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0.フィードバック部結成

 迷っていた。

 困っていた。

 僕の通う学校では必ず部活動に入らなければならないという校則がある。

 入学式から一ヶ月間は入部期間とされ、その間に入る部活を決めなきゃいけない。

 そして、明日はその入部期間の最終日だ。明日までに部活を決められないと、一年間は強制的にボランティア活動をするハメとなる。


 部活棟をウロウロしつつ僕に合う部活はないかと探す。

 ここ一ヶ月でほとんどの部活はまわったので新しい発見はない。

 特技・趣味なしで、優柔不断。だから部活ひとつも決められない。自分のことながら情けない。

 トボトボと歩いていると、扉が少しだけ開いてる部室を見つけた。

 このタイミングでの発見。その部室に救いがあると思わずにいられない。

 部名を書いていたと思われる紙の札があったが、日に焼けすぎて読めない。

 意を決して入ると、特徴のない長机と棚だけがある部室だった。

 中央に置かれた長机にはホコリがたまっている。

「すみません。ここって何部?」

 振り返ると扉のそばに綺麗な女の子が立っていた。背中まである黒く滑らかな髪に見覚えがあった。一年B組の笹原サオリだ。

 違うクラスだから、お互いに面識はほとんどない。ただ、彼女は成績が優秀であること、容姿が端麗であることから、有名だった。

「ごめん、僕はこの部室の関係者じゃないんだ。たまたま鍵が開いていたので、入ってしまっただけで」

「そうなんだ。活動してなさそうな雰囲気の部室だから、いいかもって思ったのに」

 笹原さんも僕と同じで、入る部活がまだ決まっていないと言う。

「すみません。部活見学にまわっているんですけど、こちらの部活の話を伺えないでしょうか?」

 笹原さんに続き、女の子が部室に来た。

 明るい色の髪に、赤いフレームをかけた村主スズさんだ。彼女は笹原さんとは別の理由で有名。

 笹原さんは人を寄せ付けない雰囲気を持った美人だけど、村主さんは逆に人を寄せ付ける、求心力の強い美人。

「ごめん、ここは空き部室で僕らはたまたまここにいるだけなんだ」

「へーなるほど。そうなんだ」

 一瞬だけ、口角のあがったニヤリ(・・・)って擬音が付きそうな笑顔を浮かべる村主さん。

 背中が寒くなる感覚。

 笹原さんは気づかなかったのか、平然としていた。

「たのもー!ここは何の部活だー!」

 扉が開く大きな音と共に、ショートカットの可愛い女の子が現れた。

 名前は、たしか千田セリカさん。

 長身でスタイルがいい。体に見合った運動神経を持っているらしく、体育の授業ではクラスの女の子たちの黄色い声援が飛び交うとの噂だ。

「ごめん、僕らはここの部員じゃないんだ。この説明もこれで三回目だよ。さすがに可笑しくなってきた」

「すごい偶然!もしかして千田さんも部活見学?」

 そう笹原さんが聞くと、千田さんはコクンっとうなづいた。

 村主さんが軽く咳払いをした。視線が彼女に集まる。

「この四人が集まったのはチャンスだと思うの」

「チャンスって何の?」

「入部を決めるチャンスよ」

「いやいや、おかしいよ。この部屋の惨状を見るに、ここの部活は活動してるか怪しいわ」

 僕と笹原さんが村主さんの意図が読めず質問した。

 村主さんは慌てずゆっくり丁寧に話す。話し方が先生の様で包容力がある。

「だからこそよ。千田さん、部活動を作るための最低人数は何人か知ってる?」

「えーと。五人だっけ?」

「おしいけど、ハズレ。正解は四人」

 そこで村主さんは言葉を切る。

 自然と僕らは顔を見合わせた。

 村主さんが高々と宣言する。

「わたし達で新しい部活を作りましょう!」


 まずは笹原さんが賛成する。

「目的と手段の関係性をどこかに忘れたような案だけど、悪くないわ」

 次に、千田さんが投げやりに同意。

「今から決めるの面倒だし、それ賛成」

 残ったのは僕一人。

 けど、賛成する前に聞くことがある。

「話の腰を折るようでごめん。作る部活はどんな活動をするつもりなの?」

 舌打ちが聞こえた。

 音のした方を見ると、天使の笑顔を浮かべた村主さんがいる。

 …まさかね。

「わたし達の学校は強制的に部活参加だから、部活動の数は多いでしょう。個々の部活が何をしているかは、外からちょっと調べただけじゃわからない。そこで、実際に活動している部員に話を聞き、部の詳細を調査し、どこに入るか悩んでいる人達に提供する。それが私の考えた活動よ」

 おおー。これなら先生の許可も下りそうだ。

 さすが村主さん。いい案をだすなぁ。

 肘をついて面倒臭そうに聞いていた笹原さんがぼそっと言う。

「で、建前はおいておいて。本音のところは?」

「モラトリアムの延長!部活の話を聞いていいのがあったらそこに入るのもあり!」

「村主は策士だな!」

 千田さんがしきりに感心している。

「それでどうなの師多利くん。もちろん、入るよね」

 美人の笑顔に迫られるとすごいプレッシャーを感じるのだと初めて知った。

 このとき僕は、ハイかイエスかしか答えを持ち合わせていなかった。


「では、部活作成は全員合意ってことで。部名どうしようか。笹原さん、何か案ない?」

「部員の話というアウトプットを、生徒に情報としてインプットする部活だから、フィードバック部でいいんじゃない?」

「それ採用で。書類関係は私が出しておくわ。部活を一緒にやることも決まったことだし、改めて自己紹介しましょうか。

 私は一年C組の村主スズ。部活は体育会系も文化系も両方興味ある」

「わたしは一年B組の笹原サオリ。運動は苦手だから文化系部活を希望」

「あたしは一年D組の千田セリカ!笹原とは逆で運動が得意だから体育会系部活の話が聞きたい!」

 最後に、僕が自己紹介を行う。

「一年A組の師多利ユタカです。ゆるくて楽しい部活を探してます」

 もろもろの手続きがあるため、最初の活動を一週間後と決めた。

 最初の人選は村主に任せることになって、その日は解散した。

 

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