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「行ってきます」
「「行ってらっしゃいませ、お嬢様」」
家を出て5分ほど歩くと学校の正門へ到着する。
教室へ向かう途中に様々な方向から視線を感じた。やはり入学式でのことばが原因なのだろう。
教養科からすると、自分たちよりも下だと思っている普通科の生徒がケンカを売るようなことを言ったのが気に入らなかった。中には睨み付けるような視線を送ってくる者もいる。
妃菜はそんな視線には気づいていたが、気にせず颯爽と教室へ向かって歩いていった。
普通科の1年1組の教室の前へ妃菜は立った。先ほどの視線は気にならなかったのに、新しいクラスは緊張してしまい、心臓がいつもより早く鼓動をきざむ。教室へ来るのは2回目だが、前回は入学式で、ほとんどクラスでの時間はなかったため、今回が初めての顔合わせと言ってもいいぐらいだ。
(落ち着いて、落ち着いて。大丈夫、大丈夫)
そう自身に言い聞かせ、ドアをゆっくりと開き、中へ入った。
登校するには少し早い時間だったものの、中にはクラスの半分ぐらいの生徒がすでにいた。やはり不安なのは妃菜と変わらず、少し早めに来て友達を作ろうとしたようだ。
同級生が思ったよりもいたことに安心した妃菜は、そのまま自分の席へ向かい通学鞄を机の横へ掛けてから座る。
すると近くで話していた女の子から声がかかった。
「おはよう、佐藤さん。佐藤さんって頭がすごくいいんだね!昨日は新入生代表やっててびっくりしちゃった。しかも、あんなことを言っちゃうんだから~」
「そうそう、すごかったよね!なんか、お金持ちが多いから、教養科にいじめられたりするんじゃないかって思ってたんだけど、安心しちゃった!」
「私たち何かあったら協力するから言ってね? あ、まだ名前言ってなかったね。私、田中実里っていうの。仲良くしてね!」
「あ、私は一ノ瀬優だよ。良かったら、ゆうって呼んでね」
「私も下の名前で呼んで?だから、妃菜って呼んでもいい?」
と、2人の女の子がにこにことかわいい笑顔を見せながら、言ってくれた。
田中美里は髪が肩よりも少し長いぐらいのストレートに近い黒髪の子だ。一之瀬優は美里よりも髪が少し長い焦げ茶髪で、緩く髪が波打っている。瞳も少し茶色がかっており、もともとの色素が薄いことが想像できる。
2人が話しかけてきてくれたことが嬉しく、妃菜も自然と笑顔になって話を返した。
「ありがとう、美里、優。私のことも妃菜って呼んでね?これからよろしくね!」
しばらく3人で会話をしていたが、後からクラスへ入ってきた他の女の子も会話に次々と入っていき、楽しく会話をしていた。そのため、新しく扉を開けて誰かが入ってきたことに誰も気づかなかった。
「佐藤妃菜はどこにいるのかしら?前に出てきなさい?」
この一言が発されたとき、クラスにいた全員が止まり、そちらの方へ視線を向けたのだった。