王宮にて
今回より姫様登場。
出そう出そうと思っていたけどタイミングを逃してしまいこのタイミングに。
話の組み方もう少し考えなければ…
朝の訪れを告げるのは、見慣れたメイドが扉を叩くいつもの音で目が覚める。
そのメイドは年齢は二十前で、身長も姫様と同じぐらいだ。長い髪を後ろでまとめてお団子状にしている彼女は、王宮に帰ってきてからずっと世話をしてもらっている。
「・・おはようございます、姫様。今日も一日が始まりますよ。」
その言葉と共に、赤い絨毯の上を渡って大きな白いカーテンを開け放つ。
広い部屋の中に外の明かりをさしこませる窓は、メイドの二倍はあろうかというほどの大きさだ。
「・・おはよう、リン。いつも早いのね。」
「そんなことはありませんよ。私も遅い方ですから。」
開いたカーテンをまとめつつ笑顔で語り掛けてくる。
一人で眠るには大きすぎる布団から起き上がると、さらさらと長い白い髪が肩から流れ落ちる。
細く凛とした顔立ちは精巧に作られた人形のようにも感じる。見る者すべてを圧倒するようでいて、同時に相手を魅了できるほど美しい。
その姫様が眠い目を擦り、その蒼い目を窓の方へと向け細める。長い間そうであるというのにいまだに見慣れることが出来ない。
細めた目に気が付いたのか、メイドが言葉をかける。
「・・仕方ありませんよ。この柵は姫様を守るために設置されているんですから。」
「分かってはいるんだけど、なんか・・・ね?」
開かれたカーテンの先には窓全体を覆うように格子状に柵が張り巡らされている。
祭典が大きな催しとなってから送られてくるようになったあの手紙のせいで、ただでさえ窮屈に感じるこの部屋がさらに狭く感じる。
「さぁ、今日もお仕事がありますので着替えに移りましょう。」
毎日世話になっているこのメイドが悪いわけではないが、よそよそしい感じがする。
気のせいかもしれないが、他の国や町の長たちと話しているせいで余計にそう感じてしまうのだ。
◇◇◇ ◇◇◇
そこからはいつもの通りに時間を過ごす。顔を洗って白を基調とした軽装のドレスに身を包む。
身の回りの世話を終わらせた後食事を済ませに向かう途中、すれ違う兵士やメイドの皆は声をそろえて挨拶してくる。
「おはようございます。今日は一段と美しいですね。」
皆が言ってくる言葉は同じことばかり。
それにこたえる私の返事も表情も同じものばかりだ。
「おはようございます。そんなことないですよ、皆さんも今日一日よろしくお願いしますね。」
生まれてきた立場を呪ったことは無い。それどころかこの場所は私の知らないことをたくさん知ることが出来る。それは純粋にうれしいことだ。
けれど、その代償として周囲からもたらされる視線や期待、責任がのしかかる。
それを毎日義務としてこなしていく私は・・・
「・・・人形みたい」
「何かおっしゃいました?」
「いえ、なんでもないです。今日の朝ごはんは何かなと思って。」
「そうでしたか。今日も料理担当の者が腕によりをかけた品々が並んでおいでですよ」
返してくる言葉は軽い。ただ言われたから返しただけで中身が詰まっていないのだ。
昔はそんな事一度も思ったことが無かったのに。
そんな答えの出ない問題を頭の中で考えていると目的の場所に到着する。
「では、私はここで失礼します。何か御用がおありでしたら何なりとお呼び付けください。」
「ありがと、リン」
ペコリと頭を下げるそのメイドに期待を込めて名前を呼ぶが返事は無い。
分かっていたその返答に少し目線を下げて部屋に入る。
「・・おはよう、キリエ。よく眠れたかい?」
「おはようございます、お父様。睡眠はしっかりととれていますので問題はありません。」
「そうか、だったらいい。何か優れないような顔色をしていたからね。祭典も近い、十分に体調には気を付けるんだよ?」
「はい、ありがとうございます。」
その部屋にいたのは自分の父親、この国の王様のクロエ・リュードだ。
この息苦しい城の中で唯一まともに話すことが出来る人だ。
「・・お父様は大丈夫なのですか?」
「ん? 何がだい?」
「今、祭典間近だというのに町の方では何やら物騒な事件が起こっていると聞いています。それに今年も・・・」
クロエは手に持っていたコップをテーブルに置いてキリエに向き直る。
「私の方も問題ない。事件は起こっているが信頼できる部下たちが必死に捜索に当たってくれている。例の手紙についても同様だ。キリエがそこまで気にする必要は無い」
「お父様がそう言っていただけるなら安心ですが・・・」
「まだなにか?」
優しく問いかけを発してくるクロエにキリエは、
「いえ、なんでもありません。さぁ、お食事にいたしましょう。せっかくの温かいお料理が冷めてしまいます。」
「・・そうか。」
そう言って二人は料理に手を付ける。二人が座っているテーブルはそこそこ大きいが、話した言葉が届かないほど離れている訳じゃない。
お父様、最近冷たいような気がします。
思っていることが言えないほどに、近いようで離れている。
◇◇◇ ◇◇◇
食事が終わり、そこからはいつもの公務に戻る。
キリエは他の国のトップの方々と話や条約の締結といった外交をメインに仕事を任されていて、その隙間をぬって勉強や習い事といった私事の方も行っている。
今は昨日の仕事の残りを片付けている最中だ。
自分の中で思っていることがまとまらず、必然的に仕事の進みも悪い。
今日はあいにくの雨なのも気分に影響しているのだろうかと、窓の方に歩み寄り下を見下ろす。
「・・なんだろう?」
見下ろした先には多くの兵士が王宮を出て行くところが見えた。祭典前で何かあったんだろうかと気持ちが向くが、
「失礼します」
開いた扉の音で我に返る。
「珍しいですね。姫様がまだ終わっておらなかったとは。」
「・・もうそんな時間なんだ。天気も悪いし気が乗らなくて・・・」
「いけませんねぇ、そんな様子では。だいたい・・・・」
入ってきた目つきの鋭いメイドの長い愚痴が始まったと苦笑いになりながら入ってきたメイドの方に向き直る。再び机に戻り、さっきまでやっていた書類のまとめに入る。
窓の外で起きていた状況はもう頭の中から消えていた。
◇◇◇ ◇◇◇
時間は戻り、ロウが寮から王宮に向かい始めた頃。
ズカズカと音を立てながら自分の部屋に向かって歩いている。
渡された指令書は強く握りしめられたせいでぐしゃぐしゃになっている。
「誰かいるかい!」
「うわっ、ネル様! どうされたんですか?」
勢いよく開かれた扉に驚いて飛び上がる。
「リウ! よかった、いたか。トールはどこにいるか分かるかい?」
「トールですか? でしたら今頃はロウのところにいると思いますが・・・。どうしたんですか?」
焦って握りつぶされた紙をリウに渡すと、途端にその紙をみたリウの表情が変わる。
「これ、死刑執行書じゃないですか! 何で急に! 祭典の後じゃなかったんですか?」
「あぁ、私もそうだと思っていたさ。けど、急にさっきの会議でそう決まったんだ。帝将達が押しこんできてね、反論はしたが全く意味が無かった。どうやら奴ら初めからそう考えて今回の会議に出てきたらしい。」
「・・・そんな。」
紙に落とした視線をネルの方に向ける。するとネルは自身の装備を整えている最中だった。
「ネル様? 何をされてるんですか?」
「あたしも探索に出るのさ。急がないと面倒なことになりそうだからね。リウも支度しな。ついでにトールに連絡してどこにいるのか聞いとくれ。」
「下の書庫にいるのではないんですか?」
「居ないから焦ってんじゃないか。この王宮のどこにもいない、どうやら外に出てるみたいでねぇ。」
「えぇ!」
リウも慌てて自分の机に向かい連絡用の刻印石を取り出してつなごうとするが・・・
「・・・ダメです、つながりません!」
「くそっ! 今すぐ準備して部隊の奴らに伝えな、急ぎ準備を整えて下に集合しろってね」
「そんな大人数で行って大丈夫なんですか? いろいろ引っかかりそうな気もするんですが・・・」
「これも帝将からの指示さ。祭典までに人間を処理して国外に恥をさらすのだけは阻止したいとか抜かしてる。ふざけやがって、今更じゃないか。・・・問題なのは奴ら本気だっていうところさ。」
「・・・本気、ですか?」
リウも自身の装備を整えながらネルの話に耳を傾ける。
ネルの方は準備が終わったのか机に腰かけ、煙管をふかしている。
「奴ら、執行部隊動かしやがった。」
「あの『死神』を!」
「そうさ。ついでに、シュロロの奴まで随分と乗り気でね。だから、そいつらに捕まる前にあたしらの方で確保する必要があるのさ。この異常な状況で鍵を握ってるのはあの人間だからね。」
「・・そうですか。リウ・クロート、準備完了しました。」
その声を聴くとネルは扉に向かって歩き出すと、リウもその後に続く。
「いいね? 目的は人間 ロウ・ガーウェンの捕獲だ。間違っても殺すんじゃないってのを全員に伝えな」
「了解しました」
その言葉に了解の意志を見せると一人だけ違う部屋に入り、所属している全員を呼び出した。
くしくも、兵士を集めて出発するのは全ての隊が同じタイミングだった。
ここから国を挙げての『人間狩り』が始まる。




