寮前でのできごと
ロウの声に応じてそれぞれが椅子に座る。
入り口に一位番近い場所にシュロロが座り、その右隣に獣人、ロウと続く。
その反対にロベルト、ソルドール、リウ、トールが座っている。
席に着いた頃に、ここまで案内してくれたあの女性が湯呑に入ったお茶を持ってきたところで話が行われた。
口火を切ったのはトールで、
「それで、これはどういうことなのですか? 説明はしてもらえるんですよね?」
声色には明らかに怒り口調だが、そんなことはどうでもよさげにシュロロは聞き流している。
「なぁ、お前ほんとに説明してないの? 何の説明もなしに連れてきたらこうなるの分かってんじゃん」
「普通、気づくだろうが。もし気づいてないにしてもそれを教えなかったお前らの上司が悪い」
「何言ってんのサ。それこそヘッポコの仕事でショ! 私のせいにしないでくれル?」
「・・・貴様は俺にケンカ売りに来たのか?」
ゆらりと互いに殺気を纏いだし、雰囲気が悪くなる。しかし、
「待て待て、待たんかいな。何しとるんやお前らは。・・こうなりゃしゃーないな、一から説明するか。というわけで、ロウ! いけ!」
「・・堂々と俺に譲るなよ」
獣人がロウの方を叩いて先に促してくる。ため息をついて理解していない三人の方に向き直り、説明を開始する。
「それで、ロウ。これは一体どうゆうことなんだ?」
「あー、待て。ちゃんと説明するから。とりあえず、情報の共有から始めたい。まずは寮で襲われたとこから始めるぞ」
そこから全員に語り掛ける様に話し出した。
◆◆◆ ◆◆◆
時間は戻り寮の前
「くっそ! 離せ!」
腕と胴体を抑えつけられたまま動くことが出来ない。近づいてきた兵士が刀を抜いて近付いてきた。暴れるほどに抑える力は強くなる。
「死ね」
放たれた言葉と共にロウの首に向かって剣が振り下ろされたが、それがロウに届くことは無かった。
「がっ!」
血をまき散らしながら、刀を抜いた兵士は寮の門前まで吹き飛んだ。
「「!?」」
驚いたのは兵士たちも同じようで、ロウを拘束する力が緩んだ隙をついて両腕を引き抜く。拘束が外れたことで慌てて視線を戻して再び拘束しようとするがそれはかなわない。
「どゥ!」
「ごあっ!」
体の上に乗っていた兵士と腕を抑えていた兵士がそれぞれ別の方向に吹き飛んだ。
「な、なにが・・」
足を抑えていた兵士が立ち上がって武器を構えようとするが、拘束が解かれたロウが剣を引き抜こうとした手を蹴って弾く。
思わぬ一発に体勢を崩した兵士にそいつの一発が命中する。
「やるじゃねぇか」
「ぶっ!」
最初に剣を振りかぶった兵士が吹き飛んだ場所まで殴り飛ばした。そのせいで、暗闇にいた姿が辺りを照らす光の下に現れて
「フェザー! なんでここに!」
「がはは! 久しいな、ロウ。しばらく見ん間に変わったかと思ったが、特に変化無いのぅ。それどころか、また牢屋に戻ろうとしとんのか?」
「んなわけあるか」
「ロウだけに牢屋が好きだってか? 笑えないことすんじゃねぇよ」
「・・お前こそ、笑えねぇこと言うなっての。これの前に一回牢屋に入ってんだから。」
そりゃ笑えねぇな、といいつつ顔は盛大に笑っている。
出された手を借りて立ち上がり寮門前にいる兵士たちに向き直る。兵士たちはそれぞれが武器を構えて臨戦態勢を整えている最中だった。
「・・フェザー、悪いが頼みがある。」
「言うなや。わしもそのつもりで来とんのや。互いに話すことはありそうじゃしのう。」
「・・すまない。」
両者がにらみ合う中、始まりを告げたのは近くに落ちた落雷だった。突然の出来事に兵士たちは目を隠す。そして、音が収まったところで見るとそこには二人の姿は消えていた。
「追え!」
リーダーと思われるものが指示を出すと、兵士の何人かが空に手のひらサイズの刻印石を放り投げる。ある程度まで登ったその刻印石は突然弾けると周囲を明るく照らし始めた。
その明かりに街灯だけが道を示していた暗い道は、まるで昼間の様に明るく照らされてた。闇が晴れたことで逃げる二人の背中を目に捕らえると、ある者は走り出し、ある者は呪文と共に矢を放った。
◇◇◇ ◇◇◇
「・・眩し、何だあれ」
「奴らめ、さすがは国の部隊じゃ。このレベルの光石がどんだけすると思っとんじゃ」
「そんなすごいの?」
「小さな衝撃で破裂すると光を放つ石でな。このレベルぐらいになると小さな山ぐらい簡単に買えるぞ」
「うっわ。」
驚きの事実を聞いて何も言えなくなる。後ろを振り返り、その光石を見てもったいないなぁーと思うのは余裕が出てきたからだろう。
「こっちじゃ」
先導するフェザーが入った裏道に入ろうとした時だった。
「いっづ!」
曲り角に入った瞬間倒れこむ。痛みのもとに目を向けると、肩と太ももに矢が刺さっていた。
「大丈夫かいな!」
「・・・問題ねぇよ。それより先に進むぞ」
矢を引き抜いて立ち上がる。示された道に差し掛かった時、追いかけてきた足の速い兵士がナイフを投擲してきた。
普段ならば躱せただろうが、今は片足を負傷し俊敏に動くことが出来ないため、急所を外すことで精いっぱいだった。
「ぐっ!」
追撃で襲い掛かろうと兵士が剣を抜こうとした時フェザーが一息で間合いに入る。
あまりの速さにその兵士が対応に遅れ、直撃して吹き飛んだ。
「俺の連れに何してくれとんじゃ! ボケ!」
すぐにロウの方に振り返ると、息も絶え絶えのロウが膝をついていた。
「おい! どうした!」
「これ、毒が・・・」
答える目は虚ろで、ギリギリの状態なのは医療に関しての素人が見ても危ないことは一目で分かった。
多くの足音が後ろの道から聞こえる。フェザーはロウを脇に抱えて走り出した。
「・・・死ぬんちゃうぞ! 気張れや、ロウ!」
細い裏道を曲がり曲がって抜けた先にある道の柵を、ためらいもなく飛び越える。
岩壁に爪を立てて速度を殺しつつ、地面が近くなったところで跳んで民家の屋根に着地する。
そのまま目的地まで移動を開始するが、フェザーと同じように飛び越えてきた兵士が三人ほどついてきた。
「・・ちぃ」
軽く舌打ちして走り始める。後をついてきた内の一人が先行して出てきて、剣を振りかぶって切りかかる。
それを横目で確認すると、振り下ろすタイミングに合わせて身に着けていたコートを外す。すると、風の勢いに流されてすぐ後ろにいた兵士に直撃する。
一瞬動きが止まったのを見逃さず、すぐさま強烈な蹴りを叩き込みはるか後方へと蹴り飛ばす。
速度が落ちた一瞬を見計らい二人の兵士が飛び掛かってくるが、下から突如現れた二つの影に一瞬でのされてしまった。
「・・・完璧じゃな」
「だろ? これが訓練とかいうやつの賜物よ!」
胸を張って自慢してくるボサツいた茶色の髪の青年はロウと同じくらいの二十前ぐらいに見える。服は裸に青のベストのみで、股下が深いダボッとしたズボンを穿いている。
「はいはい、すごいすごい。分かったから先行くよ」
そう言って先を促すのは青年と同じ色の髪で腰まで伸びている。黒のワンピースを身にまとい、上には赤色のカーディガンを羽織っている。
年も青年と同じぐらいに見えるその女の子に続いて残りの二人は後に続いて屋根から飛び降りて行った。




