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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
43/132

暗転

 

 先程の煙の一件から漂う空気は肌を刺すようなピリピリとしたもの変わった。

 天気は相変わらず良好で明るいにも関わらず、今この瞬間においては空が影っているような気持ちになる。


「・・こちらへ、お急ぎを。」


 周囲を騎士に囲まれながら、早足で目的地に向かっている。

 三十分ほどの距離がこんなにも長いと感じたことは無い。大通りは目的地とは逆方向に流れており、このままじゃ向かえないということで裏道を通っていくことになった。


「・・・待て」


 裏道に入り、進んだところで黒髪の騎士が何かに気が付いたようで一行の足を止める。

 それに反応するかのように他に騎士が周囲に気を配りだした時、後ろから複数の足音が聞こえてきた。


「・・・何だ、こいつら」


 振り返った先にいたのは、こちらに向かって歩いてくる五人。種族は獣人ワービースト鳥人ワーバード、はては甲殻種シェルワードまでいる。

 それだけならばまだ問題なかったが、一番問題なのは彼らの様子がおかしいということだ。


「ぁ・・・あぁ・・」


「うぇぁ・・・」


 その五人全員が小さく呻きながら歩いてきてるその姿は目は白く、よだれ・鼻水を垂らしながらただこちらに真っすぐに向かって歩いてきてる。

 ホントに単純に真っすぐ歩いてきており、途中にある木箱や袋にぶつかっても歩くことを止めはしない。


 その光景に他の騎士がのまれそうになっている中、黒髪の騎士が剣を抜いてその五人の前に立ちふさがる。


「ここは俺に任せて行け。姫の安全が最優先だ。」


「・・分かった」


 特に反論するでもなく、金髪の兵士は言われるがままに頷き再び目的地に向かって動き始める。

 そこからは全員が駆け足で移動するが別の十字路では同じような状態の奴らが道を塞ぐように立っていた。


「ここもか。なんなんだ本当にこいつら」


 今来た道を戻ろうと振り返ると、黒髪の騎士が抑えていたであろう奴らがこちらに歩いてきていて、その体には赤いシミのようなものが付いているように見える。


「ッ! ・・・仕方ないか。バルト、姫様抱えて跳べ!」


「良いのか?」


「仕方ないだろうが、何を優先させるか考えろ。そのまま跳んで目的地に行け」


「・・・分かった。また後で合おう、『跳べシー』」


 三人残っていたうちの一人、丸刈りにしている獣人の騎士が呟くと同時に両足がかすかに光を放つ。

 返答するや否やキリエを抱えて正面にいる甲殻種の頭上を飛び越えて先に走っていく。それに続いて迫ってきていた敵も跳ぼうとするが、


「させるか!」


 金髪の騎士が切りかかり追跡を防ぎ、キリエの後を追おうとする敵をひたすらに足止めする。

 向かってくる敵は持っているこん棒のような武器を振り回すだけで大したことは無い。真上から振り下ろされる一撃を躱して首に一太刀切り込んだ。

 周囲から向かってくる敵も似たようなものでそこにいる全員を片付けるのにそんなに時間はかからなかった。


「弱い、弱すぎる。姫様の命を奪いに来たならもう少し力があっても良いだろうに」


「分からん。だが、いったんはこれで片が付いたとして、バルトの後を追おう」


「・・そうだな。」


 もう一人残った騎士の提案に従って走ろうとした時だった。


「・・?」


 片足が上手く動かずに転倒する。振り返って確認すると死体の手が足に絡みついているのだ。


「・・なんだこれ」


 嫌な予感が頭をよぎる。慌ててその手を切り落とそうとした時にその死体が動き出し、寝返りを打つようにして金髪の騎士を振り回して地面に叩き付けたのだ。


「がっ!」


 何も無かったかの様に足を掴んだまま立ち上がり、先ほどと同じうめき声をあげてこん棒を振りかぶる。


「やばいやばいやばいやばい!」


 掴まれている手を切り落とそうとするが、叩き付けられた衝撃で手放してしまったようで手に持っていたはずの剣が無い。

 助けを求めようともう一人残った騎士の方に向くと、


「たす・・・」


 グチャリ、と熟れた果実が潰れるような生々しい音を立ててあたりに血を飛び散らせる。騎士だったものにめがけて何度も何度もこん棒を叩き付けている光景がそこにあった。


「・・・は、ははは」


 カラカラに乾いた口のからは乾いた笑い声しか出てこない。

 何度も振り下ろされた衝撃で、潰された相棒の騎士の片腕が目の前に転がる。それを見てもう乾いた笑い声すら出なかった。


 視界の端にユラリと動く影のもとに目を向けると、こちらを見てる白目と目が合う。


 言葉を発しようと口を開くと同時に、熟れた果実が潰れるような音が辺りに鳴り響いた。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「・・はぁ、はぁ」


 先程の十字路から逃げてきて全くと言っていいほど進んでない。通りたい場所には奴らが待ち構えている為に迂回に迂回を重ねてこの始末だ。

 おまけに数体が追いかけてきていて立ち止まってなんかいられない。


「・・・・・」


 抱えている姫様は不安そうな顔をして俯いている。こんな顔をさせるために俺は騎士になったんじゃないってのに、自分が嫌になってくる。


「・・・すいません、私の軽率な行動のせいで・・こんなことに・・・」


「違いますよ。・・あなたは何も悪くない。悪いのはあいつらですよ」


 そう言って後方に目をちらりと向けると、先ほどは二体だったのが今は三体に増えている。

 いつの間に増えやがった! という驚きの声は心の中だけで叫ぶ。絶対に言葉には出さない、出してたまるものか!


 息は切れ切れの状態で走り続ける。残った二人を気にする余裕などはなく、今の現状をどうするかで精いっぱいだ。


 優先すべきことを考えろ、か。なかなかきつい指令だな、ったくよ。腹くくるしかないか。


「・・姫様、今の状況は分かってますね?」


「・・・何をする気なの?」


 全く、変なところで勘の鋭い姫様だこと。扱いにくいったらありゃしない。


「すいませんが、今の私には後ろの敵を振り切ることはできません。」


「・・・・・」


「ですので、ここから先は姫様一人で逃げてもらいます。」


「そんな、あなたはどうするのですか!」


「決まっているでしょう」


 なまじ美人なだけにどんな表情でも絵になるな、なんてこんなこと考えられんなら俺まだ余裕あるか?


 キリエの悔しそうな表情をよそに自分のマナの残量を確認する。かなりの勢いで飛ばしているから消費もかなり激しく、二人で跳んで逃げられる時間はもう無いに等しい。

 そうおいしい話があるわけでもなく、分かり切っていた事実に落胆する。


「姫様、これから向かう『グルークル地下墓地』につての知識はどの程度おありで?」


「・・・迷路みたいに入り組んでいる地下通路であることしか分かりません」


「それを知っているならば大丈夫でしょう。これからあなたを下ろす場所は我々が長年かけて調査してきた内の一つで、一本道であることと出口は中央にある騎士駐留所につながっています。通路にはところどころ明かりを灯していますので、迷うことは無いでしょう。」


「それじゃぁ、あなたも一緒に。」


「それはできません。少なくとも後ろのあいつらを何とかしないといけないので、それが終わればすぐに姫様のもとに向いますから」


「ですが!」


 あぁ、くそっ! 何で泣くんだよ、そこは笑って送ってくれよ! 泣いてくれんのはうれしいけどさ!


「分かって下さい。私と姫様が生きるために分かれるのです。」


「・・・・ぐ、」


「あなたは国王の息女で、我々の希望なのです。あなたの存在が我々にとってどれほど大きいか。私の方もすぐに片付けたら向かいますので、ね?」


「・・分かり、ました。」


 洋服の袖で涙をぬぐいながら掠れた声で返事を返してくる。


 しかし、綺麗だなあこの方は。・・こんな方が俺のために泣いてくれてんだから、男冥利に尽きる状況だぜ!


「チャンスは一度。私の持つ道具を使って奴らの視線を塞ぎます。下ろすときは少し粗くなりますが、それはどうかお許しください」


「そんな事!」


「さぁ、見えてまいりました。準備は良いですね?」


 腰のポーチから複数の光石こうせき起爆符きばくふを取り出てなけなしのマナを込めると、途端に準備完了の文字が浮かびあがる。


「・・お願いします。待ってますから、絶対来てくださいね。バルトさん。」


「了解しました」


「来ました! 行きます!」


 くるりと半回転して追いかけてきていた奴らの前に光石を投げつける。瞬間、すべてを消し去ろうとするような強い光が辺りを覆れると同時に、近くの廃墟に起爆符を投げつけて爆発させる。

 落下してきた瓦礫が道を塞いだ。奴らの姿は見えない。


 煙が辺りを覆ってる間に地面に降りて、石で作られたボロい入り口の前に下ろして姫様に先を促す。


「・・・よし、これでいいでしょう。少ししたら私も向かいますので、先に行って下さい。ご武運を。」


「絶対来てくださいね」


「はい」


 姫様は振り返ることなく入り口の向こうに消えて行った。


 最期はうまく笑えてたと思う。人生最後に最高の笑い方ができたな。


「・・・・ぅぅ、あ」


「来やがったな、最後まであがいてやるぜ!」


 腰に差している剣を引き抜き目の前にいる皮と骨だけの化け物に襲い掛かっていった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「・・・はぁ、はぁ。うっ、うぅ・・・」


 薄暗い明りに照らされた道を止まることなく走り続ける。バルトと別れてから涙が止まらない。


「・・バカ! 私のバカ! 分かってたじゃない、こんな危険があるかもしれないって! それなのに・・・」


 自身に対する嫌悪感と、一緒に来てくれた騎士たちに対する罪悪感が一気に押し寄せる。今キリエができる一番の償いはここで生き残ることで、これで死んでしまったら今までの騎士たちに合わせる顔が無い。

 だからこそ、今は止まらずに走り続ける。ところどころが落盤して、通りづらくなっている道もあるが無理やりに体をねじ込んで押し通る。


 そのせいできれいな服は土と埃で黒く汚れてしまった。


「痛っ」


 足元にあった石に躓いて転んでしまった。立ち上がろうと足に力を入れると、激痛が走る。

どうやらこけた拍子に落ちていた鋭い石の破片が、左足のふくらはぎを裂いてしまったようで、スカートは見る見るうちに赤く染まっていく。


「・・っつ、こんなので止まってなんか・・・」


 足を引きずるように立ち上がり、動き出す。先ほどまでのように走ることが出来なくなってしまったが、それでも歩くことを止めはしない。


 そこから少し歩いたところだった。目の前に大きなホールのような空間に辿り着き、入ってきた場所から向かって右側に唯一通れる道があった。


「あそこね」


 その入り口に向おうと一歩踏み出した時だった。


 後ろから風が吹いてきた。振り替える先には何もなく、ただそこには暗い空間があるだけだ。

 その何もないように思われたその空間にキリエはその違和感に気づいてしまった。


「・・・何で暗いの?」


 今まで通ってきた道は薄く照らされていたはずだ。なのに、そこは明かりが何一つなく暗い空間が広がっている。


「急いで、動かなきゃ・・」


 痛む足を無理やりに動かして道に向かう。得体のしれないそれに体の全てが無意識に恐怖を抱いているようで、カチカチと歯を打ち鳴らしている自分がいる。


「・・早く。・・・早く」


 気持ちばかりが先行して、体が思うように動かない。引きずる足が煩わしく、いっそ無くなった方が速く走れるんじゃないかと思うほどだった。

 

目的の道にあと少しでたどり着きそうなところで腹部に激しい痛みを感じると共に、その体はホール中央の崩れた天井から差し込む光の中へと吹き飛ばされた。


「・・・いっ、たい。」


 激しい痛みを訴えてくるお腹にはこれといった外傷はない。どうやら殴り飛ばされただけのようだがそこまで確認するとができない。

 

『何か』がこちらに向かって来ているのだから。


「・・・はぁ・・・・はぁ」


『何か』は音もなく近づいてくる分。縮まった距離だけでも下がろうとするが、崩れた天井の瓦礫がそれを許さない。

 カチカチと鳴る歯を必死に抑えようとするが、その行為は全く意味をなさなかった。


「・・・・・・・・。」


『何か』はキリエをじっくりと見ているようだ。光の中にいるキリエからは闇の中にいる『何か』の姿はよく見えない。

 しばしキリエを眺めた『何か』はゆっくりと何かを引き抜いた。その動きはどこかで見たことがあるような動きだ。


 心臓の鼓動が早くなる。光に一瞬照らされたその手には剣が握られていた。


 あぁ、ここまでなんだ。


 光を反射する剣は真っ直ぐにキリエに向けて振り下ろされた。









「『凍てつく魔獣アソースラ!』」



 その声が聞こえると途端に爆音が鳴り響く。


「  !?  」


「『安天の牢獄ジェ・ディメイル!』」


 ガキイィ、と聞きなれない音が聞こえた。目の前にあったはずの恐ろしい気配は消えてなくなっていた。


「良かった、間に合った。大丈夫だよな?」


 そう言って暗闇の中から現したのは光り輝くような銀色の髪をしており、赤い眼の執事服を着た男が出てきたのだ。

 相手のことを思って尋ねたであろうその言葉に、返した言葉は


「・・・誰?」


 至極当然の質問だった。



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