの言う通り、紙と墨と肉は今いる店の店主に相談した結果、気前よく渡してもらえた。
「・・・持ってきたけど、どうするんだ?」
平たい器に入った墨をナイフの柄に全部ぶっかける。キラキラと光っていたナイフの柄は済みに汚れて輝きを失った。
その汚れたナイフの柄にもらってきた紙で包むようにして巻く。そんなことしても柄の汚れが付くだけで、意味がないじゃないか。
と思った矢先だった。
「なっ!」
「なんじゃぁ、そりゃぁ!」
剥がした紙はナイフの柄の汚れが付くだけだと思っていたが、その汚れの付き方が異常だった。
柄についた滴る墨が映された紙に文字として書かれていたのだ。
「なるほどのぉ、薄くついていた魔法陣はコレのことか。・・・じゃが、何じゃこれ。見たことない文字じゃが・・・」
「・・・『まだ円卓の存在を知られるわけにはいかない、始末せよ。』」
「ロウ、読めるのか!」
驚きの顔を示す二人はロウの方へと顔を向けるが、それを読んでいるロウの方も驚きを隠せない。
「『王の降臨は近い、時期がくればモードレッドより通達する マーリン~ガラハッド』」
「・・・終わりか? これで全部かの?」
「あぁ、書かれてることはこれで全部だが・・・・この文字だけ読めない。」
ロウが指した先にある物はガラハッドの名前の下、穴の開いた円を囲うように八つの点が付いており、空いた穴には剣が刺さっているように見える。
紋章の様に見えるそれだけが全く分からない。
「儂らも読めん。だとしたら、これは文字ではない可能性がある。」
「てぇ事は何ですかい、これなんかの絵かなんかやと?」
「少なくともこの絵が次につながる物になるのは間違いないな。」
読み解けた文章の内容はあの時実行したガラハッドのものと分かる。連絡をこんな手段で行っていたことに驚くが、一番頭の中に浮かび上がっているのはある人物の名前。
「・・・・モードレットか。」
「知り合いかの?」
「いや、全く。大昔に生きたとされる人物の名前だから、それしか知らないんだ。」
「その名を語っているということか、・・・分からんことは多いが、ロウがこの文字を読めたことも儂からしたらなかなか不思議なんじゃがな。」
目を細めてロウを見つめる目に、フェザーとロウは何を言っているのか分からず、一拍の間を開けてから気が付いた。
「・・・そうか、俺が人間だってこと知らないのか。」
「なに!?」
「一応、この世界の区分で言ったら俺は人間に該当する。まぁ、実を食ってからはそんな風に言われるのはあんまり無かったことだからな。」
「・・・・・・・・。」
しれっと話された衝撃の内容を深く吟味するように、頷きながらロウの方をじっくりと眺めだす。
「気持ち悪いからじろじろ見てくるなよ。・・・気が散るだろ。」
「・・・そうか、お主人間じゃったか。いや全く気付かなんだ。・・それでか、道理でマンジュが・・・のぅ。」
「何を言ってんだ、さっきから。」
「律儀に約束を守るマンジュが、何故儂が協力すると言わなかったのか不思議だったのじゃが、納得いった。・・・あ奴の人間嫌いも、変わっとらんとみえる。」
何か遠いものを見るように空を見上げて懐かしそうな雰囲気を醸し出す。
話しを纏めるとマンジュは極度の人間嫌いらしく、ロウを信用しても良いのかの判断が出来きれなかったようで、センジュとの約束を全部果たさなかったようだ。
「・・なるほど、気持ちは分かるな。あれだけのことをしてきた人間が、いきなり現れて秘密を話せばそうなるな。」
「あ奴は昔からそうでな、同じ魔族でもあまり関わりたくないらしくてあんな辺境に家を構え取るんじゃよ。」
「マンジュ殿もここにおられたのですか、・・・相変わらずですね。」
「懐かしい気持ちは分かるが後にしてくれ。・・今はコッチだ。」
置かれた紙を差して、途中になった思考を辿る。
モードレットと言えばアーサー王の部下で、その伝説に終止符を打った反逆の騎士として有名だ。
「・・裏切りの騎士、逸話になぞって考えるならまだあの国に残っているってことか。」
「正直あまり考えたくはないのぉ、悍ましいわ。」
「この話が終わったら一応連絡は取る。・・・センジュ、この他に気になることは無いか?」
「かすかに張られた魔法陣以外は特に・・・。後は流通元じゃの、どこから流れたかである程度判別するじゃろうが・・・」
気まずいものをみる目でロウの視線を向けてくるが、その理由はすでに知っている。
「ナイフの流通が盛んなんだろ?」
「知っとったか、最近になって急にでな。・・あまり気は進まんが、マザールに話を聞きにくのが早いじゃろ」
「やっぱりマザール商会に辿りつくんだな。伊達にこの国一番の商会では無いってことか。」
「それもあるんじゃが、そのナイフ関連の流通を一手に担っておるのがマザールなんじゃよ。」
「・・・そう、だったんですか。そう言えばさっきあまり気は進まないと言っていましたが、あれはどうゆうことなんですか?」
初めて聞く内容に耳を傾け、不意に聞いたフェザーの質問を聞くと大きく体を机に乗り出して、周囲に聞こえないように小さな声で話しだす。
「・・あの商会、『マザール商会』は黒いうわさが絶えんのじゃよ。手痛い失敗をしたのなら、その報復をと殺し屋まで雇うこともあるそうじゃ。」
「何だそれ、性質悪すぎだろ。よくあそこまで成長できたな。」
「全くじゃ。それに加えて言うならば、今のこの国にはその雇った殺し屋が入ってきとるとの話も聞いとる。」
「進行形で進んでるんですか。その商人も可哀そうな気もするが、諦めてもらう他ないか。」
「いや、それがの?」
可哀そうに、と呟いて椅子に座りなおしたロウとフェザーに首を振りながら、二人の言葉を否定する。
「何でも今回の対象はとある国の姫様らしいんじゃよ。国の裏でゴタゴタがあったようで、そのせいで大きく損をしたのだとか。」
「・・・姫様? 取引のしっぺ返しとして狙うには獲物が大きすぎやしないか?」
「一国の姫を狙うなんて不可能じゃないですか? ゴタゴタがあったのなら、姫様の護衛も強化されとるハズじゃし」
そんなのあり得ないと鼻で笑い、飲み物に皆が手を付けるとセンジュがなんてことないように口を開く。
「何処までが嘘でほんとかは分からぬが、来とるらしいぞ。その姫様が。」
「・・・どこに?」
「この国に。」
「いつ?」
「つい最近だそうじゃ。」
たはー! とグラスに注がれた酒を一気に飲み干したセンジュは、ロウとフェザーの様子がおかしいことに気が付く。
「どうしたんじゃ、二人とも。何を固まっとるんじゃ。」
センジュの言葉にロウとフェザーは店に置かれている時計に目を向けると、フェザーは慌てて立ち上がる。
「おっといかん、そろそろ時間じゃ。儂は戻るが、ロウはどうするんじゃ?」
「俺はもう少し話してから行くよ、・・・頼むぞ。」
「なんじゃ、もう解散か? まだ話したいんじゃがの。」
「すいません、何分急ぎなものでして。時間が出来たら一杯誘わせていただきますよ。」
そう言い残して足早に帰っていった。暗い闇に溶けていくフェザーの背中を見届けると、ロウは再びセンジュとの会話に入る。
無意識のうちに抜けていた気を入れ直し、そこから一時間ほど話して二人は別れた。周囲の空気に流されて気を抜いたことを後悔しながら。




