灯る火
めっちゃ長いです。
久しぶりにこんなに書きました。
ロウが聞いた内容の意味が分からず二人は渋い顔になる。湧き上がってくる疑問をロウに問いただそうとしたが、耳障りな声で塗りつぶされる。
「なんだ! 知っているんじゃないか! 何故、教えてあげなかった? 皆がかわいそうだとでも思ったのかな? あはははははは!」
「・・・何を言っている?」
「・・・最初はなんてことない違和感だった。」
問い詰めるシュロロの言葉に、ロウはポツポツと話しだす。
「その疑問のきっかけは、戦争中に使用していた情報が浸透していなかったことだ。どれもこれも、少し調べればわかるってのに皆知らないことが不思議でならなかった。」
「なに?」
「次の違和感は調べている最中に何度も見かけた、戦争中の戦況だ。」
次から次へと話してくる言葉は全くつながらない言葉ばかり話してくる。
「人と魔族の差はお前らも知っている通り、決して埋まることは無い。にも関わらず、数百年戦争を続けられたのはなぜか。それは人間に考える知恵と悪魔の研究があったからだ。」
一つ、また一つと重ねられる言葉を聞くたびに、体の内側を何かが走り回っているような不安と不快感が同時に襲ってくる。
「届かない力は編み出した知恵で補うことで互角に戦うことが出来ていた。そんな奴らが、妖精の里を厳重に警戒している魔族がいるってことに気が付かないのがおかしかったんだ。」
「・・・・・。」
「戦争中の戦況はいたって互角で、これといってどちらかに傾いているようなものではなかった。それなのに、わざわざ出向いて捕まった挙句、本拠地をばらして戦争で敗北した。なんてこと誰が信じる?」
途中からロウが言いたいことが分かりだしているシュロロは、ロウを掴む手から力が抜けていく。それをゆっくりと外したロウがシュロロの顔から眼を逸らして言葉をつなぐ。
話す顔は非常に辛そうで、口に出したくないと思いはひしひしと伝わってくる。
「・・何が・・・言いたい?」
「一つの可能性だ。たった一つの可能性で、なんてことないただの妄想の産物で終わるはずだった。」
「・・・・ロウ?」
怯える表情でロウを見つめるキリエの瞳と、一瞬目が合うがすぐに逸らして続きを話す。
「・・終わってない可能性、数百年続いた戦争がまだ終わってない。これまでの事件も、王宮の襲撃もキリエの暗殺も全部! 戦争の延長線にあった可能性だよ」
「ど、どうして! 戦争は終わったって・・・」
「終わったんじゃない。終わらさせられたんだ、人間の手によって。」
ロウの予想を聞いた二人から表情が消え、シュロロは声を上げて怒鳴りつけてくる。
「・・なぜ言わなかった! なぜ! それほどのことをどうして!」
「そう怒らないであげなさいよ、彼だって悪気があったわけじゃない。」
「なぜ貴様が分かる!」
「分かるとも。もしそのことを言っていれば、後ろの彼女の様になっていただろうからね」
ロウを庇うように口をはさんだ靄の男の言う先を見ると、そこにはうずくまって肩を抱いて震えるキリエの姿がそこにあった。
その姿をみてシュロロから言葉が消える。
呆然と立ちすくむ三人を笑うかの様に、手を叩いてひどく明るい声でロウを褒めてくる。
「いや素晴らしい! 見事だよ、見事に届いたね。まさかここに来てバレるとは思いもしなかった。やはり君が一番危険という、私の判断は間違っていはいなかったことがこれで証明されたよ。」
「黙れ!」
靄の男のイラつく声にシュロロが反応して、靄の男に氷塊をぶつけようとするが、
「・・・それは意味が無いと分かっているだろうに。」
飛んでくる氷塊が直撃した。避けるそぶりも無かった靄の男への一撃に、倒したかと思ったのも一瞬で、舞い上がる砂埃が晴れて視界に入ってきた光景に目を見開く。
巨大な氷塊を周りにうろついている黒い靄が受け止めていたのだ。靄に触れている氷塊はだんだんと吞まれていき、最後はその全てが靄の中に消えた。
「返すよ。」
言葉と共に男の背後に靄が集まり、そこから先程の氷塊を撃ち出してくる。
とっさにロウはキリエを抱き上げて回避の姿勢をとり、シュロロは返ってきた氷塊を相殺しようと炎弾を放つ。
「間に合え!」
近くの瓦礫の影に隠れると、後ろの方で氷塊と炎弾がぶつかったようで、周囲は水蒸気に覆いつくされる。
「・・・さて、楽しい話もここまでだ。ここからは目的を遂行させてもらおうか。」
視界の悪い中でその声だけが異様に響く。声を聞くと同時にロウは確認した出口まで一目散に走りだして、視界の悪いその場所から抜け出した。
「逃がさないよ。」
いまだ晴れないその水蒸気の中から、黒い影が鋭利な刃物となって二人に襲い掛かかってくるが、突然隆起した地面がそれを防ぐと同時に岩の向こうから声が響いてきた。
「ロウ! キリエ様を連れてここから出て行け! キリエ様、どうか外に出て今の内容を王にお伝えください。」
「それじゃぁ、あなたは!」
「私のことなどどうでもいいでしょう。これは世界を揺るがしかねない問題です。」
叫んでいるシュロロの声は今までに聞いたことないような優しい声だった。耳に入ってくる言葉には一つの意志が込められており、それを二人は正しく認識していた。
「でも!」
「分かれよ! 世界と私の命、天秤にかけるまでもないだろう! 今ここで行かなくては世界があの頃に戻ってしまう。それだけは防がなくてはなりません!」
「そこか! 『踏み壊す巨獣!』」
靄の男の声と同時に空に巨大な象のような化け物が現ると、それにシュロロも対抗する。
「『一角の聖獣』」
隕石を連想させる象と雷を纏う馬がぶつかり合う。光と轟音が辺りを埋め尽くす中、その声ははっきりと耳に入ってきた。
「行け、後は任せた。」
「シュロロー!」
叫ぶキリエを抱き上げてロウは出口に向かって、迫ってくる光と音から逃げるように走り出す。抱えるキリエは体が震え、綺麗な顔からは大粒の涙が流れている。
その姿を見て、ロウは・・・
◇◇◇ ◇◇◇
そこは多くの煙に覆われていた。辺りは炎が燃えさかり、昼まで辺りを覆っていた歓声は今や耳をつんざくほどの悲鳴に変わっている。
「お嬢! 避難終わりました!」
「分かった。ロベルト、そっちは!」
『あと少しで完了します。・・・・完了しました!』
部下二人から完了の報告をもらうと今度は別の刻印石を手にもって声を上げる。
『全隊に報告! 国民の非難が完了したため、これより掃討を開始する。繰り返す、非難は完了した。これより掃討を開始する!』
そう言い放ったのち、了解の返事をもらったところで後ろにいる部下の方に振り返る。
「グリム、調子ハ?」
「問題ねぇです。いつでも行けますぜ、お嬢。」
自信満々に胸を張っている部下に、少しの安堵を覚えて指示を出す。
「これより第二部隊は正面より敵の掃討を開始する。グリムは先頭に立って兵士たちの先を開いたのち、ロベルトと合流。そこからはいつもの通りに。」
「了解!」
『了解しました』
前からと手元にある刻印石から声が聞こえると通信が切れ、目の前にいるグリムは部屋から出て行った。
その部屋は非常用の通信設備があり、数人がそこでせわしなく動き回っている。そんな中で誰にも見つからないようにポケットにしまっていた別の刻印石を取り出して見つめる。
「全く、こんな時に連絡の一つも寄越さないなんテ。不謹慎にもほどがあるヨ。」
王宮が襲われた時から何度も連絡を取っているが一向に返事が返ってこない。いつもはクソ真面目に返してくるシュロロが、今になって返してこないことに多少の焦りはあった。
ここで考えても仕方ないと、ソルドールも向かおうとポケットにしまおうとした時、パキリ、と音を立ててその刻印石が割れてしまった。
それをみて焦りは不安に変わる。割れるはずのない石が割れるなどただ事ではなく、小さな声で無事を祈る。
「・・・シュロロ」
その声は誰にも届かない。
◇◇◇ ◇◇◇
「・・・はぁ、はぁ、はぁ」
掠れた息を吐き出す口からは大量の血を流している。体は重く、心も折れかけているシュロロの目の前には靄の男が立っている。
「・・やってくれたね。さすがは神将というところか、まさか最後になってこんなに抵抗してくるとは。やはり、最後の仕事は今までとは違うようだ。」
「調子に乗るからそうなるんだ。」
全力で魔法を使う準備が整ったのだが、少し遅かったようだ。体内の魔力路は久しぶりに温まっているが、体の方が先に限界を迎えたようで動こうとしない。
顔は見えないが悔しそうな顔をしているであろうその男を見上げて、余裕を見せる。
それをみた靄の男は手を額に当てて放つ言葉には悔しさがにじんでいるように思う。
「全くだ。だからこそ奥の手を使わなければならないとは。」
「・・・・は?」
「本来は使うつもりなど無かったのだよ。あれに任せてしまうと形が残らん。せっかくここまでお膳立てした上に、練習まで積んだのだぞ? それが最後の最後に無に帰するなど、悔しいったらない。」
靄の男が話す内容が理解できない。したくない。
「あれは失敗作だ。最期をあれに飾られるとは・・・。」
「な・・にを・・・」
シュロロの様子に気づいたのか、男は少し嬉しそうに語りだした。
「何を、とは変なことを聞いてくるね。当たり前だろう? 長い時間をかけて綿密に計算して動いてきたのだ。最後、逃げられた場合のことも考えているに決まってるだろうに。」
「・・・・。」
「・・・君のその顔のおかげで、私の不満も少しマシになるというもの。そんな君には恨みと感謝を込めて一思いに嬲り殺してやろう。」
あぁ、俺はなんて馬鹿なんだ。今回の一件の最初から最後まで振り回されたまま終わってしまった。
最初は人間なんぞ殺してから、本物の犯人を捜せばいいなどと思い上りも甚だしい。結局最後はその人間のおかげでここまでの状況に持ってこれた。
しかし、最後の最後に俺はしくじった。そうだ、相手は周到に準備を重ねているということを失念したせいでもしかしたらあの二人は死ぬかもしれない。
「さらばだ。」
すまない、俺がもっと早くに動けていれば・・・・
鋭い刃と化した黒い影がシュロロに襲いかかる。己の不甲斐なさに目をつむり、死を告げる一撃を待つ。
が、
「なん・・・」
その一言共に、何かが遠くでぶつかる音が聞こえた。
「・・・魔力が通らない攻撃は靄じゃ防げない、予想通りだ。」
聞き覚えのあるその声に目を開けると、そこには見たことのある執事の服を着たあの人間がそこにいた。
「ロウ、お前・・」
「どうした、ぼろぼろじゃないか? あの余裕はどこにいったんだよ。」
チャラけた雰囲気で話しかけてくるロウにシュロロは声を荒げて叫ぶ。
「・・貴様何をしている! キリエ様を連れて行けと言っただろうが!」
「あぁ、それ? ・・・やめた。」
「やめ・・・・」
悪びれる様子もなく、開き直って笑いながら話してくるロウにシュロロは我慢の限界を迎えて掴みかかる。
「ふざけるな! お前の気分で動かれてたまるか! 今、何が一番優先すべきことか考えれば分かるだろうが!」
「まぁ、落ち着けって。」
「落ち着くなどできるわけないだろうが! ここでお前が残る意味など無いだろう。世界があの時代に戻ることを防げるならば、俺の命など・・・」
叫ぶ言葉は左頬に感じる熱に途切れ、それが殴られたのだと気づくのに少しの時間を要した。
「何を・・・」
胸ぐらを掴まれて引き起こされ、ロウとにらみ合う。
「お前、それが一番いいと本気で思ってんのか?」
「当たり前だろ。世界と俺の命など比べるまでもない」
「・・・あれを見てもそう思うのか?」
先程の激突で落盤したこの場所は、先ほどよりも多くの瓦礫が積もっている。シュロロのすぐ近くの瓦礫からこちらを覗いているキリエが目に入る。
目が合うとこちらに駆け寄ってくる姿に、遠目では先ほどとは変わらないように見えたが、シュロロに触れる手は震えている。
顔をあげてキリエの目を見ると、不安と後悔、罪悪感が入り混じったようなグチャグチャな感情を見せていた。
「お前は良いさ。任せると一言残して、後は死んで楽になるんだから。」
「・・なに?」
「残された方はどうなるんだ。勝手に任せるとか、頼むとか言って消えちまう。目の前からじゃなくて世界からな。」
胸ぐらを掴む力がさらに強くなり、ロウがシュロロを立たせるまで引き上げる。
「それがどれだけ重いかお前は分かってんのか? 自分が生きるために、他の奴らの屍を踏み超えていくことがどれだけ・・・」
「お前・・・」
「・・確かにお前の言う通り、救うなら世界っていうデカい命救った方がいいに決まってるさ。・・・けどな、」
俯き一度言葉を区切ったあと、再びシュロロのほうに視線を向けて話す。
その目に歴戦の戦士でも図ることのできない深い闇を宿しながら・・・
「目の前にいる少女一人救えねぇで世界なんぞ救えるわけないだろう! ましてや、『死ぬしかない』なんていってる陰鬱野郎なんかの命を、背負わせられようとしてんなら、なおさら放っておけるわけないだろうが!」
そう言ってシュロロを突き飛ばす。後ろの壁に背中を預けて辛うじて倒れることはしなかった。
「・・お前のうっすい辞書にでも刻んどけ。命を捨てるだけが最良の選択とは限らないってな。」
「ロウ・・・」
名前を呼ぶと同時に、壁際の瓦礫が吹き飛んで靄の男が現れた。
「戻ってきてくれてありがとう! おかげで私が最後を飾れるぅぅううぅ!」
瓦礫を飛ばすと同時に影から数匹の狗を召喚した。その狗はロウたちに真っすぐ向かってきており、それを視認した瞬間ロウがその狗めがけて走り出した。
取り残されたシュロロは呆気にとられ次のことばが出てこない。呆然としていると、隣にいるキリエが話しかけてきた。
「・・・あの人が。ロウが私に聞いてきたんです。」
「・・・何をですか?」
「難易度は高いがいい終わり方と、楽な悪い終わり方。どっちが良いって。」
「・・・・。」
何も言うことが出来なかった。それは未来を諦めた恥ずかしさからか、それとも己の弱さからくる惨めさか。
「私は良い終わり方が良いと思った。けど、この状況からじゃどうしようもできないから、あなたの死を無駄にしたくないって言ったの。」
「では・・・」
「出来る・出来ないは結果でしかない。『出来ない』をやらない理由にしたら、一生足元を眺めることになっちまう。だから、最後に聞くぞ? キリエは何をどうしたいんだ?」
「!?」
「そう言って怒られちゃいました」
涙にぬれた目で見つめてくるキリエの顔は先程よりも明るくなっていた。
その顔を見て、折れかけたシュロロの心に火が灯る。
◇◇◇ ◇◇◇
両手に持った剣と鞘で狗をいなしつつ隙を見て切りかかるが、相手も用心しているようで一定の距離を保ち、死角からしか攻撃してこない。
「粘りますね。では、コレでどうでス?」
さらに追加で倍の狗を吐き出してきた。いくら肉体を強化されているといってもその数に押されるしかなく、少し耐えたがそれも一瞬で溶け合い一つになった三体の巨大な狗に捕まってしまう。
巨大な足に踏まれており、力を込められればあっという間に潰されてしまう。
「ぐっ・・・」
「ここまでしてやっとデすか。あなたには早々に消えてもらうべきでしたが、コレで終わりです。潰しなさい!」
のしかかる重さは秒刻みで増えていく。骨がきしみだし、潰されそうになったときだった。
「『天に住まう虹の蛇』」
まばゆい光を放つその蛇は、その身を七色に光らせくねらせながらロウにのしかかる狗全てを飲み込んで消え失せた。
「何をしている。先ほど、あれだけ啖呵を切ったくせしてこの始末か?」
「・・・お前に見せ場作ってやろうとしたんだよ。ありがたく思うんだな。」
ずっと着ていたコートと上着を脱ぎ捨て、いつもの袴に黒いTシャツというラフな格好になっていた。
「馬鹿が。死人みたいな顔で言われたところで説得力に欠ける。」
「そういうお前こそ、随分と死にかけてたじゃねぇか。」
「・・・忘れたな、そんな昔のこと。」
「はっ、出来の悪い頭だこと。」
うずくまるロウの隣にシュロロが並び立つ。それを横目で確認したロウも立ち上がり、体を軽く動かして調子を確かめる。
「調子は?」
「最悪だ。」
「じゃ、問題ねぇな」
纏う気配が変わった二人を見て、靄の男はここにきて初めて感情を表した。
「貴様ら! いイ加減にシロ! このくタバリ損いどモがああぁぁあ!」
感情の変化と共に肥大化した靄から二匹のベヒーモスと呼ばれた象が現れる。
靄の男を中心に左右に立つその象は、六本の牙が生えており、六本の巨大な足、六つの目三本の長い鼻が生えている赤黒い化け物だ。
「・・本気で言ってるのか?」
「あぁ。あの靄の特性はいった通りで、物理は通る。ならばやり方は一つだけだ。・・今言ったのは最後の手段。どうしようも無くなったらそれに頼るしかない。」
「お前・・・」
「あれだけ言って何だが、もしもの時は頼むぞ?」
ロウに向けた視線を外し、靄の男に向き直る。油断なくにらむその目は先程までとは別人のようだ。
「・・・分かった。」
パキリと鳴らした指の骨の音を合図に、最後の闘いが始まる。
明日もしかしたら上げられないかもしれません。
もしそうだったらすいません。




