新寮体勢完了
「・・・それじゃ、そろそろ向かうか」
天高く太陽が照らすころ、マリアからの依頼を果たすために寮を出る。
その依頼とは今日の朝、食事をとっている時に隣までやってきたマリアから話された内容が関係している。
◇◇◇ ◇◇◇
寮に住み込みで働く人が住むこの家は木造でできており、見た目や外観は大き目なログハウスみたいだ。
浴室や食堂も完備されており、談話スペースまであるこの家は五十人ほどが住めるらしい。
ここまで作られているとこの家と寮、どっちがメインで運営されているのか分からなくなってくる。
その食堂では、新しいメンバーのテスト運行ということで厨房には二人の他に十人程が忙しそうに走り回っている。
今まではこの食堂を二人でこなしてきたというのだから、二人には脱帽するしかないだろう。
受け取った朝食をいつもの窓際の席で食べていると、隣にマリアがやってきて唐突に話しかけてきた。
「ロウ、あんた今日の昼からの予定は?」
「昨日と一緒で新しくできた家の掃除と必要な消耗品の買い出しとかだな。」
「それじゃ大丈夫だね。今日の昼ぐらいにリーリアを迎えに行ってやって欲しいんだ。」
「・・俺がか?」
てっきりマリアが行くものだと考えていたロウは、そのお願いに目を丸くする。
「不満なのかい?」
「いや、そういうことじゃないけど・・」
睨んできたマリアの鋭い視線に、慌ててロウは否定することでその鋭い視線はいつも通りへと戻っていった。
「てっきりマリアが行くものだと思ってたからさ。」
「仕方無いじゃないかい、あたしはこっちでやることが出来ちまったんだから。未熟なガキどもの育成っていう大事な仕事がね。」
話すマリアの表情は少し悔しそうな色がにじんでいる。どうやらマリアの方もリーリアを迎えに行こうと思っていたようだが、新しく入ってきたフェザーの子供たちへの指導が納得いくものまでできていないらしい。
ロウから見れば十分だと思うのだが、マリアの言葉の端には不満が見え隠れしている。
後半の言葉が発せられるとその場にいた子供たちは皆が少し震えた・・・ような気がした。
◇◇◇ ◇◇◇
寮を出てから三十分ほど歩くとある病院だ。かつてロウもこの病院には世話になったことがあり、こんなに近くにあったというのは最近知ったことだ。
そのまま中に入って退院の手続きを終わらせると、いつも通っている階段を上がってリーリアのいる部屋へと向かう。
扉をノックして中から返事が聞こえることを確認してから中に入る。
「よう、もう準備は終わってるみたいだな。」
「あっ、ロウさん。おはようございます。後はこのかばんを閉めるだけなんですが・・・ちょっと固くって。」
鞄のベルトを締めようとしているが、中にぱんぱんに入っている為かうまく口を閉じてくれない。
その様子を見て少し笑ってから、鞄を閉める手伝いをする。
「・・・できた! ありがとうございます。」
「いいさ、じゃぁ出るが忘れ物はないな?」
「大丈夫です、朝から何度も確認してるので。」
そして、世話になった病院に礼をいうと二人は寮に向かって歩き出した。
「・・・すいません、荷物持ってもらって。」
「気にすんなよ、病み上がりにこんな重いの持たせられないから。」
あまり大きくは無いはずなのだが、感じる重さはすごい。ズシリとのしかかってくるような重みのあるかばんは、中に何が入っているか少し気になる。
「寮、治ったんですよね。どんな感じですか?」
「寮自体は今までと変わらないよ。しいて言うなら俺たち専用の家が出来たことかな。」
「専用の家、ですか?」
「あぁ、見たら分かる。どこぞの高級な宿泊施設みたいだからな。」
「そんなにすごいんですか」
言っていることは決して過大評価ではない。実際家の中のつくりも一つ一つが作りこまれていて、とても一日で作ったとは到底思えない出来なのだ。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
そんなことを話していると、不意に沈黙が訪れた。何かを聞こうと口を開くが声に出ないようで、ロウの方から言葉を投げかける。
「俺に聞きたいことあるんじゃないのか?」
その言葉を聞くとリーリアは少し逡巡すると、おもむろに口を開いた。
「・・・セシルは、もういないんですよね。意識を失う前に薄らと覚えているのは、セシルが別人のように変わってしまっていたことです。」
「・・・・・・・・・。」
「マリアさんに何度も聞きましたが、『連れていかれた』ということ以外教えてくれませんでした。・・・ロウさんは知ってるんですよね? 教えてください! ロウさん!」
知っている、その質問にはその一言で返事が可能だ。
しかし、セシルについて話をすれば戦争がまだ終わってない可能性まで話さなくてはならなくなる。
その件に関しては厳重に口止めされてはいるし、それにロウはリーリア達に話して余計な心配はかけたくないのだ。
けれど、出来ることならばリーリアだけには事の真相は伝えてあげたい。セシルとの長い付き合いもある上に、何より姉妹のような感情を抱いているリーリアには言うべきじゃないのかと考えはした。
だが、そのことを話すには敵のことを知らなさすぎる。どれだけの力をもち、どれほどの規模であるのかということも予想すら立たせることが出来ない。
そんな敵のことを安易に口にできるハズも無く、リーリアの質問にロウは苦渋の表情で俯くことしかできなかった。
「・・・話しては、もらえないんですね」
「・・・ごめん」
しばらくの沈黙のあと、何も話そうとはしないロウより先にリーリアの方が折れた。
「ロウさんが意地悪してるわけじゃないのは、今の顔で分かりました。きっとロウさんは何か考えがあるってことも。」
「・・・ごめん、まだ話せない。いづれ話せる時が来たら、その時はちゃんと話すからその時まで待っててくれ。」
「絶対ですよ?」
半泣きの顔で見上げてくるリーリアは、その一言を告げると寮に向かって再び歩き出した。
その後をついていくようにロウも歩き始めると、二人の間に気まずい雰囲気が流れだす。互いがその空気に潰されそうになると、後ろから呼び止められた。
「ロウ! 何してんねや、こんなところで。」
「・・フェザーか。何してるも何もないだろう。」
後ろから走ってきたフェザーの存在にありがたみを感じつつ、視線をリーリアの方に向けて答えた。
「おぉ、あの時寝てた嬢ちゃんか! 体はもう良うなったのか?」
「はい、無事にこの通りです。」
両手を広げてくるりと一回転する。リーリアもロウと同じことを思っていたために、少しテンションが高い。
「そうか、良かったな。・・・それと、これからよろしく頼む。」
その言葉と共に頭を下げる。リーリアはこうゆう状況に慣れていないのか、慌てふためいていてロウの方に困った表情をしている。
その姿を見てため息をつき、気まずい雰囲気を払うように口を開いた。
「・・こんな時は『任せてください』でいいんだよ。実際あの寮の中ではリーリアが隊長みたいなもんだろ?」
「た、隊長! 私が!? 私よりもロウさんの方が適してますよ!」
「何言ってんだ。俺はまだあの寮で一週間ぐらいしか働いた記憶ないから、レベル的にはフェザーの子供たちと一緒だぞ。」
「そんなぁ~」
頼りない声で呟く。先ほどまでの空気が嘘のように消えてなくなっており、今は先程とは真逆だ。
「それは冗談にしておくとして、とりあえずどんな奴らが入って来たのか聞いてみたらどうだ? 」
「おぉ、そうじゃな。あの場所の頭の嬢ちゃんには言っとかんとな。」
「頭はちょっと拒否しますが、入ってきた方々のことは聞きたいです。」
「よっしゃ、それじゃぁ誰から紹介しようか。そうじゃな、まずはトト、カカから話そうか。トトは調子に乗りやすいから気ぃ付けや。けどな・・」
憂鬱そうだったリーリアはフェザーの話に夢中で、顔を輝かせて聞いているリーリアに対して、話しているフェザーの方も非常に嬉しそうだ。
そんな明るい雰囲気で寮のたどり着くと、その日の夕食は歓迎会と退院祝いということでシュシュとミユの料理に舌鼓をうった。
この寮の売りである二人の料理は確かにうまい。ただの食堂の料理人にしておくのがもったいないと思わせるほどに、この日の料理には熱がこもっていた。
楽しい時間は過ぎ去って、明日一日はリーリアと新人たちとの動きを調整させるために費やすようで、早く起きるために皆が早めに寝てしまった。
それから少しして皆が寝ている中、ロウはまとめた荷物を取り出すと外に出る。
「・・・来たか、ロウ。」
「待たせたか?」
「いいや、わしも今来たところや。もう少し遅くても良かったんやで? 惜しむ気持ちは分からんでもないからな。」
「それはお互いに思ったことだろ? フェザー。」
「・・・それもそうやな。」
振り返って寮を仰ぎ見る。月明かりは雲に隠されてしまって、あたりは非常に暗い。照らす明かりは街灯だけで、その明かりに照らされて二人は門の所に立っている。
「さて、行くか。」
「おう。」
そう短く返しただけで後は何も言わなかった。二人の間に沈黙が流れるがそれは気まずいものではなく、その二人だからこそ安心できる。そんな空気の中を二人は闇の中へと歩いていったのだった。
繋ぎは終わりです!
明日から本格的に三章開始します!




