新たな監視官
被害のあった場所は近くのようで、歩いて向かう最中。
先頭を歩くロベルトがロウに話しかけてくる。
「何か新しいことは分かったか?」
「まぁ、いろいろとな。戦争中に人間が使っていた兵器を中心に調べてんだが、
かなりの量があるんだな。・・・参っちまうよ、ほんとに」
「あれだけ長いことやり合ってたら仕方ない。
処刑について詳細が決まるのが祭典の後だから、あと3日だ。
・・なんとかなりそうなのか?」
ロベルトはロウのことを心配して聞いてきたのだろう。
その質問に首を横に振りながら言葉を返す。
「・・・正直、難しいと思う。これだけ手を回してるんだから、
敵も簡単に諦めることはしないしな。手は無いこともないが、あまりやりたいとは思わない」
「まさか、直接捕まえるとか言わないよな?」
足を止めることなく視線だけをロウの方に向けて聞いてくる。
「そのまさか、だと言ったら?」
「・・あまり無茶するな。多少の心得はあるようだが、
人間と魔族とでは根柢の実力の差が大きすぎる。舐めていると痛い目に遭うぞ?」
「そんな事百も承知だ。言っておくがなめてるわけじゃない。
敵のことを最大限に警戒してるからこそこうして情報を集めてるんだからな」
ため息を吐きながら歩く足は止めずに前に向き直る。
気持ち歩く速度が上がったような気がした。
「・・そうか。そう考えてるのならば俺からは何も言わない。
もし、誰かの手を借りたいと思うならば私を訪ねてくるといい。
できることならば協力しよう。」
「へぇ。ありがたい申し出だが、そっちは大丈夫なのか?
人間に肩入れしてると周りから何か言われんじゃないのか?」
「ふっ、今に始まったことではないさ。それに、これはお前の為だけじゃない。
この事件において、我々はここまで犯人にバカにされたのだ。
もう、なり振りかまえる状態じゃない。
どんな手を使ってでも捕まえなくては、我々の立場が無いからな。」
「そういうことね。・・分かったよ。
もし頼りたいことが出来たらお願いするよ。」
ロウの言葉が納得いくものだったのか、
背中越しでもわかるほどに安心したようにうなずいた後、
人だかりができている一角が視界に入ってきた。
◇◇◇ ◇◇◇
「ここだ。・・・ソルドール様、遅れました。」
「おっ! 来たネ。やっぱり連れてきたのカ」
どうやら別の兵士と話し中だったのか、ソルドールは指示を兵士に伝えると
その兵士は走って行ってしまった。
「・・はい。もしや必要になるかと思いったので連れてきました。
迷惑でしたか?」
「ううん。全然。ロベルトが信用して連れてきたんだったら、
私からは何も言うことは無いヨ。時間も時間だから説明はヨロシクネ!」
「分かっております。・・・ロウ、こっちだ」
人だかりを抜けると開けた場所に出た。
現場となった場所はどうやら高い位置にあるらしく、
周囲を囲っている手すりからは、上から住宅街が良く見える。
その開けた場所のだいたい真ん中に大きな木があり、その下に3m程の石碑が置かれている。
ロベルトが連れて行った場所はその石碑のところだった。
「・・・・ひどいな。」
「あぁ。これはまだ見れる方だ。バラバラにされた遺体を見た時は、
さすがの私でも気を失いそうになったからな」
そこには石碑にもたれかかって座るように死んでいる鳥人の女性(?)がいた。
女性かどうかの判断は体全体についている切り傷が激しすぎる為、
いまいち性別もはっきりしない。
その死体は体の一部が黄色い羽毛で覆われており、
後ろの石碑に広げられた羽が打ち付けられている。
辺りはかなりの量の羽が落ちておりここで暴れたのだと推測できる。
体にある傷は体を覆いつくすほどにつけられている。
正直、傷の無い部分を探す方が大変じゃないのか?と思う程にズタズタにされている。
しかし、何よりもロウの目を引いたのは死体の後ろにある石碑に殴り書きされた例の『落書き』だ。
「・・ロウ、なんて書いてあるかわかるか?」
「またこれか。えっと、『カナラズ コロス』って書いてあるな。
やっぱり思い当たるのは姫様暗殺か?」
「そうだな。私はそれしか考えられないが・・・。
どうやら今回の予告はかなり本気らしいな。」
「・・だな。」
他には何かないかと見回すがこれといったこともない。
ここにはあまりいる意味が無いか、とロウは判断して戻ろうとする。
「もう行くのか?」
「あぁ、ここはこの文字以外は特に変わったことはなさそうだ。
調べたいことはまだ山積みでね、戻って調べたい。連れてきてもらって何だが・・・」
「ま、そういうことなら仕方が無いな、わかった。
ソルドール様には私から言っておこう。すまないな。」
「いや、謝るのはこっちだ。連れてきてもらって勝手に帰るんだからな」
話した後、ロベルトと別れて歩き出す。
そして不意に周囲の外観を見て、セシルとの買い物を思い出した。
「・・そういや、こんな街中だったな。あの時。」
と、その時変な違和感が頭をよぎった。
その違和感を確かめる為、再びロベルトのもとに向かう。
「・・すまんロベルト。ちょっといいか?」
「ロウ? 帰ったんじゃないのか?」
「あぁ、ちょっとしたことでな。地図は持ってないか?
この辺の地図だ。俺が襲われたのがどのあたりか知りたい。」
「そうか。・・・おそらく地図ならばソルドール様が持っておられる。
一度聞いてみるといい。」
「ありがとう」
そう告げて、互いに自分の作業に戻る。
開けた場所の入り口の近くにいたソルドールのもとに向かう。
近くの兵士からいろいろ話を聞いているようで忙しそうだ。
声を掛けるかどうか迷っているとソルドールの方がロウに気が付いたのか、手を振っている。
「・・・何か用でもあるのカナ?」
「あぁ、忙しいところ悪いな。このあたりの地図を持ってるって聞いたんだが・・
あったら少し貸してくれないか?」
「何か分かったのかイ?」
「いや、単に俺が襲われた場所がどのあたりか知りたくなっただけだ」
フーンと、あまり興味が無さそうに返事をして手に持っていた地図を渡してくれた。
その地図を広げてロウは襲われた場所を確認する。
「・・・この地図のこのあたりなのか。寮は・・・ここか。」
見覚えのある場所を確認していてあることに気が付いた。
「セシル・・町の説明だったか。だから遠回りして市場に向かってたんだな」
改めて確認して、ロウとセシルが通った道が朝市まで遠回りのルートだということが分かった。
目新しいものは何もなく、セシルがロウの為に動いてくれたんだということを改めて理解した。
「・・ありがとう。返すよ。」
「いいヨ。どウ! 何か分かったカイ?」
「あぁ、場所は特に関係ないということが分かったよ。」
「えぇー、つまんないんだけド?」
「俺に期待すんなよ。分かってるだろ?」
ちぇー、と口をとがらして腕を組む。
身長や口調、体系からいってどう見ても子供のようにしか見えないその姿はなんだか和むような気がする。
「トールたちはどこにいるか分かるか?」
「あそこにいるヨ」
そう言って指さす先には二人が椅子に座っている姿が見える。
礼を告げ、二人のもとに向かう。
近付いて分かったのだがリウの顔がいまいち優れえないように思う。
「・・大丈夫か?」
「・・・すいません。うえっ、大丈夫です。」
青い顔で、えずきながら言われたところで説得力はまるでない。
「全然大丈夫じゃないだろ。休んだ方がいいんじゃないか?」
「ですが・・・」
「お前の監視の仕事があるのに抜け出すわけにはいかない。」
「お前、いい加減に俺のこと信用したらどうだ?
それなりに二人には話してるわけだしさ。」
ロウの言ってることは二人はよく理解してる。
トールとリウを信頼してるからこそ、書庫で敵を捕まえるとロウが自ら話したのだということを。
それを分かってなお、トールは首を振ってこたえる。
「それと・・これとは違う」
ロウを見つめるその瞳には強い決意の光が宿っている。
二人の言い分は分からないでもない。ロウは死刑判決待ちの状態だ。
そんな奴を野放しにするのはできないのだ。
トールの決意の言葉に対して口を開こうとしたとき、後ろから声がした。
「大丈夫? リウちゃん? 顔色悪いヨ?」
「ソルドール様!」
「戻って休んだ方がいいんじゃなイ?」
「ですが!」
「2人は休憩してきなヨ。仕事に真面目なのはいいケド、
真面目すぎるのは毒でしか無いからネ。」
ロウが言おうとしたことをソルドールが全部言ってしまったため大人しく口を閉じる。
「監視の任務なら私が引き受けるからサ」
「「「 !? 」」」
「二人にも仕事があるでショ? いずれは交代するんだから。ネ?」
にこやかな笑顔で告げられる言葉には優しい思いの反面、
有無を言わせない無言の圧力があった。
それに逆らうことなどできるはずもなく、
「・・・わかりました。ではお願いします。」
「ちょっと、トール!」
「無理にやったところできちんとこなせるとは思えない。
だったら一度休んでから取り組んだ方が何倍もいい。そう思うだろ?」
トールのいうことは的を得た言葉なのでリウは何も言い返せない。
彼女にどんな葛藤があったのかは分からないが、少しの間をあけた後トールの意見に賛成の意志を示した。
「あとはよろしくお願いします。」
「まっかせてヨ!」
さっきもそうだが胸を張るその姿はただその場を和ませるだけだった。
歩き去っていく二人を見送って姿が見えなくなった時ソルドールは、
「デハ、行こうか」
そういって歩き出す。ロウは、嫌な予感が頭をよぎっていた。




