『反撃』
「ん・・。」
うっすらと目を開けるとぼんやりと辺りを照らす明かりが目に入った。
「こ・・こは?」
「おっ、起きた! 親父ー! 起きたー!」
隣で叫び声を上げたのは裸にベストを着ただけの男だった。年はロウと同じくらいを思わせる見た目でロウの方をじっと見てくる。
「・・・えっとー、初めまして?」
その視線に耐えられなくなったロウは痛むわき腹を抑えながら座る。
「おっ、動いた。けどまだ寝てた方がいいと思うぜ。傷は塞がっただけだし、毒も抜いたばっかりだしさ。」
「・・・あいにく、そうも言ってられないんだ。寝てたい気持ちはあるが、今は少しでも体慣らさねぇと」
「あぁ、そう。じゃ、俺からは特に言うこと無いな」
かなり友好的に話しかけてきてはいるものの、かなり警戒しているのは見てわかる。人間だから仕方無いかと一息ついた時だった。
「どうじゃ、目覚めは?」
「なんと言っていいやら難しいとこだな。良いのやら、悪いのやら。けどまぁ、とりあえず・・・」
そう言ってフェザーの方に向き直り頭を下げる。
「ありがとう、助かった。」
「がはは、気にすんなや。俺もお前に助けられたんやからな」
そう言ってズカズカと近づいてきて、青年の隣に腰かけた。
「ほら、トトもそないに警戒せんでもええがな。ロウは人間やけど儂らの知ってる人間とは違うんやから」
「・・・はぁ、分かったよ。」
フェザーのその言葉にトトと呼ばれた青年は警戒の色を解く。
「息子ってのはこいつか?」
「あぁ、数いるうちの一人や。その中でも一番腕が立つんや」
「へぇ、そんなに家族居るのか。どれくらいいるんだ?」
「そうじゃのぉ、大体、三十くらいかな?」
「三十!」
さらっと言われたことを頭で考えると、ある一つの考えに行きついた。
「勘違いすんなよ、えっとー」
「ロウだ」
「ロウ! 俺たちは家族といっても血がつながってるわけじゃないぜ。」
「・・・てことは、戦争の?」
ロウの質問の意味を理解したのか、フェザーの顔が一瞬険しいものに変化したがすぐにいつも通りの顔に変わった。
「せや。ロウが考えてることで合っとる。俺の家族ってのは戦争で行き場をなくした奴らでな。」
「・・・すまん。変なこと聞いちまったな」
「謝んなよ! 俺たちはそれで悲しいことなんてないさ! 正直、今の生活の方が俺は好きだしさ」
そう話すトトの顔はすこぶる明るい。フェザーもその顔にある程度救われているようで、安心しているような表情になっている。
「そうか。じゃ、何も言わないよ」
「あぁ、それでいいさ。・・・さて、世間話もこれくらいにして、」
「あぁ、本題に入ろうか」
その場にいる三人の表情が一気に真面目なものになる。
「それで、ロウは何で襲われてたの?」
「話すと長くんだが・・・」
「構わん、聞かせてくれ。それが終わった後で俺の方も話すことがあるからな」
そこからポツポツと連続殺人事件について話し始めた。襲われたことから始まり、容疑者になって、処刑されそうになったこと。
ロウの話を聞いていた二人は最初こそ普通に聞いていたが、最後の方になると表情が変わっていた。
「すると、なにか? やってもないことで犯人に仕立てられたってのか?」
「そうだ。そんな事する力も余裕もないってのに、気が付いたら処刑直前だ。あの時フェザーが来てくれなかったら俺はここにいなかったし、多分かなりひどい結末を迎えるはずだ。」
「そうか、それであいつはそんな事を・・・」
フェザーがロウの話を聞き終わると一人で何か納得しているようで、頷いている。
「次はフェザーの番だ。話してくれ、何であの時あそこにいたのか」
「それについては簡単や。・・・王様に頼まれたんや、あそこでロウを助けてやってくれってな」
「・・・あいつが?」
フェザーが告げた内容はロウにとって予想だにしなかったことだ。前から何かとロウの方に近付いてきたが、今回のことでより分からなくなった。
「牢屋から出るときそう言われたんや。『祭典が終わるまでの間、もしよければロウを守ってほしい。おそらく、この寮の前で殺される運命が示された』ってな。」
「・・・まるで分かってるような言い方だな。」
「予言だ」
「は?」
「国王が持つ、『十の御力』だろう」
聞きなれない言葉にロウは説明を求める。
「それは、国王が戦争を終わらせるにあたって、神から受けた力とかなんとか。俺もよくわかってないんだけど、確か『千里眼』、『天引』、『逆転』、『予言』が良く知られているやつで、後はよく知らない。」
「・・・・・・。悪い、一つづつ聞いていいか? 『千里眼』ってのは?」
「『曰く、現在を見通す目』だとかいわれてるな。海の先にある景色も見えるとか。」
「『天引』ってのは?」
「『曰く、万物に働く力』とか。見たわけじゃないけど、山が浮き上がってひっくり返されたらしい。」
「・・・『逆転』は?」
「『曰く、法則の書き換え』だっけ? これのせいで世界の気候が変わったんだよね。」
「あぁ、昔は天気が滅茶滅茶でな。今でこそこうして暮らしているが、前は数日に一度は国が滅ぶような天気の荒れ方してたからなぁ」
「・・・で、最後の『予言』ってのが、」
「あぁ。『曰く、先を見る目』だ。これは夢で未来に起きる出来事を見るらしくて、詳しいことは知らないけど夢の見方でどれくらい先に起きるか分かるんだよな?」
「そんな事聞いたなぁ。・・・どうした?」
「・・・いや、ちょっとついてけないだけ。」
二人が話しているのは嘘ではないようで、その表情はいたって普通だ。
あの国王がそんなふざけた力を持っていることもそうだが何より、そんな力が存在することにロウは頭を痛くしている。
異世界といっても今まで過ごしてきた中で思ったのは、前いた世界で科学的に出来ることがここでは魔法的なことでできる程度にしか考えていなかった。
しかし、その認識を改める必要がありそうだ。科学以上のことが出来るということに。
「・・・で、その予言で見たから俺を助けてくれと?」
咳ばらいをして話を戻す。
「あぁ、そうじゃ。それでわしはあのあたりの空き部屋に潜み続けて、で昨日のあれが起きたってことだ。」
一つ一つの出来事がうまくつながらない。事件のこともそうだが、何よりクロエのことがわからない。アイツは一体どういう立ち位置でロウに関わっているのか、何より何を思ってロウに接しいるのかが何一つとして浮かばなかった。
「それで、ロウはこの後どうすんの?」
「・・あぁ、とりあえず会いたい奴がいる。そいつに頼めば何とかなると思うんだが・・・」
「本気で言うとんのか? 今回はギリギリ助かったが、次も助かる保証はないんやぞ?」
「それでもだ。俺はここで諦めるわけにはいかない。」
フェザーはその言葉を聞いて言葉に詰まる。代わりに聞いてきたのはトトだ。
「なんでそこまでするんだ? ここでこうしていれば見つからない。うまくすればここを出て他の場所で暮らすこともできるだろうってのに、何だったら俺たちの家族としてここで暮らすこともできるってのにさ」
「・・・そうやな。何がロウをそこまで変えたんや?」
フェザーの言葉から少し間をあけて話す。
「・・・俺はこの場所で一人だ。俺は人間で、この世界で一番の嫌われ者だ。そんな俺を仲間だと言ってくれた奴らがいた。そこにいるトトやフェザーみたいにな。信じてるとも言ってくれたからこそ、俺は途中で立ち止まるなんてできない。しちゃいけない、それは俺を信じてくれるそいつらを裏切ることになるからだ。だから・・・」
「分かったよ。そこまで覚悟してんなら俺は何も言わないよ。親父もそうだろ?」
「・・ったく。しゃーねぇな、乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやらぁ。・・・・そういうわけで、隠れてないで出て来いよカカ!」
三人が一斉に扉に向く。少し開かれた扉から恥ずかし気な顔で出てきたその女の子はトトと同じぐらいの年齢と髪色で、長い黒のワンピースを着ていた。
「・・・そんな注目されてる状態でよぶの止めてもらえる? すごい恥ずかしいから」
「何をいまさら。恥ずかしがることなんてないやろうに」
「うるさい! デリカシーの無い奴らめ! そんなんじゃ教えてあげないよ!」
「何でや!」
目の前で起きている漫才じみたその光景にロウは少し笑う。
「笑われたじゃない! あんたたちのせいだからね!」
「何で俺まで! 何もしてないじゃないか!」
「だからこそでしょうが! 全く、話すこと話したら出て行くからね!」
漫才の方にも一区切りついたようで、ロウの方に向き直った後一悶着あってから外の情報を伝えてくれた。
「今、外は人間狩りだーって神将総出で探してるよ」
「・・・好都合だ。目的の相手に会える可能性が出てきた。」
「よし、じゃぁ朝まで休んだ後に行動開始といくか」
と、そう最後にまとめて話し合いは終わった。
◆◆◆ ◆◆◆
「ということがあって、後は見ての通りだ。裏道にいた俺とフェザーを殺した様に偽装して、ここまで連れてきたって言うだけの話さ」
両手を開いて話が終わったことを表す。話を聞いた三人はしばらく口を開けないでいた。
「全ク、あの偽装は中途半端なんだヨ。やるなら最後までやりなってのにサ!」
「阿保。匂いが微妙に違うなど、分かるのは貴様くらいだ。その為に複数の工作までしたのに何でかぎ分けられるんだ!」
ロウの話が終わったころに合わせて二人がケンカを始めようとする。
「それじゃ、あの場所は二人で壊したと? それを姉さんは知っていて?」
「いや、知らなかっただろう。むしろ逆だ。そんなことをしたからこそ気が付いたのだろう」
答えたのはロベルトだった。顎に手を当てて、頷いている。
「そういった場所ではエアの使用はしないことになっている。・・・何か、ネルの前でエアを使っていたりしたんじゃないのか?」
「使ってなど・・・いや、背中の氷か!」
「ふん、気づくのが遅い。現場ではたとえわずかでも使用は禁止されている。神将ならばなおさらだ。」
その場にいた全員が納得できたのだろう。気まずい沈黙が訪れたが、その空気を破ったのはフェザーだ。
「長い! 何だって説明だけでかなりの時間を食っただろうに。ロウの調べ物がまだ終わってないだろうに!」
「少し考えれば分かることをしなかった、あいつらが悪いだろうが! 何でも俺のせいにすんじゃねぇよ!」
ズズ、と自分の茶に口をつける。説明はこれで終わりだと無言で告げていた。
「それデ? どうなノ!」
ソルドールが上半身をテーブルに突っ伏してロウに問いかけてきた。
「なにが?」
「とぼけるな。何のために俺がこの場所を人間なんぞに貸してやったと思ってるんだ?」
シュロロの言葉にロウは笑みをこぼす。
「悪いって、冗談だよ。ハッキリ言って、目的はよく分からんかった。けど、次何をするかってのはなんとなく分かってきた」
「本当か!」
ロウの言葉にロベルトが驚いたように声を上げる。全員が思ったことは同じようで、一斉にロウの方に視線が向く。
「ここまでやられてさ、正直結構イラついてるんだよねぇ。だからさ、」
ロウの視線が鋭いものに変わり、片目を閉じてそっと告げる。
「反撃に移ろうか」
明日からは『 終戦祭 』
この国の別の言い方では『始まり』という呼び方も流れている。
新しい時代が始まるという意味で、付けられたこの祭りは今回で十回目。
さらには事件が起きた今年の祭典では否が応でも何かが起こる。
激動の一日が幕を開ける。




