『連続殺人事件』 その後2
病室を出た後、白い廊下を進んだ先に扉がありそこをくぐって外に出る。
辺りは暗くなりはじめで、時間的には夕方と言ったところだろう。
外から見たその病院兼研究所というには少しこじんまりした建物だ。外観が白くなければ、少し大きいだけの誰かの家程度にしか思わないだろう。
何も言わずに先を歩くシュロロの後を離れないようについていく。腰の高さまで石が積まれただけの門といえるかどうか怪しい門を超えると、そこには大きな馬車が停まっていた。
扉が開く馬車の中は暗くてよく見えない。窓は付いているが、馬車の中は闇一色に染まっている。
「・・・これに乗れと?」
「さっさと入れ。」
そう言ってシュロロは馬車の中に、文字通り消えて行った。その後ろ姿を眺めた後、少し悩んでからロウも同じようにしてその馬車の中に入って消える。
意を決して中に入るとそこは見たことのあるような部屋で、ソルドールたちの部屋と同じようなつくりの部屋がそこに広がっていた。
内装自体は同じだが、部屋のレイアウトは違っているようだ。
正面にシュロロが座るであろう机が置かれており、なんといっても一番違うのは部屋の右側。
ソルドールたちの部屋では椅子と机が置かれてたが、その場所には畳が敷かれておりその場所だけ世界が違うように感じる。
その畳の上に座る黒い着物を着た女性が、ロウに向かって挨拶をしてきた。
「ご無事の御目覚め、何よりです。」
「確か、シュロロの屋敷で出迎えた・・・」
「はい、私セレスティア・ゼスティーと申します。以後、お見知りおきの程を。」
「・・ゼスティー? 確かシュロロの名前にも同じのが入ってたよな。」
セレスティアは見事な動作で下げた頭を戻して、畳の反対側。
多くの紙が貼りつけられている壁の前に立つシュロロのもとに移動すると、ロウの疑問に答えるために話したのか分からないが紙を剥がしながら言葉を返す。
「勘違いする前に言っとくが、『式神』は自らの名前で縛るのが決まりだ。」
「式神?」
ロウの疑問に答えるように、その女性がにこりと微笑んで一礼するとわずかな煙を上げてその姿は一枚の人型の紙に変貌し、シュロロの手に帰る。
「理解したか?」
「・・・・。」
その光景を見てロウはなにも言えない。壁に貼り付けられた紙をあらかた剥がし終えると、手に帰ってきた紙にナイフで切った指から出る血で何か文字を書いている。
文字が書き終わったのか、その紙に息を吹きかけると先ほどと同じぐらいの煙を上げてセレスティアが現れた。
「またお会いしましたね」
楽しそうに微笑んでくるその女性の表情はイタズラする子供のようだ。
呆気に取られているロウをしり目に、自分の椅子に座ったシュロロは頭に手を当てて何かを考えている。
「・・どうぞこちらへ」
促されるままにシュロロの正面に立つ。
セレスティアがシュロロの左側、ロウから見て右側に立つと閉じていた眼を開いた。
「回りくどいことは無しで、単刀直入にいくか。」
「何の話だ?」
「・・ロウ、お前俺の下につけ」
「はい?」
唐突に放たれた言葉がいまいち理解できない。意味は分かるがその真意を測りかねていると、言葉を続けて話しだした。
「お前の手助けと住む場所も提供、働きに見合った報酬も用意してやる。さらにお前にこの城の中で使える特殊な権利もお前に渡そうと思うが・・・」
「待て待て待て、話を先に進めるな。説明しろ、どうゆうことだ?」
「分からんか?」
「分かるわけないだろ。説明ぐらいしろよ。」
ため息をついて椅子にもたれかかる。肘置きに肘をついて顔を手に乗せて、気だるそうに口を開く。
「簡単なことだ。今回の事件の結果、一番信用できるのがお前だと判断したからだ。」
「・・というと?」
「お前が予想した敵の目的についての話だ。『あいつら』からしたらまだ戦争は終わってない、さらにこの魔族中心の世界に魔族の体を乗っ取って溶け込んでいる。この危険性、お前ならば分かるだろ?」
「・・なるほど、俺にそいつらを探しだせと言うわけか。」
ロウがたどり着いた答えに満足したようで、頷いて肯定してくる。
「ま、最後はそうなるな。さらに付け加えると、今回の事件これで終わりだと思うか?」
「何が言いたい?」
「『世界』で起きた戦争の続き、新世界の始まりの国を襲うだけで終わるのかと聞いている。」
「・・・まさか。」
「あぁ、お前には各国を巡って潜伏している『あいつら』を炙り出してほしい。」
「はっ、笑えない冗談はやめろよ」
鼻で笑い飛ばそうとしたロウを見つめるシュロロの眼は本気で、真っ直ぐに見つめてくる。
その視線を受けて、ロウの顔も真面目なものになる。
「・・・本気か?」
「本気だ。思考力と力は申し分ないもので、この俺の信頼を得たお前にしか頼めないことだ。・・この後から開かれる神将たちの話し合いでお前の進退が決まる。その時にお前を引き込もうと思っている。」
「・・・・・。」
「ロウ、お前の選択は?」
目をつぶり、自分の世界に入る。ロウのことを深く信用してくれた結果の申し出で、正直なところ断る理由がない。
この申し出を断ったところで見えない敵に怯える羽目になることは見えている。さらには『あいつら』に敵対したことは明白なので、今後ロウや周りの仲間が狙われないとも限らない。
だからこそ、ここでこの依頼を受けて『あいつら』を探して攻勢に出ることは悪くない判断だ。だからこそ、ロウが下した答えは・・・
「いったん保留にしてくれ。」
「・・・理由を聞こうか。」
「シュロロの申し出を断る理由は正直、俺の中にあんまりない。けど、」
「けど?」
「今は別の件で頭がいっぱいでそれどころじゃないってだけだ。それが解決したらまた改めて答えを出すから、それまで待ってくれ。」
ため息をつきながら、用意された湯気が出ているお茶をすする。
その横でお盆を持ったセレスティアがロウに問いを投げてくる。
「別の件とは? 差し支えなければ教えていただきたいのですが。」
「・・・俺もその件でシュロロに頼みたいことがある。が、その前に今の予想を確信に変えたい。あの緑の髪の男はどこにいる?」
「行ってどうする? 聞きたいことでもあるのか?」
「ある。もちろん二人にも来てもらいたい、そこで説明するから。」
ロウの申し出にシュロロは再び目をつむる。その頭の中ではいろいろなことが錯綜しているのか、眉間にしわが寄っている。
「・・セレス、いつ起きる?」
「少々お待ちを。」
シュロロからの質問に短くそう答えると、右手の甲を唇に当てて右手と向かい合うよう左手を上げる。
なにかを呟くような声が聞こえると、手の間に青色の半透明の球体が現れた。
それを真っすぐに見つめるセレスティアの表情はいまいち読めない。
水面に広がる波紋の様に、球体の表面が揺れるとそれから少しした後に、両手で球体をつぶすようにして手を合わせる。
「どうだ?」
「運がよろしいようで、もうじき目が覚めるみたいです。おそらく会議が始まる時間と被るかと。」
「間の悪いことこの上ないな。・・王には俺から連絡しておく、隠し事は無いように話せよ?」
「それはそうだが、・・・今のは?」
「『占い』でございます。限られた範囲ではありますが、調べたい対象の未来や過去を見ることが出来るのです。」
「・・・それで俺の起きる時間に来れたのか。じゃぁ、それ使えば『あいつら』探すことも簡単なんじゃないのか?」
セレスティアは少し残念そうな顔で首を横に振る。
「それはできません。『占う』条件として、私が対象に一度でも直接触る必要があります。さらに付け加えますと『占う』ことが出来る範囲は狭く、占い始めた時から時間にして三十分から一時間ほどまでしか見えないのです」
「そうなのか。・・それで運が良いと。」
「左様でございます。条件は他にもたくさんあり、自分と力の差が開きすぎている相手は見れなかったりします。」
「・・・お喋りはその辺にしろ。準備は良いな?」
連絡が終わったようで、椅子から立ち上がったシュロロが入ってきた扉の前に立ち手をかざす。ブツブツと呟いた後、扉を開けるとそこには馬車の中の様に暗い闇が蠢いていた。
その闇の中に三人が入ると、それは自然に消えてなくなった。
◇◇◇ ◇◇◇
「ん・・・、ここは?」
その質問に答える者はどこにもいない。石に囲まれた部屋で、その部屋をほんのりと照らす刻印石があるその部屋は一目で分かる。
「そうか、牢屋か」
そう呟いて起き上がり、今まで寝ていた場所に腰かける。手にかけられた手錠を見ておぼろげな記憶がだんだんと蘇ってくる。
「そうだ、確かあの時銀髪の彼が助けると言っていたが・・・。本当に助けるとは、・・・困ったな。」
自らの命があることはうれしかったが、今までにしてきたことの記憶はうっすらと残っている。
そのせいで手を上げて喜ぶことが出来ず、うれしさと後悔が入り混じった感情にどう対したらよいのか分かりかねている。そんな時だった。
「おはよう。目覚めの気分は?」
「・・・あなたは」
刻印石に照らされて姿を現したのは銀髪赤目の男だった。
忘れるはずがないその男は、あの暗い遺跡の中で自分を助けてくれたあの人物その人だった。
その銀髪の男の後ろに二人、青い髪の男性と黒髪の女性がいるが暗くていまいち顔が見えない。
「久しぶり、で良いのかな? 悪いがこっちには時間がない。ちゃっちゃと話させてもらうぞ」
「構いませんよ、何が聞きたいのですか?」
「理解が早くて助かる。じゃぁ聞かせてもらうが、お前は—————」
その後の質問が終わると、悲痛な面持ちでロウが口を開くと、その場にいる全員の表情が変わった。




