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すぐに完結いたします。
ポケベルの全盛期だった頃だから、今から二十年以上も前のことになる。当時、都内の大学で食えない大学院生をしていた私は、予備校で小論文の添削指導をするバイトを行っていた。
その日はたしか、九月の第一週だったと記憶している。日曜に行われた小論文模試の添削を終え、私は大学の近くにある寮へと引き下がっていった。
部屋に戻った頃には、とっくに十時を過ぎていたと記憶している。昼からあちこちを駆けずり回っていたので、私はすっかり腹が減っていた。
畳に腰を下ろし、ボンヤリと蛍光灯を眺めていた私は、
(そうだ、うどんでも食べよう)
と思い立ち、早速準備に取り掛かった。といっても、ただ鍋のお湯を煮え立たせ、そこに乾麺を放り込むだけだったのだが。男女問わず、一人暮らしをすれば際限なく堕落するものだが、当時の私はそれだけ腹が減っていたのである。
ちょくちょく水を足しながら、私がうどん作りを楽しんでいたそのときである。
がん、がん。
という音が、玄関のほうから響いてきた。