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5号室の住人

作者: まりも

 「ミーンミンミンミー」

蝉の鳴き声が頭の中でガンガンと響く。

 僕は、昨日この小さな木造の2階建てアパートへ越してきた。部屋の数も管理人室を入れて、6つしかない。

「ピンポーン」

僕は、ケーキの入った箱を持ちながらインターホンを鳴らした。

「はぁ〜い」

と中から元気な声がした。そしてゆっくりと茶色いドアが開き、腰が大きく曲がった小柄なおばあさんがでてきた。この人がここの管理人だ。

「何だい、あんたか…」

期待外れといった口調だ。

「すいません…お忙しいところ…」

僕はオロオロしながら謝った。

「別にこの年になると、忙しいことなんかないさ、ただね…この年になるとほんのちょっとでも動きたくないんだよ」

管理人は不機嫌そうに愚痴を溢した。

「すいません…」

僕は頭をこりこりとかいた。

「でー、何だい?」

「いや〜5号室が見当たらなくて…一応挨拶しておきたいんで…」

「あぁ〜ありゃあ4号室と6号室の間にあるんだが…インターホンなら見つかるかと思うんだけどね…ドアは下の方を探せば見つかるよ」

「下の方…」

僕はきょとんとした。

「そうだよ」

と言って管理人はバタンと勢いよくドアを閉めた。…元気じゃないか…。

僕は2階へと上がり4号室と6号室の間に立った。すると確かにインターホンだけが不自然に目に入った。そのまま下の方に視線を向けると小さなドアがあった。丁度、成人男性の手位の大きさだろう。

「何だこりゃ…」

僕はまた頭をこりこりとかいた。暑さのあまり汗が頭からじわりと出る。

「ピンポーン」

僕はインターホンを鳴らした。

「はーい」

下の方から若い男の声がした。そして小さなドアが開いた。中からは、白いTシャツにジーパンを履いた、20歳くらいだろうか、若い男が出てきた。

「うわぁ…!!」

僕は思わず驚き、声をあげた。

「あの…」

小さい男は困ったように僕に話しかけた。

「あぁ…すいません…つい…」

僕はまた頭をこりこりとかいた。

「いえ…驚かない方がおかしいですから」

男はそういってにんまりと笑った。

「あっ僕、3号室に昨日引越してきました、『鈴木 幸一』と言います」

「あぁ〜僕は『田中 琢磨』と言います、よろしくお願いします」

田中は小さくお辞儀した。

「あっこちらこそ」

僕も小さくお辞儀した。

「あ…こんなのもらっても…困りますよね…」

僕はケーキの箱を見つめた。

「あぁ…僕の家には入りませんね…」

田中は寂しそうに袋を見つめた。

「そうだ!まだまだ段ボールだらけでせけど…僕の家でこれケーキなんですけど…食べません?」

僕はニコリと笑って誘った。

「良いんですか〜?忙しいんじゃ…」

と言いつつも田中は嬉しそうな顔をしている。

「気にしないでください。あっフォークと皿…それからぁコップは持ってきてくれます?何しろサイズが…」

と僕はまた頭をこりこりとかいた。

「あぁ、そうですね、わかりました」

田中は申し訳なさそうに笑った。

「あっちょっと待っててくれます?何しろこの身長なので階段とかめんどくさくて…」

「あぁ、わかりました」

僕がそういうと田中は中に入り、ドアを閉めた。

それにしても…今日は暑い。僕は額の汗を腕で拭いとった。

「お待たせしました」

田中は小さいフォークに皿、コップを持って来た。僕は田中の前に手をさしのべた。

「ありがとうございます」

ちょこちょこと歩き手に乗った。

「あっ肩に乗せてもらっても良いですか、そこが1番安定してて…」

「あぁ…」

僕がゆっくりと手を肩に持っていくと田中はちょこんと肩に座った。

「ありがとうございます」

僕はゆっくりと歩き始めた。

「いつも階段はどうしてるんですか?」

「あぁ…特注のラジコンヘリで移動するんです」

田中は自慢気に言った。

「はぁ〜」

僕は田中の言葉に感心した。

「でもやっぱ不便ですよ」

僕はサビの付いた階段を1歩ずつ降りていく。

「普通に生活をしてみたいものです」

「確かに…大変そうですよね」

「はい…服から何から何まで外を歩くにも、潰されないか不安で不安で」

「なるほど…普段どうされてるんです?」

階段を降りきった僕は自分の部屋へと向かう。

「服はぁ〜特注品ですよ。外に行く場合はぁちょっとした買い物なら大抵このアパートの人達と出掛けるんです。遠くは友人と。世の中優しい人もいるものです」

「なら、今の世の中、捨てたものじゃないですね。…ここが3号室、僕の部屋です」

僕がドアを開けると台所の奥に段ボールがいくつか置かれた畳の部屋が見えた。

「おじゃまします」

ぼそりと田中は粒やいた。

「どうぞ」

僕は畳の方に田中を置いた。

「皿とフォークとコップを貸してください」

「あっどうぞ」

田中は真っ白な皿と銀色に輝くフォーク、透明なコップを差し出した。僕はそれらとケーキの箱を持って台所に向かった。僕は冷蔵庫から冷えた麦茶を出した。

「以外に荷物少ないんですね」

畳の方から田中の声がする。

「あぁ〜別にそんなに必要ないかなって思って。ほら、逆に多くても邪魔じゃないですか」

麦茶をコップに注ぐ。

「あぁ、わかります」

「しかも整理整頓が苦手な身で…すぐちらかってしまうものですから、少ない方が良いと思ったんですよ」

ケーキを皿へ移す。

「なるほど…。僕は結構得意なんですけど掃除は嫌いです」

「あぁそういう人います」

ケーキが乗った皿をおぼんに乗せて運ぶ。

「同じようなものなんですけどね」

ハハハと軽く田中は笑った。

「はい、どうぞ」

と僕はおぼんを畳に置くとおぼんから田中の分をとった。

「うわぁ〜美味しそうです。有り難うございます」

「いやいや…」

僕はぼりぼりと頭をかいた。

「では、早速いただきます」

「いただきます」

僕も田中に続く。

「あの…変なこと…きいても良いですか…?」

「はい…」

「どうして…その…身長なんですか?」

僕は口にケーキを運んだ。

「あぁ…あの…誰にも言わないでくださいよ…」

田中はキョロキョロと辺りを見回した。

「実はー…僕…宇宙人なんです」

「え…!?」

僕は目を丸くした。

「遠くの星から…地球の科学って僕達の科学から比べると大分遅れてるんですよ」

田中は口をもぐもぐとさせている。

「そうなんですか…」

僕は麦茶で喉をうるわした。

「本当は人間型のロボットがあって中に入って操作してたんですけど…どうも故障しちゃって」

「観光とかで来られたんですか…?」

僕はまたケーキを口にする。

「あぁ…いえ…その…逃亡です…」

「…逃亡!?」

僕は大きな声をあげた。

「あまり大きな声ださないでくださいよ…」

田中はあたりを見回した。

「すみません…」

僕は少し小声で謝った。

「実は…妻を…」

田中の口が止まった。

「殺してしまって…」

僕の口も止まった。

「いや…あいつ…金ばっか使って浮気してたんですよ」

田中は僕を睨んだ。

「ひっひどいですね」

僕はケーキを口に運んだ。

「他に一緒に逃亡した人はいないんですか…?」

「1人ですよ…誰にもとてもに話せませんでした」

そういう田中は泣きそうな顔をしている。

「そうですか…」

僕はすっと立ち上がり田中を持ち上げた。

「なっ何するんですか!?」

僕は田中の言葉を無視しジーパンのポケットから小さな手錠を取り出し、田中に付けた。

「まだわかりませんか…」

僕はうす気味悪く笑った。僕の頭のなかでピッという音がし、頭の上の部分が割れた。

「まさか…!」

僕の頭の中には…いやロボットの頭の中って言った方が良いかな。そこから本当の僕の姿が現れる。このロボットは頭の部分で操る。そして本当の僕は田中の身長とほぼ変わらない。

「僕は…特殊宇宙警察何です。田中…いや『トプス・アトエリア』…殺人により、逮捕します」

「そんな…」

アトエリアは絶望にあふれた表情をした。

「その姿のままだなんて、油断しすぎですよ。居所もすぐにわかりましたよ。でも、あんな特注の部屋だとは。ドアを見た時は、『なんだこりゃ』て思わず言ってしまいましたよ。それにしても…最近のロボットは汗も出るようになってるんですが…この機能はない方が良いですね。拭くのが面倒で…」

と僕は淡々と言った。

「くそぉ〜」

アトエリアは悔しそうに僕を睨んだ。

「そんな目で見ないで下さい。仕事なんです。結構本当に引っ越したり大変だったんですから。何しろ、地球人に怪しまれて宇宙人ってばれたら…想像するだけで嫌気がさしますよ。研究材料になるのが目に見えてますし。あなたが宇宙人ってばれてなさそうでほっとしてるんですから。その身長なのによく平気でしたよ」

と僕は困ったように行った。そして僕は

「今、トプス・アトエリア…逮捕しました」

と機械的に述べた。イヤホンの奥から

「了解」

という声がきこえた。

「さて…帰るにもいきなり僕とあなたが消えても怪しまれないようにしなくては…。後始末…大変そうだ…」

と僕はぼそぼそと呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。読ませて頂きました。 後半あたりからの展開が面白かったですね。さて田中とは一体如何なる者なのか……読者の想像を良く裏切ろうという姿勢はグッド◎だと思います。ちょっとしたほのぼの感…
[一言] 面白かったです。 全体の雰囲気がなんだかほのぼのしてて、「殺してしまって…」というところで思わず笑ってしまいました。 起承転結のバランスが取れた切れ味のいい作品だと思いました。 重ねて、人を…
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