再出発 前編
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すいません。
「ホントに1人で止めてんだな?」
「後は複数の村人と共にな。正面は私、裏をあいつが先頭に立って食い止めていたんだ。」
「・・・多分、大丈夫だと思うんだけどなぁ。」
トールの一撃をもって全てを焼き払う事で、あの場所での戦闘は終了した。
あの一撃はどうやら特別なものらしく、呪いも上書きすることで消したというのだが詳しいことは分からない。けれど特に問題無さそうなので、それ以上聞くことは無かった。
「そんな訳ないだろう、全滅の可能性だってあるんだぞ?」
「でも向こうにいるのはあいつだろ? そこまで気にする必要は無いと思うんだけど・・・」
「ヤケに信頼しとるのぉ、ロウ。アイツが戦っているところでも見たってのか?」
「見たっつうか、見届けたって言うか・・・」
少しボロい家が立ち並ぶ町の大通りを抜け、先程の場所と反対側に差し掛かるとまだ戦闘中のようで激しい音が聞こえてくる。その音を聞きながら駆け、曲り角を曲がった先には驚きの光景が広がっていた。
「・・・ほらな。」
「・・ん? おや、ロウ。今着いたのですか? 少し遅かったですね。」
言い放つはある男性。その顔は女とも男ともとれる中性の顔立ちで、緑の長い髪をしている。
灰色のローブを羽織っているその男性が、胸の高さまで持ち上げている右手には青白い球体が流動しており、その球体の動きに合わせて大きな水の塊が蛇のようにうねっていた。
その水の中には飲み込んだであろうウィルスの群れと、分け与えられた武器が一緒になって流れていて、うねるたびに中にいるウィルスは武器に刻まれていく。
「これでも急いだ方さ。リリアこそ何してんだよ、本気出せばこの村くらい守れんだろ?」
「いや、それは時間が悪かったのでさすがに出来ませんよ。」
「おかげで約一名の財布に大打撃だ。始まってすらいないのに、もう終わりみたいな雰囲気出してんだから。」
「それは私のせいではないでしょう、さすがに抗議しますよ?」
和やかに話す二人に対してフェザーが間に割って入る。
「・・・おい、どうゆうことや。何がどうしてこうなったんじゃ。」
「どうしたもこうしたも見ての通りさ。寮での事件の後、リリアはシュロロに弟子入りしたんだよ。俺が大丈夫って言ってたのはそうゆうことで、エアや魔法の基本は全部教えこまれているってこと。」
「私はシュロロさんに一度も土をつけることができなくて、少々凹んでいるのであまりその話はしないで欲しいのですが・・」
「なぁるほど、あの男にねぇ」
「・・お、お前等!」
予想していた光景が見事に裏切られ、真逆のこの状況に動けないでいたトールがやっと口を開くことが出来た。
「何なんだ、これは! 何でさっきこれを使わなかったんだ!」
「・・・見ての通りこれは一緒に戦っている村人の方々まで巻き込む可能性があったので、使用を控えていたんです。」
「まさか手を抜いていたというのか?」
「失敬な、私だって働いていましたよ。だからこそ裏から回るウィルスの群れを探知で来たんじゃないですか。」
ギャイギャイと言い合いをする二人を尻目に、冷静に辺りを見回していたフェザーが二人の言い争いを止める。
「落ち着け、お前等。・・・それとリリア、頭が見えたぞ。正面少し左、林の中の光差す場所じゃ。」
「光差す場所・・・・見えました。各々が話すこともあるでしょうから、とりあえず終わらせますね。」
この戦闘を終わらせることが大したことないとでも言うように、軽く言い放つと手に浮かんでいた球体を潰す。
「『畏み願い申し上げる これより創世神の半身を 使う無礼をお許しください』」
両手を地面に当てて静かに唱えるその言葉は、聞いている者の頭を激しく揺さぶってくる感覚がある。
「『種は鉄 体は剣 心は虚無へと置きざりに ただ刺し貫くことのみ思考する』」
流れるようにして放たれる詠唱に合わせて、地面から無数の様々な剣が生まれてきており鈍い輝きを放っている。
「『天上の祝福を浴び その身に纏うは破魔の加護』」
百本近い剣の数々は一斉に淡く神々しい輝きを放ちだす。
「『穿つ相手は怨敵なり 構え』」
詠唱は終わったようで片手を掲げると下を向いていた剣先は、全てが同時に標的であるもう一匹のルルッス・ウィルスの方へと向く。
「『刺し貫け』」
振り下ろした手の動きに合わせて一斉に生み出された剣が襲い掛かる。
正面から、上から、後ろから。四方八方から差し迫る剣を前に人型の標的は動く間もなく串刺しにされ、刺さった剣は大樹のような形となって動きが止まる。
全ての剣が刺さると剣の大樹は激しい音と共に土へと帰る。辺りには銀色の欠片が舞い散り、差し込む朝日を反射して幻想的な景色を作り出した。
「・・さて、これで存分に話が出来ますね」
振り返るリリアは明るい声で言い放った。
◇◇◇ ◇◇◇
その後はリリアを中心に、ネルの部隊が到着するまでの安全策として村に守護の結界を張った。急ぎで作った為にそこまでの強度は無いらしいが、部隊の到着までは持つそうだ。
「ロウ! 話は聞きました、着いていきなりのようで。ありがとうございます。」
「礼なんか要らないよ。それよりキリエの方はどうだ? 怪我とかは・・・」
「ありませんよ、トールさん達が防いでくれたおかげでね」
首を横に振って答えるキリエの頭には白い三角巾を被っている。
所々赤く血が付いているエプロンを身につけており、これではまるで・・・
「なぁ、まさかここで手当でもしてたのか?」
「今の私にはこれしか出来ないから。」
キリエはこの村の代名詞とも言える協会の中におり、怪我人や非戦闘員がここに集まっている。
いきなりの襲撃ということもあって結構な人数が運ばれた痕跡があるが、今は大分少なく感じる。
「もしかしてあの襲われた時、こんなこと出来たのか?」
「いいえ。あの時ただ守られているだけの自分が嫌になって、治癒のエアを教えてもらったの。どうやらその才能はあったみたいで、今は結構使いこなしてるわ。」
明るく話すキリエは、自分が学んだ事がさっそく使われてることに安堵の息を漏らす。
「・・・私、知らなかった。前に出て戦っているあなた達があれほど怖い思いをしてるなんて。後ろで守られる事しか知らなかった私が凄く・・・嫌になった。」
最後はか細い声で呟かれたためにしっかりと聞き取れなかった。
「それに気付いて、行動出来てんだから充分だ。あの場所を知ったばかりなんだから、あんまり無茶すんなよ?」
俯くキリエの頭に手を乗せると、満更でも無いような態度を見せる。
残りどれだけやる事があるのかと見回すと、ほとんど手当が終わっており後は部隊の到着を待つだけのようだ。
「どうやらもう終わりみたいだな、キリエもそろそろ着替えてこいよ。出発するぞ。」
「随分と早い出発なんですね、少しゆっくりしてったら良いのに。」
「そうしたいのは山々だけど、生憎と急ぐ理由が出来たんでね。ゆっくりするのは目的の中継地点についてからだ。」
「・・・私のこと忘れてないですよね?」
二人の会話で終わろうとしていた所に、キリエの後ろから歩いてきたのは猫耳少女リウだ。
「忘れてないって。ただ意識の外に出てただけだから」
「それ忘れてるって言うんですけど!」
「そう言わずに、身仕度整えてこい。俺は向こうで馬車の準備してるから。」
特に言うこともなく、ロウはそのまま外へ馬車の準備へと行ってしまった。
「・・・何このモヤモヤする気持ち、凄く不愉快なんだけど。」
「ごめんなさい、リウさん。そんなつもりは無かったんだけど・・・」
「あぁ、違うんです! キリエ様じゃないんですよ、ホントですって!」
ロウがいなくなった後、落ち込んだキリエを慌ててフォローする。
この場に居ない、原因を作った男に心の中で復讐の炎が燃え上がる。バカヤローと、聞こえぬ声で叫ぶとキリエの背中を押して、支度をする為に行動を開始した。
◇◇◇ ◇◇◇
「しかし、ロウも分からんことするよなぁ。」
「何が?」
「リリアのことだよ。まさか引き入れるとは考えもしなかったからなぁ、その理由は?」
「それは私も興味がありますね。助けてもらった身として言うのも失礼ですが、本来私はあのまま牢屋で幽閉されるはずでしょう。それなのにシュロロさんを説得して、私を出したことに何の得が?」
馬車の内部の整理と馬の世話をしている時、フェザーが漏らした疑問にリリアが乗っかる。
その事は誰しもが思うことで、この説明はシュロロとクロエの説得のときに話したことを含めれば3回目だ。
「・・・戦力と可能性の二つが理由だ。戦力に関してはさっきのことで実力が分かっただろ? 神将や准将みたく名が広く知られていない実力者は、今置かれてる状況からしたら非常にありがたい。」
「と言いますと?」
「『あいつ』が使っていたあの機械はそんなに大量に作ることが出来なかったらしいんだ。途中から材料が不足したうえに、ほとんどが回収されたみたいだから。残り少ないあの機械を使って世界を巻き込む戦争を引き起こそうって思うなら、その機械を使う相手は絞られてくる。」
「なるほどなぁ、知れ渡った名前を持つ奴が『あいつら』の可能性があるってことか。・・これが可能性ってやつか?」
馬車というが中身は寝泊まりが出来る造りになっており、一般的な馬車というよりキャンピングカーという方がしっくりくる。
その馬車の掃除が終わり、降りてきたリリアが馬の世話をしていたロウとフェザーの元へと向かってくる。
「いや、それは違うでしょう。戦力という理由から派生された可能性なので、ロウが上げた可能性とはまた別なのでは?」
世話の作業もひと段落が付き、リリアが持ってきた水の入っているコップを受け取ると馬小屋の柱にもたれかかる。
「期待してるとこ悪いけど、そんな大したものじゃない。・・・可能性といっても非常に薄いものだからな。」
「じゃぁ、そんなに勿体ぶらないでさっさと話せってのに。」
「怒んなよ。・・可能性ってのはリリアを殺しに来る可能性だ。」
「私を? あのガラハッドとかいうやつに憑依されていた時の記憶はほとんどないのに?」
「今は、な。いづれ戻る可能性は無いわけじゃないだろ? 『あいつら』は記憶の断片を知られまいと行動を起こした実績がある。戻った記憶を危ぶんでリリアを殺しに来る可能性がある以上、近くに置いときたかったんだ。」
そこまで説明して受け取ったコップを傾け、話を聞いていた二人は話を自分なりに飲み込もうとしているようだ。
「・・・なるほど、そうゆうことでしたか。」
納得したようにうなづいているリリアとは反対に、フェザーはまだ疑問があるようで首をかしげている。
「理由は分かった。けどもう一つ分からんことがある。」
「何?」
言葉を返したロウの方に視線を向けず、フェザーの両目が見つめるあいてはリリアだった。
「・・・悪気があって言うことやないが、儂は正直こいつを信用しきれん。機械は破壊されたとはいっても、またああならんということの証明にはならんじゃろ。」
「そう考えるフェザーは正しい、選んで正解だった。」
「何を言うとるんじゃ、ロウ。」
「・・・もしリリアにまだ乗り移ることが出来るならば、『殺しに来る』のではなく『自殺させる』ことが一番安全なやり方だろ? もっと言えばリリアの体を乗っ取ったまま口八丁でその場を乗り切って、生き延びることもできたかもしれない。」
「・・殺しに来た実績がある以上、私の体に乗り移って事に及ぶ可能性は無いというのがロウの見解のようですね。」
自分でも気づいていたことのようで、フェザーの言葉を聞いたときは一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐにいつもの顔に戻っていた。
「じゃが、それでも・・・」
「とはいっても全面的にそう考えているわけじゃない。フェザーの言うことは間違ってないからな、だからこそ俺はその予防策をつけてもらってる。」
「予防策?」
「リリア、あれ見せてくれ」
語り掛けたロウの言葉に答えるようにして右手を上げると、その手首には何やらバングルのようなものが装着されていた。
「何じゃそれ?」
「シュロロ考案の『予防策』だ。もし、体の中に流れるマナの流れや質にわずかでも異常があれば即座に拘束する力をもっているらしい。」
「おまけにロウかシュロロさんじゃないと外せないみたいで、私も触りましたがびくともしませんでした。」
「・・・信用するしないはフェザーに任せるから、一考してみてくれ」
リリアのバングルを物珍し気に見つめるフェザーに、話しはこれで終わりだと告げてコップの中に入っていた水を一気に飲み干す。
今いる場所は村の出口付近にある木造の馬小屋だ。ロウが乗っていた馬は小屋の中に入るのが嫌らしく、暴れたために小屋の外で干し草を食べている。
話しも終わリウとキリエの所へ向かおうとした時だった。村の中の方から一人の少女が走ってくるなり、ロウの前で頭を下げて耳を疑う言葉を告げる。
「わたしを弟子にしてください!」




