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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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靄の向こう

 

 その男はとある土地の領主だった。


 東の国の近くに存在するその土地は、その場所にしか生えることの無い薬草を独自に栽培・加工して作られる特別な薬を売ることで成り立たせていた。

 その薬は万能薬に届く可能性を秘めているとされ、戦争中の世界にとってそれは一種の伝説に等しいとまでされていた。


 日々激化していく戦争の最中にある出来事が起きた。領主に子供が生まれたのである。


 生まれながらにして深い蒼の眼を持つその少年は教わっていないにも関わらず、ひとりでにエアを扱いだしたのだ。

 誰に教えられるでもなく、一人で扱うそのエアは一般的に『魔法』と称されるまでの力を秘めていた。


 時は戦争。事態は膠着。ならば欲するものはその状況を打破することのできる圧倒的な力。

 その男、『シュロロ・ゼスティー』が国から招集がかかることは当然の結果だった。


 招かれたのは小さな国だ。東の国という大国とは違い、その小さな国は近くに人間の集落があった為に日夜激しい戦闘が行われていた。

 長い戦いで息が切れてきている小さな国はその戦況を変えるために、シュロロという十一の少年を戦火の中に放り込んだ。


 結果は大勝。シュロロが投入されてわずか二日で戦況はひっくり返り、そのまま人間の集落を叩き潰すことに成功した。

 それからというもの、甘い汁を吸った小さな国の幹部たちは、シュロロを近くで起きている戦いの中に放り込んだのだ。


 結果は当然のごとく勝利、勝利、勝利、また勝利。続く報告に近くの町や村、さらには周辺の国々さえも小さな国に頭を垂れてきた。

 シュロロはこのときまだ十四の年だ。厳しい戦争という戦いに身を投じていても、まだ酸いも甘いも知らない少年だったのだ。


 そんな少年が小さな国に頭を垂れた国の姫様に、王の伴侶としてこの国にやってきたその女性に、心奪われることは仕方のないことだった。


 続く連勝、さらには国家の拡大で王は私腹を肥やすと同じく、自尊心も肥大化していた。故に、シュロロがその女性と駆け落ちしたことが許せなかったのだ。


 拡大した国家はシュロロに匹敵するであろう部隊をシュロロの抹殺に向かわせた。

 歴戦の英雄であるシュロロはその部隊と互角の戦いを見せる。簡単なことではない為、体はボロボロで傷つくばかりだ。


 そんな姿を近くで見ていた姫様は何度もシュロロに逃げ切ることはできないと説得した。だがその都度、


「大丈夫だ。これは俺が生まれて始めてやりたいと思ったことなんだ。」


 そう言って姫を説得してきた。一か月に及んだその逃亡戦の結果、小さな国は滅んだ。


 王の言葉を忠実に守る『殺せ』派、二人の姿に心打たれたものが集ってそれを防ごうとする『殺さない』派。

 その二つがぶつかり合い、シュロロが守ってきた民たちが剣をもって殺し合うその光景に若いシュロロは立ちすくんだ。長い戦いで消耗した今のシュロロでは燃えさかるこの国を救うことはできない。

 生まれて始めてできた『やりたいこと』の姫様も、自分の親が自分のために死んだことを聞くとシュロロの目の前で首を切って死んでいった。


 三日三晩燃えたその国の唯一の生き残りとなったシュロロは当然のごとく絶望に覆われる。


「・・・俺が悪かった。できもしないことを自分の力に自惚れて、できると錯覚してしまった。」


 そう言葉として告げた場所は元両親の骨の前だった。王城の前で倒れていたその骨は、プレゼントしたネックレスをかけていたおかげで一目で見つけることが出来た。


「・・今から謝りに行くよ」


 自らの力で浮かしたナイフが心臓めがけて真っすぐに飛んでくる。しかし、それがシュロロに刺さることは無かった。


「お前、何をしているんだ? 強い力を持つ子供がいると来て来てみれば何だこれは。・・説明しろ。」


 いきなり現れたそいつは全身が驚くほど白かった。シュロロを見つめてくるその黒い眼に誘われるように、起きたことを話した。

 罵倒される覚悟をしたが、その男から帰ってきた言葉は意外なものだった。


「・・・なるほど、そんなことが。もしお前に罪の意識があるならば俺のもとで誰かを助けることにその命を燃やさないか?」


「・・・・・。」


「なにを黙っている? ・・そうか、まだ名乗っていなかったな。俺はクロエ、クロエ・リュードだ。」 


 言葉と共に差し出されたその手を無意識につかんだ。そうしてシュロロの未来さきは確定された。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「おおおおぉぉぉ!」


 叫び声と共に力を振るう。どれだけ叫んでも体の中に生まれた熱は消えてくれない。

 それどころかうちに秘める火はどんどん勢いを増して燃えていくような感覚がある。


「邪魔をすルなああぁァァアあアア!」


 向かってくるのは巨大な象だ。ベヒーモスという名のそれは雄たけびを上げながらシュロロに突撃してくる。

 それに対してシュロロは慌てることなくその化け物と向き合う。




 その熱はどれだけ叫ぼうとも、マナを消費しようとも消えることなく燃え続ける。

 今までこんなこと感じたことは無い。・・・いや、一度だけある。あの時は初めての感情に舞い上がった若い自分だからこそだと考えていた。


 自分の力は自分のためにない。これは誰かを助けるために燃やすものだと思っていたし、これからもそうだろう。

 そうやって自分の心を氷の様に固めてしまえば苦しむことなど無い。それどころかいつも以上に力を振るえるような気さえしていたというのに・・・。




 右手を下から上にあげるだけで目の前の地面は音を立てて鋭く隆起し、鋭利な岩が刺さったその象は血しぶきをまき散らせながら弾け飛ぶ。

 弾けとんだ破片は地面に叩き付けられるやいなや姿を狗に変えて襲い掛かってくる。


 五十近い数のその狗にひるむことなく腕を振るう。足で地面を踏むと岩が隆起する。横に腕を振るえば風が刃となって岩もろとも切り裂いた。

 片手を虚空に向けてかざすと、その場所にブラックホールのような黒い球体が出現して漏らした狗をその黒い球に吸い寄せると、


「はぁっ!」


 両手を叩き合わせると同時にその球体が爆発、触れたものすべてを弾き飛ばしたのだ。

 これまでに受けたダメージが響き、視界が揺らぐ。


「もらっタァ!」


 いつの間にか背後に靄の男が迫っていた。ぼろぼろの体では避けることはままならない。


「させるかぁ!」


 振り下ろされた剣を弾き飛ばして間に入ってくる影がある。そいつはなんてことはないただの人間で、俺のサポートが無ければ一瞬で灰になるような奴なのに。なぜ・・・


「お前の相手は! 俺だろうが!」


「ぐっ!」


 次から次へと迫る拳に靄の男は防戦一方になる。鞘と剣を起用に使い分けて、たまに繰り出される素手の一発はそれだけで靄の男を悶絶させる。

 状況を打開しようと靄から化け物を召喚するが、それらはロウの動きを鈍らせることは無く出てきた瞬間に飛んでくるつららの前に消滅する。


「クソおおォぉオオォ!」


 苦し紛れに振るう黒い剣がロウに当たるはずもなく難なく躱される。踏み出された左足にロウは持っていた剣を突き刺して固定すると、鞘を男の顔めがけて下から上へと振り上げる。

 その一撃を避けようと体を反らすが足を固定されている為うまく避けれず、顎に直撃する。生まれた隙を逃さずに連撃を叩き込む。


 横なぎの蹴り、正拳突き、引き寄せてからの膝蹴り、回し蹴り。


 後退する靄の男は最後とばかりに声を出す。


「何故邪魔をする! お前とて人間だろうが! ならばお前はこちら側に立つべきだというのに!」


「んなもん決まってんだろうが! ・・お前が、」


 嗚咽を漏らしながらも話しかけてくる男にロウは絶叫に近い声をあげて言い返す。

 言葉と同時に放った貫き手が男の心臓の下あたり、みぞおちを直撃する。


「・・・か・・・・ぁ・・」


 苦悶の表情で腹を抱えて前かがみになるが、襟の辺りを掴んで引き起こして叫ぶ。


「気に入らないからに決まってんだろうが!」


 言葉と共に男の顔面に強烈な一撃がさく裂し、後方の壁にぶつかり音を立てて瓦礫に埋まっていく。

 シュロロから受けた肉体強化の効果もちょうど切れ、急に重くなった体を支えきれずにその場に蹲る。


 殴り飛ばしたときの確かな手ごたえに手を握っては開くを繰り返す。二人は満身創痍で、肩で息をしながら視線の先にある崩れた瓦礫に目を向ける。

 シュロロが召喚した白虎に守られながら、後方で見つめるキリエが呟く。


「・・・やったの?」


 呟くと同時に瓦礫に動きがあり、ガラガラと音を立てて靄の男が立ち上がる。

 内心でかなりの絶望を抱いているロウとシュロロは頬を伝う冷汗が止まらない。


「・・・まさか、ストックが全て消えるとは。やってくれたな。」


 聞こえる声は先程までとは違う明らかに若い男の声だ。正直、立ち上がった姿を見ただけで折れそうになる心に追い打ちをかける様にして認識したその声に二人は何も言えない。


「・・・随分と若いんだな。」


「年を取っていないからな。こうなのは当然だ。」


 砂埃の中から出てきた男の姿にキリエは激しく脳を揺すられる感覚が襲う。


「・・・・何で、あなたが・・・」


「知っているのですか? キリエ様。」


 口をパクパクさせるだけで言葉に出てこない。それを助けるかのようにその男は話しだす。


「知っているも何も、みんなと一緒に歩き回った仲じゃないか。ねぇ、キリエ様?」


 そう微笑みかける男は、鎧を脱ぎ捨ててまどろんだ瞳を浮かべる黒髪の騎士がそこにいたのだ。


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