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全てが新しい異世界にて -fast life-  作者: 鰹節
第二章 英雄大国 ストロガノン
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始まりは再び石の部屋

 一定のリズムで刻まれる水の音が目覚まし代わりにロウの鼓膜を震えさせる。


「・・・ん?」


 寝起きの重い体を持ち上げると僅かに関節が軋んだように音を鳴らし、その僅かな痛みが眠気半分のロウの意識を急速に覚めさせる。


 手に感じる固く冷たい感触は疑いようのない石の感覚であり、ひんやりとした冷たい空気、ジメジメとした肌に纏わりつく湿気はまるでの遺跡のようではないか。


「まさか━━」


 そう思って飛び上がり慌てて確認したこの部屋は、四方と上下をレンガのような規則正しく並べられた石で作られた四角い部屋だった。


「よかった」


 一度ではあるが、目を覚したら一度経験した試練全く同じものを繰り返しやらされた経験があるので、見回した部屋がその時と違う事に胸をなでおろす。


 話は進んだらしいが、進んだことによってまた新たな問題が浮上してくる。


「何処だ、ここ?」


 寝ていた場所は、四角く切り取られただけの石で布の一枚もない。

 さらには、正面にある扉は取っ手が付いておらず、上の方に小さなのぞき穴が付いてるここは部屋というには随分とおざなりだ。


 しかし、そんな部屋だからこそ答えには容易に思い至る。


「・・・牢屋か」


 両手に感じる重さに目を向ければ、二つの腕輪が接着剤で横並びにくっついたような手錠が嵌めてあった。

 いろいろと見てみればそのような腕輪は手首だけではなく、壁に繋がれた腕程の太さの鎖がガッチリと両足首にもはめ込まれていた。


 引っ張ったら取れそうな雰囲気は微塵もなく、下手に暴れるほど疲れてくるので大人しく壁にもたれて座り込む。


「遺跡の次は牢屋か。いい加減明るい光を浴びたいところだが・・・」


 ジャラリと音を鳴らす鎖を見て、思わず深いため息が零れてしまった。


「これじゃしばらく無理そうだな」


 動くことを諦めたロウは特にやることも無く暇になったので、牢屋の中を照らす橙色のような山吹色のような、そんな優し気な明かりを灯す不思議な鉱石へと目を向けた。


「あいつがいってた異世界ってのはマジみたいだ。・・けど、異世界の出発地点が・・・牢屋か」


 前に居た世界ではあのような明かりは見たことがない。壁に繋がれている明かりならば見たことはあったが、此処の牢屋の明かりは壁から離れてフワフワと浮かび上がっているのだ。


 おまけにかすかな風の動きに合わせて浮き沈みもするし、コマのようにクルクルと回転もする。


 子供のようにはしゃぐわけではないが、おとぎ話にしか聞いたことの無い『異世界』という単語と、それを信じるに値するだけの説得力を持った目の前の照明。


 湧き上がる興味の心を抑え込むために、自分の口に別の話題を出して意識を逸らそうとする。


「そもそも、あそこは何だ? 選別のための遺跡とか言ってたが、結論はよくわからない感じだったな。王だとか自称したくせに、住処のこと何もわかってねぇじゃねぇか」


 と、そこまで口にしたことで不意に我に返る。


「あいつ、何してたんだ? 長いことここにいたとか言ってたが。自分もよく知らない場所に長いこと住み着くなんて普通しない」


 周囲を圧倒するだけの力があればそこまで気にしない・・なんてあるとは思えないが、冷静になった今、いろいろと整理しながら考えれば少し引っかかる話だった。


「遺跡とあいつ(ディオス)は同じモノだと考えたけど・・・違う、のか?」


 一応の結論とは言えないが、とりあえず思考が纏まった切りのいいタイミングで、扉の向こうから誰かが近づいてくる音がする。


 何処まで行くのかと気を向けた足音はロウの部屋の前で止まると、扉に備え付けられていた小窓が錆びついた音を立てて開かれた。


「!? 起きたのか! 答えろ人間!」


 開かれた小窓の向こうは暗い幕でも張られているのか伺うことが出来ない。しかし、その窓から誰かが覗いているのは確実で、見られている感覚は伝わってくる。


 扉の前で止まった何者かはロウの動きが無いと判断したのか、鉄製の扉を力任せに叩いてきた。閉じ込められたこの石の部屋は音が良く響くので、あちこちに反射した音が不協和音となってロウへと殴り掛かってくる。


「起きてるよ。寝起きに響くから、あんまり叩かないでくれ」


 言葉を返した瞬間扉を叩く音は鳴りやみ、それでいて叩いていた何者かが慌てて走り去ったらしくいつの間にか足音は遠くに聞こえていた。


 その後、時間にしておよそ20分程経った頃だろうか。今度は集団で来たらしく、いくつもの大きな足音が聞こえ、その全てがロウの部屋の前で止まった。


 何を話したのか聞き取れなかったが、言葉とも言えない呪文のような何かが終わるのと同じくして、鉄の扉が小窓と同じ錆びついた音を鳴らしながらゆっくりと開かれる。


 その扉の先に立っていたのは、短い金髪をくくった一人の女性が立っていた。


 女性というには幼い雰囲気を持っており、どちらかといえば少女の方がしっくりくる。大人になる手前の年頃といったところか。


 膝まである長めのコート、短パンと厳ついブーツ。そのどれもが背伸びをした子供のようであり、思わず笑いそうになったが、その少女が呟いた言葉に掛けられた圧によって笑うどころではなくなってしまった。


「人間、立て。妙な真似をするな? もしそのような素振りがあれば・・・」


「殺すって言いたいんだろ?何もしねぇよ。ってか出来ねぇから」


 そういって固定されたバングルをちらつかせると、隠すことない不機嫌さMAXの舌打ちを返された。


「で、立つだけでいいのか?」


「...立って動くな」


 見るからに怒っているのが分かる。逆らう理由もないので大人しく従って立ち上がると、少女の後ろから歩み寄ってきた騎士の甲冑を身に付けた一人が手元で何か呟くと、バングルと鎖が切り離された。


「(おぉ!)」


 自由になった腕を持ち上げようとするが、鎖と繋がっていた時よりも重さが増しており、全力を出しても胸の高さにあげるまでが精一杯だった。


「付いてこい」


 そう言い放った少女は踵を返して歩き出し、「さっさと歩け」と言わんばかりに動こうとしないロウの肩を騎士の一人が突き飛ばした。


 牢屋前の通路も中と同じような照明が明かりを放っており、周囲を囲う騎士に連れられて先ほどの少女の後をついて歩く。


 道中、いくつもの扉の前を通過するたびに周囲の騎士たちとは違う視線を感じたので、どうやらここには俺以外にも囚人らしき人物が収容されているようだ。


「階段を上った先で待機だ。しっかりと見張っていろ!」


「「「はっ!!」」」


 後半は兵士に放った言葉らしく、ロウを囲う複数人の声が同時に返事をする。


 言われたとおりに階段を上るとそこには木製の質素な扉があり、囲う騎士の視線を浴びながら待機するが、見られ続けるというのもなかなか嫌なものだ。


 早く開いてくれないか、なんてのんきな事を思い始めた矢先、扉が開かれた。

 一体どんな部屋かと覗き込むが明かりが一切なく、扉周辺以外は闇しか見えない。


 進のを躊躇うロウの背中を再び突き飛ばし、躓きそうになりながら部屋の中へと入っていった。多少の苛立ちを抱いて振り返るが、すでに扉は閉じてしまっているので突き飛ばした騎士の姿は見ることが出来なかった。


 見れたとしても、鎧も兜も皆同じ物を装着しているので、だれが押したなんて判断は出来る訳ないのだが。


 闇に覆われた部屋は扉が閉じられた事によって完全なむ闇の世界へと化していた。一体どんな部屋なのか、全く想像もつかないまま数歩前に歩いたところで、頭上から強烈な明かりがロウを照らし、あたかもどこかのステージの上に一人で立たされている気分だ。


 ロウの姿が暗闇に浮かび上がったところで、頭上(斜め上当たり)から様々な誰かの反応が感じ取れる。


 誰かはため息を、誰かは息を飲む音を、またある誰かは明らかな舌打ちをする者まで感じ取れた。


「静かに!王が到着なされた」


 その低く重い声が響くと、一斉にひそひそとした声が無くなる。

 そのせいで扉の開く音、椅子に座る音がはっきりと聞こえる様になり、ロウが見上げる丁度正面から誰かが椅子に腰かけたのか軋む音が聞こえてきた。


「遅れてしまって申し訳ない。それじゃぁ、『裁判』を始めようか」

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