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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第四章 魔鉱石の村 コノート
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読めていた展開

 月も頂点へと上り詰めた頃。夜の冷たい風が吹きすさぶ中、本来ならば夢の世界を堪能しているはずのこの時間、そんな風に悠長に過ごしている者は誰一人としていなかった。


「居たか!?」


「居ません!…ここにも。…ここにも居ない!」


「クソ、何処に行ったんだ…あいつら」


 松明を片手に持って、暗い中を走り回る青年は、首に青色のバンドを巻いた栗毛の獣人だ。腰に下げた剣を揺らしながら、右へ左へと村中を走り回っている。


「もしかして『あいつらに』…」


「馬鹿野郎! それは最後に考えるべきだ! 今そんなこと言っちまったら、どうしようも無くなっちまうだろうが!」


「でも、そうじゃなきゃ考えられないじゃないですか。だって━━」


 一緒に駆け回っている片目を隠した一回り小さい人型の獣人は、青いバンダナの戦士としての部下であり、とある事情から二人は闇の中を松明片手に走り回っている。


「だって、子供たちが一斉に居なくなるなんて、それしか考えられないでしょう!」


「それが早とちりだって言ってんだ。まずは自分たちで探し回ってからだ。次向かう場所に居なかったら、森の中を捜索する」


「僕たちだけ、ですか?」


「当たり前だろう。重度の鉱毒に侵されたあいつらを動かすなんざ、できる訳ねぇ」


「そう、ですけど…。分かりました、やれるだけやってみます」


 それからは何も話さずに、目の前の坂を駆け降りる。一陣の風となりながら走り、辿りついたのは村の東側に位置する、田んぼに囲まれた場所だ。隙間を埋めるようにして建てられた家々の中央には、大きな篝火が焚かれていた。


「ラン! ランは居るか!」


 青いバンダナを巻いた獣人は、その篝火の近くに立つと、その周りに集まっている村人たちに呼びかける。すると、集まった村人の間を縫って灰色の獣人が姿を見せた。


少し大人びた容姿ではあるが、まだまだ子供の域を出ない。長い髪に見えるたてがみを靡かせて、篝火に照らされた橙色の瞳が暗闇に浮かぶように輝く中、ランと呼ばれた少女の頬には涙の跡が垣間見えた。


「グウィードさん! 良かった、あなたを探していたんです。あの、レンたちが居なくなってしまって━━」


「・・・ここもか」


 ランの言葉を最期まで聞くことなく、現在の状況に舌打ちしてしまった。その様子を見た事で、グウィード達もまた子供たちの行方が分かっていないのだと察してしまった。


「…そんな。父さまや母さまに続いて、レンまで居なくなったら…私、‥‥私は!」


「心配するな、俺らが必ず見つけて来てやる。だから、安心してここで待て。良いな?」


 大粒の涙を流すランを抱く。少しでも安心してくれることを祈りながら、近くに居たふくよかな体形の女性に預けて、腰の剣を強く握ってこの場を後にする。


「タート、武装準備だ」


「…了解しました。俺も覚悟決めますよ」


 田んぼ地帯を抜け、中心となる大広場まで駆け抜けた。そこには多くの村人たちが集まっており、その中央に焚かれた大きな篝火の前に、一人の老人が杖を突いて立っている。


 所々黒く滲んでいる白い羽を生やした老人で、伸びた眉毛に目元は隠れ、細い糸のような髭は嘴の横に垂れている。


「…どうじゃった?」


「ダメです。どこにも居りません。…ので、これより俺とタートの二人で森の中を探してこようと思います。」


「…うむ、そうか。森の中は十分に注意して進むが良い。特に今はな」


「「はっ!」」


 グウィードとタートの二人は短く返事を上げると、村人たちの心配する声を聞きながら、村の入り口に向かう。


この大広場から真っすぐに降りたところが正面入り口となっており、微妙な段差となっている坂のような、一段が低い階段のような道を下りていく中、前から滝のような汗を流しながらこちらに走ってくる一人の村人の存在を見つける。


「どうした、何をそんなに急いで━━」


「子供たちが帰ってきたんだ!」


 ◇◇◇


「すまん! ちょっと通してくれ!」


 その村人に案内されて連れて来られた場所は、村の入り口だった。入り口前の広場に出来た人だかりの一か所には、涙を流す子供たちが他の村人たちによって手当されていたところで、それとは別にもう一つ人だかりができている場所がある。


「アンタたちが報告にあった、子供たちを連れてきた奴、でいいのか?」


「うむ、的確な報告じゃな。つけ加えるなら、儂らがその子供たちに襲われたこともチクっておこうかの」


 入り口に立っているのは二人。グウィードと会話をしている老人は、宙に浮かぶ座布団に座り、相方と思われる半裸の男はその近くの気にもたれ掛かって腕を組んでいる。見るからに危ない目をしているその男に気を配りながら、腰に差した剣の柄に手を添えた。


「…そうゆう話なら後でしっかりと聞いてやる。けど、今はあんたらがいったい何者なのかが重要だ。名を名乗れ、侵入者」


「随分と気が立っておるんじゃな。もう少し落ち着いた方が良いと思うぞ?」


「はっ、この手合いには何言っても無駄だぁ。この暗がりの中、ガキ共連れて来てやったんだから、先に礼を言うのが普通だろが、…えぇ?」


「怒るでない、ギャザ坊。落ち着くのはお前も一緒じゃ」


 何処から取り出したのか分からない剣を持つ半裸の男を止めたのは、宙に浮かぶ老人だ。小さなその老人は、よく見ると背中に亀の甲羅のようなものを背負っているように見える。


「儂はセンジュじゃ。名前など言わなくても分かるじゃろう」


「知らぬ、誰だ?」


 即答で返されたことに衝撃を受けたのか、センジュは固まってしまい、その隣で半裸の男は口に手を当てて笑いを堪えている。


「流石だなぁ、有名人(笑) 大変だなぁ、有名人(笑)もよぉ」


「えぇい、うるさい! 本当に分からぬと言うのか?」


「あぁ、見たことも聞いたことも無いな。」


 腰に差した剣を抜き、近くの篝火に照らされて鈍く光る。それを見た半裸の男は、薄ら笑いを浮かべながら前に出る。


「だぁから言っただろ。こうゆう手合いには、なに言っても無駄なんだってよぉ」


「お前たちがその気なら、おれ達だって受けて立つぞ」


 抜いた剣を水平に構え、互いに睨み合う。間に立って必死に止めようとしているセンジュという老人は、正直そこまで強いとは思えない。厄介そうなあの半裸の男さえ倒してしまえば…


「剣を収めよ、グウィード。恩人に刃を向けるとは何事か」


 後ろから歩いてきた長老の言葉は聞こえているが、目の前にいる好戦的な半裸の男が構えている以上、こちらも解くことできない。


「村長、ですが…」


「聞けぬのか? 刀を下げろと言っているのじゃ」


 年をとったとはいえ、眉毛に隠された眼光に光る圧は、現役の頃と何も変わっていない。


 渋々言葉に従って刀を納めると、ゆっくりとした足取りでセンジュの前に立つ。


「お久しぶりですね、センジュ殿。お元気そうで何よりです」


「主も相変わらずよのう、リータス。」


 笑い合いながら固く握手し合う二人は、完全に知り合いであり、それどころか周りが思っている以上に仲がいいように思える。


「あの村長。これはどうゆう…」


「センジュ殿は、ガストン殿との商売の橋渡しをして下さった方じゃ。この方が居られなければ、この村はここまで成長できなんだ」


「それはちょっと言いすぎじゃぞ、照れるじゃろうが」


 顎を擦るセンジュはドヤ顔で後方を振り返り、半裸の男に向かって笑いかけると、つまらなそうに武器をしまっていた。


 不穏な空気が流れる彼らの間に、幾人もの叫び声が割って入ってくる。夫婦と思われる彼らは、泣きながら手当てをされている子供たちを見て、。階段を一段飛ばしで駆け降りて抱き着いた。先頭の女性に続くように、何人もの親たちが一斉に子供たちへと飛び掛かり、一帯からは安堵の泣き声が響き渡る。


「さて、リータス。儂らはこの子供たちに襲われたのじゃが、どうゆう事か説明してくれるな?」


「襲った、ですか?」


「左様。森の中を仲間たちと一緒に走っている最中、武器を振りかざしてきおったんじゃ」


 皺の入った嘴を撫でて少しの間黙り込むと、おもむろに頭を下げた。


「村長!?」


「それは申し訳ないことをしてしまいました。状況が状況だけに、子供らの気持ちも分らないでもないです」


「訳あり、という所か」


「…はい。この村は、ある一団に滅ぼされかけているのです」


「聞き捨てならん話じゃな」


 そして今度はセンジュが驚く番だ。座布団の上で前のめりになり、転げ居りそうになったが、微妙な座布団の操作によって落下することは回避できた。


「その事についてご相談したいのです。…どうぞ、お入りください」


 この場での会話はここまでと、村長は村の大広場に向かって歩き出し、センジュ達もその後に続いて歩き出した。


「あ、あの!」


 その一向に涙を流しながら声を掛けてきたのは、灰色の獣人だ。


「ラン、慌ててどうしたというのだ?」


「子供たちはこれで全員ですか?」


 過呼吸ぎみに上下する肩は、明らかに平静ではない。胸の前で組まれる両手は、これ以上ないほどに震えている。


「レンが…レンが居ないんです!」


 ◇◇◇


 柔らかな布団の中で目が覚めた。足元に感じる重さに起き上がり、眠い眼を擦ってその方向を見る。


「ラン、お姉ちゃん?」


 そうしていつもの通りに呟いた言葉に何の違和感もなく、大きく背伸びをする。


「…お、起きたな。どこか体の痛むところはあるか?」


 聞こえてきたのは男の声で、視線を向けるとそこにいたのは銀髪の一人の男性だった。


「…ぅ……ぁ」


「ほら見ろ、俺が言うとこうなるんだ。だからお前の方が良いって言ったんだ」


「私が言ったところで大して変わらない。それに、私はこの子供に嫌われているだろうからな」


 いつ居たのか分からない金髪の女性は、銀髪の男性に向かって何か文句を言っているようだが、内容は何一つとして頭に入ってこない。


 見渡した周囲はよく見れば見たことも無い部屋の中で、この布団もいつもと違う。


「キー! キー!」


「キュースケ、居たの?」


 手元でクルクルと走り回っている一匹の鼠を掬い上げると、包まれた手の中で安心したようにお腹を見せて、もぞもぞと動いている。


「…そいつのせいで無駄に焦ることになったんだからな。」


 二人の言い合いは止まり、いつの間に手の中にあるキュースケを見ていた。疲れたように息を吐く銀髪の男性は、私が起きたことでどこか安心したようだ。


「お前を隠そうとしたら、その鼠が暴れまわりやがって。トールが来なけりゃ、今頃捕まってただろうな」


「…そうなの?」


 手の中で必死に頷くキュースケは、猛烈に頷いていた。


 急に立ち上がった男性は、部屋の隅に置かれていた椅子を持ってきて、ベットの隣に置いて座り込んだ。


「自己紹介が遅れたな。俺はロウだ、ロウ・ガーウェン。それで、こっちの金髪が…」


「トールだ。」


「と、いう訳なんだけど…あんたの名前は?」


「…レン」


 初めてみる相手に怖がりながら答える姿を見て、ロウと名乗った男性は何処か難しそうな表情を見せていた。見た目との差が妙に可笑しくて、なんだかかわいく思えてくる。


「あー、えっと…レン。」


「?」


「体とかに痛みは無いか? 怪我したりとかは━━」


 言われて改めて体の様子を見る。怪我をしたような痛みは無く、いたって通常通り。そう答えようと思った矢先、腹の底から込み上げてくる不快感に、思わずむせ返ってしまった。


「レン!?」


「…薬…草が…ゴホ、ゴホッ」


「薬草?そんなもの何処に━━」


「茶だ。早く飲ませろ」


 トールの言われるがままにカップに注ぎ、慌ててレンの口へと運んでやる。最初は苦しそうにしていたが、徐々に落ち着きを取り戻し、二杯目に口をつけた時には随分と落ち着いていた。


「この村特有の鉱毒と呼ばれる病気だ。ここで飲んでいるこの茶葉がその病気の薬草なんだ」


「…へぇ。じゃぁ、その薬草を惜しげもなく使ってるってことは、村の奴らと随分仲がいいらしいな?」


 服が掛けられているラックの隣にもたれ掛かっているトールは、ロウの目に真っすぐと見返すことが出来ないでいた。


「なぁ、レン。ちょっと話したいんだけど、大丈夫か?」


「うん。だいじょうぶ、少し落ち、ついたから」


「そうか。それじゃ聞くけど、どうしてレンはここに…」


 ロウの問いかけは扉を叩く音によって中断された。静かに叩く音ではなく、鈍器か何かで強く叩いている

かのような、それほどまでに激しい音が鳴り響いた。


 レンが隠れたことを確認すると、ロウは勢いよく扉を開け放った。


「うるせぇな、こちとら疲れてんだ。こんな夜中に何の用があるってんだ」


 開けた扉の前に立っていたのは、数名の騎士だ。顔まで完全に隠れている兜をかぶっている為、どんな奴かは分からない。


「………」


「おい、なんか言ったら…」


「死ね」


 突如突き出されたのは一本のナイフだ。暗がりに鈍く輝くナイフを、体に刺さる直前に掴むことに成功し、ナイフを伝って血がしたたり落ちる。


「キツイ冗談だな、何の真似だ?」


 扉の正面に立つ騎士の後ろに控える二人の騎士が、腕の隙間を通してロウに向かって剣を向けてくる。とっさに一人を蹴り倒して、後ろに続く全員を転げ落とすと、すぐさま扉を閉じて鍵をかける。


「まさか、そんな!」


「おい、トール! どういう事だ、何がどうなってやがる。説明しろ!」


「これ━━」


 何かを伝えようと口を開いたが、そこから声が聞こえてくることは無かった。


 パクパクと口を開いたり閉じたりするだけのトールに、苛立ちがつのり始める。布団を乱暴に破いて作った簡単な包帯を、痛む手へと撒き付けた。手当てとは言えない代物ではあるが、止血と気持ち的に痛みが和らいだような気がする。


「おい、ふざけてる場合じゃねぇぞ! さっさと━━」


「━━ッ!」


 声を出そうとしないトールは、自分の服の袖をまくり上げた。白い肌があらわになり、何事かと見つめるロウの目の前で、割ったカップの破片を使って自分の腕に文字を書き始めたのだ。


『レンを連れて逃げろ』


「もしかして、お前声が…」


「━━早く、しろ!」


 いつもの声とは違い、喉を限界まで枯らした声でロウへと怒鳴りつけ、くしゃくしゃに丸まれた紙を押し付ける。そのトールの様子を見たロウは舌打ちしながらも、ベットの下に潜り込んだレンを布団に包んで背負う。


 手の中に小さな雷の球を生み出したトールは、それを天井に向かって放り投げた。

 野球ボールより少し大きめのその球は、天井にぶつかった途端に激しい雷鳴を轟かして、天井の一部を吹き飛ばした。


 荒く息を吐くトールは、これ以上の行動は難しいらしく、唇だけで『早くしろ』と訴えてきている。


「…後で話、聞かせてもらうからな」


 ベットに跳び乗って深く沈みこむと、思い切り立ちあがる勢いをそのままに、一気に屋根の上へと跳び上がる。


「上に行ったぞ、逃がすな!」


 下から放たれる矢に当たらないようにレンを抱えながら、屋根の上を跳んで移動する。


 幾つもの屋根の上を跳びながら移動し、静まり返っていた駐屯地は昼間の市場のように賑わいを取り戻し、叫び声とざわめきを背中に聞きながら、最期には夜の森の中へと消えていった。


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