出発
ここはクロエの執務室。夜も深く月も天高く登りきり、これから下り始めようかという頃、いきなり扉が開かれた。
「来たね、二人共。時間通りだ。」
入ってきた二人に驚くわけでもなく、むしろ安心したとうい感情の方が強いみたいで笑顔を見せる。
「まぁ、そうゆう約束だからな。」
「歓迎するよ、ロウ、フェザー。私の城へようこそ!」
「今更な上に、随分と白々しいな」
「そんなつもりはないんだけどね。」
ロウは嫌そうに、クロエは楽しそうに。そんな風に話している二人に、フェザーは割って入る。
「えらい楽しそうやないか。出来ればさっさと話をしてもらいたいんじゃがなぁ。ここに来るかこと以外、何も聞いとらへんのやから。」
「・・・そうだね、名残惜しいけど話を始めるとしようか。」
窓際に立っていたクロエは自分の椅子に座る。
その様子を見た二人は、クロエの机の前まで移動して話を聞く用意をする。
「ロウの方には言ってある事だが、二人にはキリエの護衛を頼みたい。」
「護衛じゃと? 儂らがが?」
「詳しいことは道中ロウから聞いてくれ。二人への指令は、先に発っているキリエの一団に合流後、現在護衛に付いているトールと交代してそのまま護衛の任に着いてくれ。」
クロエに聞きたいことが山ほど出来たようで、フェザーの口は開いたり閉じたりを繰り返した結果、分かったと呟いておさまった。
「なぁ、そのままトールを護衛の任につける事は出来ないのか? 少なくとも現状の人数ならば、あと一人ぐらいいたほうが助かるんだが・・・」
「それを認めるには少々時期が悪い。・・・いい機会だから、ロウには少し説明しておこうか。神将という役職とトールについてね」
「・・・トールについて?」
腕を組んでクロエの言葉に耳を傾ける。
椅子に深く座ってもたれ掛かり、コップに注がれた水を一口飲んでから口を開く。
「・・・神将にはなろうと思ってなれる物じゃない。この椅子は私が相手に直接交渉し、それを認めることで座ることが出来る。」
「それなりに実力が無いと駄目ってことか。」
「『それなり』でも駄目なんだけどね。桁外れぐらいないと、私は交渉などしないさ。」
ロウはふざけている様に感じたが、クロエの方はいたって真面目ようで話を続けている。
「・・・神将には直接の部下を自由に選ぶことが出来るという特別な権利を与えているんだ。それが賊であろうと犯罪者であろうとね。」
「随分と危険な特権だな。いづれ国盗られんじゃねぇのか?」
「ま、それなりには試験はあるよ。私の気分次第だけどね。話を戻すが、そうやって選ばれた部下は『神将に準ずるもの』として准将と呼んでいる。」
「それじゃ、トールやリウ、ロベルトたちも准将になるのか。」
ここまで色んな人に出会ったなかで、その准将と呼ばれる人を記憶の中から辿る。
「そうなるね。他にも何人かいるが、それはまたの機会にしよう。神将とその部下たちについてはそんなところで、ここからはトールについてだ。」
「扱いの違うあいつについてねぇ。」
「時間が無いから結論から言おう。トールは本来神将の椅子に座るはずだった。」
「何だって!?」
「彼女は私が見た中でも指折りの実力者で、交渉したんだが断られたんだ。こちらが提示する条件は相手が得をする条件でも断られてね。それから少しした後に、ネルがトールを引き連れてきたときはさすがにショックだったよ。」
考えてもいない結論に開いた口が塞がらない。もともとかなりの実力者だと思ってはいたんだが・・
「あいつそんなに・・」
「ここからは護衛に認められないという話だけど、これは簡単な戦力の話さ。一つの部隊にけた外れの実力者は一人というのが神将引き入る部隊の特徴だが、ネルの部隊はその実力者が二人いる。」
「だとしても一人の力が強いだけで、部隊の総力にそこまで影響しないとは思うんだが・・」
「ここでさっき言った『時期が悪い』という言葉につながる。この時期はケサランパサランが大量に出現するんだ。」
「ケサランパサラン?」
聞きなれない言葉に目を細める。どれだけ頭を絞ってもそれがどのようなものか見当もつかない。
「寒い時期から暖かくなってくるこの時期に、理由は分からないが大量に発生する動物だ。見た目は手に乗るくらいの大きさなんだが、こいつらの厄介さはその体質にある。」
「・・・体質?」
「基本的には何でも食べる。草だろうが肉だろうが、鉄や石だってね。それだけでも厄介なのに、一番問題なのはそいつらが排泄したものが自我を持つという点にある。」
「排せつ物が自我を持つのか?」
「そうだ。それは俳諧しながら手当たり次第に破壊して回る。そのせいで滅亡した種族や動物もいるし、何より国が潰されたとも聞いたことがある。正体は戦争の遺産だと考えられているが、それも予想でしかない。」
そんなことがあり得るのかと再び開いた口が塞がらない。この世界は何度もロウの予想の上を行くことを知っているが、どうやらさらに上を見なければいけないらしい。
「そんな災害みたいな生き物がいるんだな。」
「ホントに災害さ。一匹も捕まえることはできてないから詳しいことも調べられない、対策も打てないという何とも腹立たしいことだよ。」
「で、そいつらがそろそろ活発化してくる時期だからこそ認められないと?」
「あぁ、そうゆうことだ。神将たちがいくら強いといっても一度に殲滅できる数は知れてるから、トールやシュロロ、ネルのような殲滅力を持つ彼らは貴重な戦力なのさ。」
仕方ないと肩を落として納得する。隣にいるフェザーも同じようで大きく肩を回して、そろそろ動こうと視線で告げてくる。
「さて、説明も完了した。詳細は馬小屋に行ってから説明するよ。」
椅子から立ち上がり、扉へと歩む。響く足音が大きく聞こえたと錯覚して我に返った時、扉があった場所は黒い影に覆われていた。
「行こうか」
そう言ってクロエはその中へと入っていった。ロウはこれを見るのは三度目で、改めて便利だなぁと感心している横でフェザーは驚きの顔を見せている。
「大丈夫さ、行こうぜ。」
フェザーの背中を押してその中に突っ込むと、その後を追ってロウもその中へと身を投げた。
◇◇◇ ◇◇◇
「何じゃぁ、ここは・・・」
影を渡った先の場所に到着した時、のフェザーの第一声がそれだ。
だが、分からないでもない。この馬小屋と呼ばれる『小屋』に到着してロウも同じ事を思ったからだ。
「明らかに『小屋』って規模じゃ無いだろ」
抜けた先はその小屋の中の休憩所のような場所で、馬たちがいる場所より少し高い場所にある。
その為に小屋全体を見渡すことが出来るのだが、壁が見えない。
厳密には壁は存在はしているが、遠すぎて霞んで見えるのだ。
「こっちだ」
呆気に取られている二人を尻目に、クロエはこの部屋から出ていってしまった。
ロウとフェザーは顔を見合わせた後、クロエの後を追う。
「二人にはこれから先行しているキリエ達に合流してもらう。正面の大門から出て、真っ直ぐに行った先の街«スティーブル»という場所に向かってくれ」
「あの協会の町でええんじゃな?」
「あぁ、それでいい。あの場所のルールは知っているね?」
「無論じゃ。にしてもよくもまああんな場所を合流場所に選んだのぉ。」
「最終向かう場所は«フィエルエナ»という都市だ。今回の出来事を共有させるために、緊急の国家間会議を設けたのでそこに向かったもらう手筈になっている。」
止まることなく歩き続けるクロエは、適当な場所で止まり振り返る。
「なにぶん緊急なので、集まりが少し遅い。その為に«ファブログライン»という港町で二・三日程滞在して調整する予定だ。」
「なるほど、それでここにいる馬達で追いつけと」
「そういう事だ。さぁ、好きな馬を選ぶといい。この辺りは皆優秀だから」
両手を広げて選ぶように進めてきて、フェザーの方は早くも決まったらしく、白く綺麗な馬を連れ出して鞍をかけている。
それに対してロウの方は馬から嫌われたようで、近付いた馬は皆暴れてしまう。
どうしたものかと途方に暮れていると、一ヶ所だけ檻が設置されている事に気がついた。
「何だこれ?」
「そいつはあまりオススメはしないよ、ロウ。辺りの中でトップクラスの実力を持ってはいるのだが、言うことを全く聞かなくて誰も乗りこなした事が無いんだ。」
「暴れ馬ねぇ。」
檻の中にいるのは炎のような赤い肌に黒く燃えるようなタテガミが特徴の、金色の眼を持つ馬が檻の中にいる。
ロウとその馬の視線が交錯する。この馬のことは初めて見たのは間違いないが、その一瞬で歯車がキレイにハマる感覚が流れた。
「・・・こいつにするよ」
「正気か? 今私の話を聞いていたのか?」
「こうゆうのは感覚だ。一目見てなんか感じたら、そいつが一番良いんだ。」
檻の中へと手を入れると、それに応えるように馬の方も動き出してロウの手に頭を擦り付ける。
「・・・いい子だ」
「驚いた。こんな事するのは初めて見た。」
驚愕の言葉を発している横で、ロウはクロエからの受け取った鍵を使い檻を開ける。
中から出てきたその馬はフェザーとクロエには威嚇のしせいをとるが、ロウに対してはやたらと懐いている。
ロウの方も準備が完了した時点で、クロエが先程と同じ黒い影を出す。
「今回は特別だ、ここから行くといい。出た先には門があるからそこを通って向かってくれ。詳しい道はフェザーが知っているね?」
「あぁ、知っとる。案内は任せろ。」
「頼んだよ。・・・それと、ロウにはこれを渡しておこう。」
「・・・・・・これは?」
少し大きめの袋とナイフ一本をロウに渡してきた。
「袋の方は謝恩金だよ。普通に渡しても受け取らなそうだったからね、報酬はまた別であるから期待してくれ。・・・それと、そのナイフだがロウはどう思う?」
「いや、思うったってタダのナイフじゃないか。」
そのナイフを鞘から抜いて刀身を見る。傷ひとつ無い見事な物だ。かなりの業物と予想したところで、何かが引っかかる。
「待てよ、これどこかで・・・」
「それはそうだろう。だってそれ、半壊した寮から見つかったものだからね。ロウは見たことあるんじゃ無いのか?」
「ガラハッドのナイフ! まさか、残ってたのか。」
「ファブログラインの交易港は多くの物品が取引される。数日滞在するのは、そのナイフの調査もお願いしたいからなんだ。頼めるか?」
「元からそうゆう約束だろ、聞くなよ。」
「・・・そうだったね。」
ロウも馬に飛び乗り、手綱を握る。
「よっしゃ、行くぞ! ロウ!」
「あぁ!」
手綱を振って走り出して影の中に飛び込んだ。
残されたクロエも二人を見届けると、向かう先を自分の執務室へと変えて移動する。
見下ろす窓からは変わらない家々の周りを、小さな街頭が照らしている幻想的な景色が広がっていた。
「・・・この世界が消滅するかどうかはロウにかかってる。世界が未来へと歩めるように足掻いてくれ。どうか頼む、この世界の終わりを救ってくれ。」
憂いをおびた瞳は何を見たのか、事の全てを知っているのはここにいるクロエだけだった。




