表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
27/132

書庫にて


「それは本当なのか?」


「分からん。ただその可能性が高いってだけだ。」


ここまで話を聞いたトールはある疑問が浮かんだ。


「お前はそのことにどの時点で気が付いてたんだ?」


「だいたい、姫様暗殺の手紙が送られてくる前ぐらいだな。

 ・・・それでは、ここで俺から問題です。」


「問題?」


「あぁ、何故おれはあの場所でそれを言わなかったのでしょうか?」


質問の意味を一瞬で理解する。


「まさか、ロベルトが裏切り者だと!」


「その可能性があるってだけさ。頭は良いはずなのに気が付かないのが不思議でな。

 怪しいから言わなかったんだ。あくまでも予想だから確信はないけど。」


よし、といってロウは近くの資料を手に取って目的のものを調べ始める。


「だが・・・」


悔しそうな表情で俯くトールを見て、

ロウは大きくため息を吐く。


「・・分からないことを考えたところで時間の無駄だ。

 目の前に調べることはあるんだからとりあえずそれ調べよう。

 結果はいずれ分かるんだからさ」


「・・・そう・・だな。」


「納得できたところで手伝ってくれ。この資料を時系列順に並べたい。」


「・・分かった。」


そうして、オブジェクトが持ってきてくれた資料の並び替えが終わるのは朝になってからだった。


 ◇◇◇ ◇◇◇


「ふあぁ~」


リウは眠い目をこすって起き上がる。

自分の部屋とは違うことに気が付きなぜここで寝ていたのかを思い出す。


「はっ!」


資料の山の中で机に突っ伏してトールと向かいの席に座って寝ていたのだ。

その姿に安心して胸をなでおろし、声をかける。


「朝だよー、二人とも。起きなきゃー」


その声に反応するように二人からうめき声が漏れる。

1人だけ熟睡していたリウはスッキリとした顔で声かける。

それに反応する2人は疲れきった顔をリウに向ける。


「・・・なぁリウ、もう少しだけ待ってくれないか?」


「ダメだよ、トール。祭典まであと3日しかないんだよ!

 こうしてる間にロウの死刑が近づいてるんだから!」


トールを揺すり、無理やりに起こす。

まだ目が覚めきってなのか、生まれたての赤ちゃんみたいに首が揺れている。


「ロウも! 起きなよ! 朝ごはん奢るから。」


「・・・だったら起きるしかないな。」


昔から染み付いた癖のようなものだろう。

タダ飯となると体に鞭を打ってでも起き上がってしまうロウには

貧乏癖がついてしまっているのだ。


・・ユラリと立ち上がり、リウを見つめてくるその視線に押されて後ずさる。


「・・えっと、」


「早々に一人だけ体感した安らかな眠りはさぞ楽しいものだったのだろう・・な?」


「・・さ・・さぁ、みんなで顔洗って行こうか。私の奢りだからね!」


ようやく自分がした行いが理解できたのか、

涙目になりながら扉の方に歩いていく。

二人も眠い目を擦りながら後についていく。


書庫の近くには洗面所のような場所があり、そこで顔を洗う。

この場所は男と女に分かれている為ロウは一人で中に入る。


「・・一人で移動するのは初めてだな。」


移動といってもほんの2m程度の距離でしかないが、

それでも一人で歩くということがこの城の中で初めての経験だったのだ。


扉に入り、角を左に曲がった先に洗面所はあった。

ここには一人しかいないだろうと思っていると先客がいたのだ。

洗面台は左右に8個ずつあり、先客は左側手前から3つ目を使用していた。


「・・・・・。」


声を掛けようとも思ったが、騒がれては面倒なので黙ってることにした。

先客から離れた右側一番奥を使う。

この位置ならば、気が付いても話しかけるようなことはないだろうと考えた結果のポジションだ。


顔を水で洗い目を覚ます。歯を磨こうとリウが持ってきてくれた新しいブラシを手に取った時だった。


「あっ、おはようございます。今日もいい天気ですね。」


「・・・・・。」


「あれ、聞こえなかったのかな?」


聞こえないふりだよ、と内心で呟くも相手は分かっていないようで

最初よりも大きな声で話しかけてくる。


「おはようございます! 今日もいい天気ですね!」


2度目も無視し、続けて歯を磨こうと口に入れる。


「おーはーよーうーごーざ・・」


「ああぁ!もぉ! 悪かったよ! 静かにしてくれ!」


「何だ、聞こえてるんじゃないですか。」


にこやかに話しかけてくるその老人には二本の角が付いている。

角といっても鋭くとがったようなものでなく、

先っぽが丸まっている小ぶりの角だ。

鼻の下に白い丸まったひげを生やしていて、見た目はかなり優しそうだ。


当人の髪が白い天パのようなせいもあるのだろう。

遠くから見たら羊の頭に見える。


「もー、焦りましたよ。まさかこの距離で声が届かないなんてあるのかな~なんて。

 まだ夢の中にいるんじゃないかと思ったくらいですからね」


「そうなのか。」


と短く返すロウの内心は、

(焦ったのはコッチだよ!何でこの距離で話しかけてくるんだ!)


ロウが返したのが嬉しいのか、その老人は近づいてくる。

老人といっても歩き方もしっかりしているし、背筋も伸びている。

もしかしたら見た目ほど老いてはいないのかもしれない。


「そうですよ、仕事が長引いたせいで徹夜でして。あなたが返してくれないから、

 途中で倒れて夢の中に入ったんじゃないかって焦りましたよ。」


「ほー。」


「もー、聞こえてるならちゃんと返事してくださいよ。

 ・・いや、待てよ? もしかしたらここは夢で体は寝ているんじゃないだろうか?

 だとすれば私は、夢の中の住人であるあなたに文句を言ったことになる。」


「・・・・・。」


話しかけてきた老人が変な方向にエンジンがかかってしまったことを、

ロウは察するが、口は出さない。

(ほっとけばいずれ消えるだろう。)


「それはいけないな。もしそうなら、

 彼は私をこの夢から覚まそうとしてくれていたのではないのか?

 ! しまった! だとしたら私はあなたになんて失礼なことをしてしまったんだ!」


「・・・・・・・・。」


「私のことを考えて行ってくれた優しい行為を、私が自分の手で潰してしまったことになる!

 すいませんでしたぁー! 謝って済むことではありませ・・痛い!」


激しい動きで頭を下げてくるその老人は勢いのあまり洗面台の角に頭をぶつける。


「・・・・・・・・・・・・・。」


「あぁー!角にぶつけてしまった! ・・いや待て。痛いだと?

 ならばこれは現実なのか? この痛みが物語っている。しかし、それでは彼が

 わたしのためにしてくれた行為が全く意味の無いものになってしまう!

 彼の優しさは本物だ。それを疑うなど私にはできない。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「だとしたら、もうとれる手段は一つだけだ! 聞いてしまおう!

 自らが招いた恥ならば甘んじて受けるしかない!馬鹿な私め!

 ・・・そこのあなた! そう、あなたですよ! あなた!

 頭の悪いこの私にどうか・・どうか教えてください!ここは、夢なのか!それとも・・・」


「うるせぇえぇぇぇぇ!」


我慢の限界に達したロウが叫ぶ


「うるさいんだよ、さっきから!

 一人で話して一人で盛り上がってんじゃねぇ!

 俺が悪かったから、もうやめろ! 謝るから静かにしろ! いいな!」


「では、ここは夢ではないのですか?」


「そう言ってるだろうが。静かにしろよ、全く。」


ようやく止まったその老人の暴走にロウはより一層疲れが増した様に感じる。

(・・疲れた。何だこいつ、スゲー迷惑なんだけど)


「それは良かった。私が倒れることで周囲の方々に迷惑をかけるのは心苦しいのでね」


「・・・・・そうか。」


「そういえば、周囲の方々で思い出しましたが・・・・

 あなた見ない顔ですね?新入りですか?」


本来、最初の方に出てくる質問がやっと出てきたところでため息をつく。


「現実の世界では見ない顔・・・まさか、ゆ」


「違うから! 現実だから!」


再びエンジンがかかりそうになるところをロウが止める。


「・・俺は人間だよ。知らないか?例の通り魔らしいんだが」


「なんと!あなたがそうでしたか!

 いやぁ、なんとなくそんな気がしたのですけどねぇ。

 灰色の髪に鋭い赤い眼。全体的に黒い服を着たエアの・・・感じ・・られない・・・人間。」


そう話しながらだんだんと顔の表情が強張っていく。


「まさか・・・あなた・・・」


ようやく理解したかと正面の鏡に向き直る。

(この世界の人間がしてきた行いの非道さを知ってるのならばこうゆう反応が普通なんだよな。)

やっとうるさいのがいなくなるなぁ、と考えていると


「例の通り魔じゃないですか!」


「言っただろうが! 今!」


「なぜここにいるんだ!牢屋に入れられてるんじゃ・・・・

  はっ! まさか、これは」


「現実だっつってんだろうが!」


肩で息をしている自分に気が付くとさらに疲れが増していく感覚に落とされる。

いや、実際かなりの疲労が蓄積されてるのは間違いない。

(何なんだ、こいつ。ほんとに)


「なぜ、ここにいるのですか?」


「やってもないことで裁かれるのに意義を申し立てただけだ。」


「・・ふむ。ということは真犯人を探そうという考えですね?」


「そうだ。残りの日数も少ないから結構大変でな。」


やること多いぜ、と付け足す。

(何だ?やけに勘が鋭いな)


「そうですか。近頃は物騒になってきましたからねぇ。

 人間であるあなたが現れたとき辺りから、あの通り魔の騒ぎがありましてね」


「そうなのか?」


「はい。姿形も全くわからない状況で突然人間のあなたが現れたものですから

 皆がこぞってあなたを犯人にしようと画策しているのですよ。」


「・・・なんて奴らだ。」


「全くですね。・・おっと、もうこんな時間ですか。

 楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまいますね。

 では、また会う時まで。」


そう言い残し、洗面所から出て行ってしまった。


「・・・何だったんだ、いったい」


もう一度顔を洗い疲れをなるべく感じないようにしながら出て行く。

目を覚ましに来たはずなのになぜか布団の中で眠りにつきたい衝動に駆られたが、

そこは堪えながら二人が待つ入り口に向かう。


「・・どうかしたのか?」


待っていた二人が疲れているように見える。

様子のおかしい二人の声を掛けると、


「・・まさか、こんなところで会うなんて。」


「さっきの白髪の男のことか?」


「そうだ。あの方と会って話したのか?」


「話したよ。スゲー疲れたけどな。あいつ、そんなすごい奴なの?」


ロウの反応がいまいちなことにリウは声を荒げる。


「すごいどころじゃないよ!だってあの方は、」


「あの方は?」


「マキシム・ダンロート」


トールが答える。


「クロエ様が神将部隊をまとめる方ならば、

 あの方は帝将部隊をまとめるこの国の第二の王といっても過言ではないお方だ」


「・・・・・・・・・まじで?」


予想外過ぎる回答にロウはその老人の後ろ姿を見続けることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ