3.筋肉隆々な方々が跳んで跳ねる部活
「まぁまぁ、落ち着いてください部長さん」
【部活名】体操部
【説明者】有間ショウ
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「へーユタカはこんな環境で部活を楽しんでいたのか、うらやましい限りだ」
キョロキョロと視線をうつしながら――主に女子三人を見ていた――有間はつぶやいた。
創部から一ヶ月がすぎ、少しずつ部室にも物が増えてきているが、そのほとんどティーセットや小型冷蔵庫などの日用品であるため、部室を見ただけではなんの部活かはわからない有様だ。
スズさんが全員にコーヒーを配り終わったのを見て、僕は本題を切り出す。
「ここに来てもらう前にも話したけど、今日は体操部の活動について説明して欲しいのだけど、いい?」
「もちろん。体操部は知名度が低くて、正直人気の低いマイナースポーツだから、宣伝活動は惜しまないよ」
「そう言ってくれるとありがたいよ。話はいろいろ参考にさせもらうから」
何故この爽やかイケメンがFB部の部室にいるかというと、僕が部活紹介をお願いしたからである。
--->start( a few days ago )
有間と僕はクラスメイトで、彼は正統派イケメンのイメージままの男だから、コミュニケーションが若干不自由な僕でも気安く話すことができた。
こっちがいかにつまらない話をしていても、笑顔で相槌を打ってくれるのだ、キラーンっと白い歯を見せて。キラーンっと。
「FB部の活動で、二つの部活に話を聞いたんだけど、結局話がおかしな方向に行って大変だったよ」
「それは大変だね」キラーン。
「たぶん、スズさんの人選がいけないだ!」
「そうかもしれないけど、女の子を悪く言っちゃだめだよ」キラーン。
「う、そうだね、ごめん」
「そんな謝らないでよ。ユタカは素直だね」キラーン。
「茶化すなよ。あーあ、有間みたいな好青年が来てキチンとした部活紹介してくれないかなぁ」
「行こうか?」キラーン。
「え?」
「え?」キラーン?
と、そんな流れで有間がFB部で部活紹介してくれることになった。
イケメンを連れて行ったらどうなるだろう、女子三人は猫をかぶって可愛いこと言うのかな。
--->end( a few days ago )
「じゃあ、もう一度今日の説明者の紹介するね。彼は有間ショウ。僕とクラスメイト。体操部の期待のルーキーで、全国大会に出場できる腕前を持ってるって言われてる」
僕がそう紹介すると、有間は目礼した。芸術競技をやっているからだろうか、有間の綺麗な姿勢で椅子に座っている。
それに対して、女子三人はどこかダラけたご様子である。
「よろしくー」と気のない返事をしたあと、片足を立てたり、極端に猫背だったりと汚い姿勢で座っていた。
どうした、みんな大好きイケメンだよー。
爽やか好青年過ぎて気後れしちゃってるかなー?でもみなさんも黙っていれば高嶺の花な美少女たちだから、そんなことはないのかな?
困惑する僕と有間、だらけたサオリさんとスズさんとセリカさん。
上座に座るスズさんが、僕を手招きする。
態度に疑問を感じながら、しぶしぶ近づくと、目にも留まらぬ速さでボディブローをくらった。
「誰がリア充を連れてこいと言ったぁ!」
逆に連れてきちゃダメとも言ってませんよね、スズさん。
「ここは、部活すらちゃんと決められなかった掃き溜めの集まったところじゃけぇ。そんな自覚もないのかおんどりゃぁ」
いつから極妻キャラになったんですか、スズさん。
怖いんですけど、それ以上に面白いから、笑わないでいるのが辛いです。
腹筋に力を入れるとさっきのボディブローのダメージが響いて辛いのです。
「まぁまぁ、落ち着いてください部長さん」キラーン。
「おのれは黙っときぃ。姐さんが喋っとるんがや」
サオリさんもスズさんに合わせて極妻キャラを作ろうとしているが、変な方言になっていて全然雰囲気が出ていない。
そうだそうだ、とセリカさんも賛同するが、極妻を知らないのかキャラを作っていない。
そう言っている僕も極妻をよく知らないので、きちんと彼女らが演じているのかわからなかった。
スズさんが右足を机に勢い良く載せて、右腕をブレザーを外して前に出す。
それは遠山の金さんではないのか。すでに極妻ではなくなっていた。
「ええぇい!この紋所が目に入らぬか!」
遠山の金さんでもなかったようで、正解は水戸黄門だった。
どうでもいいけど、”水戸黄門”と”ミトコンドリア”って言葉が似てるよね。
スズさんが取り出したのは円錐型の苺チョコレートだった。
最近のFB部内で流行っているお菓子で、あのチョコレートは部内で通貨のように流通している。
たとえば、「チョコ一つあげるから飲みもの買ってきて、ユタカ」とか「チョコ一つあげるから宿題しておいて、ユタ」とか「チョコ一つあげるから一時間椅子になって、ユタカくん」とか。
一番最後の要求は人によってはご褒美らしいが、僕は嬉しくなかったので、丁重にお断りした。
閑話休題。目の前の状況に意識を戻す。
状況に追いついていない有間は相変わらず呆けているが、イケメンオーラは弱くなっていない。
「えぇっと、それア●ロだよね。僕も好きだなぁ」キラーン。
セリカさんがチョコを一つ受け取って食べる。
「やい、有間という名のイケメンよ!私と勝負だ!私が勝ったらおとなしく出て行くんだ!」
「ボクが勝ったらどうなるの?」キラーン。
「チョコを一つあげよう!」
あ、説明させる気は毛頭ないんだ。
「いいよ。何で勝負しようか」キラーン。
素直に勝負を受ける有間、さすがイケメン。どんな状況でも堂々としている。
「腹筋だ!三分間で何回できるか勝負だ!」
結論を先に言おう。スズさんが勝利した。
勝負は白熱して、爽やかな汗が跳ねる展開となったが、僕自身はどこか遠くの景色のように感じた。
ナニコレ、である。
サオリさんとスズさんがセリカさんを必死で応援する姿を見て、どうしようと思った。
三分も見る気にならなくて後半二分は携帯をイジっていた。
こういうときソシャゲはいい時間潰しになる。
商売上手だよね、ソシャゲ。
勝負が終わったあと、二人の表情は晴れ晴れとしたもので、硬い握手を交わしていた。
そのまま颯爽と去る有間は、最初から最後までイケメンだった。
それ故に追い出されたのだけど。
いい汗をかいたなとキャッキャウフフしながらチョコレートを食べながらしゃべる女子三人を見て、出て行くタイミングを逃したことに気づいた。
えーっとこの部活ってなにをする部活だっけ?
途方に暮れる師多利 ユタカ(15)。
【フィードバック結果】
サオリさん
・入部:否
<理由>リア充という存在は罪
スズさん
・入部:否
<理由>リア充圧殺しろ
セリカさん
・入部:否
<理由>六つに
割れた腹筋のことをシックスパックというぞ
僕
・入部:否
<理由>ごめんなさい。こんなことになるとは思ってなかったんです。