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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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現場にて

 

「・・何だと?」


 懐にしまっていた携帯サイズの長方形黒い石に映された蛍光色に光る言葉を凝視する。頭の中で優先すべきことを考えようとはするものの、一向に考えがまとまらない。


 ネルの様子がおかしいことに気が付いた二人は、ネルが見つめる刻印石を覗き込み同じように絶句する。


「・・・・・。」


 ネルはここまでに今持っている情報をどうにかまとめようとするが、ピースが上手くはまらない。


 何か必要な情報が抜け落ちているためであることは明白だが、その隙間を埋めることが出来るであろう人間は死んだとの報告がある。何より死体も確認したそうじゃないか。しかし、獣人の例もある。外に仲間がいたような人間のことだから、何かしらの工作を施したと考えるが・・・。そうだとしても管理局、帝将たちが見逃すはずがない。いったい何がどうして・・・



「・・様! ・・・ル・・・ネル様!」


 突然隣でリウが声を張りあげた。その声に自分が手に持っている刻印石を握り潰してしまいそうなほど力が入っていたことに気が付く。


「どうした? リウ。いきなり声を張り上げて。」


「いきなりじゃないです。すでに何度かネル様のことを呼んでいました。」


 トールの方に振り替えると、静かにうなずく。


「しっかりして下さい! 頭の中が整理できなのは分かりますが、今はじっとしている時ではないでしょう!」


 拳は白くなるほど強く握られており、声を掛けてくるその表情は怒りと悔しさ、さらには悲しそうな感情が混ざり合ったような表情を覗かせた。


 その顔を見て、らしくないことをしていたんだなということに今更ながら理解した。


「ふん!」


「ネル様!?」


「姉さん!?」


 何の脈絡もなしにいきなり頭を近くの街灯に頭をぶつけたのだ。ぶつけられた街灯は少し傾き、後ろにいる兵士たちも何事かと集まってきている。


「・・らしくないとこ見せちまったねぇ。全く、普段使わない頭使うとこれだよ」


 額は少し赤くなっているが、痛そうな素振りは全くない。それどころか、先ほどの曇ったような表情は消え去って不敵な笑みを浮かべている。


「すまないねぇ。必要のない気まで遣わしちまって。」


「いえ、そんなこと・・・」


 ポン、とリウの頭に手を一度だけ乗せて横を通りすぎる。通り過ぎる際にリウの表情が変わったように見えたのはきっと見間違えなんかじゃないだろう。


 自分一人では最後まで完璧にやり切ることなどできはしないということは昔から理解していたはずだった。神将の椅子に座ってから身の回りの多くが変わってしまい、最近は自分まで変わってしまったんではないかと考えることが多くなったが、今回のことでそんなに変わっていないということに安堵の息を漏らした。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「・・・さて、それじゃ向かうか」


「「はい」」


 部隊の大部分を撤退させて、ネル、リウ、トールの三人で『ロウの殺害現場』に向かうことにした。


 階段を下り、住宅街の道を曲がり歩いていく。というのは、性に合わないため柵を飛び越えて住宅の屋根を飛び越えて向かう。


 確かに時間も厄介な道のりも大幅に短縮することが出来るが、


「ぎゃああぁぁぁあ!」


 ネルに抱えられているリウは、必死の形相で離れまいとしがみついている。後に続くトールはその様子を見て少し笑っているが、それに文句を言うほどの余裕は無い。落ちないようにしがみつくことで精一杯なのだ。


「大体この辺だね」


「・・・見えました。あそこに人だかりができてます。」


 刻印石に映された場所と実際の場所を確認して、そこが目的地であると断定するとさらにスピードを上げる。


「ひいいいいぃぃいいい!」


 そのあたりに立っている住宅は5階建てぐらいの家が多く、全体的にかなりの高さがある。

大きな道を飛び越えて二・三個の屋根を飛び越えたところで地面に着地する。


「・・・あそこか。行くよ」


 そう声を掛けた後ろでは、下ろされたリウが四つん這いになってブツブツとつぶやいている。


「・・・大丈夫、私は大丈夫。もう慣れたから、私はもう慣れたから・・・」


「・・・じゃぁ、大丈夫だな。」


 顔色の悪いリウをトールが抱えてネルの後を追う。


 朝方のこの時間は店を開こうとするものや、早朝の買い出しなどで動き出している人がいるために野次馬が多い。そんな野次馬たちをどかそうとしている兵士がいるものの、その動きがいまいちよくないように思える。


「どきな!」


 後ろから突然声を掛けられたことに周囲の野次馬たちはいっせいにネルの方に振り返る。人ごみを手当たり次第にかき分けて、兵士のいる場所に辿りつく。


「ここで例の奴が見つかったと聞いてきたんだが?」


「!? ネル様、良いところに! こちらに来てください。」


 慌てた様子の兵士の後を追って進む。ヒンヤリとした空気が肌をなで、体にのしかかってくるような重みのある雰囲気が漂っている。道の先にある開けた場所の手前の様子に気が付くと兵士の慌てた理由が理解できた。


「・・何してんだい! ソルドール! シュロロ!」


 身長はシュロロの方が遥かに高いが、今は壁に背中を持たれかける様にして座っているため、今はソルドールの方がやや高い。触れている壁や地面はパキパキと音を立てて凍っており、そこから流れてくる冷たい空気がこれは現実であることを告げている。


「とっとと、どけ! じゃねぇと本当マジに殺すぞ!」


 座っているシュロロの胸ぐらを掴み、上にまたがるようにして立っているソルドールは漂う冷気を意にも留めてない。シュロロをにらめつけるその顔は誰が見ても分かるように怒り一色に染まっている。


「ネル。ちょっと待って、今からこいつに話聞くとこだから」


 二人が纏っている殺気は本物で、一般の兵士じゃこの間に割って入るのは不可能だろう。その様子を見たネルはため息をつきながら二人に近付く。


「・・・ネル、なんのつもり?」


 寄ってきたネルはソルドールの腕を掴み、冷たい視線を向ける。


「・・・お前がやると一発で沈むんだよ。話、聞けなくなるだろうが。」


「何言ってるの? それくらいの手加減はできるけど?」


「出来なさそうだから言ってんじゃないか。あたしだっていろいろ考えてんだよ、ここで潰されちゃほんとに『目』が無くなるだろうが」


 少しの間が空き、それまでこちらを一切見ることが無かったソルドールがネルに視線を向ける。


「・・じゃぁ、なに? 認めるつもりなの?」


「そんなわけないさ。聞きたいこと聞いたらやり返すに決まってんだろ。」


 しばし二人が睨みつけ合う時間が続く。そして、


「・・・ふん、勝手にしなヨ。どうなっても知らないカラ」


「その時はこいつにケツ拭かせるさ。」


 胸ぐらを掴んでいた手を乱暴にほどき、シュロロから離れここから出て行った。

 その場には連れてきた兵士とネル一行、そして立ち上がって服の汚れを払っているシュロロだけがその場に残された。


 今来た道の角を曲がり姿が見えなくなったころを見計らってネルは話し出す。


「・・場を収めてやったんだ。それに見合うだけ話はできるよねぇ?」


「お前こそ何を言ってる? する話など無い。指令に従って行動しただけだ、お前も知ってるだろうが。」


 上から目線の口調は相変わらずで、服の汚れを払い終わったのだろうか。出口に向けて歩き出したが、それをネルが制止する。


「・・・待ちな。まだ話は終わってないよ?」


「人の話を聞かねぇ馬鹿だな。言ったろ、する話など無いと。」


「まさか、それを信じろってのかい?」


「もし何か言いたいことがあるなら俺の家までくるといい。その時は話しぐらいは聞いてやる、あのチビにもそう言っておけ」


 それだけ言うと伸ばした腕を無理やり押しのける。ネルはシュロロの後姿を見つめるだけで何も言い返さなかった。


「・・姉さん! 大丈夫でしたか?」


 後ろで見ていた二人、特にリウの方は余程だったのだろう。冷汗をかいているのが分かる。


「特に問題ないさ。けど、困ったことになっちまったねぇ。」


「それは・・・」


 ここの当事者であるシュロロから聞けないとなると、見えてくる情報はどれもこれもあいまいになってくる。ただでさえこの付近の場所はあまり知らない。だからこそ、ここら一帯の管理を任されているシュロロから話を聞きたかったんだが・・・。

 どうしたものかと悩ませていると、不意にここに連れてきた兵士が声を掛けてきた。


「あの~、もしよかったら私がここで起きたこと説明しましょうか?」


「分かるのかい?」


「はい、大体は。ですが、見たところでもしかしたら意味があまりないかもしれません。」


「どうして?」


「それは、・・・見たら分かります。」


 最期の方は少し躊躇っている気がしたが、こちらへ、と先を促してくるのであとに続いて歩いていく。角を二つほど曲がった先にある開けた場所に辿りつくと、そこに広がっていた光景は予想を超えた光景だった。


「・・・何だ、これ?」


 砕かれた地面がえぐれて隆起し、凍てついた氷がまるで竜が空を上るような姿を連想させるような大きさでそこに存在していた。少なくとも人間とやり合ってこんなことにはならない。ということは、


「あいつら、すでに・・・」


「はい。考えている通りです。ネル様が来られる前、先に到着したソルドール様がシュロロ様に手を出してこんなことに。そこから逃げたシュロロ様があの場で捕まり、後は知っての通りです。」


 痛む頭を手で押さえてその光景を見つめる。何か人間らしい痕跡は残ってやしないかと見回すが、全くわからない。


「派手にやりやがって。・・・今回の人間の処理に関する詳細はどこにある?」


「まとめた物ならば、シュロロ様が持ち返られました。後日提出するとのことらしいです」


「・・・結局あいつに話聞かなきゃいけないのか。」


 祭典は明日に控えているため、正直これ以上の行動は祭典の運営に支障をきたす恐れがある。どうしたものかと考えるていると、先ほどのリウの顔が浮かび上がってきた。

 先程の光景を思い出して顔が綻ぶ。二人の方に顔を向け、


「・・・任せるか。」


「どうかしましたか?」


 リウとトールの方に振り返り、ニヤついた顔で見つめてきたネルに二人は嫌な予感が頭をよぎる。


「・・・姉さん?」


「二人とも今日中にシュロロのとこ行って話つけてこい」


 課せられた無理難題に二人の顔は一気に青くなった。


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