試練の遺跡
視界に入る景色は赤く染まり、何処を向いても炎の赤と流れる血の紅が混ざり合い、ある種の地獄と化していた。
「何で…。俺なんか、見捨てれば良かったのに」
赤に包まれた景色の中で涙を流す男が居る。
美しい銀色の髪をした男で、周囲の赤を映したような紅の瞳には大粒の涙が零れていた。
「馬鹿なこと言わないで。私たちがロウを見捨てる訳ないじゃない」
ニコリと笑いかける少女は周囲の熱とは裏腹に冷たく、開かれた目は虚。全身から消え行く生命が残り少ない事は素人目で見ても明らかだった。
ゴボと吐かれた血の塊は、いよいよ彼女の命の灯も残り僅かであると伝えてくる。
「生きて、私たちの分まで……。それで、夢を…叶えて……」
「あぁ、分かった。分かったから‥‥頼む、クレハ──」
零れる涙を拭う彼女の手を掴み、刻一刻と冷たくなっていく手の僅かな温もりを感じようと強く握る。
せめて最後くらいはと笑顔でも向けてやらねばと思い、頭の中で泣くのを止めろと指示を出すも涙は止まらない。
きっと、自分の顔は無理やりに作った笑顔と涙で酷いことになっているんだろう。
「お願い……ね…………ロウ」
彼女の手から力が一気に抜ける。
「あ、‥‥あぁ───」
閉じられた瞼は二度と開かれることは無い。
腕に抱かれた少女──クレハは最期に、ロウへと笑いかけたまま息を引き取った。
「あ─────」
二人の周りを囲うのは地獄のような炎のみ。
血に染まった手でクレハの白い頬にそっと触れ、命が終わってしまったことを何度も何度も確認するが、どれだけ触れても結果は同じだ。
「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁッ!!」
──咆哮が響き渡る。
敵の目を一切気にも留めない、心の内に溜まった感情が一気にあふれ出す。
「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」
荒れ狂う感情は波となってあらゆる理性を押し流す。
止めどなく溢れる波の止め方が分からないロウは、ただ流されるしかなかった。
グチャグチャの意識の中、爆発音や叫び声が雑音となって響く──
───鐘の音が鳴り響いた。