5.
ただ、一つだけ書いておきたいことがある。
そんな不可解な目に遭った翌週末、ズボンを洗濯し終えた私は、水が薄く赤いことに気づいた。ぎょっとしてズボンを調べてみると、ポケットから何かが転げ落ちてきた。しっかりと広げて見てみれば、それは男の保持していただろう運転免許証だった。
男からカードを手渡されたとき、私は無意識の内にそれをズボンへと忍ばせていたらしい。自分がどうしてそんな行動をしたのかは分からないが、この運転免許証は手についた血以上に、私に怪奇の存在を思い知らせるものだった。
そして、読者の皆様におねがいがある。期限が切れていたとはいえ、私はこの運転免許証を、警察に提出し忘れたのだ。ものぐさな私は、それを机の引き出しに入れたままにしていたのである。
男の名字は特殊なものだった。漢字だけ見ても、読み方をずばり当てることはできないだろう。私は何度か図書館などに通い、名字便覧でその名字を調べたことがあるが、結局当該人物(あるいはその親族)の情報を得ることはできなかった。
だから、
だからもし纏冑という人を、
纏冑周平という人のことを、
このテキストを読んでいる皆様が少しでもご存知ならば、私に教えてほしい。色あせて真っ白になったその人の免許証は、未だにまだ私の机の引き出しにあるのだから。
終わりです。