伝説のあの人 中編
精霊ってなにさ
「で、精霊? それってどういうことなんですか?」
「どういうこともなにも、そのまんまなんだよね?」
「は……?」
えっと……彼女は何を言っているんだろう?
「あそこに居る、やたら影の薄い女の子、見える?」
そう言って彼女が示した先には、確かに女の人が居た。
「……ん? あの人、透けてませんか……?」
衣服が濡れて下着が透けているとか、そういうことではない。
あれは、身体その物が透けている……?
「影が薄いってことはね? 別の視点からはよく見えるってことなの」
「別の……視点……?」
この人はなにを言っているのだろうか……?
「彼女の場合は、それが精霊だったっていう話なの」
「は、はぁ……」
「信じられないかもしれないけど、これが真実。先生が未婚なのもまた真実なの」
「あ、それはわかります」
この場に未婚がいたなら怒鳴られただろう。だが、彼女はどこかに出かけていた。
というか、一年生の私が先生を未婚って呼んでも大丈夫なんですかね……?
「で、泉って人は一体誰なんですか?」
もう一つの疑問もついでに解消しておこうと思い、尋ねてみる。
先輩……部長がずいぶんと親しげに話しかけていたものだから、気になってしまったのだ。
元々私は『真理の探求者』という二つ名を持っているし、こういう疑問を持つことも不思議ではない。
……や、もちろん冗談ですが。
「もしかして……ジェラシー?」
「ちがいます」
「ジェラっちゃったの?」
「だから違いますって」
絶対に。
「そう? 私はお似合いだと思うけどなぁ……」
「そういうのはいいですから、説明をお願いします」
「美咲ちゃんが冷たいよぅ〜」
大体、あんなバカみたいな……というかバカのことを好きになる人は未来永劫出てこないと思う。
「さ、はやく説明してください。時間もあまり無いようですし」
「……泉ちゃんは、しゅんくんの幼なじみなの。本名を佐野泉という、眼鏡っ子で典型的な委員長キャラだよね」
目の端に涙を浮かべ、頬を膨らませながら説明をする薫さんは……正直、かわいい。
年上ということを忘れさせる、小動物的なかわいさだ。
「しゅんくんの考えていることはいつでも泉ちゃんに筒抜けなの」
元々説明好きだったこともあって、目の端に浮かべていた涙はいつの間にか消え、かわりに笑顔になっていた。うん、笑顔もかわいい。
「な、なんか美咲ちゃんがしゅんくんみたいになってる……?」
「そんなことは絶対にありません」
仮に私が部長みたくなっていたとしても、それは私ではなく薫さんに責任があると思います。かわいいは正義ですが同時に罪でもあるんですよ、きっと。
「と、とにかく! こういうわけだから美咲ちゃんにとって泉ちゃんはライバルになるんだよ」
「ちょ、そんな大きな声で……」
「さぁ、宣戦布告しにいくよ!」
「私の話を聞いてください」
「決断は三秒だよ!」
「いやとりあえず話を……」
何やらはりきる薫さんに引きずられ、私は佐野泉という名前の先輩に、初対面にもかかわらずケンカを売りそうになりました。直前でなんとか誤解をとくことには成功しましたが……。
やっぱり薫さんもこの部の一員なんだなと再確認すると同時に、とりあえず先輩をいじめようと決意しました。
そういえば、薫さんが、
「いやぁ、楽しかったねえ」
と、こういっていたけれど、もしかして天然を装った策士だったのかなぁ……?
後編かと思った?
残念、もうすこし続きます。