第五位 北村 薫 「スキップ」
【あらすじ】
高校生の真理子が目覚めると、見知らぬ部屋にいた。そこに現れたのは、同じく高校生の見知らぬ少女。ここはどこかと尋ねる真理子に、彼女は怪訝な顔をする。「ふざけてるの? お母さん」
二十五年後に突然飛んできてしまった真理子が、今を前向きに生きようとする姿を描く物語。
「というわけで、五位はこの本です」
「発売は二十年くらい前…けっこう古いもの出してきましたね」
「そんなに前のやつなんだ? 私この本好きでさー。普段図書館で借りるんだけど、これは買った。久しぶりに読み返しても、いいわー」
「でも五位なんですね」
「うーん、雰囲気がかっこいいっていうイメージとちょっと違うから。生き方っていうのかな。それがすごい」
「タイムスリップものなんですよね?」
「それが微妙でねー。少なくとも、バックトゥザフューチャーみたいなものではない。もとの時代に戻るのではなくて、理不尽な現実を受け入れて、今をどう生きるかっていうことを書いてるんだ…と思う」
「シリアスな感じですね」
「でも暗くはないよ。この作者は、言葉の選び方がしゃれてるの。落語的って言うのかな。だから読みやすい。主人公の心情になると、かなり厳しい現実なんだけど、ユーモアもあるところがいい」
「あらすじ見ただけですけど、確かに厳しい設定ですよね。高校生だったのに、朝起きたらおばさんになっちゃったってことでしょう?」
「そう、そうなんだよ! 特にこれ女性はきついと思う。作中にお風呂入る場面があるんだけどさ、おなかの肉をつまんで…こう…」
「それは男性でもわかりそうですね。メタボのおじさんとか見ると、自分もああなるのかと」
「さすがにその心配は早過ぎでしょー」
「努力はしたいです」
「努力と言えば、主人公の真理子の努力家なこと!この人は高校の先生をやってるんだよね。で、こんな事態になっちゃったけど、日々は続いていく訳で。だから、これまでの十八年の知識や経験をたよりに、先生をやろうとするんだ」
「…無理あるんじゃないですか」
「そう思うんだけど、その過程がリアルに描かれていて、説得力あるんだよね。作者は昔国語の先生してたらしいしね」
「ああ、それなら良さそうですね」
「あと、真理子の旦那さんも教師だから」
「…旦那ですか…。ちなみに、高校生の頃の真理子さんには彼氏とかは?」
「いない。女子校だし」
「それで目覚めたらいきなり娘と旦那さんが?」
「そう!」
「それは…きついですね」
「あ、ちょっと今読むのしんどそうとか思った? さっきも言ったけど、笑える場面あるし、旦那も娘もすごくいいキャラだよ。ハートウォーミングストーリーだよ!」
「なんか横文字使うとますますうさんくさいんですけど」
「いやでもほんと前向きになれるいい本だから! 青春学園ものの要素もあるし」
「そうですか。じゃあちょっと読んでみます」
「見てみてー。この小説は、かなり女性心理がよく出てるから、男性が読んでどう思うかも是非知りたいね!」