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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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「・・・さて」


二人を見送った後、マリアが話し出した。


「行こうかね。あんたも付いといで」


そういって、出てきた扉の方へと向かって歩き出した。

ロウも特に答えることなくマリアの後についていく。


「あんた、名前は?」


「ロウ・ガーウェンだ。聞いてないのか?」


「あまり興味が無くてね。どうせすぐに消えるんだから、覚えたところで・・・ね。」


マリアが放つ意味深な言葉に眉をひそめる。

声をかけようとしたが、扉の中に入って消えてしまったので諦めて後を追う

扉の中は、思っていたより少し広いほどの通路できれいな印象を受ける。

予想に反して普通だった通路を見回しながら、歩くと

目的地に着いたようで、


「とりあえず、ここで待ちな。

 必要な奴を連れてくるからね」


そういって、ロウを部屋に一人残して歩いて行ってしまった。

案内された部屋はどこかの休憩室のようで、

いくつかの棚と机が一つ、椅子が4つ並んでいるだけで殺風景な部屋だった。

入ってきた扉の正面に別の扉があり、マリアはその扉を通って消えていった。

置かれている棚の中にはコップや皿、タオルと思われる布が置かれている。


「思っていたよりも普通だな。」


なんて言ったとき、扉が開いた。


「待たせたね。じゃぁ、話そうか」


 ◇◇◇ ◇◇◇


場所は変わって、ロウと別れた後。

並んで歩く二人はかなり暗い雰囲気をまとっている。


「うー、何で私まで」


「まぁ、諦めるしかないだろう。ああゆう方なんだから」


「トールは良いかもだけどさぁ、私なんて完全に被害者じゃない!

ネル様に不安だからって言われて、付いていっただけなのに・・・」


「・・・それは、すまない。」


隣で、うなだれているリウを横目で見る。

彼女とは、複雑な経緯を得て入ったトールに最初に声をかけてきた数少ない相棒だ。

トールのことを知らなかったとは言ってもその後も何かと世話を焼いてくれるリウに、

トールは随分と助けられてきた。


長い付き合いだが、ここにきてリウのことが分からなくなっていた。


「・・・なぁ、リウ。」


「んー?」


げんなりとしているリウに躊躇いがちに声をかける。


「・・・・聞きたいことがある」


「・・何?」


トールの表情が真顔に切り替わっていることに気が付いて、

リウも自然と背筋が伸びる。


「さっきの人間のことだ。なぜ、あんな風に話すことができる?

 私にはできないことで、・・・その、」


「・・理解できない?」


言葉に詰まったトールの言葉を引き継ぐようにリウが答える。

自分が言いよどんだことを当てられ少し驚くが、

首を縦に振ってこたえる。


「・・・正直言うとね、私人間が嫌いじゃないんだ。

 私の専門は後方支援だから、直接会うこともなかったし。

 人から聞いただけで、いまいち実感がわかなくて。」


「けれど、」


「分かってる。トールのことも知ってるし、人間たちがやってきたこともわかってる。」


「じゃぁ!何で!」


少し熱くなってきたようで声が大きくなる。

リウが立ち止まり、少し進んだところでトールが振り返る。


「・・ねぇ、トール。私たちと人間って何が違うんだろう。」


その言葉にトールは何も言い返せない。


「・・ごめん。私、」


「いや、どうともしないよ。こっちから聞いたのに、すまない」


「ううん、良いんだ。早く帰ろ。みんな待ってるから」


そういって再び歩き出す。

沈む夕日が、二人を暗く照らしている。


◇◇◇ ◇◇◇


「さて、まずは自己紹介といこうかね」


促された椅子に座り、互いに向き合う。

正面にはマリアで、隣には見たことある緑の髪の女の子が座っていた。


「聞いていると思うが、私はマリアだ。

 ここの管理人をしているよ。それで、こっちが・・・」


「リーリアです。・・あの、間違ってたらすいません。

 もしかして、牢屋でお会いした方ですか?」


伏し目がちに聞いてきたことで思い出す。


「あぁ、皿をぶつけようとした人か」


「やっぱり!そうでしたか!あの時はすいませんでした。

 あの、けがはありませんか?」


大丈夫だと、手を振る。その様子を見て、


「何だ、知り合いかい?」


「はい!いつもの配膳に行ったときにちょっと手違いがありまして。

 その時に、少し迷惑をかけてしまったんです。」


「・・・少し、ねぇ」


頭の中で、その時の記憶がフラッシュバックしている。

顔面に飛んできた皿は、はっきりと記憶されている。


「だったら、話が早い。後は任せるよ。

 明日から入ってもらうからね」


後半はロウに告げられたのだろう。

なんとなくやる仕事は予想はできているが、確信が無い。

むしろ、確信したくないと思う気持ちの方が強い。


「分かりました。任せてください。」


そう告げて出て行って、ここには二人だけになった。


「では。・・えっと、」


「言ってなかったな。ロウだ。」


「すいません。では、ロウさん。

 ここで任される仕事について何か聞いていますか?」


「何も聞いてない、けど。なんとなく予想はできてる」


「たぶん、その予想の通りだと思います。

 ロウさんにはここでこの寮の管理の仕事を私たちとしてもらいます。」


その言葉を聞いて、頭が痛くなる錯覚に陥る。


「・・本当に?」


「本当です。ここはかなり忙しくて、

新しく入ってきた人も次々辞めちゃって慢性的な人手不足です。

それをマリアさんが訴えたら、新しい人材として、ロウさんが選ばれたということなんです。」


「何で、俺なんだ。あんたらは良いのか?・・人間なんだぞ。」


「私たちは人間が嫌いではありません。

 実際に、人間たちのそうゆう場面を見て無いので、

 何とも言えないのが正直なところです。」


その言葉にロウは言葉が返せない。


「マリアさんも一応は言ったみたいですけど、

 どうやら国王様からの命令らしくて、どうしようもないと。」


「・・・あいつ」


頭の中で、鼻で笑っているクロエの姿が浮かんでくる。


「ですので、諦めて頑張ってくださいね」


満面の笑みでロウの方に微笑んでくる。

背もたれにもたれかかり、ため息をつく。


「・・・ここから逃げたりしたらどうなる?」


「処刑だそうです」


何のためらいもなくさらりと告げられるその言葉に、

重ねてため息を吐く。


「・・・そうかよ。分かった、やるしかないんだな。

 ・・で、何をするんだ?」


「主に清掃ですね。ここは、200人近い方々が住んで

 おられますんで大変なんです」


「・・・200人。ちなみにここで働いてるのは何人?」


「5人です」


告げられた言葉に口がふさがらない。

明らかに人の数がおかしい。


「嘘つけ。5人で回るはずないだろ。」


「本当ですよ。ここには5人しかいません。

 ですので、本当に大変で」


頬に手を当て、ため息をついている。

5人という言葉は信じられないが、嘘をついているようには見えない。


「ですので、ロウさんには明日から働いてもらいます」


「・・・マジか」


答える言葉に力はなく、それに気が付かないのか、

それとも気づこうとしないのか分からないが、顔は笑顔だ。


「施設の説明はいずれやるとして、とりあえず受け持ちの場所だけ説明しますね」


そういって、元気に立ち上がり入ってきた扉を開け、手招きしている。

それを見て、力なく立ち上がり後について説明を受けに行った。


この寮は西洋のような造りの二階建てで、

かなり広く少し大きめの施設でも余裕をもって入るんじゃないかってぐらいの大きさだ。


案内された受け持ちの場所は、とりあえず二階の半分だけらしい。

とりあえず半分だけと、告げられた言葉に思わず「馬鹿じゃないのか」と口から出たが、

満面の笑みと「頑張ってくださいね♪」という言葉に難なく打ち返された。



 ◇◇◇ ◇◇◇


「こちらが、ロウさんの部屋です。」


案内された場所は、あの裏口の通路から伸びていた階段の先にある部屋だった。

シャワーとトイレは完備されているなかなかの部屋だ。


「明日から着る服は何着か棚に用意してありますので、

 明日からそれを着てきて下さい。」


部屋に入り簡単な説明を受ける。

その後、「お風呂には毎日入ること」「明日から頑張りましょうね」

との言葉を受けて部屋に取り残された。


この部屋でとくにすることもなく、言われた通りシャワーを浴びる。

ずいぶんと懐かしく感じる。

シャワーを浴びながら考えようとするがうまく頭が回らない。

諦めてさっさと終わり、用意されていた寝巻に着替えベットに座る。


「随分と懐かしいな。石の上じゃないのがこんなにうれしいとは」


そう言って横になる。牢屋の中で寝てばかりだったはずなのに、

ベットに横になった瞬間、猛烈な睡魔が襲ってきた。

(俺、こんなに疲れてたのか)

そこからは何も考えることなく夢の中に落ちて行った。

自分のことも、これからのことも考える余裕は無く、ただただ眠りに落ちて行った。









そして、悪意が動き出す。

長い闘いの幕が上がる。

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