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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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まさかの合流

 

 背後から迫ってくる数匹の狗から逃れる様にしてその部屋に入り込む。

 目の前に広がっている景色はこれまでと同じように多くの瓦礫が存在しているだけで、外に出たわけではなかったのだ。


「そんな・・・。」


 視界に移る光景に心が折れる。キリエはその時点でここから生きて出ることはできないと強く確信できてしまった。

 一緒に来たロウという男は人間で、シュロロから力を強化してもらっているとはいえ、追いかけてきた化け物に勝つことはできないだろうと。


 今まで感じていなかった疲労感が一気に体に広がり、おぶさってはいるが地面に埋まっていくような錯覚に襲われた時だった。


「荒いのは許せよ!」


「きゃあ!」


 なるべく丁寧に下ろそうとした結果なのだろう。スライディングの形でしゃがみ、背中にいるキリエを勢いそのままに地面に揺すり落とす。もちろん衝撃はすごいもので、そのまま数回地面を転がった。

 ロウの方に視線を向けると地面に下ろしたときの流れを止めることなく、キリエをおぶさった時に使っていた剣を抜いて、一目散に化け物が来ている入り口の方に向ってかけて行った。


 入り口の少し通路側の方で双方はぶつかった。数は四匹。

 最初に跳んできた狗の下に潜り込み、腹にめがけて剣を突き立てる。跳んでいる狗は止まることが出来ずに、自分の勢いで自分の腹を切り裂くことになり、着地したところで息絶える。

 二匹目がロウの隣をすり抜けようとしたところを体を当て、壁と挟み込んで動きを止めてその後に続く三匹目を持っている刀で突き刺して殺す。


 三匹目の頭にうまいこと刺さり、死んだことを目で確認すると剣を引き抜いて抑えていた二匹目の首を切り落とす。

 動きが止まったところに四匹目が襲い掛かり、ホールの中に転がって来たところで止まると、それから動かなくなった。



「・・・・ロウ?」


 恐る恐る声を出してロウの無事を確認しようとした瞬間、ロウを抑えていた狗がいきなり動き出した。


「!?」


 その突然の行動に息をのんだところで、動き出したその狗が倒れこむ。それと引き換えに狗の下から血に濡れたロウが起き上がってきた。


「・・・危ねぇ、死ぬかと思った。」


 ずるりと体を抜いて立ち上がり、狗に刺さった剣を引き抜いて血を払う。そのまま歩いてキリエのもとに向かい、落ちている鞘に剣をしまう。


「怪我とかしてねぇか? わざとじゃないから許してくれよ。」


「・・大丈夫、なんですか?」


「あぁ、特に問題ない。しかし、シュロロ様様だな。肉体からだ強化してなかったら俺今頃死んでるかな?」


 笑いながら話しかけてきているロウにつられてキリエも強張った顔が緩む。互いに無事を確認したところで、再びおぶさろうとしたが本人がそれを断って自分で歩くということで、二人で歩いてホールの出口へ向かう。


 キリエと出会ったホールよりもかなり大きく、出口まではかなりの距離がある。入り口の正面にある出口に向かって歩き出した時だった。


 グジュリグジュリ と音がする。


 背中をなめるような気持ち悪さを感じさせるその音に、二人は立ち止まる。気づいたのは同じタイミングだったらしく、二人が顔を見合わせて後ろを振ると動き出している先ほどの狗がいた。


「なんだあいつ」


「・・・・。」


 さっきまではそこまで大きくなく、せいぜいロウの身長の四分の一程度の大きさだったが、今の目の前にいるのは数匹の狗が溶けて混ざり合い、一つの大きな狗と変化したところだった。

 その異形な姿にロウは逃げようと動き出すが、キリエの方が狗の姿に呆気に取られているようで動かない。


「おい、おい! キリエ!」


 自分の名前を呼ばれることで我に返る。目で逃げようと出口を指して動き出すも少し遅かった。叫んだ声で我に返ったのはキリエだけではなかったのだ。


「ガルゥゥゥウラアァァァ!」


 遠吠えというよりは絶叫に近いその爆音の声が上がると同時に二人の後を追いかける。

 先ほどまでとは違い、このホールの天井に届くんじゃないかというほどの大きさをしているその狗は、あっという間に追いつき飛び越えて出口の前に立ちふさがる。


 脇をすり抜ければ何とかなるような距離に出口があるわけでもなく、かといって倒せるような規模の相手でもない。

 不安からロウの服の裾を掴んでいるキリエの気配を感じつつ、どうにかしようと頭を巡らせるが案が一つも浮かんでこないこの状況で、

 手に持っている剣は目の前の狗と比べると、細い枝のような貧弱さを醸し出しており頼りないにもほどがある。


 その巨大なその狗の二つの頭にそれぞれ一つづつついている巨大な眼球に睨まれると同時に、あたりが大きく揺れだした。

 その揺れはあまりにも大きく、立つことはままならない。それは目の前の狗も同じようで、その揺れに少しふらついている。


 何が起きているのか辺りを見回しているとき、後ろの一部の壁が大きく崩れたその瞬間


「『光り輝く炎の鳥タラク・キュー!』」


 地面が揺れる音で埋め尽くされる中でその声は一際大きく聞こえた。

 その声が聞こえると同時に、目の前にいる狗に燃える鳥が襲い掛かる。その鳥はあまりにも強く光っている為に直視できず、狗と同じ大きさであることしか分からない。さらにはだんだんとその光が強くなってきているようで、周囲の景色がその光に飲み込まれそうだった。


 その明るさに顔を俯けて地面に手を触れると、手から伝わる震度が収まってきていることに気が付くと同時、近くにいるキリエを抱きあげて走り出す。

 近くの瓦礫の影に隠れると同時にその二体は轟音と爆風をもって消滅した。


  「何が・・・」


 瓦礫の影から頭を少しだけ出して当たるの様子を見る。先ほどの爆発で辺りは砂埃が舞い上がっていて見通しが悪い。

 崩れた天井から舞い込む風が砂埃を薙いでいくと、片方が膝をついて片方が立っている人影が見えた。


「シュロロ」


「おや、まだ生きていたのですね。てっきり先ほどの爆風にのまれたかと思ったのですが。あなた、なかなかに経験豊富ですね。」


 寒気がする声に返されてロウは何も言えなくなる。舞っていた砂埃も消えてあたりが見える様になった今、二人の状況を見てロウは戦慄した。


「おい、お前何してんだ?」


「・・黙れ。」


 落ち着いた今になってキリエが頭を上げて周囲の様子を見まわし、二人の光景が目に入ると口を手で覆って絶句する。


「ほう、姫様も無事とは。いやいや、なかなかにしぶといですね。最後は簡単にはいかないと言われて鼻で笑いましたが、こうして実際に対面するとその言葉を深く実感しますな」


 最初に見た時と変わらない姿で黒い靄がそこに立っていた。もしかしたら何かしら変わっているのかもしれないが、変わっている印象が無い。

 それに対してシュロロの方は全身が汚れており息も絶え絶えで、見るからに限界を迎えていそうな感じが分かる。


「・・・なぜまだここにいる。あれだけの時間があればもう少し進めるだろ。」


「こっちもいろいろあったんだ。それよりお前、ぼろぼろじゃないか。どうしたんだ、強いんじゃないのか神将って!」


「・・・こっちもいろいろあったんだよ。」


 立ち上がろうとして再び崩れ落ちる姿を見て、キリエはシュロロに慌てて近づく。


「シュロロさん!」


「何をしているのです、早くあの男と一緒に・・・」


「その怪我で何を言っているんですか!」


 声を荒げてシュロロの様子を見る。体のいたるところに傷だらけで、呼吸が不規則に動いている。


「お前、呼吸が・・・」


「黙れ!」


「?」


 ロウだけが気づいたことでキリエが分からなさそうに首をかしげている。

 その様子を見ていた靄の男は嬉しそうに話し出した。


「お二人とも、お久振りですね。またこうして集まるとは思いもよりませんでした。こうして集まることが出来たということは、また楽しくお話しが出来ますな」


「・・お前、ちょっと黙ってろ。こっちは忙しいんだ。」


 シュロロの傷に薬を塗りながら靄の男の言葉にロウが返す。それが嬉しいようで、靄の男は止まることなく話し続ける。


「ほほ、そうそう冷たいことを言わないでくれ。せっかく楽しくなってきたのだからな」


「お前だけだ。こっちはちっとも楽しくないし、それどころか気分が悪くなる一方だ」


「といいつつ言葉を返してくるあたり、状況の判断がよくできてる。」


 止まることなく話し続けるその靄の男は後ろ手に手を組んで、話をする態勢をとる。

 それを横目で見ながら残り少ない薬をシュロロの深い傷に塗っていく傍らで、キリエはシュロロに包帯を巻いていく。


「そんな健気な君らに対して、有益な話をしようじゃないか。」


「有益な情報だと?」


 顔色の悪いシュロロが靄の男をにらみつける。その顔には深い疲労が見えており、話すことすら辛そうだ。


「先ほどからそこの彼、シュロロ君が言っていた『目的』についてだよ。」


 薬を塗り終わったロウが、空になった薬の入れ物を捨てて靄の男に振り返る。


「目的だと?」 


「そうだよ。今更という感じはしないでもないがね。」


 少し笑ったであろうその男に怒り口調で噛みつく。


「何が言いたい!」


「何がって、君らこそ何を言ってるのか私には分からんのだがね。だって、知っているのだろう? 我々の目的ぐらい。」


「な、にを?」


 狼狽えるシュロロに靄の男は告げる。


「そこの彼、確かロウとか言ったね。君ならば知っているんじゃないのか?」


 その場にいる人物の視線がロウに向けられる。その視線には気づいているようで、わざと目を合わせようとしない。


「・・・なぜ、そう思ったんだ?」


「これについてはこれと言って理由は無いよ。しいて言うなら私の勘というところかな。ただ、少なくとも我々の目的に近い考えを持っていなければここまで推理することは難しいと思うんだが?」


「おい、どういうことだ! 何か考えがあったのか! 答えろ、ロウ!」


 後方で叫ぶシュロロの声は聞こえているはずなのにも関わらず、ロウは歯を食いしばって黙っている。その様子に痺れを切らしたシュロロが襲い掛かる前に、靄の男がロウに向けてことばを放つ。


「もし、口にすることが億劫ならば何か聞いてみるといい。君からの質問ならば私は真実という誠意をもって答えよう。」


 そう告げる靄の男は手を広げ、歓迎しているような素振りを見せる。

 それでもなお口を開こうとしないロウにシュロロは立ち上がり、胸ぐらを掴む。


「おい! いい加減にしろ! お前は一体何を隠しているんだ、答えろ!」


 掴まれた拍子に視界にキリエの不安そうな顔が入る。それを認識した途端、腕を払って靄の男に向き直り、それからポツポツと言葉を発した。


「・・・・お前らは、いつまで・・・・続けるつもりだ。」


 そう言葉を発した瞬間、靄の男は盛大に大声を上げて笑い出し、ひとしきり笑った後返事を返した。


「無論、終わるまでさ」


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