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HRが終わったため、午前中での下校となった。
「妃菜、それじゃぁ、また明日ね」
「また明日な」
そう言って沙紀と拓也と校門を出てすぐで別れた。2人とは家の方向が違うのだ。
そのまま、学校を出てすぐの道を曲がり、学校の裏手へと回る。妃菜の家は学校の真後ろに存在していた。
そう、高級住宅地にある高校の裏手に。
「ただいま」
「おかえりなさい!!」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
そう言って出迎えてくれたのは母親の英枝とお手伝いさん達だった。
「ママ!?珍しく家にいるのね」
「そうよ。今日はあなたの入学式だもの。行くに決まってるじゃない」
「でも、ママが入学式に参加していたら変に思われなかったの?」
「ええ。確かに驚かれはしたけれど、娘さんが先生をされてますものねって言われたから大丈夫だったわ」
妃菜には姉がおり、妃菜の高校で音楽の教師をしている。そのため、母親である英枝が学校へ来ていても不思議に思われることはなかったのだ。
「パパはやっぱり来なかったんでしょう?入学式では理事長は欠席だったもの」
「今日は本社で重役会議があるから、来られなかったのよ」
妃菜の父親は妃菜の高校の理事長だ。藤成学院高等学校の理事長は経営を行っている藤成グループの一族が代々務めている。今現在は一族の直系に当たる妃菜の父親がグループ本社の取締役と同時にこなしている。
つまり、妃菜は理事長の娘で社長令嬢でもある。上流階級でも有名な一族の一員なのだ。
しかし、藤成という名前から経営する一族の名字が藤成だと思われがちで、一族の名字が佐藤だとあまり知られていないため、妃菜は藤成学院に通うことになっても知られていない。他にも理由はあり、妃菜には年の離れた兄弟がいるため、妃菜がその3人と同じ兄弟だと考えにくいため、知られていないのだ。しかし、1番の理由は普通科に入学したということだろう。学院の誰もが、学院を経営している一族の子供が普通科に入学するとは思わない。
そもそも、なぜ会社の名前が名字ではないかというと、まだ初代が藤成グループの前身の小さな会社を立ち上げたとき、佐藤家の家紋に使われている藤と成長という願いを込めて、藤成と名付けたためだ。