二人牢屋にて
「クソッ!」
そう言って石の上に寝転がる。
牢屋の中に入れられた状況だ。
既に鎖はロウの足に固定されてしまっているが、唯一の救いは、前回よりも鎖が長いことだろう。
そして更に、この牢に先ほどの獣人がいる。
牢屋に入れられる際、何故か2人ともまとめて牢屋の中に入れられたのだ。
ロウは起き上がりながら、獣人の方に問いかける。
「・・お前。その腕痛むか?」
獣人は指摘された腕を見て答える。
「・・・痛ぇに決まってんだろ。今でも動かねぇのによぉ。
もし痛くないと思ってんなら相当イカれてやがるぜ」
「・・・・そうか」
そう言って立ち上がり獣人の方に近付く。
「何するつもりだ!」
「・・・見せてみろ。」
「何企んでやがる?てめぇ。」
鋭い眼光でにらみつけてくるがロウは動じない。
「それ、狙って外したから直せるはずだ。後遺症が残る前にやらねぇと」
「ざっけんなよ!てめぇ!動かねぇんだぞ!
エアでも使わねぇと治る分けねぇだろうが!
それにそんなことしてお前に何の得があるってんだ!」
「・・・無いな」
「じゃぁ何でだよ!」
怯えた目でロウをにらんでくる。
ロウは座り込んでいる獣人と同じ目線まで腰を下ろす
「じゃぁ聞くが、得する理由がなければしちゃいけないのか?」
「・・・・っ。」
相手の獣人は押し黙る。
「それに、俺が損得で動いてないことはさっきの裁判とやらでわかってるはずだが?」
「ぐ・・・・・。」
「その位置じゃあ届かない。こちらに来てくれ。
家族に会いに行くのに、そんな状態じゃ行けないだろ?」
悔しそうな顔でこちらに近付いてくる。
「・・・何かしたら殺すからな」
「好きにしろ。・・・・・不安だろうが、あまり動くなよ。」
差し出された右肩を観察する。
「・・・・。これならいけるか。」
そう言って獣人の右腕を掴んで位置をあわせる。
「ぐぅう!」
その痛みに獣人の顔が苦痛にゆがむ。
短い呼吸と共に力を入れて、ボキリと音が鳴る。
「いだぁ!」
獣人の肩を触って確かめた後、軽くマッサージをして離れる。
「これで動くだろう。ただし、今後外れやすくなる可能性があるから無理はしないことだ。」
「・・・・。」
獣人は自分の右手の感覚を確かめるように肩を回している。
「・・・少し痺れてるが・・・動く。
お前一体、何ものなんだよ。」
「ただの大馬鹿野郎だよ。自分のわがままで多くの仲間を殺した・・な。」
そう言って石の上に寝転がる。
「・・・・おい、人間」
「何だよ」
「・・聞きたいことがある」
言いながら、元にいたな所へと戻っていった。
「何故、俺まで出そうとしたんだ?俺はお前を殺そうとしたんだぞ」
「・・・理由は特に無いよ。しいて言うなら、あの裁判が気にいらないだけだ」
「…それだけの理由でか?王の特権を使えば何でも出来たのに。
金や名声なんかは当たり前で、他にもいろいろあるだろう。人間なんだから。」
獣人は驚いた顔で言ってくる。
「それだけって言うような軽い理由じゃ無いだろ。
あんな遊び感覚で命が消されてたまるか。・・・俺はそう教わった。」
「お前・・・・。」
そのときのロウの表情から何を読み取ったのかは分からない。
その答えを聞いて獣人は眉にしわを寄せ顔を俯ける。
「なぁ、お前・・・」
「フェザーだ。」
ロウの言葉を遮るように言葉を重ねてくる。
「フェザー・クリストフだ。お前じゃない。」
「・・・そうか。」
ロウはその言葉を聞いて少し止まってから言葉をつなげた。
「フェザーは、何で捕まったんだ?家族がどうだとか言ってたが。」
「・・盗みだよ。戦争の傷跡がまだ残ってんだ。
ロクな生活も出来ねぇ奴らを集めて町から盗んだもんで食わしてたんだが、
へましちまって捕まったのさ」
「戦争?」
「お前ほんとに知らないのか?人間なんだろ?」
フェザーが当たり前のことのように話すことが全く繋がらない。
言われたことを整理しようにも穴だらけで何一つ理解できない。
「その人間ってのもいまいちわからないんだ。
この城にも人間みたいな奴はいただろ?あいつらと俺は何が違うんだ?」
「・・・本気か?」
その言葉にロウは頷く。
驚きを隠そうともせずに顎に手を当て考えている。
「できたらそのあたり教えてほしいんだが。」
「・・・どこまで知ってるんだ?」
「何も知らない。」
再び考える。が、どうやら一周回ってこんがらがってきたらしく、
頭を振ってこちらに向き直る。
「考えるのはやめだ。まずはお前の質問に答えるとしよう。
いいか?この国・・・いや世界はつい数年前まで戦争していたんだ。
俺たち魔族と・・・人間とでな。」
「本当か?」
「本当だ。その戦争はめちゃくちゃ長く続いてよ、結果数百年やりあってたらしいぞ」
「数百年!あり得ないだろ!」
告げられた言葉にロウは驚きを隠せずに答える。
「嘘か本当かは分からない。少なくとも俺が生まれた時から戦争中だったからな。
だが、その長い戦争が最近やっと終わったって話だ。」
「・・・それで人間を嫌うのか。」
「あぁ、でだ。人間に似たやつがいるって話だが詳しいことは俺のも分からん」
フェザーは頭を振ってこたえる。
「それは分からないってことか?」
「詳しいことはな。ただ昔の人間の血が俺たち魔族の中に混ざっているらしくてよ、
その血が濃く出たやつは人間に似てくるんだとよ」
ロウはその話を聞いて思ってことを口にする。
「だとしたら外見では判断つかないんだろ?
なぜ、俺が人間であると分かったんだ?」
「そりゃお前、エアの違いに決まってんじゃねぇか」
当たり前のように言ってくるが、聞いたことない言葉だ。
「エア?」
「マジで何も知らないんだな。エアってのは人間と魔族の決定的な違いだよ。
今は使えないが、いろんなことができる力さ。」
「・・・例えば?」
「そーだなぁ。あれとかそうだな。」
そう言って、ここを照らす石を指さす。
「あれが?」
「まぁ、あれは力の応用の結果だがな。エアにもいろんな種類があって、
火をつけたり、風を起こしたり、力が強くなったりするやつもいる。
そういった力をひっくるめて俺たちはエアってよんでるのさ」
「魔法みたいなもんか」
「いや、それとは少し違う。魔法ってのはたくさんのエアを一つにまとめて、
発動されるもんだからな」
「どう違うんだ?」
フェザーは目をつぶって考えてから、口を開く。
「んー、まぁ端的に言うと一人でやるか、たくさんでやるかの違いだな。
魔法ってのはな、エアの上位版でな。
一人で扱えるエアの量は決まっていて、単純にみんなでやるほうが威力はでけぇって話さ。」
「・・なるほどな。そのエアってのが感じられなかったから俺は純粋な人間だと」
「そうなるな。・・・・あー・・・」
フェザーの反応を見て答える。
「ロウだ。ロウ・ガーウェン」
「すまねぇ。ロウはほんとに知らねぇんだな」
深く息を吐きながら、壁にもたれかかる。
ロウも返答しながらもたれかかる。
「あぁ。・・・ほんとに何も知らねぇことばかりだ。」
「じゃぁ、この国についてもあまり知らないんだろ?ついでだ、教えてやる。
この国はな、その戦争を終わらした奴が治めてる国で、
国名は、<帝都 ストロガノン>ってんだ」
「へー」
前のめりになって話を聞く姿勢になる。
それが満足なのか、フェザーは心なしか嬉しそうだ。
「でよ、この国は王をトップに置いて、その下に<神将部隊>と<帝将部隊>の二つがあんだよ。
帝将部隊はあまり表に出てくることはないが、神将部隊なら声くらい聞いたんじゃないのか?
ロウは人間なんだから」
俺は聞いたことないけどな、と鼻で笑って付け加える。
「あぁ、声だけなら聴いたよ。あまりいい気持ちはしねぇがな。」
あの時のことを思い出して少しイラっと来るがすぐに頭を振って素に戻る。
「・・・その神将ってのは一体何なんだ?」
「神将ってぇのはこの国を守っている代表みたいなもんだ。
一人一人の実力は、かなり高くてな。何でもしょぼい国なら一人で落とせるとか聞いたな」
「・・・なんだそれ。化け物か?」
「実際、化け物なんだろうよ。
俺が捕まる前には、反逆の意志がある奴らが集まった島を沈めたとか聞いたからな。」
それを聞いてロウは頭を振る。
「・・・信じられない。沈めるとか、落とすとか想像できないな。」
「全くだ。俺らからしても普通じゃない。
けど、そんな奴らが集まったからこそ、戦争が終わったと思ってんだがね」
「・・・帝将ってのは?」
めちゃくちゃな話をこれ以上聞きたくないため、話を切り替える。
「神将が力の象徴ならば、帝将は知恵の象徴だな。
そいつらは、国のルールを決めてる奴らだ。
いろんなルールを決めて、王の承認を得てからそれを執行していくんだよ。」
「へー。・・・今更だが、聞いてもいいか?」
「? 何をだ?」
「その王様の名前」
動くようになった右手をで頭を叩く。
「かー!言ってなかったな。王の名前は・・・」
言いかけたところで扉が開いた。
「フェザー・クリストフ出ろ。王がお待ちだ。」
二人で顔を見合わせ、フェザーは真剣な面持ちで立ち上がる。
鎖が外れ扉の外にでて、そのまま姿が見えなくなった。
「・・・俺は?」
まだいる兵士に声をかける。
「黙れ!」
そういわれただけで、扉を閉められる。
(・・・いいところで。)
先程までにぎやかだった牢屋の中が不気味なほど静まり返る。
やることがなくなったロウは再び横になる。嫌な予感を忘れようとするために。