家族の出会い
食事が終わった後、ロウは着替えを取りに行きたいといって部屋に戻った。
その後、少ししたらセシルが後を追いかけてきた。
「・・・わざとらしすぎない?」
「別に大丈夫だろ。それで、リーリアについてってのは?」
話をロウの方から切り出した。
その言葉に何かを考えるように顎に手を当てる。
「・・・リーは昔の記憶について何か言ってた?」
「戦争の時に襲われた記憶を夢に見るぐらいしか聞いてないな。」
「そう、やっぱりその時のしかないのね。」
「どういうことだ?」
一人で納得しているセシルにロウは話しかける。
「リーは昔の記憶があいまいなのよ。戦争の記憶は残ってるのに自分のことは覚えてないんだから。
・・・戦争終結のきっかけになったのがフェアリーの里の襲撃で、
そこで捕まえた人間から本拠地を聞き出したのがきっかけで戦争が終わったの」
「へー、そうだったのか。」
「話はその時の話なの。私たちがマリアさんに拾われるときの話よ・・・」
◇◇◇ ◇◇◇
鳥のさえずりが聞こえる。
カーテンの隙間から差し込む細く明るい光がセシルの朝を告げる。
「ふあぁ~」
大きな欠伸をして、一緒に眠る相方のぬいぐるみを掴み引きずりながら扉を開ける。
「今日も早いんだな、セシル」
「おはよう、セシル」
迎えてくれるのは優しい両親だ。
二人ともフェアリーの血を持っているので髪は深い緑色をしている。
眠そうに歩いてくるセシルを抱き上げ膝の上に座らせるのは父親。
全体的に刈り上げている髪が特徴で、伸ばしている襟足がポイントらしい。
「おはようパパ」
「あぁ、おはよう。・・おぉっと、危ないな。どうやらまだ夢の中みたいだ。」
「起きてるもん」
といいながらも頭は前後に揺れている。
「ふふっ、無理しちゃって。まだ寝ててもいいのに」
笑いながら食事を乗せたお盆を持て来ているのは母親。
ゆるくウェーブがかかった髪は腰まで伸びていて、
セシルの髪にも母親譲りのウェーブがかかっている。
「・・・うぅん。・・いい匂い。」
鼻をくすぐるのはハーブに似た香草の香りだ。
その香草は、このフェアリーの里特有のもので
普通のものと違ってこの草にはマナが多量に含まれている。
この香草を使用することで、ここに住むフェアリーたちの体はマナに近い状態を維持している。
「ははっ、食いしん坊だなセシルは。」
そうやって家族団らんの時間は過ぎていく。
◆◆◆ ◆◆◆
「さて、じゃぁ行ってくるよ。」
「・・・ねぇ、本当に行かなきゃいけないの?」
「何をいまさら。十分に話したじゃないか。」
「だけど・・・」
セシルの父親はこのフェアリーの里を守るための結界魔法の修理と維持を仕事にしている。
いつ終わるとも分からないこの戦争から大切な仲間を守るために行ってるのだが、
少々場所が悪い。
というのも、結界の調整する場所はこのフェアリーの里に置いて限りなく最前線に近い場所なのだ。
そこに赴き数日かけて調整したのち、次の班と入れ替わって作業を行っていくというやり方で、
ちょうど今日からセシルの父親が担当になったという話なのだ。
「何度も言っただろ。俺はお前たち家族を守りたい。
その為に俺が行くんだ。みんなが命がけで行ってるってのに、
俺だけがここで安穏とした生活を送ることはできない。」
「・・・・・。」
「分かってくれ。二・三週間という時間だけ待っててくれ。
必ず帰ってくるから。」
「分かりました。待ってますから必ず帰ってきてくださいね」
そういって別れた父親の姿をセシルはこの先、二度と見ることは無かった。
◆◆◆ ◆◆◆
その日の夕方の時間だ。
外から遊びに帰ってきたセシルは家の中がやけに静かであることに違和感を持つ。
「・・・・ママ?」
恐る恐る中に入り、周囲を探す。
玄関から入り、近くの部屋、寝室、風呂場、一階には誰もいない。
二階に静かに上がる。声を殺して足音もならないように静かに。
そうすることで聞こえてくる心音が誰かに聞こえるんじゃないかと思うほどに鳴り響く。
分かってはいるが、それでも抑えられえずにはいられない。
胸を強く抑えて、自分の家のはずなのに静かなだけでまったく別のように感じる。
そんな別世界の家の中を探し、二階の部屋に辿りつく。そこで見たものは、
「ママ!」
二階にあるセシルの部屋の前で倒れている母親の姿があった。
必死に揺するも母親は苦しく呻いているだけで、意識が戻らない。
泣きながらも叫ぶが変わらずそこに寝てるだけだった。
何度も何度も叫んでいると、下の玄関から声がした。
「おーい、だれかおらんのかー?」
その声に反応して振り返る。
聞いたことのあるその声は近くに住む老人の声で、急いでかけていく。
慌てた様子のセシルを見て何か問題が起きたのだと認識して母親のもとまで向かう。
「これは薄魔症! 何故今こんなものが!」
「?」
幼いセシルにはそれがどんなものなのか分からない。
ただ、老人が驚いているからそんなに大変なものなのだろうということだけは伝わってくる。
「すぐに連絡しなければ! セシルちゃんはここでお母さんと一緒にいててくれな?」
泣き腫らして目で頷いて返す。
老人は駆け足で出て行った。
その後は老人のいった通りに母親の隣に座り声を掛け続けた。
その数分後に数人の同族がやってきて母親を病院に連れて行った。
セシルもそれについていき、様子をうかがう。
その病院の中はかなり忙しいようで、みんなが大慌てで動き回っている。
「また同じ症例の患者だ!」
「また薄魔症なのか? 何だって昔の病が今になって流行りだすんだ!」
「知るかよ! 今動ける奴らが総出で調べてる最中だ。
その結果を待つしかないだろう!」
そんな怒号が飛び交っているが、セシルはまだ理解できていない。
病室の一室に運ばれて、複数人で取り掛かっている。
ここは邪魔になると老人と共に病室の前で待つことになった。
老人は気を遣いセシルに話しかけてくるが、セシルの耳には一向に入ってこない。
ただ震えるだけで、何も分からない状態が続く。
それから少しした時だ。母親が入った病室が開き出てきた。
老人に何か説明しているが、セシルには理解できない。
そのまま中に入り、母親のもとに駆け寄る。
「ママ!」
目線の高さにある手を掴み必死に覗こうとするが顔が見えない。
後から入ってきた医者の人に抱えられえて椅子の上に座らせられる。
そこには目を閉じて眠る母親の姿があった。
一命は取り留めたものの、予断を許さないとのことだ。
必死に母親の手を握るが、変化は全くない。
幼いセシルにできるのは隣で応援することだけなのだ。
その姿が哀れに見えたのかは分からない。
医者の一人が、お母さんの応援になるようにと一緒にお花を摘みに行こうと誘ったのだ。
このままいてもどうしようもないというのは幼いセシルにもなんとなく理解できていた。
故に、目が覚めた時母親の周りが綺麗にしようという思いでその話を受けたのだ。
そこで老人たちと別れ、その医者と一緒に出掛けて行った。
これが最後に見た母親の姿だった。




