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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第三章 交易公国 ファブログライン
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休憩

今回は話が進んでません。


タイトルの通り、『休憩』ですので許せる方のみご覧ください。

 

 鍛冶屋からの帰り道、腹の虫を鳴らしながら頭領から聞いた話を二人にする。


 実については話さずに、協力してくれるかもしれないという『亀』についてだけの説明になった。


「・・・亀? ホントにそう言われたんですか?」


「あぁ、間違いない。亀なら力になるかもしれないって、あの頭領はそう言っていたが・・・、亀か。」


「海が近いから、長く生きてる亀に聞いてみろって事ですか?」


「そんな可愛い理由だったら歓迎なんだがな」


 見上げながら話してくるフィルの頭を撫でつつ、宿泊しているホテルに着いたのは日が沈む直前だ。


 意味が分からないでいる二人とは違い、ロウの頭には『亀』の候補者が明確に一人浮かび上がっていた。


  ◇◇◇ ◇◇◇


「おかえりー。」


 出迎えるのはエプロン姿がお馴染みとなりだしている、リウだ。


 簡単な掃除と皆の食事を用意する姿は、一国の騎士には到底見えず、


『リウってホントに騎士様なの? どっかの召使いとかじゃないの?』


 というフィルの何気ない言葉に、涙を流しながら包丁を扱う姿はひどく悲し気だったのは皆が感じたことだろう。


「今日は随分と早い帰宅だね、調査諦めちゃったの?」


「・・・間違いじゃないけど、正解じゃないな。今日は少し疲れたんだ、後で話すけど予想外の連続だったから」


 扉を開けて入ってくるロウの後ろからフィルとリリアも付いてきて、部屋に入るなりフィルはリウへと突撃していった。


「ただいま、リウ!」


「お帰り」


 今回の旅で一番仲が良くなったのはこの二人だろう。子供から大人へと成長し始めているといっても、まだ甘えたい年頃なのだろう。


 数日という短い期間の中で細かく説明や説教をするリウの姿に母親の影を見ているのかもしれない。


「ロウか。なんやもう帰って来たのか、随分と早い帰還じゃな。」


「いろいろあったんですよ。・・ロウもそろそろ機嫌直して良いんじゃないですか?」


「うるせぇ! 拗ねてねぇって言ってんだろ!」


「・・・何があったんや。」


 声を荒げる姿に驚いているフェザーと合わせて男三人衆がそんな掛け合いをしている中、リウと一緒に台所に立っているキリエから声を掛けられた。


「もう、遊んでないで手を洗ってきたら? ついでにシャワーも、少し煙たいですよ。」


「場所だけに仕方無いさ、飯食ったら浴びてくるよ。」


 これも今回の旅で新しいことになるだろう。この旅の最中でやることが無くなり手持無沙汰になったキリエは、リウを師匠と仰いで料理の勉強に励みだしたのだ。


 どうやら新しい扉を開けることに成功したようで、二日という短い期間でリーリアとセシルからしごかれたロウを上回った。


 昨日の食事の殆どをキリエが作ったと聞いたときは、大きな敗北感を味わう羽目になったことは記憶に新しい。


「じゃぁ、あたしが浴びてくる。」


「ゆっくり浴びてきて良いよ、ご飯が出来るのはもう少し後だから。」


 ロウ達の間を通り抜けて部屋へと入っていく姿を見届けたロウは、フェザーへ静かに耳打ちする。


「フェザーもそろそろ体鈍りだしてるだろ、そろそろ外が恋しいころなんじゃないか?」


「それはそうじゃが・・・、急にどうしたんじゃ。」


「いや、夜少し付き合って欲しいなと。リリアは今回はお休みだ、フェザーの代わり頼んだぞ。」


「良いですよ、かなり歩き疲れたんでそろそろ休みたかったんですよ。」


 短く話し合いが終了すると、大きく背伸びをした後それぞれが動き出した。


 フェザーは窓を開けて外を眺めるという日課(?)を行い、リリアは大き目のソファーへと座って入れてもらった水に口をつけている。


「手伝うよ。」


「ロウも休めばいいのに、ここは私たちで何とかなるから。」


「早く帰ってきた時くらい手伝うさ、食べるだけってのは何とも・・な。」


 これは寮での生活の名残だ。今までは何も感じなかったが、掃除という忙しさや料理という大変さが身に染みて理解した為に、思うところが出てき始めたのだ。


「分かりました、それじゃロウは食器洗ってもらえる?」


「了解しました、お姫様。」


 鍋を見つめるキリエからの指示に従い、流し台の食器へと向かい合うと、隣で包丁を扱っているリウの食材に目がいく。


 これは改めて知ったことだが、前いた世界の食材の名前とこの世界の食材の名前が特殊な食材を除いて見事に同じなのだ。


 ニンジン、タマネギ、イモ。他にもいくつもの名前を見てきたが全てが同じで、安心した半面少し気になることでもあった。


 話は通じる、物の名前が同じ、ただ違うのは文字と世界の構成だ。文字に関してはそのままの意味で、世界の構成というのはエアという不思議な力のこと。


 マナやガナ、エアや魔法といった特殊な力で発展しているこの世界は、科学の力で発展していた前の世界とは別物の構成となっている。


 話が通じることや物の名前が同じことが密かに気になっているが、比べる対象がない以上『異世界』ってのはこんなものだ。


 と、ありがたさを感じつつそれで片付けるのが恒例となっている。


「・・・自分のこと今までにないくらい振り返れてね、」


 と、いつもの恒例行事ともいえるその思考を回していたロウの耳に、隣で食材を刻むリウが重い口調で話しかけてきた。


「思うんだ。何で私は騎士団に行こうとしたのかって、何でネル様のお願いを聞いたのかって・・ね。」


「いきなりなんだ。暗い雰囲気作るなよ、似合わないにも程があるだろ。」


 いきなりのその雰囲気を壊そうとしたロウの言葉を聞くや否や、手に持った包丁をまな板に寝そべる大根へと強く振り下ろす。


「私は料理するために入ったんじゃない!」


「・・フィルの言葉そんなに深く刺さってたのか。」


「だってそうでしょ! 私は私の家族や友達を守る力が欲しくて入団したのに、今私が守ってるのは皆のお腹の空き具合じゃない!」


「いや、感謝してるよ。リウがこんなに料理が上手いとは思わなかったけど、それのおかげでこうして皆元気なんじゃないか。」


「そうよ、それにあんまり気にしない方が良いわ。得手不得手が誰にでもあって、リウの場合はたまたまそうだってだけじゃない。」


「・・・それは私に、騎士の仕事が合ってないって言いたいんですか?」


 切り終えたダイコンをざるへと突っ込んでいるリウへ、必死にフォローしようと話すロウとキリエの言葉がちゃんと届かなかったようで、さらに深く底へと叩き落としてしまったらしい。


 後ろのリビングにいるリリアは少し笑っている姿が見えており、後で一発どつこうと心に決めた。


「いえ、そんなことが言いたいんじゃ・・・」


「いいんですよ、私には騎士なんて分不相応だったんですから。こうしている方が何かと役に立ててますし。」


 フフフと暗く笑いながら涙を流しているのは悲しいからか、それとも再び包丁を振るう相手、タマネギのせいなのかは分からない。


「・・・ダメだな、末期症状だ。」


 通常と明らかに違うその姿に半ば諦め始めたロウとは反対に、キリエはオタマを持って慌てている。


 これは時間に任せようと、蛇口をひねって残り僅かの食器へと取り掛かった。


「何で諦めてるの、がんばってよ!」


「これは無理だろ、何言っても無駄だと思うぞ?」


 時間に任せようとロウはキリエにそう話すが、キリエの方はどうにかして立ち直って欲しいようだ。


 けれど今のリウには何を言ってもマイナスにしか働かず、言うだけ無駄どころか叩き落とす行為へと直結してしまう。


 その事は理解しているようで先程から口が開いてはすぐに閉じてしまっている。


「ふいー、サッパリした。・・・どうしたの?」


 頬がほんのりと赤く上気しているフィルが、台所の異様な雰囲気を感じて話しかけてきた。


「いや、ちょっと自分が騎士である事があやふやになってるみたいでな。少し拗ねてるところだ。」


「なんで? リウは凄く騎士様っぽいと思うよ?」


 動かしていた包丁の手がビタリと止まる。


 顔は向けてないが、耳はしっかりとフィルの方へと向いており、頭の上にある二つの耳がピョコピョコと忙しない。


 それをチャンスと見たロウはここぞとばかりにフィルにその先を促した。


「だろ? それが分かってないみたいだから、言ってやってくれ。」


「そうなの? いろんなこと知ってたりすごく優しいし、でもやっぱり一番は師匠と真面目に話している時の顔がかっこいいから、きっとすごい騎士様なんだなって思うよ。」


「ほら見ろ、自分が思ってる評価なんてそんなもんだ。心から話してくれた少女の言葉を、ないがしろにするような奴じゃないってのはみんな知ってるよ。」


 肩に置いた手にはかすかな震えが伝わってきており、そのすぐ後には声を上げて泣き出した。座っているリウをあやす様に、フィルが優しく頭をなでている。


 一件落着の雰囲気に安堵の息が漏れ聞こえてくることと同じくして、台所に焦げ臭いにおいが充満し始めた。


「・・ん? 何だ、このにおい。」


「焦げたような・・・あっ!」


 慌てて振り返るキリエが向かう先を見ると鍋から黒い泡が吹きこぼれていて、焦げたにおいの元は明らかにそれだった。


 火を止めて中を見るがそれはどう頑張っても手の施しようが無く、ただ見つめることしかできない。


「あちゃぁ、・・・やっちゃった。」


「すごいな、これ食い物だったんだろ? どう見ても墨にしか見えないぞ。」


 鍋の中に張り付いた黒い焦げは、洗えば取れるようなものではないように感じる。


 せっかく道中でのキャンプ用で持ってきた鍋がこんなところで使い物にならなくなるなんて思わなかったが、ここには騎士の肩書きを持つスーパーメイドがいるので、


「これくらいなら何とかなる、と思う。」


 キリエの叫び声とロウの残念な声に反応して見に来たリウが告げた一言だ。


 頼りになるその一言を発したリウに言おうと思った言葉を辛うじて飲み込んだが、


「さすがリウ! こうゆう時だけ・・頼りになるね!」


「もういい、私は何もしない! うわああぁぁあん!」


 悪意のないフィルの二本目の言葉がリウに刺さり、再び先ほどと同じようにして泣き出した。


 さすがに二度目になるとその場には薄く笑いがこぼれ、同じ様にフィルに慰められている姿は仲のいい姉妹のようだ。


「仕方ないな。・・・・リリア、『あれ』できてるか?」


「もう少し待って、後確認だけですので。・・・・よし、出来ました。」


 台所から見えるリビングに座っていたリリアが立ち上がると、今までずっと身に着けていたローブを脱いでロウに渡し、受け取ったロウはシュロロの刻印石でそのローブを確認している。


「ロウ?」


 疑問に思ったキリエがロウに声を掛けると、手に持ったローブを放り投げてキリエに頭からかぶさる。


「何なんですか、これ?」


「着たら分かる。・・それじゃ、飯でも食べに行こうか。」


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