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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
52/132

決着

 

「ぐぁ!」


 最期のとどめを刺そうとした時、誰かに飛ばされたという現実を折れた腕と激痛の走るわき腹が訴えてくる。

 上に乗っている瓦礫を押しのけて立ち上がり、顔を上げるとそこには黒い影があるだけだった。


「何だ、こ・・・」


 最後まで言い切ることもできずに上から振り下ろされた拳が騎士の腹に刺さる。


「ごッ!」


 かけられた力が緩むどころかさらに加えられ下の地面が砕かれた。

 飛びそうになる意識をこらえて目の前の人物が何かを探る。


 魔法士は瀕死、姫は戦闘能力が皆無、人間は『実』を食べて死んだ。

 じゃぁこいつは誰だ? ・・・いや、何だ?


 先程の短い時間で魔法士が召喚したとしても、こいつは強すぎる。詠唱時間とこいつの力を鑑みてもそれはあり得ない。

 まさか姫? それも無い。あの国王の血の者で、何かしらの能力が発現したと考えてもこいつは戦い慣れしすぎている。

 人間? ますますあり得ない。あいつは『実』に適応できていなかった。その為、暴れた後の沈黙は絶命の証拠だ。


 じゃぁ、これはいったい・・・・


 崩れ落ちる瓦礫の中でもその『何者』かの攻撃の手は緩まない。動きが制限されるはずの空中でうまいことバランスをとりながら、蹴りだの突きだの攻撃してくる。

 こちらもその一撃を流そうとはするが片手ではさばききれず、ほとんど一方的に殴られている状態だ。


「うらぁ!」


 両の手を抱き合わせ、ハンマーの様に振り下ろす。避けること叶わず、その一撃をもろにくらってさらに下層の地面に叩き付けられた。

 落下してくる瓦礫よりも先に地面についた騎士の隣にその『何者』かが間髪入れずに着地する。


「か・・・は・・・」


 叩付けられたせいで体が思うように動かない。辛うじて動く目をその『何者』かに向けて姿を見る。

 天上から漏れる光を反射する光輝く銀色の髪、その中から覗く二つの赤く鋭い眼。


「・・ま、さか! お前・・・」


 その姿に気づいたところで今の騎士にはどうすることもできない。

 その『黒服の男』に胸ぐらを掴まれ引き起こされる。軽く浮いた状態の騎士の顔面に強い衝撃が響き、再び吹き飛ばされる。


「お前は・・・」


 ◇◇◇ ◇◇◇


「シュロロさん!」


 立って動くことが出来ないシュロロのもとにキリエが駆け付ける。

 シュロロの体にできた傷を見て青ざめるが、シュロロが返事をすると安心したような顔を見せて先程の出来事を質問する。


「あの、さっきのは・・・」


「ロウです。間違い・・・ありません」


 苦悶の表情を浮かべながら動こうとするシュロロを慌てて抑える。


「動いちゃダメです! 今は大人しくしとかないと・・」


「ですが、・・あいつは」


 そう言って視線を落盤してできた穴に向け、キリエもその後を追うようにして顔を向ける。


「彼に、ロウに何があったんですか? まさか、これも計算の内なの?」


「・・・いえ、ここまでは。私も、いまいち理解できて・・ないんです。」


 暗い穴からは何かが戦っているような轟音がなっており、大きな音が鳴るたびにキリエの小さい肩が跳ねる。


「・・・ロウ」


 そう祈りを込めて呟かれた声に答えるようにして、響いてくる轟音はより激しさを増す。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「らあぁ!」


 迫りくるヘビーモスに渾身の一撃を叩き込む。その一撃で悶絶した象は倒れるとそのまま動くことは無かった。

 靄の中からこれでもかというくらいの量の化け物を出してくるが、そのどれもが今のロウの足を止めることが出来なかった。


「ふっ!」


 数匹の狗に辺りにある石を放り投げる。その石は銃と同等の速度で飛んでいき、その石に当たった狗は地面を転がってそのまま動かなくなる。

 そうして後退する騎士との距離は見る見るうちに縮んでいく。


「死ねっ、死ねっ!」


 苦し紛れと思われるような黒い影の斬撃は、一つでも受けたら即死の一太刀だ。

 だが、それも当たればの話でロウには掠りもしていない。


 横から薙ぎ払うようにして振るわれると、その刃の上を転がるようにして躱す。

 上から振るわれると左右に体をずらし、正面からの突きの一発はスライディングの様に体を動かして避ける。


「くたばれ、この死にぞこないが!」


 騎士の頭上に鋭い針のような形を作った靄が何本も現れ、騎士の声と共に一斉に発射される。

 ロウは慌てることなく深く息を吐くと今までよりも速度を上げ、針が着弾する手前を走り抜ける。


「なにっ!」


 驚愕の表情を浮かべて後ろに跳ぶ、が遅い。


「・・・逃がすか!」


 開いた間を一息で詰め、騎士に肉薄したロウは拳を叩き込もうと体勢をつくる。

 と、その瞬間。二ヤリと笑った騎士の顔を見たロウの背中に、ゾワリと悪寒が走る。


「もらったぁ。」


 気づかぬうちに黒い騎士を中心にした円を描くようにして、黒い靄がロウの足元に広がっていた。

 騎士の一言が言い終わるとその靄から鋭いとげが何本も一斉に生えてきた。とっさに下がって避けるが、


「遅い遅いオソイ!」


 何度も何度も生えては戻りを繰り返し、息が上がってきたところで靄を引っ込めるとそこには靄の及ばなかった場所に腕を振り上げているロウの姿があった。


「避けたのっ!」


 ロウが投擲してきた小さな瓦礫が騎士の顔面に直撃する。よろめいた隙をついて一気に距離を詰めたロウが殴り掛かると、騎士が急にもたれかかってきた。


「!」


 突然の出来事にロウの動きが止まり、騎士がそのままのしかかると動かなくなった。違和感を感じ、騎士の顔を覗くと青白い顔がそこにあり、目は白目をむいていた。


「死体?」


「『飛来 旋風 剣 其は万物を切り裂く鋼の幻影  鎌鼬かまいたち』!」


 声が死体の向こうから聞こえ目を向けると、そこには緑と黒が入り混じった髪をしている長髪の男がそこにいた。

 親指を直角に伸ばし、親指でひし形を作るようにして構えている。呪文と思われる詠唱が終わると、手のひし形から数匹の黒いイタチのような生き物が現れた。


「・・こいつら」


 それらは一気にロウに切りかかるわけでもなく、一定の距離を開けて周囲を飛んでいる。

 ひし形を作っていた手の形をほどき、両手を叩き合わせると同時にその生き物たちが一斉に襲い掛かってきた。


「・・悪いな、こんな使い方したくなかった。お前の無念俺が晴らしてくるから、許してくれ。」


 正面から襲い掛かる三匹に死体を投げつけると、その動物たちは死体を刻んで辺りに血をぶちまけた。

 その影に隠れて一直線に男のもとに向かう。血の幕が上手く功を奏したのか、動物たちの半数以上がロウを見失ったようで動きが止まっている。


「うおおぉお!」


 ロウが止まらないと見ると、その男もロウに殴り掛かってきた。

 無論今のロウに当たるはずもなく、男の拳は空を切るのに対してロウの一発は、男の顔面を確実にとらえる。


 間髪入れずに左足で男の右わき腹を蹴り上げると、肺の息を全て吐き出したようで動きが止まる。

 その直後に男の手を掴み、そのまま回転して近くの壁まで投げ飛ばした。


「がぁ・・・」


 一瞬意識が飛んだせいか、後ろまで迫っていた動物の群れは煙の様にロウに届く前に消えてしまった。

 投げ飛ばした男のもとに歩いて近づいていくと、それに対するようにして長髪の男も立ち上がるが、様子がおかしい。


「・・ああぁあぁぁあああっぁああアアアア」


「なんだ?」


 その異常な様子を見て途中で止まる。

 両手で頭を抱えて苦しんでいるように見えるが・・


「この体はオれノもんだアアアァァ消エロォ!」


「馬鹿なゴト言うなァ、私の体でエエェエエ!」


「・・何が起きてる?」


 ふらふらと歩いては戻り、倒れては立ち上がりとまったく意味の無い動きを続けている。

 それが二・三分ほど続いた頃急に壁に体を叩き付け、両手を広げて動くことを止める。


「コロセ!」


「んん?」


「早く、オレを殺せ。意識があるうちに、ハヤクウウゥゥ」


「サセン! させぬぞオォオ」


 一人の口から支離滅裂なことを言っているその姿を見て気づく。


「・・・まさか、まだ意識があるのか?」


「早クコロ・・・」


「させぬと言っテいルウうぅ! リリアアアぁァアアあ」


 広げた両手の片方をまるで壁から剝がすようにして手を振ると、その手を振った軌道に合わせて黒い靄が斬撃となって襲ってくる。

 それを躱そうと体を動かしたとき、横なぎに襲ってきた靄はロウの手前で急に上に向かって方向を変えた。


「・・早く、私を殺してくれ」


 汗をかいて、必死の形相で話しかけてきているその男にロウは静かに歩き出して答えを返す。


「分かった。」


「・・・ありがとう」


 安心した表情は一瞬で変わり、恐ろしそうに顔を引きつらせているものに変貌する。


「ふざけるな! 私がここまでどれほど苦労して来たと思ってる! お前らの考えなんぞ遠く及ばないほどに・・」


「・・今すぐ助けてやる。」


 気色悪い方の表情をしている男の声を無視して、本当の意識の方に優しく話しかける。

 男の表情は引きつったものから打って変わって楽しそうなものに変わる。


「何を言ってるんだ? そんなことできるわけないだろうが!」


「併合機、だったな。」


「そこまで知っていたカカかカカかか、そんな事するな。・・た、ダ、殺してクれればそれで・・・」


 苦しそうに話す男に向けてロウは首を横に振りながらも、歩く足を止めない。


「殺すべきなのはお前じゃなくて、もう一人の方だけだ。俺は無駄に命を奪うことを認めない、だから少し待ってろ。」


「お前・・・エエェエエええ、は言うことは立派だがその意味を分かってるのか? もう十年近く動き続けている併合機は毒と同じそれだ。素手で壊したらお前もただじゃ・・」


「武器ならあるさ。」


 ころころと滅茶苦茶な表情が切り替わり、今は気色悪い方だ。

 武器があるといった瞬間その顔は戦慄したように感じたがそれもすぐに戻って、すぐに笑顔に戻る。


「強がりはよせよ! 私を殺すと同時にお前も一緒なんだからなぁああアァァ」


「お前と心中なんて絶対お断りだ」


 そう言ってポケットからその武器を取り出した。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「さテ、食後はおいしお菓子に限るよネ」


 食事を食べ終わった後、皆がそれぞれ戻るときのことだ。


 紙袋から取り出したそのお菓子を口にくわえて思いっきり噛み砕く。

 バキン、と鉄が砕けるような異音が鳴り響く。


「おい、チビ。その耳障りな音を鳴らすそれ、今すぐしまえ。」


「何でサ、おいしいの二。」


 変わらずにボキボキ食べているソルドールの姿を見ている人物たちは、皆同じような渋い顔になっている。


「書庫のときも思ったけど、それなに? 明らかにお菓子じゃないよな?」


「お菓子、ですよ。」


 ロウの質問に答えたのは、苦虫をつぶしたような顔をしているリウだった。


「これ、『アダマンタイマイ』っていう亀の甲羅を粉にして、生地と混ぜて焼いた立派な焼き菓子なんですが・・」


「ですが?」


「アダマンタイマイは熱が加わると、その体を鉄の様に固くする性質があるんだ。」


「・・・鉄、か」


 お菓子の説明をするときに確実に使わないであろうその言葉を繰り返しながら、ソルドールが食べているそのお菓子に目を向ける。


「ん、その顔は信用してないネ? だったら食べてみるといいヨ、おいしいカラ。」


 ◇◇◇ ◇◇◇


 場所は分かっている。さっきの攻撃の際、体を殴った時の手触りがおかしい場所が一つだけあった。

 埋め込まれているならばそこだ、と狙いを定めてポケットから取り出した『徳用版の鉄のお菓子』を片手に持って走っていく。


 先程まで余裕の表情を見せていた気色悪い方の男は、一気に青ざめたような顔になる。


「ば、馬鹿な! そんなものいったいどこに・・」


 迫ってくるロウを止めようとするが、


「・・・・お、前も大人しくシロ。」


 本当の体の持ち主が必死に押さえつける。男の顔は半分が気色悪い方で、もう半分が本人の顔という異様なものになっている。


「お前は、年貢の納め時だ!」


 左手に持った『鉄のお菓子』がへその少し隣に突き刺さるとその瞬間、気色悪い顔をしている方から黒い霧が出てきた。

 少しづつだが確実に出てはいるが、


「オォオノォオオレエエェエエ!」


 靄が形作った剣がロウめがけて振りおろされるが、その剣が届くより先に


「消えろぉ!」


 振りかぶった右手が刺さったお菓子をさらに深くめり込ませる。

 そのまま男の体を突き抜けて後ろの壁にひびを入れると、小さな爆発音と共に悪魔の機械は消滅した。


「アアアァァアァァアアァァァアァァアァア・・・・」


 甲高い声の断末魔が辺りに響き渡る。その音量にロウは耳を塞いで耐え、声のする方に目を向ける。

 緑髪の男の体から大量の靄があふれ出てきているところで、声が聞こえなくなったと同時にその靄の流出も無くなった。


 倒れている男の顔は安らかな寝息を立てて眠っているようで、それを見たロウは安堵の息を漏らして急に押し寄せてきた体の疲れで座り込む。

 回りにくくなっている頭を回してこれからのことを考えていると、後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた。


「ロウ! どこだ!」


「おーい、ここだ!」


 叫ぶと同時にバチッと音を立ててロウの隣に現れたトールに驚く。


「・・お前、そんなに早く動けたのか。」


「そんな事どうでもいいだろ。それより、大丈夫なのか? 体の方は。実を食べたとか聞いたが・・」


「あぁ、食った」


「なっ!」


 特に何でもないように言い放つロウの姿を見てトールは固まる。

 その姿を見て終わったんだと改めて実感して立ち上がって、目の前に倒れている男の説明を始めた。


「・・ここに倒れてるこいつが今回の事件の被害者だ。」


「・・・加害者じゃなく?」


 体の硬直が溶けたようで、声の端に心配しているような感じがするのは気のせいだろう。


「あぁ、その辺の説明もここ出たら詳しく話すから・・・それでいい?」


「・・仕方ないな、絶対話せよ。」


 倒れている緑の髪の男を何でもないように担ぎ歩き出す。それに続いて歩き出そうとしたが、


「・・・あれ。」


 視界が大きく揺らぎ、立っていられなくなる。


「・・悪い、先に行ってくれ」


 そう言葉を言った事が最後の記憶となり、そのまま深い眠りについた。

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