第三位 三川 みり 「シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と黒の妖精」
【あらすじ】
人と妖精のすむ国、ハイランド。十五才の少女アンは、栄誉ある菓子職人・銀砂糖師を目指している。その称号を得るため、アンは王都の砂糖菓子品評会出場を決意し、旅に出る。
道中の護衛のため雇ったのは、美しく強い戦士妖精のシャル。しかし彼は、雇い主であるアンを見下し、言うこともろくに聞いてはくれない。友達になりたいと願うアンと、冷たくあしらうシャルとの旅の行く末は。
「三位はこの本です!」
「なんか少女漫画みたいな設定ですね。イラストもそれっぽいし」
「そう! ちょっとさえない平凡な女の子と、強くて美形な男の人で旅するなんて、ドラマチック展開になりそうだよね。しかし、この話はそれが本質ではないのだ!」
「というと?」
「アンは銀砂糖師って言う職人を目指してるんだけど、その夢に対する姿勢っていうか、それがしっかり信念があるんだよね。この子は母親が亡くなって、一人になっちゃっててさ。銀砂糖師になるって夢が今の彼女を支えてる部分もある」
「…なんか意外と厳しい話ですね」
「見た目より甘くないんだよね。あと、妖精と人との関わりってところも単純じゃなくてさ。大昔は妖精が人間を使役してたんだけど、人間が反旗を翻して、今は人間が妖精を使役してるっていう…」
「…暗い話ですか」
「いやいや待って! そんなことないから! アンもシャルもなかなかいいキャラで、二人の掛け合いは楽しいし、砂糖菓子職人に対するアンの熱意はかっこいいんだよ!」
「砂糖菓子職人ってことは、パティシエみたいなものですか?」
「ううん。飴細工だね。この王国では、その銀砂糖っていう砂糖を使った菓子は、幸運をもたらすっていわれてるんだ」
「ああ、祭事とかに使われそうな感じですか」
「そう! お祝いとかね。あと、亡くなった方の弔いにもね」
「…なるほど」
「ちなみに、この砂糖菓子は妖精の好物で、活力にもなるものなんだ」
「ここでも妖精が関わってくる訳ですか」
「そうなんだよね。シリーズが進むにつれて、砂糖菓子と妖精と人間の関係も重要になってくるんだ。でも、この一冊目はこれで完結してるから、十分楽しめるよ」
「妖精に砂糖に、メルヘンなイメージですけど、そうでもないってさっき言ってましたよね」
「妖精と人の関係は、奴隷と主って感じだからね…。主人公のアンは、母の教育もあって、妖精と対等で仲良くしたいって思ってるんだ。で、妖精シャルは、そんなアンを信用しない。でもまぬけそうだから利用して自由の身になろうって魂胆なのだよ」
「なんか全然楽しい二人に思えないですね」
「会話はボケツッコミ的だよ。あと、もう一人面白い妖精がいて、その子の存在が大きいね。サイズは小さいけど」
「妖精以外の人も出てきますよね?」
「うん。砂糖菓子職人が何人も出てきて、それぞれのこだわりも職人魂を感じられて良い。男性が多いんだよねー。職人の世界は、女性は難しいんだね」
「今はそうでもないですけど、昔はそうだったから、まだなごりがあるんでしょうね」
「架空の世界の話だけどね」