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遅くなって申し訳ありません。何とか今日中に仕上げることができました。本当に小説を書くのは大変ですね……(>_<)
「あら、いないのかしら?それとも、あんなけんかを売るようなことをおっしゃっておいて、怖気づいたのかしら?」
そう言ったのは、髪にパーマをかけた黒髪の女性でその後ろには取り巻きらしき女生徒が2人立っている。
クラスメイトたちは妃菜の方へ視線を向けるが沈黙を続けている。
妃菜は立ち上がり、3人の教養科らしき女生徒に近づき、こう言った。
「そんなことありませんわ。それで、挨拶もなしに勝手に教室へ入ってきた教養科の方々が私に何の御用かしら?」
そう相手と同じ高飛車な言葉で返した。
妃菜は家のことがばれないように小学校、中学校と同じように家での上品な言葉遣いはしないようにして来た。高校では皆が学校の経営者である佐藤家を知っているため、もっとばれてしまう可能性が高い。なので、高校では今まで以上に言動や言葉遣いに気を付けようと決めていた。しかし、2日目で妃菜はそれを破ってしまった。やはり上品な言葉で話されると自然に同じような言葉遣いで返してしまう。
(あ~あ~、妃菜は何をしてんだか。入学早々でこれはないでしょ……。ただでさえ、落ち着いてて普通とはちょっと違ったオーラが出てるし、それによーく見れば百合子さんとも顔が似てるのに。)
沙紀は妃菜とはクラスが分かれてしまい、隣のクラスにいたが、1組で何かがあったとクラスの男子が騒いでいたので様子を見に来ればこの状況だった。
(それにあんたはほんと可愛いんだから、どうしても話題になるに決まってるのに。いい加減自覚してくれないかな……ま、そんな妃菜だから面白くて親友やってるけどね)
妃菜はたれ目がちだが、二重のやや大きめ目な目をしている。髪の毛は暗めの茶色で、背中に届きはしないものの長めの髪で、身内びいきではなく、姉の百合子が言うように本当に可愛い。また、さすがはお金持ちだと感心してしまうぐらい、食事や所作がきれいで、何人かで前にいたとしたら、どうしても妃菜に目がいってしまう。そんな、どこかひきつけるようなオーラを持っている。
しかし、妃菜自身はいくら母や兄たちや姉が可愛いと褒めても、母たちは何かとべた褒めするので妃菜は身内びいきだと思い、信じていない。この間、母が買ってきたワンピースを着た際には、
「妃菜!なんて可愛いのかしら!」なんてべた褒めする。たまに、そのお洋服はあんまりあっていないわ、ということもあるが、ほとんどの場合褒められるので褒められても、悪くないか普通という感じがするのだ。
これも妃菜が自分に自信がない理由だが、しかし、妃菜が自分に自信がない一番の理由は家族に対するコンプレックスだ。
父は大企業の社長で有能なのはもちろんのこと、上流社会でも有名で、従わせようと思えば、多くの人間を従わせることができる。 また、父とは恋愛結婚だったものの、母も有名な名家の令嬢で、父との結婚には何の障害もなかった。そして、兄の孝之、樹ともに藤成グループに就職し、今は多くの事業に携わり、さすがは藤成グループの一族だと認められてきている。姉の百合子は音楽教師をしており、普通の女性に思ってしまうが、音楽大学へ通っていたときに出場した国内のピアノコンクールでは何度か入賞した経験があり、今現在は音楽の授業を担当するだけではなく、音楽科の生徒にピアノを教える講師の一人でもある。
その一方で、妃菜は社交界へも出ず、家や病院にこもる日々で、一部の親族からもけなされてきた。幼少時の妃菜の記憶はそんなことばかりで、当然自分に対して自信を持つどころか逆に自分は体が弱く、一族の役にも立てない役立たずだと感じるようになった。そんな役立たずの自分がいつか家族にも見放されてしまうのではと幼心でも思い、わがままも言えずにいた。
「妃菜、私たちは出かけてくる。帰りは遅くなるから先に休んでいなさい」
「妃菜、いい子で待っていてね」
「行ってきます、妃菜」
「いってらっしゃい。パパ、ママ、にいさま、ねえさま……」
ドアが閉められ、妃菜は使用人に妃菜の部屋まで送られていき、布団へ入ると使用人は部屋から出ていく。
「妃菜様、おやすみなさいませ」
バタンとドアが閉まる音がして、妃菜しかいない子供部屋にしては非常に広い部屋は静寂に包まれる。
「……っ、ぐすっ。パパ……ママ……」
一人で眠る寂しさと、家族においていつも置いていかれる寂しさに妃菜は布団の中で小さく涙をこぼすことも多かった。
その後、親族の行っていた行動が明らかになり、父親によって対処され、家族は家にいることも多くなり、妃菜の寂しさはなくなっていたものの、今でもコンプレックスとして妃菜には残っており、妃菜の上流社会嫌いはそのコンプレックスも一因としてある。
また、優しく思いやりのある妃菜に家族は処罰した一族のことや社交界のことは耳に入れずに守り、育てていきたかったため、話した方がいいとも思ったが、いまだに本人へ社交界に連れていかない理由や妃菜のことを秘密にし守っているということを告げてはいない。きっと、話せばこんな自分だからと家族に迷惑をかけていると責めてしまうだろう。
「その態度はなんなのかしら。庶民のくせにあんなこと言って生意気なのよ!身の程をわきまえなさいよ!」
妃菜の言葉に怒り、顔を赤くしながら言い返してきた。
「礼儀のなっていないあなたたちのいうことなんて聞くに値しないわ。おとなしくご自分の教室へお帰りになったら?」
そう言って、妃菜は取り合わなかった。言い返そうとしたが、ちょうど妃菜のクラスの担任が教室へ入ってきたため、しぶしぶ帰って行ったのだった。
「覚えてなさい!!」と悪役のようなお決まりの言葉を残して。