3.
(なんだこれ)
これが男を見た際の、私の正直な感想だった。男の左わき腹に、包丁はあまりにも真っ直ぐ刺さっていた。男の身につけていたワイシャツは既に赤黒く染まっており、既に玄関前も血で湿っていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「畜生、やられた……」
苦悶の表情を浮かべつつ、男は握っていた何かを私に手渡した。それは何かのカードだったが、血にまみれてよく分からなかった。鼻孔に生臭い臭いが漂ってくる。私の全身から汗が噴出した。
「やられた? やられたって?」
「頼む、警察、けいさつ……」
息をするのもままならないのだろう、うわごとのように男は呟き、反対側へごろんと転がった。
窮地に追いやられると、人間は何をしでかすのか分からない。普通に家の電話で警察と救急車を呼べばいいものの、私はなぜか近所の交番めがけて走っていた。
「ちょっと待って――!」
とか何とか言いながら、男性の反応を見ることさえなく私は駆け出していた。私の住処から交番まで、さほど離れていないというのに、このときほど距離が遠いように感じたことはなかった。
だから交番の明かりを見たとき、私はどれだけほっとしたことか!
「すみません!」
私は交番へ駆け込むと、今までの一部始終をありのままに話した。私のただならぬ様子と、血まみれになっている私の手を見て、巡査たちの表情もどんどん険しくなっていった。
すぐさま一人が本部へ連絡し、もう一人が現場へと駆けつけることになった。中年の巡査と一緒に、私は寮へと舞い戻った。
ところが、である。