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第六夜 リアルにあった充実感

 一月ほど前、こんな甘い夢を見た……


――第一艦隊がヤバい。なんとかしないとやられる……

 画面上を恐ろしいスピードで走ってゆく各艦隊からの通信文を読んでみるが、今の私には、とてもそれを理解して対処する余裕はない。もう間もなく空襲される……

 よく晴れた秋の午後。年の頃は小学生の高学年くらいだろうか。スーパーファミコンの2コンを握っている若草色のワンピースを着た女の子がつまらなそうにあくびした。

「こっちの攻撃はまだなの?」

1コンを手にしている私(どうもこの夢では、私も女の子と同じ年齢のようだ)にとっては、相手の攻撃ターンなどずっと来ない方がいいのだが、当然コマンドの処理が終われば攻撃は始まってしまう。

 突然の勇ましい海戦のマーチと共に、テレビの画面は太平洋の地図から大小様々な船を模したアイコン並ぶ戦闘画面へと変わってしまった。私の指揮っしる茶色の艦隊から少し離れたところに青い色のプロペラ飛行機のアイコンが見える。2コンの彼女が送り込んだ雷爆隊だ……

「やったぁ! やっときた」

彼女は嬉しそうにコントローラーを握ると画面上のカーソルを操って、私の艦隊の真ん中にある弁当箱のようなアイコンを選択した。その海に浮かぶ弁当箱は私の艦隊の正規空母である……

「はずせ、はずすんだ!」

テレビにそう念じる私の声も虚しく、飛行機が航空魚雷を落とすアニメーションと共に海の上の『弁当箱』が火を吹いた。

「やったー! よし次~♪」

こちらの対空砲火をものともせず、女の子の雷爆隊は次に戦艦を餌食にする。アイコンに火がついたので、私はすかさず消化のコマンドを選択するが、あえなく「鎮火に失敗」との文字が出た。この艦ももう駄目だ……

 そんな時玄関から音がして、2コンの女の子よりやや年上の、セーラー服姿の女の子が居間へと入ってきた。

「あ、お姉ちゃんお帰りー」

2コンの女の子が声を掛ける。彼女のお姉さんらしい。

「どうも、お邪魔してます」

「いーえー、ごゆっくり。ねぇ、今どっちが勝ってるの?」

お姉さんは私と女の子の間に割り込んで座り、身を乗り出してテレビを凝視する。太平洋戦争モノのシミュレーションゲームに興味を持つところを見ると、この姉妹なかなか変わり者らしい。

「……こっちのボロ負けです」

私が恥ずかしそうに言うと、そのお姉さんは笑って妹の肩を叩いた。

「へぇ、あんた強いんだねー」

そうこうしている間に、こっちの大きな船はことごとくやられてしまい、第一艦隊は潰滅した。

「やったー、楽勝」

コテンパンにやられ、返す言葉も無い。

 お姉さんの飛び入り参加した為、シミュレーションを切り上げてレースゲームや格闘ゲームを交代で対戦する事になったのだが、このあたりはリアル世界を忠実にトレースしているようで、実際にゲームが下手くそだった私は夢の中でも下手くそなままだった。結局、私はどのゲームでもこの二人に勝てなかった……

 外の日が傾いてきた頃、急に妹の方が壁の時計を指さした。

「ねぇねぇ、そろそろ行かないと。エアガンを見に行くんじゃなかった?」

……どうやらそういう事になっていたらしい。この子、エアガンに興味があるらしく、ホビーショップまで連れて行く約束をしていたようだ。ちなみに小学生はエアガンなど買ってはいけない。

この子、本当に変わってるよな…… 脳みそだけは老けたままの私はうなずき二人で立ち上がると、お姉さんもハイハイ!と元気よく手を上げた。

「ねぇ、あたしも行きたい! 前から一度ああいうの撃ってみたかったの」

――……マジで?

ここまでくると、私も心中で苦笑いしはじめる。いろいろと出来過ぎだ。だが、幸いにも私にはここが夢という自覚が無かったので、この世界はスピードを落さずノリ続ける。

「えー、お姉ちゃんも来るの?」

妹の方が面倒そうな顔をしてお姉さんの顔を見る。

「いいじゃん。ねぇ行こうよ」

「じゃあ皆で行きましょ。皆で、ね? 自転車ですぐだし」

私はそう言ってスーパーファミコンのリセットボタンを押しながら電源を切る。

 そうして、私達は和気あいあいと玄関で靴を履き始め……


 束の間の楽しい夢は終わり、朝がきた…… 久しく感じた事のない開放感と、なぜか一抹の寂しさを感じさせる夢だった。

 今回はこれまで以上に読者様置いてきぼりで、一見するとかなりご都合主義的で、アニメチックな願望丸出しな痛い夢です。でも、私自身にはそう簡単に切り捨てられない夢でした。

 今回、夢に登場した女の子とそのお姉さんは夢の世界だけに存在する架空の人物で、現実世界で会ったことはありません。ただ、実際に私は小学校の頃、同級生の女の子達とよくスーパーファミコン版『提督の決断』をルールが良く理解しないまま対戦していたことがありました。この夢のなかでやっていたゲームもそれです。

 やりたいゲームを交代でやっていて、彼女達はいつもファイナルファンタジー5(あの頃はファイファンって呼んでた)をやりたがっていましたね。

 今思うと、あの頃の私はクラス内でもかなりの『リア充』でした。男女関係無く、仲の良い友達四人くらいで集まってゲームをやったり、公園で缶蹴りをしたり、時にはグループでスケートに行った事もありました。

 年頃が年頃だけに、イチャついてるとか陰口言う者も居たけれど、仲間内にはまだそんな色気付いた感覚はなく、変な意識をすることもなく楽しく遊んでいました。まだ小さかったので、さすがにエアガンまでは買いませんでしたがね……

 その後、私は引越しの為に転校することになり、そのグループとはそれっきりになってしまいましたが、時折当時の愛すべき仲間達がその後どんな人生を歩んでいるのか想像する事があります。特に女の子達なんかは、今ではかなり綺麗な人になっているのでは?なんて想像も。今、どこでどう過ごしているのか判りませんが、元気でいてほしいと思います。

 あの頃は先の事や、面倒な事は考えずに済みました。その時間を生きていればそれが許された時でした。夢の中の私も当時の私も、憂いも心配も見栄も無く、まったく無邪気なもので、ある意味では最高のリア充な状態だったと思います。そして、起きなければならない朝が来ることや、今後、自分が大人になってしまうことをまったく心配せずに済んでいました。

 もし今、神様や天使みたいなのが目の前にあらわれ、今すぐビルから飛び降りたらお前をあの時代へ帰してやると言ったならば……ちゃんとした保証さえくれるなら、私は今すぐ飛び降りるでしょう。

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