到着
「全員前へ出すぎるな! 林から一定の距離を開けて、襲ってきた時だけ反撃しろ!」
朝日が顔を覗かせてあたりが明るく照らされ始めた頃、普段ならばまだ寝ている者も多いだろうが、今に限ってはそんな奴はいない。
向かってきたウィルスを蹴り返して距離をとり、後方に声を掛ける。
「リウ! 状況はどうなってる!」
「在庫はあるけどそれを扱う人材が足りない! 後方からも襲ってきているみたいで、今は前線の維持が精いっぱい!」
ある程度分かっていた報告にトールは舌打ちする。町とはいうものの大きさ的には小さな村程度しかなく、動ける人の数も限られてる為にいまいち自由に動くこともできない。
後方からの襲撃に関してはロウが指名した一人が少ない数の村人を引きつれて対応している。
トールの方は攻勢に転じようにもここを離れれば、この場所の防衛が崩れてしまうので釘付けにされている状況だ。
「・・・クソ、どこにいる。」
この状況を打開するために大本である頭、『ルルッス・ウィルス』を探しているが姿かたちも見当たらない。
一瞬だけ瞬く光の線を残しながら、襲い掛かってくるウィルスたちを殲滅する。
手に持つ武器はいつも使っている武器とは違い、粗末な刀剣だ。分かってはいるのだがいつもと同じように振るってしまうせいで、簡単に砕けてしまう。
「またか・・・。」
「トール!」
砕けた刀剣を睨むと慌てたように叫ぶ声が聞こえてきて、振り返った先には複数のウィルスがトールの防衛線を突破し、村の中へ入らないように張っているバリケードに飛びついているウィルスの姿がそこにあった。
「しまった!」
一瞬でリウのもとまで武器を取りに戻り、侵入を許した数匹のもとまで駆け寄ろうとした時だった。
「グルルラアァァアア!」
大きな雄たけびが聞こえると、潜んでいたであろう複数のウィルスが飛び出してきたのだ。
完全に不意を突かれた形になって、トールと一緒に戦っていた者たちは次々に襲われていき、戦況は一気に崩れだして叫ぶ声と泣き声が響き渡る。
「離れろ!」
下がることなく迎撃して、襲われている村人を救い出すが明らかに量が違う。ここを落とすわけにはいかないと、力を振るうが相手もここぞとばかりに数を投入してくるために押し返せない。
「・・・クッ!」
連続して力を振るい続けるトールには、酷使して動いた反動が訪れる。
「こんな時に・・・。」
足の力が抜けていき、その場に座り込む。荒い息は自身の体の疲れを表していて、体に重さがのしかかる。
「トール!」
「・・・?」
どうにか体を動かそうと力を入れた時、少し離れたところにで叫び声を上げたリウの視線の先に目を向けると、一匹のウィルスがトールに迫ってきていた。
普段ならば大したことの無い敵だが今は状況が悪い。重い体を起こして迎え撃とうとするが、立ち上がった瞬間再び体から力が抜ける。
「・・ぐっ。」
「ガラルルラァアア!」
襲ってきたウィルスになすすべなく押し倒され、死を覚悟した。が、
「・・・?」
のしかかるウィルスの様子がおかしい。先ほどまで動いていた体から力が抜けたような、そんな風に感じられる。
無理やりどかすと、のしかかってきたウィルスの首元に一本の矢が刺さっていた。
「・・矢? 誰が・・・」
そう考える間もなく、空から不思議な音が聞こえる。
風を切るようなその音に空を見上げるのはトールだけではないらしく、複数のウィルスもその音の方に視線を向けていた。
その音の正体は空に昇っていく小さな黒い塊のようなもので、遠くに見える為かいまいち判別がつかない。
「・・・・・?」
それが何なのか確認しようと目を細めると、それは音も無く爆発して目に刺さるほどの強い光を発して、その場にいる全員の動きを止めた。
◇◇◇ ◇◇◇
「見えた! あれか・・・・ちょっとまずそうだ。二番目の方の作戦で行こう、準備は良いな二人とも。」
「は、はい!」
「・・・くっ、渋る場合やない。たくさんの命と比べればこんなもの安いもんや。安いもんなんやから、ためらうことは無いわ・・・クソゥ。」
一人だけが悲痛な声で同意を示すと、道中フィルから聞いた話をもとに決めた作戦通りに動き始める。
「フェザー!」
「あぁ! クソ、こうなったらやけくそじゃ、ボケェ!」
袋の中から取り出した石を空に向かって投げ、その横でロウは残りの矢を抜いてタイミングを見計らう。
フェザーの膝の上で大人しくなったフィルも緊張の面持ちでその時を待つ。
ある程度近づいて様子が見えるところまでくると、襲われそうになっている一人の女性に目に入り構えた矢の一本を放つ。
のしかかる前に届いたようで、大人しくなったウィルスから目を逸らしてあたりの様子を確認した後、目をつむり馬から降りて暗い闇が視界を覆う中合図を静かに待つ。
「・・・今じゃァ!」
どの声と共に閉じた目を開き、あらかじめ受け取っていた赤い石を空に向かって投げて射ると、砕けた石の破片は飛び散り辺りを覆って柵のようなものを作り上げる。
その柵は大きなものでこの前線を覆うくらいの広さをしていて、その柵が出来上がったことを確認するとロウはもう一つ受け取っていた砂利のようなものを固まっているウィルスのもとにばらまいた。
散らばったそれは地面につくと激しい音と光を立てて、視界が潰れているウィルスを後退させた。
「お前らのせいで、儂は破産じゃボケェ!」
強烈な光で視界が潰れ、辺りを探れる音は足元にらばった砂利のせいで的確に把握することが出来ない。
フィルが持ってきた二本の剣を弓と交換して、ロウも暴れているフェザーのもとへと駆けて行って押し寄せるウィルスの群れを狩り始める。
流れるように振るわれる二本の剣と、鬼気迫る勢いの太刀の乱舞は統率の取れないウィルスの群れでは対応できなくなり、林の中へと押し返される。
「トール、大丈夫?」
「・・リウ、か? どこに・・」
ちかちかと明滅する視界にはその声の主は見えない。頭に触れる小さな手の感覚を感じると、呟く呪文と共に視界がもとに戻った。
「これは・・・」
「ロウたちが到着したみたい。」
先程まで流れていた叫び声は聞こえず、今は獣の泣き声が大きく耳に届き視界にはウィルスの群れを押し返す二人の戦士がそこにいた。
「目が覚めました? それじゃぁ伝言。『さっさと手貸せ! いつまでも座ってんじゃねぇよ、アホ!』です。」
リウの隣にいる紺色の髪の少女はトールをしっかりと見つめたまま、お願いされた伝言をありのまま伝える。
その伝言の主であろう人物と目が合い、鼻で笑われたような気がした。
「・・・ありがとう、その伝言確かに受け取ったよ。」
少女を見つめる顔はとても優しそうだが、目が笑ってない。リウは隣で目を細めて笑っていたが、少女はこのとき始めて怖くない恐怖を知ったのだった。
◇◇◇ ◇◇◇
「くたばれヤァ!」
大きく後退したウィルスの群れは、全体が落ち着きを取り戻すと再び先ほどと同じようにして攻めてきた。
フェザーが振るう太刀は太く大きい。『切る』というより『潰す』とう説明の方が適格で、その大きな太刀を片手で悠々と振っていた。
大きな太刀のスキは大きくそこをついてウィルスも襲ってきてはいたが、その周りを守るようにして舞う二本の剣を超えることが出来ず、近付く分だけ切り倒される。
「ふっ!」
必要な動きだけで無駄なことはしない。大きな太刀は間合いが広く、今回の防衛であればフェザーの方が適任だ。
それ以外にもどうやら彼には理由があるらしく、押し込めているにも関わらず半分涙目になりながら鬼の形相で振るっている。
「俺が! これだけ!b稼ぐのに! どれだけ! 苦労したと思ってんじゃぁ!」
その姿を近くで見ているロウは、顔を引きつらせて眺めつつ危なそうな奴だけ倒している。
「・・・すごいな。」
その働きぶりは凄まじく、攻め込む役として考えてはいたがどうやらこれはフェザーだけで良さそうだ。
なんてことを考えていると、突然フェザーがロウに向かって叫び声を上げた先には、不気味な二つの光を灯した大きな人型の化け物がそこにいた。
「・・あいつか。」
二本の剣を持ち直してその人型に飛び掛かろうと進むと、その人型が動いて手を振るう。
それに従うかのようにして一斉に林の中に潜んでいたウィルスが飛び掛かってきて、あまりの多さにロウも迎撃しつつ下がる。
「うお、まだこんなにいたのか!」
「こっからが正念場じゃ!」
辺りを柵で囲ったために、本来別の所へと向かうハズだった奴らも集まりだしたようで、思っていた数よりも遥かに多い数のウィルスが襲い掛かる。
振るうフェザーの手は緩まず、それをフォローするロウもまた全力をだす。しかし、数の力に押し込まれて徐々に下がりしてくる。
「・・やっばいな、これ。」
置かれている状況を認識し、どうやって攻撃に移ろうかと考えはするが今は自分の身を守ることで精一杯だ。
「・・・うぉ!」
意識が逸れて足元に流れていたウィルスの血で滑り、体勢が崩れるところをウィルスは逃さない。
数匹が牙をむき出しにして襲い掛かってくる光景に戦慄いていると、隣から細い光の線が一瞬瞬いた。
その瞬間、襲ってきていたウィルスは吹き飛んで、ロウとフェザーの前に雷が降り注ぐと辺りに広がっていたウィルスの一部が黒焦げになって倒れている。
呆気に取られているロウの頭上から、
「・・お前、後で殺す。」
という短い声が聞こえるとともに、目の前に手が差し伸ばされると小さく笑ってその手を取って立ち上がる。
「いつまでも休んでるトールが悪い。」
「仕方無いだろう、私はお前と違って繊細なんだからな。」
「襲ってくる化け物蹴り飛ばして繊細とは。説得力にかけるなぁ。」
「おしゃべりもそこまでじゃ、来るぞ。」
いったん開いた距離をつめて襲ってくるウィルスの群れに対して、武器を構えて隣に立つトールに静かに耳打ちをする。
「トール、行けるか?」
「・・時間は?」
「もって三十秒ってとこだ。」
「十分だ。・・・死ぬなよ。」
そう告げたトールは手に持つ武器を手放した。
そのトールを守るようにしてロウとフェザーは前に出て、ウィルスの群れを迎え撃つ。
「・・『詠唱略式 構築 魔槍準備』」
その言葉が紡がれるとトールの手には細い雷が手の中に出現する。
「・・・『準備完了 魔法式固定 射出準備』」
その雷を強く握りしめ、右足を引いて腰を落とす。視線は目標である人型の化け物『ルルッス・ウィルス』に固定すると同時に瞬いた光と共に目標の頭上へと移動する。
「『全準備完了 射出』 『穿ち破壊す極光の魔槍!』」
激しい光と大地を揺らす振動にロウとフェザーの二人は座り込む。
襲ってきたウィルスは衝撃に近い場所にいた物は塵となり、そうでない場所にいた物は吹き飛ばされて柵に当たって燃え上がる。
その振動が収まったウィルスがいたであろう場所には、まるで隕石でも落ちたかのようなクレーターを作っており、その中からトールはロウのもとへと歩み寄ってきた。
「・・・お前、何者だ?」
「・・何を言ってるんだ。私はただの第五部隊の准将だ。」
「いや、まぁそうなんだけどさ・・・・すげぇな。」
赤く燃える大地と、上がる煙を見つめてロウはそう呟くことしかできなかった。




