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もうひとりの後輩くん

「……先輩」

「……」

「……先輩」

「……」

「……先輩!」

「……」

「聞こえてますよね、先輩!」

 ……後輩の美咲さんがうるさいので仕方なく行動する。

 席を立ち、カバンの中にあったスケッチブックとペンを取り出して、書いて美咲さんに見せる。

『状況! 喋れないでしょうがっ!』

「いや、先輩なら不可能を可能にできるかなぁと……」

 スラスラと、もう一言書く。

『いや、この状況じゃ超能力者以外無理だから』

「なんだぁ。それじゃあ先輩はただの無能なんですね?」

『そうだけどもうちょっと表現選んでくれない?

 仮にも僕、先輩だよ?』

 軽く涙が出そうだ。

 というわけで、状況説明。

 先日、未婚の人から指導(という名の暴力)をもらい、体中ボロボロに。

 結果、先に帰された薫さんと違って僕は包帯でぐるぐるになっているというわけだ。

 ちなみに、薫さんは今日は生徒会の方で部活には来ない。

 ともあれ、この包帯のせいで実はかなり行動を制限されていたりする。

「まさにミイラ男って感じですよ~」

 ヘラヘラ笑いながら言う美咲さんを見ていると、あの未婚への怒りがふつふつと沸いてくる。

「おっ、なんだこのエジプトにいそうなミイラ男は」

 噂をすればなんとやら、だ。

『あ、未婚の人じゃないですか』

「山田?まだ‘おしおき’が足りなかったのかな?」

 ……この暴力女め。こんなんだから結婚できないんだ。スペックはそれほど悪くないっていうのに……。

「‘おしおき’って、どんなものなんですか?」

 美咲さんが‘おしおき’に興味を持っていたので、

『それはそれはとてもきつい肉体労ど……』

「私の代わりにRPGのレベル上げをすることだ」

『……。』

「せ、先輩……」

「い、いや違うんだよ!そりゃ最終下校時刻っていうものがあるから3時間で解放されはしたけどその後宿題だとか言って結局眠ることもできないままレベル上げという苦行が家でもあったんだよ!」

「あれ? 先輩なんで喋ってるんですか?」

 あ、やべ。忘れてた。

「つまりは仮病ってやつだ。そうだろう? 山田」

「こ、これは未婚に対する抗議であって……」

「よっしゃもう一回レベリングな?」

 ちなみにレベリングとは、レベル上げのことらしい。

「とりあえず、邪魔な包帯はとっちゃいますね?」

「いやぁ、美咲さんやめてぇー!」

 遠慮なく僕から包帯を剥ぎ取りはじめる美咲さん。

 ……この後輩、僕を先輩として敬う気持ちはあるのだろうか……?

「じゃ、福田。包帯剥ぎ取り終わったら私の部屋に連行させておけな?

 私の部屋、そこだから」

 と、自分の部屋(顧問専用の部屋。部室同様学期ごとに変わる)を指で示し、未婚が歩き始める。

「せ、先生はどこに行くんですか?」

 なれない言葉を用いつつも、行き先を訪ねてみる。

「あぁ? 打ちに行くに決まってんだろ?それとなぁ、山田」

「な、なんですか?先生」

「レディには聞いちゃいけないことがあるんだぞ? わかったか? つかわかれ」

「あ、あいあいさー」

 言いたいことはたくさんあったけれど、これ以上罰を増やすのは得策ではないと判断し、素直に応じる。

 ……なんか、この腐りきった社会そのものに負けた、そんな気がする。

 未婚が部室をでるのと、美咲さんが包帯を剥ぎ取るのはほぼ同時だった。

「それにしても先輩、この包帯は誰に巻いてもらったんですか?」

「んー? 知りたい?」

「すいません、いくら私でも殴りますよ?」

「言うから! 言うからその拳をおろしてっ」

 ……だいたい、いくらって……。美咲さんおしとやかキャラじゃないでしょうに……。

「こ、後輩君にやってもらったのさっ」

「へ? 私ですか?」

「あー、違う違う。僕の舎弟の方」

「ああ、例のもうひとりの一年生ですか」

「そう、その子」

 昨日、薫さんが説明したときのことを覚えていたのだろう。

 僕の舎弟とは、もうひとりの新入部員のことだ。

「名前を岡林信といってね、いいやつなんだ」

「で、その信くんは今どこにいるんですか?」

「いや、そんなの決まってるじゃん」

「へ?」

 戸惑う美咲さんを引き連れ、未婚の部屋のドアを開ける。

「僕の代わりにレベリングさせてるに決まってるよね」

「この鬼畜がァーーー!!」

「へぶしっ!?」

 ほんの少し前、美咲さんはおしとやかなキャラ演じてたはずなんだけどなぁ……。

「あ、兄貴、ちわっす」

「あ、信。今どのくらい進んだ?」

「今ちょうど70レベっすね」

「よくやったな、信」

「兄貴の為っすから」

 人に殴られても気にせず会話できるくらいに僕らはスルースキルっていう人生を生きていく上で重要なスキルにポイントを振っていたりする。

「というわけで美咲さん。信は普段僕の代わりにレベリングしてるから部活では会う機会が少ないと思うけど、仲良くしてやってね」

「よろしくっす、福田さん」

「あ、よろしくお願いします」

 うん、いい光景だよね、これ。

「さ、親睦を深めるためにも今からみんなでレベリングだァー!」

「「オー!!」」

「え、私もですか!?」

「うん。あ、これ部長命令ね」

「り、了解です」

 このあと、帰ってきた未婚に何故か付き合えとか言われて夕食一緒に食ったのはまた別のおはなし。

しっかりプロットを書いておくべきだったと深く後悔。

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