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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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救出から逃亡

 

「・・・・・誰?」


 光に照らされたその少女、姫様はロウの方を不安げな眼差しで見上げてくる。予想はしていたが、いざ聞かれると言葉に詰まってしまう。


「・・あー、それは後で説明するとして今は置いとこう」


 足の傷を見ようと近づくとキリエの肩が大きく跳ねた。それを見たロウは頭を掻きながら暗闇の向こうにいるであろう人物に声を発する。


「やっぱりお前の方が良かったんじゃないか? シュロロ。」


「阿呆。人間のお前が見張ったところで対処できなければ意味ないだろうが。」


「・・・・シュロロ?」


 ロウの言葉の中に聞きなれた人物の名前が出たことで警戒の色が薄れたようで、強張った顔はいくらか柔らかいものになる。


「キリエ様、今はその男に従ってください。」


 怯えた瞳でロウを見上げてくる。なるべく怖がらせないようにロウも気遣って話す。


「詳しい説明は後で絶対するから、今は俺の言うことを聞いて欲しい。この場所は少し見えすぎる。だから少し動かそうと思うんだけど、良いか?」


「・・・分かり、ました」


 ロウはキリエを光の中から連れだそうと抱き上げると、触れた肩からは微かな震えが伝わってくる。

 その震えを抑える様にして運んだ先は、ちょうど座れるぐらいの高さに積み重なった瓦礫の上にそっと下ろし、赤く染まったスカートに目を向ける。


「・・・怪我を見るから少し破くぞ。」


 一応声を掛けてから破れた部分を大きく開き、傷を確認する。


「・・・いっつ」


「おい、丁重に扱って差し上げろ」


「これでも配慮はしてるさ。・・・そんなに傷は深くないな。浅く広く切れてるせいでひどい見た目に見えるだけか」


 診断が終わったようで、腰の袋から何かを取り出して足の傷口に塗っていくと出血が止まり、痛みは収まったが傷はまだそのままだ。

 追加で取り出した包帯を巻くころには気分も落ち着いて周りが見れるようになっていた。


「シュロロさん、何でここに?」


「・・・話せば長くなるのですが、短く伝えるならばそこの男からの情報でここにあなたを助けに来ました。」


「・・・この、人が?」


「俺はロウ。怖がらせるつもりは無かったが、悪かったな。シュロロが言った通り、俺の提案でここにあんたを助けに来たんだ。」


 話し終わると同時に包帯も巻き終わったようで、視線をキリエの方へと向けてくる。


「なぜ、ですか? 見たところ兵士や騎士ではないように思うのですが・・・」


「確かに俺はそんなんじゃない、けど答えは簡単だ。・・・連続殺人なんて不名誉な疑いを晴らしに来ただけだよ」


 聞いたことのある『ロウ』という名前について思いだした。

 上、下の町で凶悪な事件が起きていること、その犯人が『ロウ』という人間であること、牢屋を脱獄したということを。


 ロウの言葉を補足するようにシュロロが後をつなぐ。


「・・・それは冤罪だったんですよ。捜査を進めていくにつれ、この人間が犯人である証拠が消えていきましてね。」


「で、やっと本物の犯人に出会えたというわけだ」


 二人がむける視線の先にキリエも目を向けると、そこには氷漬けにされた男がいた。遠くて顔はよく見えないが、それはとても禍々しいように感じる。


「・・捕まえたの?」


「えぇ、一応は。」


 その回答に深く胸をなでおろす。今まで体を覆っていた不安はほとんど消え去り、安堵の表情でさらに問いかけを続ける。


「じゃぁ、後はここから出るだけ・・・ですよね?」


 少し明るくなったキリエの表情を見て、ロウはバツの悪そうな顔をして立ち上がる。


「・・・出れたら良いけどな」


「・・え?」


 続けて言葉を発しようとしたが、それはシュロロの鋭い言葉で遮られた。


「・・・来るぞ」


「・・・出て来たのか?」


「これを破った奴は過去に何人かいるが、こんな脱出の仕方は初めてだ」


 立ち上がり、シュロロの方に向けて歩き出したロウが向ける視線の先をキリエも追う。 

 二人の視線を追うようにして向いた先には、氷をすり抜ける様にして出てきている男がそこにいた。


「素晴らしい! 予定に多少の狂いはあったが、それでも順調に進んでいたと考えていたんだがね。」


 体全体に黒い靄がかかり、その顔がいまいち判別できない。氷塊から完全に出てきたその男はこちらにゆっくり歩いてくる。


「今ごろ、皆で王宮にいると思って油断したよ。まさかこちらに気が付くものがいるとは思いもよらなんだ。」


 年老いた老人をイメージさせるような話し方で明るく話しかけてきているが、受け取るこちら側からしたら不愉快以外の何物でもない。


「教えてくれないか? いったいどこで気が付いたのかを。」


「何でお前にそんな事言わなきゃいけないんだ?」


「私はね、知りたいことがあればとことん調べる性格でね。この大事な時に、邪魔が入らないよう複数の罠を張ったにも関わらず、こうして邪魔されている。・・・知りたいと思うのは当然じゃないか!」


 黒い靄に隠れて顔は見えない。しかし、顔が見えずとも話している表情は満面の笑みであることは容易に想像がつく、そんな声色で話しかけてきている。


「・・・気色悪い奴め」


「そんな事言わずに、教えてくれよ! 頼むよ! なぁ、何で分かった? どこで気付いた? この計画についてどこまで知っている? 何故この場所にいると分かった? 我々について何を知った? 聞きたいことは山ほど出てくる。・・・のに、足りない、分からない、知らない、知りたい、聞きたい、教えて、教えろ!」


 ロウの方に向ってくる速度が上がってくる。あと十数m程まで近づいてきたところで、急に止まって後ろに大きく飛び跳ねた。

 瞬間、何もない空中から無数のつららが降り注いだ。靄の男が先程までいた場所から飛び跳ねた場所まで、鋭い氷で埋め尽くされた。


「・・・・一体、何をするのかね」


「それ以上口を開くな、耳が穢れる。」


「こちらが気持ちよく話をしていたというのに、いきなり攻撃するとは礼儀というものがなってないのではないか?」


 シュロロは右手を上にあげるとその頭上に大きな氷塊が生まれた。腕を振り下ろすことでその氷塊を靄の男に向けて飛ばすと、途中でその氷塊の形が変わって巨大な龍となって男を襲う。

 大きく横に跳び、それを回避する。龍がぶつかった場所には剣山のような氷の塊が生まれていた。


「・・・口を開くなと言ったはずだ。 耳が悪いのか?」


「やれやれ、取りつく島もないなぁ。これはどうしたものか」


 顎に手を当てて、考える姿勢をとっている靄の男を視界に入れながらロウはシュロロに確認をとる。


「・・・予定通りで良いんだな?」


「あぁ、今のところはそれでいい。さっさと行け、邪魔だ」


 ロウの肩に触れてシュロロは前へと歩き出し、入れ替わるようにしてロウは下がりキリエのもとに向かう。

 シュロロの攻撃に呆気に取られていたようで、近付いてきたロウに遅れて気が付き少し驚いた表情を見せた。


「逃げるぞ」


 そう言ってキリエの前に背中を向けてしゃがむが、キリエの方から何のアクションも無い。

 どうしたのかと後ろを振り返ると、そこには顔を赤くして何やらやたら狼狽えているように見える。


「・・・何やってんだ?」


「え、えっと・・・。」


「恥ずかしがってる場合か! 時間無いんだから早くしろって!」


「・・・・うぅ、お願い・・・します。」


「何をしている! さっさと行け!」


「分かってるって!」


 シュロロからの怒声を聞きながらも、キリエがロウに体を預けるのを感じると立ち上がって出口を探していると背中から腕が伸びてきた。


「・・あそこの入り口です。」


「あれか。」


 指差された方向にある入り口を確認すると一気に駆けだした。ちらりとシュロロの方に一瞥を向けると、それにこたえるかのように頷き意識を再び靄の男に向ける。


「ここから先は通さん。しばらくは俺と遊んでもらうぞ?」


「・・・やれやれ、どうやらこれから話し合いではなく鬼ごっこが始まるようだね。逃がさないよ。」


 ロウが走る姿をみた靄の男は、目的の入り口に向けて走り出そうとするが目の前に現れた氷壁に塞がれて立ち止まる。


「通さんと言ったはずだ。本当に耳が悪いらしいな、一回死んで直して来たらどうだ?」


「それには及ばない。これで十分に役割を果たしているからね。・・・それに、私も言ったはずだよ? 逃がさないとね」


 靄の男が腕を縦に振ると、周囲の靄が鋭い斬撃となってシュロロに襲い掛かる。それを一歩も動かずに眼前に氷壁を張って身を守る。半分ほど影が食い込むがその斬撃がシュロロに届くことは無かった。


「・・・『双頭の狗オルトロス』」


「何!」


 靄の男が呟くと同時に影から二つの頭を持つ黒い犬が現れ、氷の中を泳ぐようにしてロウが出て行った入り口に向かっている。

 それを防ごうと出現した氷の形を変えて犬をそこに閉じ込めようとするが、死角の外から妨害を受けて犬の脱出を許してしまった。


「・・・・貴様!」


「ま、お互い様というやつだね。とりあえず、彼らに追いつこうと思うが…簡単じゃなさそうだ。」


 辺りを漂う空気が変わり、互いに戦闘態勢に入る。


「目の前にいるのは神将、それもこの国一番の『魔法士 シュロロ・ゼスティー』か。安い相手ではない、気合入れるしかないのぅ。」


「覚悟は良いな?」


「体の確認には持って来いの相手だ。・・・・不足は無い。」


 そして、影と氷が爆音を立ててぶつかり合う。

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