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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
53/132

『連続殺人事件』 その後 1

 

 懐かしい記憶。それは遠い昔の記憶だ。


「俺は、これで良かったのか?」


「何? いきなり陰鬱な雰囲気なんか出しちゃってさ。らしくない以前に、気持ち悪いんだけど。」


「・・お前、それは言いすぎじゃないか? 俺だって傷つくんだぞ?」


 ここはスラムの中で、いつも寝床として使っている場所だ。その屋上に座っているのは、ロウと同じぐらいの身長·年齢の金髪金眼の少年で、あるスラムの集団のリーダーを務めている。


「だからこそじゃないか。いつも一人で大丈夫! みたいに振舞ってるくせして、変なところで寂しがり屋なロウに対して妥当なとこだろ?」


「・・・トキ、お前は俺にケンカ売ってるのか?」


「はは、まさか! 僕がロウにケンカなんか売った日なんか丸一日寝込むことなっちゃうよ。それは勘弁」


 明るい顔で手を頭に組み寝転がるその少年、トキはロウを自分の集団に引き入れた人物だ。

 時間は夜、月は空高く登っていて辺りをほんのりと照らしている。


「お前は、変わらねぇな。」


「変わらないよ。変わったところで何かメリットがあるわけじゃないしね。・・・昼間の対談のことは、仕方ないよ。あそこで手を出してくれなかったら、僕はここにこうしてなかっただろうから。」


 このトキという少年は、今はこのスラムを二分する軍団の片方のリーダーだ。

 相手は力で奪い取る方針、トキ率いる集団は小さな日銭を稼いで、それを使って日々の生活を潤していく方針をとっている。


 真逆の方針をとるこの二つの集団は決して相容れることは無く、数年にわたって小競り合いが続いていた。


 しかし、最近になってその小競り合いが無意味であるということが双方理解したらしく、ようやく対談の話が持ち上がったのだがそれは表の話でしかなかったのだ。


裏ではトキ率いる集団の頭と称される頭目連中を軒並み殺す算段を立てていた。


 ある理由で別行動をとっていたロウがそれに気づくことで、何とか誰一人死なずにその場を逃げ出すことに成功した。

 

しかし、その代償として仲間だと思っていた人物数人が敵に回ることになってしまった。


「だとしても、あそこで俺が手を下さなければあいつらが向こうに行くことは無かったはずだ。」


「・・・後悔してるの?」


「後悔は・・・どうだろう。分かんねぇ。」


 ロウもトキと同じようにして横になる。空には満天の星が浮かび、その中で一際明るく光る月が異様に美しく感じる。


「・・僕は、なにが正しいかなんて分からない。だからこそ、その場で自分がどうしたいかで行動することを心掛けてる。」


「・・・・・。」


「おそらくロウもあの時あの場所で、あんな風に動きたいから動いたんだと僕は思ってるし、そんな風に動いてくれたことが僕は嬉しい。それに、ロウは後悔する暇があるなら前に進めってのが信条だと思うんだけど、そこんとこどうなの?」


 今までの雰囲気を壊すように明るい口調で問いかける。

 テンションの切り替わりが激しいこいつと、真面目に話している自分がだんだん馬鹿らしくなってきた。


「・・俺は、そんな凄い奴じゃない。」


「それはどうかな? ロウは自分を見下す癖があるから分かってないだろうけど、何だかんだでみんなそんな風に思ってると思うよ。それに、さっきまで考えていたことはもう忘れたんじゃない?」


 図星をつかれて言葉に詰まる。

 トキと話していたら後悔している自分が馬鹿らしく感じてきて、今はもう考えていない。

 それどころか、離れた仲間をどうやってこっちに引き戻そうかと考え始めている自分がいる。


「ほら、いった通りでしょ?」


「・・・お前のそういうとこ嫌いだ。」


「僕はロウのそういうとこ、好きだけどね。」


「キモイこと言うな。」


 半ばあきれ口調で話しつつ立ち上がる。固い石の上で寝転がっていたせいで体が痛い。それはトキも同じようで、座って肩を回している。


「トキ、ありがとな」


「何のこと? もう忘れちった。」


「ったく、お前は。」


 屋上から降りようと階段に差し掛かった時、背中にトキから声がかけられる。


「ねぇ、ロウ。自分が考えてることが良いのか悪いのかは、後になって分かることだと思う。だからこそ、その場で自分がどうしたいかで動くことが一番っていうのは、ロウが一番よく知ってるでしょ」


「? それはどういう意味だ・・・」


 ◇◇◇ ◇◇◇


「・・・トキ」


 自分の声で目が覚める。うっすらと開けた目に鋭い光が刺さり、手で庇う。

 すると耳元から随分と図太い声が聞こえる。


「おぉ、起きたか。姉御ー起きたぞー。」


 声のする方に目を向けてもそこには誰もいない。枕元にピンクの腕の長いクマのぬいぐるみがあるだけで他には何もない。


「・・ぬいぐるみ?」


 不意にそのぬいぐるみを手に取って調べてみる。ロウの記憶にあるようなぬいぐるみとは特に違いは感じられない。

 上へ下へと動かしているとまたあの図太い声がした。


「おい、乱暴に扱うなやコラ」


「!? まさか・・お前なのか?」


「このプリチーな儂のほかに誰がおるんじゃ。」


 声は確かに目の前のクマから聞こえる。口が動いないのに声は発せられていることに少し恐怖を覚え、クマからかけられる無言の圧力によりそっともとの場所に戻す。


そのクマと向かい合うようにして布団の上で正座する。


「・・・・えっと、なんか、すまん。」


「分かりゃえぇ。ま、とは言ってもみんな同じような反応するから、今に始まったことやないけどな。」


「・・はぁ。」


「それと比べたらお前なんぞ良い方じゃ。こうして優しく元の場所に戻すなんて、久しくされとらんからの。」


 長い腕を動かして、ペラペラと苦労話を話してくるこのぬいぐるみの中身は、多分おっさんなんじゃないかとうっすら考える。


「・・・おまん、今別のこと考えとったやろ?」


「いや、そんな事。ただ、あんたも大変なんだなって思っただけだ。」


「・・・分かってくれるんか?」


 自分の失言を後悔する。この手のタイプは調子に乗らせると面倒なタイプで、下手に関わると後が大変だと経験上知っている。

 

その後も嬉しそうに話すぬいぐるみの言葉を聞き流していると、不意にベットの周りを覆うカーテンが開かれる。


「・・・・・・・。」


 背はかなり小さい。紫色のとんがり帽子と口元まですっぽりと覆っている帽子と同じ色のコートを羽織り、長すぎる袖は地面に擦りそうだ。


 ロウの方を見上げることでようやくその顔を見ることが出来た。見れたといっても目だけだが、その目も衣服とおなじ紫色の半眼でロウを見てくる。


「・・・・・・・。」


「・・・・・・・。」


「・・・・・・・。」


「・・・・・・・なにか?。」


 まったく口を開こうとせず、嫌な沈黙が辺りを覆いだし始めた頃にロウの方が耐え切れず、話しかける。


「・・・・・それ」


「それ?」


 おそらく指先を向けているのだろうが、長い袖に隠れてよく分からない。

 差された先には話し続けるぬいぐるみがあるだけで、


「これ?」


「それ」


 指差された先を確かめるように確認すると、大きく頷いた。


頭を傾けた時とんがり棒が落ちそうになって、慌てて抑える姿は小動物を見ているようですごく愛くるしい。


「儂をそれだのこれだの言うなや。わしには『キグルミ』っちゅう名前があるんや」


「・・・キグルミ」


「せや。分かったら儂をそこの嬢ちゃんまで動かしてくれ。手は問題なんやが、歩くのは不得手でな。」


 言わる通りに枕元から、やってきた少女に渡してやる。受け取った少女は頭のとんがり帽子の上に置くと、そのままどこかにいってしまった。

 入れ替わりになって、長い黒の前髪で片方の目を隠している白衣に身を包んだ女性が現れた。


「起きたね。体の調子はどう? 痛いとか苦しいとかはない?」


「いや、特には。しいて言うなら、ゆれてる感覚が残ってるくらいだ。」


「そう、まだ抜けないか。元が人間の影響がある・・・のか?」


 そう言ってロウが寝ていたベットの隣に置いてあった椅子に座る。手に持っていたカルテと思われる紙に何かを書き込んでいて、なんて書かれてるかよく見えない。


「典型的なマナ酔いだよ」


「マナ酔い?」


 カルテを覗き込もうとしていたロウに気が付いたのだろう。紙に文字を書きながら話してくる。


「そう。体内のマナが急激に増えたり減ったりした時に起きる症状で、マナの流れを整えればすぐに良くなるものでね。本当なら自分の家で寝てもらうんだけど、あなたの場合はちょっと特別でね。」


「・・・『実』か。」


「分かってるなら話は早い。ここはその『実』を研究している研究所兼王宮お抱えの病院ってとこさ。あんたをここに幽閉するつもりは無いけど、定期的に検査には来てもらうから、そのつもりでいてね。」


 カルテに書き終わったようで、視線をこちらに向けてくる。

 その目は妙に鋭く、口から覗く下は細長い気がする。ショートボブの髪型のせいで見える首筋には鱗のようなものが見える。


「それはかまわないが・・えっと、」


「あぁ、まだ名乗ってなかったね。私はこの研究所の所長を務めてる、レミル・シーカー。さっきのとんがり帽子の子供は、フィリムって言うの。よろしくしてあげてね。」


「レミル、か。よろしく。結果としてはとくに問題はないってことで良いんだよな? ちなみに俺どれくらい寝てた?」


「よろしく。問題はないし、寝てたっていってもだいたい一日ってとこだから、そこまで慌てるようなことじゃない。」


「・・・そうか。」


 その言葉を聞いて少し安心する。また前みたく何日も寝ていたんじゃないかと、心配していたことが杞憂で終わった。


「もう一つ聞きたいんだが、例の事件について知ってるか?」


「それは私に聞くより、後ろのあの方に聞いたら?」


「後ろ?」


 振り返った先にいたのは固めにモノクルをはめた青い髪の男、シュロロがそこに立っていた。

 無事であったことは素直にうれしいが、これからまた面倒なことが起きそうな感覚がシュロロに対してあるために微妙な表情になる。


「なんだその顔は。私直々に見に来てやったというのに、もう少しうれしそうな顔したらどうだ?」


「病室、寝起き、それでシュロロときたらいい思い出は無いもんでね。」


「それだけ減らず口が叩けるなら休養は終わりでいいな。レミル、こいつは私が引き取る。また後で来させるから続きはその時でいいな?」


「あぁ、かまわないよ。できたら早めにお願いね、『実』の適合者なんて初めてなんだから。」


 レミルの明るい笑顔に見送られて病室から連れ出された。



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