進まぬ調査
「・・・ただのナイフにしか見えないが、これがどうかしたのかい?」
「やっぱりただのナイフにしか見えませんか。親から特別な物だと譲り受けたのですが、いったい何が特別なのか分からなくて。」
「なるほど、その特別を知りたいと。けど、すまねぇな。俺じゃ力になれそうに無い。」
「いえ、突然来た私たちも悪いのです。すいませんでした、失礼します。」
この店は港の近くにある武器屋だ。売っている物は刀剣や鎧、包丁などもここで売られている。
対象は兵士や騎士団相手に販売することがほとんどだそうで、他には商人専属の護衛が買っていくことがたまにある程度らしい。
基本はリリアに話をさせ、後ろに護衛役としてロウが付いている設定になっている。
というのも二ニル曰く、ロウはどう見ても商売人には見えないらしく、怪しまれずに話をするならばリリアの方が良いとのこと。
時間も朝から初めて今は昼。太陽も空高く登ったころで、少し歩いた先にある喫茶店のような店に入って聞いた話を整理する。が、
「・・・・・・。」
誰も口を開こうとしない。フィルは歩き疲れたようで机に突っ伏しており、その向かいに座るリリアは出された飲み物を飲んでいる。
「・・・これが厳選した結果か?」
「いや、その・・なんと言いますか。予想外と言いますか・・・」
朝早くから合流し、二ニルが昨日の夜から厳選してまとめ上げた人や店、合計十七か所を回った。
回った店は武器に関する店がほとんどで、たまに流通関連を仕事にしている店にも聞いたが、訪れた先ではほとんど同じ会話が行われたのだ。
これからどうするかの予定も思いつかず、休憩していると二ニルがいきなり立ち上がる。
「・・・もう少し調べてきます。ロウ殿達はここで休んでいてください!」
「おい、待てって!」
呼び止める声も聞かず、二ニルはそのまま走って出て行ってしまった。
ロウたちが今いるのは二階のテラスで外の様子がよく見える。下の出口から雑踏の中へと消える二ニルの後姿を眺めることしかできず、三人は取り残されてしまった。
「ロウ、攻めすぎですよ。」
「そんな訳ないだろう。」
「あの流れは、明らかに調べに行けと目で告げていたように思いましたが?」
「それこそ誤解だ。これからどうするか、話したかったんだが・・・。できることが何も無くなっちまった。」
辺りにはロウ達しかいないことを確認して、懐から件のナイフを取り出す。怪しい輝きを放つそのナイフは、ぱっと見ではただのナイフにしか見えない。
最初はロウも怪しんでこのナイフをよく観察してみたが特に変わったところも無いが、あの瓦礫や衝撃を受けて無傷と聞いては到底『ただの』ナイフとは思えない。
「・・・ホントにあの時のものなんですか? なんだか嘘っぽくなってきたんですけど。」
「言うなって、自信無くなるだろ。あの時のナイフだと思うんだけど・・・」
「師匠、それほんとにただのナイフだったりして。」
「フィルまでそう言うか。」
「・・・ちょっと、貸してもらっても?」
手を伸ばしてきたリリアにそのナイフを手渡す。交渉の際に何度も見たそのナイフを改めて見つめていて、手でいろんなところに触れたかと思うと机に軽く叩き付けたりした。
「あんまり振りますなよ。」
「分かってますよ、どこぞのゴミとは違いますから。」
脳裏に浮かんだのはセシルの体を奪ったガラハッドという狂人だ。リリアの体を使ってロウと対峙したときにその異常性を垣間見て、さらにはセシルの体を奪って逃走。
正直あまり思いだしたくない相手だが、セシルを取り返すためにも再びあいつと対峙しなくてはならない。
「「・・ん?」」
その言葉を発したのはほぼ同時でロウは自らの記憶から、リリアは見つめるナイフから。
二人が気づいたその違和感の正体を探ろうとさらに意識をめぐらすが、それは外部からの声で中断されることになった。
「暇そうにしとるの、主ら!」
「・・・?」
妙に舌足らずな幼い声のする方に視線を向ける。
頭にターバンのようなものを巻いており、その子供が着ている服はサイズが大きいようで、長い袖が手をすっぽりと覆ってしまっている。
首に巻いた長めのマフラーから見える首元には鱗のような模様がうっすら見えている。
「・・・何か用か?」
「ふっふっふ、暇そうにしている主らに我の護衛を命じる。光栄に思うがいい!」
「子供と遊ぶ暇はないんだ、さっさと親の所へ帰れ。」
冷たくあしらうロウの言葉に、その子供は顔を赤くして頬を膨らませる。
「むー! 何故じゃ、何故断る! 我からの直接の命令なのじゃぞ、断る理由など無いではないか!」
「言ったでしょう、師匠は今忙しいのです。遊び相手なら他を当たりなさい!」
「・・・フィル、まともに相手するな。」
そう話すロウの言葉はフィルには届いておらず、その子供と言い争いが繰り広げられてしまった。
嫌な予感がゆっくりと全身を舐めまわすその感覚に、隣のリリアに視線を向けると、面白そうなものを見る楽しそうな表情をしてはいるが、ロウと同じで嫌な予感も感じているようですこし暗い。
「ふん! もうよい、どうせ大したことない実力じゃろう! そんな奴に命じた我が馬鹿じゃった!」
「何を言っているの! そんな訳ないじゃない、師匠は誰にも負けない最強の師匠なんだから!」
終わった
言い争いを眺める二人が同時に思った、いや思ってしまった。
「その証を見せてもらわねばな。そんな口だけの相手のことなぞ、信用できんわ!」
「良いでしょう、それならばその証を見せようじゃない! ね、師匠!」
「ね、じゃないだろう。何言ってんだフィル。今遊ぶ時間は無いこと知ってるだろう。」
「・・・もし、じゃ」
フィルとロウの会話に割り込んできたその子供は、嫌みな顔を浮かべて話し始める。
「主らが求めている情報が手に入るとしたらどうじゃ?」
「あぁ?」
「しばらく様子を見ていたが、手詰まりではないのか? だとしたらここでの誘いを断ることに、主らは損することはあれど得することは無かろうて。」
「・・・お前、ただのガキじゃないな? 何者だ?」
「そこは主が認めれば教えてやらんことも無い。・・・どうじゃ?」
見た目はフィルと同じくらいの年齢に思うが、持っている図太さが尋常じゃない。
相手にカマかける度胸も機転も、明らかにかなりの場数を踏んできた強者のレベルだ。この手合いの相手があまり得意でないロウは、ここからの切り返しが上手くできない。
「・・・トキなら上手く切り返したんだろうな」
「ん? 何じゃ?」
「・・・何でもねぇよ、ったく。分かった、お前の提案に乗ってやる。が、その条件としてお前自身のこと話してもらうぞ。」
大きく息を吐いて立ち上がり、小さく拳骨を落として痛がるフィルを通り過ぎてその子供に近付く。
「短い付き合いだろうが一応な。ロウだ、お前は?」
「フェルム・・違う、シュールだ!」
「・・・シュール、で良いんだな?」
「うむ、短い付き合いだが護衛役頼むぞ。」
「・・・また護衛か。」
そうしてその子供と握手するなり、フィルと一緒に外に向かって歩いて行ってしまう。
その後を追いかけようとロウも歩き出し、視線をリリアの方に向けると、椅子に座ったままロウに向かって手を振っている。
「お前いかないつもりじゃないよな?」
「いや、だって二ニル待たないといけませんし。」
「そんなの店員に言っとけばいいだろ。別にお前一人で楽なのが気に食わないとかじゃないからな?」
「それが本音ですよね?」
襟を掴まれて立たされると、ロウに引きづられるようにしてその店を後にした。
気づいた『何か』に再び意識が向くのは、まだ先のこと。




