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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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奥の手


長らくお待たせしてすいません。

体調不良もなんとか山場を越えたので、投稿しました。


しかし、治ったとはいえないので更新ペースは大分遅れます。すいません。

 

「あ、あなたは裏路地で・・」


『裏路地』という言葉を口にした瞬間、頭の中にあの場所が蘇る。

 湿った空気に暗い道、冷たい風が吹くその場所はキリエにとってトラウマとも言える場所であり、消えない記憶が刻まれた場所だ。


「死んだはず、ですか?」


 蘇った記憶に震えていると、途切れた言葉を繋ぐように話し出す。

 話しかけてくるその顔は、見る者全てに不快感を抱かせるようなものだった。


「だ、だってあの時、追ってきていた化け物に血が・・・」


「・・・体に飛び散るほどの勢いで潰されたなら、その武器はきっと盛大に汚れていたのでしょうね。」


 どうだっただろうか。あの時は相手の姿をよく観察できるような状況ではなく、どうやってこの場を逃れるかと考えるので精一杯だった。


 記憶を遡ろうとするが、いまいち思い出せない。頭を両手で抱えて思いだしていると不意に声がかけられた。


「ホントにあいつと行動してたのか?」


「・・・・はい。あの人と騎士長さん、金髪の騎士とその相方の騎士の人。それから坊主のバルトさん、その五人で行動していました。」


 キリエが話す内容に、ロウとシュロロは互いに驚愕の表情を見合わせる。何かおかしいことを言ったかと不思議がるが、後に続く言葉にキリエも戦慄することになる。


「・・・・・・四人だ。俺たちが監視している時に見た騎士の数は四人なんだよ。」


「え?」


「それに・・・」


 話を続けようとしたシュロロの前に黒髪の騎士が立つ。いきなりのことで反応が遅れ、その蹴りを躱そうとするが間に合わない。


「・・・ぶっ」


「敵が目の前にいるのに、何楽しくお話ししようとしてるの?」


「シュロロさん!」


 蹴りをもろにくらったが、ギリギリ踏みとどまりその足を掴んで後ろに引く。浮いた騎士の体を上から殴りつけようと拳を振りかぶるが、


「・・・くらうわけないでしょ。」


 振り下ろされた拳はいなされ、その勢いを利用して回転する。捕まれていない方の足がシュロロの頭を直撃した。

 うめき声をあげて近くの瓦礫まで吹き飛び飛び、むせた口からは大量の血が吐き出された。


「シュロロ!」


「次は君だよ。」


「!?」


 シュロロとの距離は十数mほど離れていたが、その距離を一瞬で詰めてロウの目の前に現れる。

 そのままの勢いを止めることなく黒髪の騎士の凶手がロウに刺さる。


「!」


 避ける間もなく直撃し、キリエの近くに吹き飛んだ。今のロウは肉体強化がされていない、本来なら直撃した時点で死んでいるはずなのだが・・


「うっ、ぐ・・・」


「ロウ!」


 隣で呻いているロウのもとへと駆け寄る。服が赤く染まるほど血を流しているロウの肩に触れるキリエの姿を見て、黒髪の騎士は歯噛みする。


「・・・『魔法士』。」


 シュロロの方を鋭い目で睨む。それに答える様に体を動かして立ち上がろうとするが、出来ずに膝をついて終わる。それ以上動くことは無く、そのまま止まってしまった。

 それを見てニヤつくように目を反らし、ロウの方に向く。


「呆気ないものだね、これで終わりとは。残念とは言わないよ? 何せ、数あるストックをあと二つまで減らしたのだからね」


 これで終わりではないと宣言してくると、青い顔がさらに青くなる。それを見て不気味に微笑むその男はロウにとどめを刺そうと、黒い剣を何もない空中から取り出しながら近づいてくる。


「さて、残りはこれだけだ。ここまで頑張ったご褒美に、君は楽に殺してやろう。心配するな、これまで何度も練習してきたんだからさ。・・・覚悟は良いね?」


 とどめを刺そうと剣を振り上げる、その瞬間目の前に黒い影が現れる。


「何のつもりかな?」


「・・・さ、させません。ただでさえ、たくさんの方を殺させてしまうような行動をとってきたのですから、最後ぐらいは・・・」


 ロウを庇う後姿はひどく頼りない。ロウから見るキリエの姿は少し震えているように見える。

 わざとらしい演技で剣を収め、イラつく口調で話しながら少し後退する。


「おぉ、その姿こそ国の王に関わる者だ。なんと美しいことか! あぁ、儚く散ると分かっているのに! あまたの命の上に素知らぬ顔で立ち、あまつさえ『王のふり』なんぞする滑稽なあなたに免じて条件を出しましょう!」


 この男は今、侮辱した。

 キリエの為に命をかけた騎士たちを、その騎士たちから渡された期待の心を、その期待の心に答えようとしているキリエ自身を。

 何より誰かのために命をかけようとしているその少女の覚悟を、この男は悍ましい笑顔で馬鹿にしているのだ。


 それを分かっているのだろう、悔しさのあまり唇を噛んだキリエの口の端から血が流れている。

 そうだとしてもこの状況ではその男の提案にのる他に、キリエが取れる選択は無い。


「何を・・・」


「来なさい。私に殺されるために、ここまで。ね?」


「ふざけるな!」


「・・・黙れよ外野。」


 立ち上がろうとするシュロロに黒い棒を投げつける。真っすぐとんだそれはシュロロを後ろの瓦礫に抜いとめる。

 さらに続けて四本放たれ、シュロロは身動きが取れなくなってしまう。


「・・・・・分かりました。」


「・・キリ・・・エ」


「大丈夫ですから。」


 話すキリエの声には恐怖の色が強く表れているというのに、それでなお立ち上がり、男の方に向かって歩き始める。


「・・・待・・て」


 口を動かすことがつらいが、それでも手を伸ばしてキリエを止めようとするが届かない。伸ばす手は空振りするばかりで触れる気配が無い。

 黒髪の騎士に向かって歩いている途中で突然立ち止まり、騎士に向かって言葉を投げかける。


「・・あなたにお願いがあります。」


「なにかな?」


「わたしがここで命を差しだしたら、この二人には手を出さないと誓ってくれますか?」


「それは立場を分かって言ってるのかな? ・・けど、良いよ。君のその勇気に答えようじゃないか。」


 その答えにキリエは安堵の表情をすると、一度立ち止まった場所から再び黒髪の騎士に向かって歩いていく。


「・・・お、い。キリエ・・・待て。」


「ごめんなさい。せっかく助けてくれようとしたのにこんな終わり方で。何もできない今の私にできることはこれしかないんです。」


「・・ダメ・・だ。」


 ロウの体が言うことを聞かず、体は鉄の様に重く動かない。あの時と一緒で、また・・・


「こんなこと言うのは少しおかしいと思うけど、私あなたに会えてよかったと思います。会って少ししか経ってないけど、それでもあなたのおかげで私は少し救われました。」


 この遺跡に逃げてきて、何度後悔したことか。今まで自分は人形みたいだと評していながら、あれだけ喜びもした。驚きもした。悲しみもした。悔しんだりもした。

 周りの人たちが冷たいんじゃなくて、自分の捉え方が間違っていたこと。


 自分の本当の心から逃げて、嘘で塗り固めた楽な世界に逃げ込もうとした自分を怒ってくれたこと。


 最後の最後に足りたいことに気づかせてくれたこの人にキリエは心から感謝している。


「そんなあなただからこそ頼みます。世界に今回のことを伝えてください。」


「ふざ・・けるな!」


 悲しそうな声で話すキリエの後ろ姿にロウはかすれた声を上げる。

 ここで止めようとするが、体が言うことを聞いてくれない。


「どうか分かって。あなたにしか頼めない。」


「それは、自分で・・・」


「お願い、ロウ」


 そう言って振り返っ顔は、恐怖が体を支配しているのだろう。涙を流して不安そうな顔をするその顔は笑っていた。

 ロウに微笑みかけてくるその顔を見てロウの頭にあの人物の姿が去来する。


 〔 お願い、ロウ 〕


 それはいつだったか。近いようで遠い、今でもたまに夢で見るその黒髪の幼馴染の姿。

 燃え盛る周りの炎の熱の中で冷たい彼女の体。抱き上げた体から流れた血の温もりは今でも忘れられない。


 それと同時にあの想いも・・・・


「シュロロォ!」


「『・・・・が身の血を(にえ)にして(かしこみ)み申し上げ(たてまつ)る』」


 静かに詠唱していたシュロロの魔法が発動する。それは一瞬の出来事だ。


 ほんの一瞬だけ強化されたロウの体は、この場において随一の身体機能となった。


 一瞬のタイミングを少しのズレも無く、完璧な動作で行われた攻撃は、完全な奇襲となる。はずだった。


「・・予想通りだよ」


 キリエの横を通り過ぎ、肉薄したロウに対して黒髪の騎士は剣を振り下ろされた。それを間一髪でかわして男の腹に拳を叩き込む。

 音を立てて腹に当たるも騎士は微動だにしていない。


「惜しかったよ、ただその強化の魔法が続かなかったね。怒るのならば彼に言いなよ?」


 そう言葉にされてからもロウは何度も殴り掛かるが、最後に体を当てたところで首を掴まれて持ち上げられる。


「見苦しいな。死に際はきれいに散るものだ」


 そう言ってボロ雑巾を投げ捨てる様にロウを放り投げる。地面に叩き付けられた後も転がり瓦礫に当たったところで停止した。


「あの二人には手を出さな・・・が・・・」


「そうだよ。けど、出してきたのはあいつらだ。だとしたらこちらが手を出したところで約束を破ったことにはならないだろ?」


「そ・・・んな・・・」


 掴まれる手を振りほどこうとするが、その手はかなりの力で握られているようで叩いたり掴んだりしてもピクリとも動かない。


「ククク、やっとだ。宿願が叶う時が来た。お前を殺してこれを使えば、我々はあの場所に手を伸ばすことが出来る!」


 仕舞ったはずのそれを取り出そうと、腰に付けたショルダーに手を伸ばすが無い。

 そこにあるはずのものが無いことに驚きを隠さずに目を向ける。


「・・・探し物はこれかい?」


 遠くから瓦礫にもたれかかったロウが何かを持っている。それを理解するのに時間がかかって動き出すのが遅れた。


 遅れたその時間のロスは大きなもので、いくら早く動けるといっても間に合わせる事は不可能だった。


「貴様! それを・・・」


 シャリ・・・


 そのホールに絶叫が木霊する。



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